だから、何かに嵌るのは。

お池のドジョウと挨拶を交わしたドングリ君だけで充分なんだってば!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二 回 目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴメンナサイ」

 

 

ナルトは謝った。

近年希に見るほど―――――と言うか今までにない殊勝な態度で謝った。

だが、よほど後ろめたいことがあるのか目の前の少年ではなく海に身体を向けて体育座りをし、けっして少年と目を合わせようとはしない。

膝に顔を埋め、酷く沈んだ声でひたすら『ゴメンナサイ』を繰り返すのだ。

その様子をすぐ側で見ていた黒髪の少年―――――シカマルは、海風に靡くナルトの金髪が太陽の光を弾いて更に輝きを増すのに見とれつつ、反面、その思考はどこか別のトコロへ飛んでいた。

今現在の状況を正確に理解するために、IQ200の頭脳はフル回転の真っ最中なのだ。

 

 

「ホントゴメンナサイ。マジゴメンナサイ。言い訳のしよーもゴザイマセン。全ては俺の責任です」

 

「あー……なんつーか、そこで自分の責任だって主張するのは勝手だけどよ、それでこの事態がどうにかなんのか?」

 

「ならねぇから謝ってマス。ゴメンナサイ」

 

「いや、だからそもそもお前のせいじゃねぇだろ。きっかけは―――――まぁ、お前かもし

れねぇけど、少なくとも全部の責任を持つほどのことはしてねぇって。たぶん運が悪かった

んだ」

 

「シカマル…………」

 

 

そろそろと顔を上げたナルトは、罪の意識から不安定に揺れる瞳をようやくシカマルに向け、くしゃりと顔を歪めた。

目の前の海よりも透明度の高い綺麗な、そして儚げな青。

それがどれだけの威力を持っているのかを正確に理解していないナルトは、金縛りにでも遭

ったかのように固まってしまったシカマルに、勢い良く抱きついた。

 

 

「でもやっぱ俺のせいなんだよ!!一度アレに嵌って学習したはずなのにまた嵌ってんだから、やっぱ俺のせいなんだ!!!」

 

 

ナルトが言うアレとは、『時の狭間』と呼ばれる時空の歪みのことである。

アカデミーを卒業して下忍になったばかりの頃、ナルトは一度その『時の狭間』に落ちたこ

とがあった。

その時に飛ばされた場所が、自分とは違いマトモに育っていた十八歳のナルトが棲息する木の葉で、本人と間違われて襲われたり内乱に巻き込まれたりと散々だったが、それでもなんとか戻ることができた―――――が、またしてもコレ。

表任務に分類される下忍時の任務ではなく、裏任務と呼ばれる暗部時の任務中に事故に遭い、

結果としてナルト達が属していた世界とは別の世界に飛ばされてしまったのだ。

なぜそう判断できるのか―――――その答は単純明快。

内陸部に位置する深い森の中にいたはずが気付いた時に海岸になど転がされていれば、不本意ながら経験者であるナルトにとっては充分な判断材料になってしまうのである。

 

 

「ゴメンな、シカマル!俺が絶対帰してやるから!!いつのなるかわかんねぇけど絶対帰し

てやるからな!!?」

 

「わ、わかった、期待してるから落ち着けって…………っ!」

 

 

取り乱すナルトの背中を安心させるように軽く叩き、シカマルはナルトから身を離した。

一応『許婚』ということになっているが、やはりまだ気恥ずかしいものがあるらしい。

それをシカマルの父親辺りに洩らしたら、彼は間違いなく『青いな』と馬鹿にされるのだろ

うが。

 

 

「それにしても、一体ここドコなんだ?」

 

 

シカマルが首を巡らせようとした、その時。

 

 

『テヤンディッ!』

 

 

人間の声とは違う電子音そのもののような声がして、ピンク色の球体がシカマルの後頭部に大きな音を立てて直撃した。

 

 

「シ、シカマル!?」

 

 

焦ったのは、息を詰まらせて頭を抱え込んだシカマルを前にしたナルトだった。

見ていた限り、今の衝撃は鈍器で手加減せずに殴られたも同然。

いくら忍であろうと、痛くないはずがないのである。

 

 

「だ、大丈夫か!?なんかすっげぇ音したけど…………」

 

「あ、あぁ、大丈夫……だと思うけど、かなり痛い。それにしてもなんだ、ソレ。ボールか?」

 

「いや、ボールは喋らねぇだろ」

 

 

周囲を跳ね続ける未確認跳躍物体に、二人の目は釘付けだ。

こんな不思議なモノ、見たことがない。

 

 

「なんかいかにも異世界って感じだなぁ…………」

 

「この痛さがねぇなら、俺としてはまだ凶暴なドラゴンの方がマシだった気が……いや、で

もコッチ方面もなかなか面白いかも。なぁ、どんな仕掛けになってると思う?」

 

「あ、ダメダメ!トラップならともかくとして俺ソッチ方面オンチだから、意見求められて

も答えらんねぇって。 なんか呪われてるみたいで、触っただけで全部ブッ壊れる

 

「…………変な電磁波出してんのか?」

 

「―――――っつーか、チャクラに耐えらんねぇんだと思う。ほら、俺ん中って九尾がいる

じゃんか」

 

「あぁ、なるほど」

 

 

納得したシカマルは、再びピンク色の球体に視線を戻した。

ナルトもつられるようにしてソレを眺め、不快そうに目を細める。

 

 

「それより、いい加減ウザくなってきたんだけど……なぁ、シカマル。 力一杯蹴り

飛ばしていい?

