『アスラン・ザラ』という男

 

人間、誰しも一つくらいは受け付けられないモノがある。

それは食べ物だったり動物だったり、ナルトの場合は電子機器だったりするのだが、あと一

つ―――――自分の班の担当上忍である『はたけカカシ』だけは、どうしても受け付けるこ

とができなかった。

自分の金髪とは対称的な銀髪が視界に入ることも、奴の身体に触ることも、己を上手く抑え

ることができれば可能だろう(現に今までもそうだった)。

だが、生理的嫌悪感だけはどうあっても克服することはできなかったのだ(するつもりもな

かったが)。

故に、ナルトは藍色の髪の男を一目見た瞬間『敵』と判断した。

目の前の男からは、四六時中18禁本を持ち歩いている表向きの上司と同じ匂いがしたから。

 

 

「ちょっとそこのデコさん。アンタ他人ん家の壁に貼り付いて何やってんの?」

 

 

重力などお構いなしに。

足の裏に集中させたチャクラによって垂直の壁に立ったナルトは、目を丸くして自分を凝視

してくる男の手を容赦なく踏み付けた。

厄介な行動に出られることのないように、そりゃあもう グリグリと

 

 

「お、お前なんだ、どうしてこんなトコに立って―――――」

 

「はーい、そーゆーことは気にしない。どうせ説明したってわかりゃしねぇんだから。それ

で、アンタ誰。不法侵入で訴えるぞ?」

 

「そ、それを言うならお前だってそうだ。俺はココでお前みたいな目立つ子供は見たことが

ない……新入りか?」

 

「ブー、不正解。アイツ等みたいに孤児だけど、俺はあくまで居候デス。うずまきナルト、

十二歳。ヨロシク」

 

 

ニコ☆

可愛らしく笑うと同時に、男の手を更に強く踏みにじる。

しかし、男は呻き声を上げただけで執念深く壁に喰らい付いたままだ。

見上げた根性だが、それが余計に担当上忍を彷彿とさせて、ナルトはズボンのポケットに両

手を突っ込んだ体勢で、空色の瞳を細めた。

 

 

「言え、お前がココにいる理由はなんだ」

 

 

十二歳の子供が発するにしては、強すぎる威圧感。

場慣れしているとしか思えない堂に入った詰問態度に、実は自身もかなり場慣れしている藍

色の男は不敵に笑った。

 

 

「ココにキラがいるからだ」

 

「…………あ?」

 

「ココにキラがいるからだ!!」

 

「んな誇らしげに言われても、やってることはヤモリと同じなんだよ。二足歩行こそ人類が最も進化した種だと言われる所以だろーが。退化なんかしてんじゃねぇよ。

人間としてのプライドを持ちやがれ、このゲス野郎」

 

 

鼻で笑ったナルトは、その男を蹴落とそうとしたが。

 

 

「ナルトさん、少し離れて下さいな」

 

 

―――――という声を聞き、反射的に身を引いた。

その直後にピンク色の球体が男の顔面にめり込み、ナルトが直接手を下すまでもなく、謎の変質者はハロと共に階下の茂みの中へと消えていった。

顔を上げると、逆光の中でラクスが微笑んでいる。

考えるまでもない。

犯人は彼女だ。

 

 

「…………ラクスさん、過激ですね」

 

「お見苦しいところをお見せしましたわ。でも、あぁでもしないと駆除できませんの」

 

 

『駆除』ときたものだ。

彼女の言動から察するに、アレの奇行は日常茶飯事なのだろう。

勢いをつけて窓枠に乗り上げたナルトは、さっさと窓を閉めてしまうと、事情を知っている

らしいラクスに首を傾げながら尋ねた。

 

 

「一体なんなんです、あの人間ヤモリは。キラさんのストーカーですか?」

 

「えぇ……アスラン・ザラといいまして、キラの幼馴染兼わたくしの元婚約者ですわ」

 

「婚約者?ラクスさんってキラさんの彼女じゃなかったんですか?」

 

 

ナルトの問いにラクスを笑みを深め、『ありがちな政略結婚でしたから。でも、もう婚約は解

消されてますのよ?』と答える。

 

 

「それが毎日『あぁ』なんですか?」

 

「そうなんですの。キラとは一度離れ離れになっていたのですけれど、無事再会して胸の蟠

りが消えてからずっとあの状態で……本当に困った方ですわ。カガリさんに預けても、監視

の目をことごとく掻い潜って毎日毎日―――――」

 

「『カガリ』さんはキラさんの双子のお姉さんなんですよね?その人とアスランって人は、恋

人同士とはまた違うんですか?」

 

 

ナルトの言葉に、軽く目を見開いたラクスは苦笑した。

 

 

「今のお言葉、カガリさんにお聞かせしたらさぞ嫌がるでしょうね」

 

「へぇ…………」

 

 

『まぁ、確かにいくら顔が良くてもアレが相手じゃな』と。

会ったこともない『カガリ』の気持ちがわかった気がしたナルトは、心からキラの姉に同情

した。

ごめんなさい、カガリさん。

けして悪気があった訳じゃないんです。

 

 

「さぁさぁ、ナルトさん。朝食の準備ができましたから、いつまでもこの部屋にいないで戻

りましょうか」

 

「あ、そうだ。すみません、準備中に抜け出したりして」

 

