状 況 把 握

 

またしても飛ばされてしまった先で二度目の身の上話をする破目になったうずまきナルト少

年(十二歳)は、『―――――という訳です』の一言を締めの言葉とし、なぜ自分達があんな

トコロに落ちていたか、それに至るまでの経緯を説明し終えた。

聞き手は二人。

ナルトとシカマルの二人を拾ってくれたピンク色のお姫様と、儚げな雰囲気を持つ、ナルト

達よりも年上の少年だ。

癖のないダークブラウンの髪に寂しげな紫闇の瞳を持つ彼は、成人間近にしては細身で、雄々しさの欠片もない。

しかも、生きている人間の匂い(と言っても死臭を放っている訳ではないが)が酷く希薄だ

った。

何か不治の病―――――たとえば結核でも患っているのかと思ったが、そもそもこの世界に結核なんてものがあるかどうかも疑問だし、事実あったとしても、ナルトは自分の考えをすぐに自分自身で否定していたことだろう。

彼は弱いが、『本当に弱いか』と聞かれれば『違う』と答えるしかない。

テラスにあるテーブルの上に用意されたお茶菓子とティーセット。

甘味に対して並々ならぬ博愛精神を持っているナルトは、内心で小躍りしつつ、相手の反応

を待っていた。

 

 

「へぇ〜忍ねぇ…………」

 

 

『キラ』と名乗った少年は面白そうに笑い、彼の母親とラクスの二人が作ったというパウン

ドケーキにパクついているナルトを見た。

 

 

「僕はずぅっと昔にいたってことしかわからないなぁ。イザークなら何か知ってるかもしれ

ないけど…………」

 

「お友達ですか?」

 

 

キラは苦笑した。

 

 

「そんなものかな。顔合わせる度に何かと難癖つけて突っ掛かってくるけど……まぁ、悪い

人じゃないんだ」

 

「うわ、なんか面倒臭そうな人ですねぇー」

 

 

グサッという音を立てて、ケーキのド真ん中に突き立てられたフォーク。

それを見てしまったシカマルは、その行儀の悪さに眉を顰めながらナルトを窘めた。

 

 

「ナルト」

 

「だぁって、同じ班の悲劇の末裔君思い出すんだもん。考えただけでウザくねぇ?」

 

「『イザーク』さんじゃなくてサスケがだろうが。誤解を招くようなこと言うんじゃねぇよ。

ただでさえお前は口が悪いんだから―――――ホントすみません。言い訳するようでアレなんですが、コイツにもいろいろあるんで」

 

 

前半はナルトに、後半はキラに。

苦労人街道爆走中 のシカマルに頭を下げられたキラは、笑いを噛み殺しながら『気にしてないよ』と返した。

ラクスはというと彼女も似たようなもので、キラの隣りで始終にこやかに笑っている。

 

 

「―――――それにしても、コッチの世界にも忍がいたとは思いませんでした。でも、キラ

さんの言い様だともういないってことですか?」

 

「いないとも言い切れないけど、『自称』とかマニアを除外するならおそらくね。文明自体が

違うもの」

 

 

その言葉を肯定するかのように、『文明代表』の二つの影がキラの背後でバトルを繰り広げ

ていた。

影の一つは先程シカマルを襲ったピンク色の球体で、もう一つは『トリィ』と鳴く人工鳥だ。

ナルトとシカマルは一瞬遠い目をし、同時に頷いた。

この光景を見れば、科学文明が発達しているとは言い難い世界で暮らしていた二人も納得せざるをえない。

 

 

「きっと、ココの忍と俺達は別モノなんでしょうねぇ…………」

 

「だろうね。それで、具体的に『忍』っていうのは何をする人達なの?」

 

「一言で言えば『なんでも屋』ですね。潜入捜査から暗殺、護衛、脱走したペットだって探

しますし、 最悪農家の芋堀りの手伝い だってします」

 

「ナルトんトコの『最悪』は楽でいいじゃねぇか。俺んトコなんか 蜂の巣駆除 だぜ?」

 

 

普通なら暗殺任務を『最悪』と言っても良さそうなものだが、二人の主張は常識から遠く掛

け離れていた。

しかし、本人達がその自覚を欠いているのは、必ずしもナルトとシカマルに責があるという

訳ではないのだ。

国の―――――もっと正確に言えば、職業的な思想がまったく違うのだから。

 

 

「すごい、本当になんでもありなんだ?」

 

「―――――っつっても、一つ一つの任務にはちゃんとランクがあって、上になればなるほ

ど危険度が高いってことになります。雑用的なものは大抵CかDランクなんで」

 

「ということは忍の中にも位がある?」

 

