『これで貴方も三分でマッチョ体型に!!』 

胡散臭さ全開の薬を飲んでしまったことを、俺は今、猛烈に後悔している。 


魅惑の魔王陛下〜自業自得編〜
大賢者様である彼が言うことは、大抵正論だ。 「神に懺悔します‥‥‥‥」 周囲を忙しく動き回る赤い残像を、自分の世界から器用に切り捨てて、 顔の前で両手を組み、どこか遠くを見上げるのは。 十六歳の平均的男子高校生、渋谷有利。 しかしてその実態は、眞魔国第二十七代魔王陛下だったりする。 そんな有利に負けず劣らず高貴な身分である親友は、 罪深き子羊にどうでもよさげに声を掛ける。 「魔王が神に懺悔してどうするの」 アンティークの椅子に腰掛け、現実逃避を図った当代魔王陛下を面白そうに観察する村田。 彼は相棒の浅はかさに辟易すると同時に、苦笑していた。 「笑うな、村田!」 「それは無理な話だね」 即答される。 有利は村田を睨み、悔しそうに顔を歪ませた。 そんな精一杯の凄味も村田を楽しませる一因なのだということに、 一つの思考が頭を占拠している有利には理解できるはずもない。 「だから言っただろう、渋谷。やっぱり何事もコツコツ努力していくのが一番なんだよ。 甘言にまんまと乗せられて努力を怠ったのは君に否がある。 大体僕は忠告しただろう?『ろくなことにはならないから』って。 それなのに僕を責めるのは身勝手以外の何物でもないよ?」 「わかってるよ、そんなこと!!いつもお前は正しいんだから!!」 「ホントかなぁ‥‥‥‥」 そう、彼が正しいのはわかってはいる。 ただ、時としてその正論は、夢や希望が一杯詰まった美味しい餌の前では無力になるのだ。 目の前に大好物のニンジンをぶら下げられたら、走らずにはいられない馬のごとく。 認めよう。 今回は(も?)本当に有利が悪い。 だから、文句を言うなら村田ではなく自分自身に言わなければならなかった。 村田は、屈辱に耐えて華奢な肩を震わせるその姿が、 不謹慎にも微笑ましいと思ってしまったが、後先をよく考えて口には出さない。 有利の今の状況は完全に自業自得だが、気の毒と言えば気の毒なのだ。 すると、なんの脈絡もなく、フォンカーベルニコフ卿が感嘆の声を上げた。 「完璧です」 一仕事終えた後特有の清々しい空気を身に纏い、口の両端を持ち上げる。 彼女は、大きな姿見に映った有利の姿を見て重々しく頷き、もう一度『完璧です』と呟いた。 それに反して有利は半眼になり、額に青筋を浮かび上がらせていた。 「どこが‥‥‥‥ってか、コレ誰だよッ」 正面に立っているのは有利ではない。 有利が今この場に立っているのだから、姿見に映っているのは当然有利のはずだ。 しかし、目の前の有利は今までの記憶にない姿をしている。 背中の辺りまで伸びた髪は緩く纏め上げられ、両サイドの一房は先の方できつく巻かれていた。 細く白い首筋を惜しみなく晒すタイプの、年齢が若い有利に無理がない、清楚な髪型だ。 身体の線をもろに表す、大量のレースをあしらった黒いワンピースは。 地球で母親がうっとりしながら眺めていた、ゴスロリ系のものに似ている気がする。 こんなことにならなかったら一生着ることもなかったであろう、この服。 しかもバッチリメイク済み。 有利はあるはずのものがなく、ないはずのものがある身体を姿見を通して じっくりと見ながら、自分の浅はかさを呪った。 そう、有利はアニシナが作った筋肉増強剤をなんの躊躇いもなしに試飲し。 結果、立派な女になってしまったのだ。 「アニシナさん、あのさ」 「なんですか」 「こんなに着飾らなくてもいいからさ、早く元に戻してよ」 「無理ですね」 あまりにもあっさりと否定され、有利は勢い良く背後を振り返った。 「なんで!?アレはアニシナさんが作ったんでしょ!? なら解毒薬だって作れるんじゃないの!?」 いくら筋肉増強剤が実は失敗作で女性化してしまう薬だったとしても、 普通自分が作ったものの成分だってわかるはずだ。 それに、万が一に備えて非常時に対する策だって練ってあるはずで。 それなのに。 「どうして無理なの!?」 怒鳴る声も、いつもより高い。 「人の話を最後までお聞きなさい。今すぐには無理なだけです。 まったく、これだから男というのは」 女尊男卑も、今の有利には通用しない。 