「構いませんわ。ナルトさんのおかげで、今日の駆除は随分楽をさせて頂きましたもの。そ

れに、『影分身』のナルトさんを置いて行って下さいましたでしょう?」

 

「そうなんですけどね―――――あれ、なんか影分身が殺気立って……まさか!」

 

 

部屋を飛び出したナルトがキッチンへと駆け込み、そこで見たモノは。

影分身の手によって荒縄で力一杯縛り上げられている蓑虫状態のアスランと、それに歓声を上げている子供達と、そんな状況下にいながら平然とコップに牛乳を注ぐシカマルと、頬杖をついて冷笑するキラといったある意味すごい光景だった。

ナルトの後を追い駆けてきたラクスが、アスランの姿を見つけて溜息をつく。

 

 

「やはりあの程度では効かないようですわね…………」

 

「―――――っつーか、ついさっき外壁を這ってた奴がココにいるのって、普通に考えてあ

りえないんじゃ…………」

 

「アスランはいつもそうですわ。わたくし達が『ありえない』と思うことを平気でするよう

な方ですから、わたくし達も『ありえない』対応をしなくてはいけませんの。キラ、御無事

なようで何よりですわ」

 

「うん、ナルト君が即行で押さえ付けてくれたからね。それにしても、やっぱり強いねぇナ

ルト君は。ここにいる間だけでも僕に雇われない?」

 

「報酬は?」

 

「毎食後に、君の好きなデザートつけてあげる」

 

 

ナルトはニヤリと笑った。

 

 

最高ですね、考えておきます。 でもまぁ、とりあえず―――――影分身、お前は消えとけ」

 

 

ナルトの命令に従い、アスランを蓑虫にした影分身は煙を上げて消えた。

それにより、子供達の歓声が一際大きくなる。

 

 

「すっげぇー!ナルト兄ちゃん、ソレ教えてー!!」

 

「私もアスランやっつけるのー!!」

 

「教えて教えてー!!」

 

「はいはい、術は無理だけど護身術ならな。ところでアスランさん、アンタさっきのラクス

さんの一撃で諦めてくれたんじゃなかったんですか?」

 

「アレくらいで俺のキラへの愛が冷める訳ないだろう!!俺を見くびるな!!!」

 

「いやいや、 そんな愉快な格好 で言われても…………」

 

 

思わず笑ってしまったナルトはシカマルから牛乳入りのコップを受け取り、続ける。

 

 

「大体、その『愛』って一方通行もイイトコですよね。少しはキラさんの迷惑考えたらどう

ですか。 キラさんってば、満面の笑みでグローブどころか釘バット構えてる状態ですよ?

 

「大丈夫だ、照れ隠しだから!!!」

 

 

一体どこからそんな自信が。

 

 

「…………キラさん、もう一思いに殺っちゃったらどう

ですか?ものすごく胸糞悪いんで、今なら無条件で暗殺

任務を承りますけど」

 

「おい、ナルト。カカシ上忍のこと思い出すのはわかるけどよ、もう少し大人しくしてろっ

て。一応ココ他人様の家なんだから、殺人現場にしたら悪いだろーが」

 

 

シカマルの制止の声に、ナルトは唇を尖らせる。

 

 

「だぁって、俺こーゆー人種嫌いだしさぁー…………」

 

「だから、そう言いながらさりげなく苦無取り出すなよ。ストレス溜まってるなら、及ばずながら俺が相手になっから」

 

「マジで?さすが俺の旦那!身体がなまっちまわねぇかって心配だったんだ!!じゃあ早速後でな。特殊結界の中で時間無制限一本勝負。武器や術の規制は一切なしで、相手が失神するか戦闘不能と判断されるまで。それでOK?」

 

「…………それって、俺が負けること大前提じゃねぇか?」

 

「うわ、図々しい!俺に勝てるつもりでいたのか?」

 

 

そんな二人の遣り取りを見て、キラはくすくすと笑った。

 

 

「ホント、二人とも仲良いね。とりあえずアスランについては……まぁ、 認めたくな

いけど、これでも一応昔は可愛げがあった幼馴染 だから殺さないでくれるかな?その変わり 死なない程度に痛めつければそれでいんだけど、ここまでお膳立てしてくれてあるんだから後は僕がやるよ。皆、先にご飯食べてて。それとラクス、悪いけどカガリにアスラン引き取りに来てくれるよう連絡してくれる?」

 

「はい」

 

「…………さて、アスラン。 そろそろ僕も限界が近くなってて、マズイかなって思ってたトコ なんだ。今までの事とこれからの事について、ちょっと向こうの部屋でお話しようねぇー

 

「キラの誘いなら喜んで!!」

 

 

 

馬鹿が、馬鹿がココにいます!!!!!

 

 

じゃあ後はお願い、と。

一言だけ言い残してアスランの足を乱暴に掴み、障害物なんか知ったこっちゃないとばかり

に引き摺りながら退室していくキラの背中を、ラクスとナルトは目をウットリとさせて見送った。

外見だけで判断すれば、『男らしさ』とは縁のないような容姿をしているキラだけれど。

 

 

「男前ですねぇ…………」

 

「えぇ、本当に…………」

 

「―――――っつーか、ホントにコレが毎朝続くのか?」

 

 

 

 

 

 

シカマルの言葉通り。

これからもこの喧騒は、ナルトとシカマルの二人を新たに混じえて続いていくことになる。

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