「ご名答。下忍・中忍・特別上忍・上忍ときて、それぞれの隠れ里のトップになると自国の

名前を頂くと同時に『影』の称号が付くんです。俺達は火の国にある木の葉隠れの忍なんで、

そのトップは『火影』ですね」

 

「ふ〜ん……君達は?」

 

「表向きは駆け出しの下忍、本当は『暗部』っていう火影直属の暗殺部隊の人間です。俺は

その小隊長、シカマルはまだ見習いです」゜

 

「暗殺って……君達みたいな子供が?」

 

 

今となっては慣れ切ってしまった、その反応。

訝しげな顔をして首を傾げたキラに、ナルトは平然と答えた。

 

 

「子供とか大人とか、そんなこと全然関係ありませんよ。あくまで実力絶対主義の縦社会な

んで」

 

「じゃあ僕も殺されちゃったりするの?」

 

 

キラの言葉にきょとんとしたナルトは、次の瞬間爆笑した。

とてもじゃないが笑えるような軽い問いではないのだが、ナルトにとっては愚問でしかなか

ったのだ。

 

 

「なんだって俺が任務でもないのにキラさんを殺さなきゃならないんですか。俺、快楽殺人

鬼じゃありませんよ?」

 

「任務なら殺すってこと?」

 

「そーゆーことになりますね。でも、十二歳のガキなんかにキラさん暗殺を依頼するような

馬鹿、コッチにはいないでしょう?」

 

「わからないよ?僕もいろいろと面倒なこと抱えてる人間でね……だから君がブルーコスモ

スなんかに雇われたりしたら、僕にとって死活問題なんだ」

 

「『ブルーコスモス』って、さっき話してもらった?」

 

「そう、『コーディネイターなんかこの世から消えてなくなれ』っていう思想団体。かなり過

激だよ」

 

「なんかどっかで聞いたような台詞。なぁ、シカマル。木の葉の大人とドッチが過激だろー

な?」

 

「…………考えたくもねぇよ」

 

 

不快な顔をして吐き捨てたシカマルは、ナルトの問いに答えずそっぽを向いた。

予想済みの反応だったのか、ナルトは何事もなかったかのように最後の一口になったケーキを口に運んだ。

蕩けるような至福の笑みは、おそらくケーキの甘さだけから生じたものではない。

少年同士の仲睦まじげな様子に自らもまた目元を和ませたキラは、自分用にと切り分けられたケーキ皿をナルトの方に『僕の分もどうぞ』と差し出しつつ、再び尋ねる。

 

 

「ねぇ、基本的な質問なんだけど、ソッチの世界でも殺しは罪になるの?」

 

「もちろん。それ加えて忍の場合、一般人に刃を向けることも処罰の対象になります。人を

傷つけることなんて珍しくない職種ですから、それだけ制約が多いんです」

 

「人を殺す基準は?」

 

「そんなの、忍の場合は任務か否か、ただそれだけですよ。一般人は……基準っていうか、

怨恨とか衝動とかお決まりな理由ですね。俺の場合は忍でもまたちょっと違いますけど、こ

ちらから手を出すことだけはありません。コッチにも軍があるって聞きました。その軍人だ

って同じことでしょう?上の指示に従って敵を殺すんですから」

 

「それに疑問を覚えたりはしないの?」

 

「ないって言えば嘘になりますけど、俺自身が大抵『上の人間』に当て嵌まるんで……それ

に、躊躇ってたら自分の方がバッサリ殺られますしね。さすがに小さな子供相手だと罪悪感

ありますよ?でも、忍の隠れ里に生まれた以上こういう生き方しかできないから、今更どう

とも思いません」

 

「そうなんだ…………」

 

「そういえば、キラさんは何をしてる人なんですか?」

 

「僕?僕は今プー太郎かな」

 

「プ、プー…………?」

 

 

それってあのピンクのネグリジェ姿が印象的な我侭王子か、と。

本気なのか冗談なのかいまいちよくわからないボケに、『誰だよ』と突っ込んだシカマルが冷静な口調で。

 

 

「無職ってことだろ」

 

「そう、元軍人なんだ。でもお金には不自由してないんだよ?軍人時代の給料が手付かずのまま残ってるし、プログラマー紛いのことして稼いでるから、別に暮らすには困らないんだ」

 

「軍人?キラさんが??」

 

 

意外すぎる事実に、ナルトは空色の目を丸くした。

身体が資本である『忍』という人種に囲まれていたからかもしれないが、どこからどう見て

もキラが軍人には見えなかったからだ。

 

 

「やっぱりそう思う?でも嘘じゃないんだよね。『連合の白い悪魔』とか呼ばれちゃって、結

構有名だったんだから」

 

「そりゃあまた、たいそうな呼び名で……とても見えませんけど」

 

「君だって殺しのプロには見えないよ」

 

「俺の場合それが売りですから。ちなみにキラさん、階級は?」

 

「訓練なしで入ったけど連合唯一のMSのパイロットだったから、一応『少尉』……かな?