 

「止めとけよ。コレが何かわかんねぇだろ?」

 

 

いつもの調子を取り戻し始めたナルトを戒めたシカマルだったが、ふいにナルトが何かに気

付いたように身動ぎしたため、任務時の意識へと切り替える。

話に集中していたせいで反応が遅れてしまったが、思ったよりもすぐ側に気配がした。

二人の視線の先にいるのは、胸元を大きく開けた淡い色のワンピース姿の少女。

少女と言っても、十二歳のナルト達よりも大分年上らしい。

ナルトの同班であるサクラよりも赤味の強いピンク色の髪に、ナルトとはまた違う青色の瞳

を持つどこか母性を感じさせる綺麗な少女が、静かに歩み寄ってきた。

気品ある立ち居振舞いからは彼女の家柄の良さが窺えたが、フワフワとした柔らかい雰囲気の中にある芯は、見た目以上に強くしっかりしているという印象を受ける。

 

 

「申し訳ございません、うちのピンクちゃんが何かしました?」

 

「ピンクちゃん?」

 

「その子のお名前ですわ。友人から贈られた子で、『ハロ』と言いますの」

 

「贈り物にしては随分悪趣味な…………」

 

「お、おい、ナルト!」

 

 

慌ててナルトの口を塞ごうとしたシカマルだったが、ナルトの言葉はバッチリ聞こえていた

ようで、少女は静かに目を見張った。

気を悪くしたかと思いきや、実はそうでもないらしく、クスクスと鈴が転がるように笑う。

 

 

「実はわたくしも初めて見た時にそう思いましたの。でも、よく見ると可愛いんですのよ?」

 

「へぇ……まぁ、確かに癖になりそーな面してるかもしれませんね」

 

「そうでしょう?」

 

『ミトメタクナイ!』

 

 

彼女は、自分の手の中に『ピンクちゃん』を呼び戻すと、ナルトとシカマルの二人を見下ろ

して首を傾げた。

 

 

「初めまして、わたくしはラクス・クラインと申します。何もない所ですけれど、お二人は

ご旅行か何かですか?」

 

 

この格好で?

自分の姿を見下ろしたナルトは、『ありえないだろう』と苦笑した。

華奢な身体をすっぽりと覆う外套は夜を切り取ったのかと思うほど濃い闇色で、合わせから

わずかに覗く白いベストは、暗部だけが着用を許される独特のデザインのモノ。

加えて頭には、ずらしているとはいえ、いまだ付けたままになっている白塗りに朱を差した

狐面。

見習い暗部とはいえ、シカマルも同じ服装だ。

どこからどう見ても、彼女の服装とは根本的に違う。

 

 

「旅行っつーか……遭難?」

 

 

ナルトの言葉に、シカマルが頷く。

 

 

「そうだな、迷子レベルなんてもんじゃねぇけど」

 

「あらあら、それは大変ですわね」

 

 

…………本当に大変だと思ってマスか?

そうは思ったが口には出さずに。

ナルトは砂浜に手をついて立ち上がり、ラクスと名乗った少女に向き直った。

 

 

「ちょっとお尋ねしますが、ここはドコなんですか?」

 

「地球の中立国の一つ、オーブ連合首長国です」

 

 

『地球』、『オーブ連合首長国』―――――やっぱり聞いたこともなかった。

ナルト達が属していた世界とは、そもそも世界観自体が違うのだろう。

認めざるをえない現実に、ナルトとシカマルは同時に溜息をついた。

 

 

「もしよろしければ、そうなった事情をお聞きかせ下さいませんか?わたくしでも何かお役

に立てることがあるかもしれませんもの」

 

 

見ず知らずの人間―――――しかも、見るからに怪しいガキになんて親切な!

ラクスの言葉は、この世界のことを何一つ知らない二人にしてみれば神の言葉そのものだ。

神の存在なんてまるで信じちゃいなかったが、それでも今、二人の目に映る少女は『女神』

以外の何物でもない。

その親切の裏にきな臭い何かがあったとしても、自分達ならどんな窮地に追い込まれてもどうとでもなるという自信があったため、迷う時間などなかった。

元の世界に帰るためにも、今はこの世界のことを知らなければなないのだ。

ナルトとシカマルは顔を見合わせ、笑みを絶やさないラクスに意を決して一言。

 

 

「「貴女は異世界トリップを信じますか?」」

 

 

 

 

 

 

ちなみに、宗教の勧誘じゃありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明確な根拠はないけれど、向かい合ったその瞬間、ナルトは確信した。

自分とこの人は『同じ』だと―――――。

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