「俺、今女なんですけど」 「そうでした。とにかく陛下、私はこれから実験室に篭って解毒薬を作ります。 それまでの間、しばらくはそのまま女として生活して下さい」 「‥‥‥‥しばらくっていつまでですか」 漠然としたものではなく、明確な期間を教えて欲しい。 広がっているスカートの裾を手繰り寄せ、きつく握り締めながら有利が問うと。 突き立てられる、三本の指。 「‥‥‥‥三時間?」 「三日です」 「三日ぁ!?そんなに!?」 三分でも三時間でもなく、三日。 いや、それでも三週間や三ヶ月間と言われないだけマシなのか。 村田は有利の全身を興味深げに眺め、笑う。 「いいじゃないか、渋谷。異性に変化できるなんて 向こうじゃ絶対にできない体験だよ。 ここは一つ、異文化を理解するという意気込みで 乗り越えたらどうだい?わずか三日、たったの三日。 女性の身体の神秘をその目をもって確認するもよし、 ナンパされる気分を味わうのもよし。 全て思うがまま、君の自由だ。ここは開き直るが勝ち、だよ。 幸いにもツェリ様に負けず劣らずの美女っぷりだし」 「んなことできるか!!お前他人事だと思っていい加減なこと言って!!」 「他人事だなんて思ってないよ、親友。できる限りのフォローはするさ。 だから落ち着こうよ。 そんなにカリカリしてたら、せっかくの美人が台無しだよ」 「馬鹿言え!!これが落ち着けるかってんだ!! この城には運悪く恋愛旅行中のツェリ様以外の全員が滞在してるんだぞ!? コンラッドも、ヴォルフも、グウェンも、ギュンターも、 グレタも、全員!!絶対笑われる!!変態だって思われる!!! そうして眞魔国の歴史には『第二十七代魔王は女装趣味の変態だった』 って刻まれるんだ!!!!」 その時、有利の脳内には、リアルな未来予想図が浮かび上がっていた。 『それは絶対有り得ない』と思った村田も、有利の危機迫る主張に閉口する。 この状態の有利に気休めを言っても無駄なのは、重々承知していた。 「わかった」 村田は力強く頷いた。 「三日間、僕は渋谷の側を離れない。適当な理由を作って、 執務も食事も全て僕を通すようにする。 僕以外、渋谷には誰も接触させない。それでいいだろう?」 滅多に出ない有利の癇癪が止まる。 それはもう、あっけない程に。 「渋谷の今の状態は城内ならず国内にも混乱を招きかねない。 僕と、君と、フォンカーベルニコフ卿の三人だけが知る極秘事項だ」 「‥‥‥‥極秘事項?誰にもばれない?」 「そう。ファンカーベルニコフ卿もいいですね?他言無用でお願いします」 赤い悪魔の異名を持つ彼女が、大賢者の言葉にあっさりと頷く。 有利は数回瞬きを繰り返し、『どうだい?』と尋ねてきた村田を凝視した。 黒曜石をそのまま嵌め込んだような大きな瞳は涙を滲ませていて、不安げに揺れている。 今この時この場に、村田以上に頼れる存在はいないのだ。 縋り付くかのような視線は、村田の中に軽い興奮と優越感を産み落とした。 次いで生まれる、親友を守らなければならないという義務感。 「大丈夫だよ、渋谷。なんとかなるさ」 大賢者様の『なんとかなる』は、本当になんとかなりそうだから不思議だ。 有利は何度も何度も大きく頷き、堂々たる彼を心の底から尊敬した。 しかし、世の中そう甘くないのである。 †††††後書き††††† 村ケンが好きなんです!ユーリが好きなんです! この二人が大好きなんです!!はぁはぁ‥‥‥‥。 『×』と『+』の微妙な線がなんとも心をくすぐります。 ってか、悶えます。誰でも一度は思いつくネタでした。 捻りも何もあったもんじゃないですが、そんなのどうだっていいです。 オイラが楽しけりゃぁね。(開き直り) なんかもう一杯一杯って感じですが、これがさらに続くんだよなぁ‥‥‥。(遠い目) どれくらいの話になるのか、本人にも想像つきません。 行き当たりばったりで頑張って行こうかと思います。 -------------------------------------------------------------------------------- NOVEL next
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