前例なしだって」

 

「MSって―――――えっと、人型の大きなロボットですよね?」

 

「うん」

 

「それのパイロットって―――――キラさん、すごいんですねぇ…………」

 

 

ナルトは素直に感心してしまった。

自分の場合、そんな物に触ったら最後、おそらくMSに激しい拒絶反応を起こされて大惨事

を招くだけだ。

触っただけでMSを爆破 してしまうなど、ある意味重宝される才能か

もしれないが、ここのような機械文明が発達した世界では致命的としか言いようがない。

それなのに目の前には、ナルトが望んでも永遠に手に入らないような力を持つ人がいるのだ。

アチラの世界にいた時は身に覚えのなかった『羨ましい』という感情を唐突に理解したナル

トは、硝子玉のような大きな瞳を輝かせ、熱っぽい息を吐き出す。

それを目の当たりにした三人は一瞬固まってしまったが、いち早く我に返ったラクスが口元

に手を当てる。

 

 

「あらあら…………」

 

「…………ナルト君、ちょっとおいで」

 

「は?」

 

 

頭に疑問符を浮かべながらも、キラの言葉に従ったナルトは。

突然。

 

 

「君っていちいち反応が可愛い子だね!僕こんな弟が欲

しかったんだ!!」

 

 

抱き締められた。

 

 

「『僕の方がお兄ちゃんだよ』って言い張る相手間違ってたよ、アスランなんか弟じゃない!

ラクスもそう思うでしょ!?」

 

「えぇ、ナルトさんは本当に綺麗で可愛らしい方だと思いますわ」

 

 

にこにこにこにこvV

上機嫌な笑顔の向こうに、ナルトは女帝の影を見た気がした。

ラクスは女神様ではなくて女王様だったのか。

 

 

「ナルト君もシカマル君も、帰れるまでココにいなよ!僕の母さんも他の子供達もいるけど、

君達みたいな子なら大歓迎だから」

 

「いや、でも御迷惑をお掛けする訳には…………」

 

「子供がそういうこと気にしないの。他に行く当てなんてないでしょ?IDすら持ってない

んじゃ、どこも部屋なんて貸してくれないし」

 

「別に任務で慣れてるし、野宿でも……なぁ、シカマル?」

 

 

シカマルもそれに同意する。

 

 

「あぁ」

 

「駄目だよ、野宿だなんて。今の世の中とにかく物騒なんだよ?中立国のオーブにだって変

態さんは溢れてるんだから」

 

 

そっちの心配ですか!!

 

 

「…………それも慣れてるんでご心配なく。お金は―――――まぁ、違法でもなんでも賭場

さえ見付ければ大丈夫です。キラさんが『連合の白い悪魔』なら俺は『木の葉の金狐』で、

その道の人間には『伝説の賭博師』と囁かれてるくらいなんで、 その気になれば賭場の一軒や二軒、簡単に潰せるくらいの軍資金は調達できますし

 

「余計駄目、未成年にそんなことさせられません。とにかくココにいなよ、家賃は君達の世

界の話でいいからさ」

 

 

―――――前にも誰かさんにそんなことを言われた気がする。

『それに僕、さっき言ったと思うけど前から弟が欲しかったんだよね!』と付け足され、熱

烈な抱擁を受けていたナルトはキラから少し離れると、難しい顔をして考え込んだ。

確かに、会ったばかりとはいえ知っている人が側にいてくれたら心強い。

それは確かなのだが……キラは自分と同じように トラブルに愛されている人間 のような気がするため、ナルトでさえも躊躇うものがあるのだ。

しかし、それも所詮今更なのかもしれない。

ナルトは内心で両手を上げ、降参の意思表明をした。

 

 

「…………わかりました、じゃあお世話になります。」

 

「うん、任せて」

 

 

勝手に結論を出してしまったナルトに、ブスッとした顔のシカマルが片手で頬杖を突きなが

ら抗議の言葉を。

 

 

「―――――なんだってお前、キラさんの前だとムカツクほど素直なんだよ?」

 

「素直っつーかさぁ…………」

 

 

偽る必要がないっつーか、むしろ見栄を張るだけ無駄っつーか…………。

言い澱んだナルトは、そっとキラを見た。

ニコリと笑ったその顔は綺麗だが―――――。

 

 

「だってキラさん、俺と同じ匂いがするから」

 

 

 

 

 

 

―――――つまり、黒属性だどいうこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月×日。

馴染みがありすぎる邪な気配を察知したナルトは、外壁を這っている男を発見した。

 

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