ナルトを誘拐し、禁忌に触れる不当な扱いをしたとして、事件後、栄は失脚した。
五代目火影と日向の圧力、それに加えて任務で顔馴染となった大名家の姫君の協力もあり、
事実上、国外追放と相成ったのだ。
ナルトの抵抗を封じるための切り札となった子供は、里を出、新しい家族の元、平穏無事な
生活を送っている。
人の噂も七十五日、とはよく言ったもので。
里人のナルトに対する多少の不信感は残っているものの、ナルトを取り巻く状況は、暴動が
起きる心配までいていた一時期よりは、気休め程度ではあるが良くなってきていた。
そんなある日のこと。
ナルトを尋ねて木の葉の里に訪れた、一人の男がいた。


「あぁ、ナルト君。良かった、ここにいたんだね」


イノの修行とやらに強制的に付き合わされていたナルトは、コブ付きで現れた柔らかな物腰
の男を見て絶句した。
適度な長さで切り揃えられた、柔らかそうな薄茶色の髪に。
芽吹いたばかりの瑞々しい若葉のような、翡翠の瞳。
和装ではなく、ハイネックの薄手のセーターの上にスーツを着込むといった洋装をしている
が、彼は記憶の中に住む人間と同一人物であった。
そう。
重度のシスコン若旦那、要である。
着物姿しか見たことがないが、そういった洋服姿もよく似合っていて、ますます良い男っぷ
りが際立つ。
性格も悪くはないし、女性に対して紳士的。
これでもう少し『姉上大好き』具合が緩和されていれば、世の女性にとって、それはそれは
美味しい物件だろうに。
跡取り息子まで手に入れて、これでますます結婚から遠ざかっているように思えるのは気の
せいだろうか。
一重の目を細め、口元に微笑を讃えた要は、先の一件で義理の息子となったサクトの手を引
きながら、ナルトの側までやってきた。
ナルトと目が合ったことで、サクトの表情がパッと晴れる。


「お姉ちゃーん!」


子供特有の強烈なタックル。
鳩尾の辺りに頭突きをされたナルトは、低くうめきながらも無様に倒されるようなことには
ならなかった。
くりくりとした大きな目が、実に嬉しそうにナルトを見上げる。


「お姉ちゃん、久し振り!!」


君の中では、まだ俺は『お姉ちゃん』なんですね。
ナルトはがっくりと肩を落としたが、純粋に自分との再会を喜んでいるサクトを怒るのも気
が引けて、嘆息しながら小さな頭を撫でてやった。


「…………サクト。前にも言ったと思うけど、俺のことは『お兄ちゃん』って呼んでくれ」

「えーなんでぇ〜?」

「なんででもだ」

「やだ、アンタもしかしてあの時のガキ?」


目を丸くしたイノが、両膝に手をついて屈み込んできた。
そこで初めてその他二人の存在に気付いたサクトは、きょとんとした顔でイノを見て、何か
嫌なものでも思い出したかのようにムッとした。


「あ、鬼婆」

「…………相変わらず鼻持ちならないガキねー。まぁ、子供の特権を振りかざしてナルトに
へばりついてること自体、気に喰わないんだけど」

「だって僕のお姉ちゃんだもん!大体、鬼婆こそお姉ちゃんのなんなの?」

「何って言われたって…………」


言いあぐねたイノに代わり、お決まりの台詞を吐いたシカマルがナルトに確認するように言
う。


「同僚。もしくは秘密を共有する者。とりあえずそんなトコじゃねぇ?」

「…………まぁ、そうね」

「秘密?僕もお姉ちゃんの秘密知りたい!」

「サクトはもう知ってるんだよ」


サクトの小さな肩に手を置いた要が、ナルト、そして次にイノとシカマルの三人をそれぞれ
順に見てから、その中で初対面の二人に『初めまして』と挨拶をした。
サクトの里親が見つかり、木の葉を出て行ったことは、ナルトからあらかじめ知らされてい
たが、あまり関係がありそうもない人物に、まさかこうやって対面するとは思っていなかっ
た二人は、困惑するばかりである。
それも仕方ないか、と。
一人だけ納得したナルトは、自分よりもはるかに高い位置にある要の顔を見上げ、素直な疑
問をぶつけた。


「要さん、なんでまたこんなトコに?」

「ちょっと面白い噂を聞いたものだから、たぶんナルト君は知らないだろうなと思って教え
に来てあげたんだよ。それに、ちょっと君の力を借りたいことが起きてね」

「俺の?―――――っつーことは、面倒事かよ」

「暗部部隊長殿の確かな実力、僕は目の当たりにしているからね。君なら難しくはないと思
って」

「どうしても俺にって訳じゃないなら、正式に任務依頼の手続き取ってくんない?その任務
のランクに見合った忍が担当になると思うから」

「酷い子だね。僕は君を指名しているつもりなんだけど」

「そうなると、ランクが上になるほど高くなる通常料金と更に指名料が上乗せされて、かな
りの金額になるぜ?」


それだけの報酬が払えるのか、と。
わざと意地が悪そうに言ってみると、要は『その点は問題ないよ』と、自信満々に笑って見
せた。
よくよく考えれば、その通りだ。
何せ、要の店は昔から大名家御用達の看板を掲げており、その上、他国の高貴な身分の方々
をも顧客に持っている。
最近は庶民の層でも気軽に購入できる菓子も増やし、そのおかげで火の国一の菓子店の座を
不動のものにしているから、当然のごとくの客足が途絶えることもない。
職人である前に商人である要のことだから、蓄えた財はそれこそかなりのものだろう。
つまらない。
もう少し困らせてやろうと思ったのに。


「…………了解。んで、任務内容は?」

「うちの店の従業員の女の子がね、里帰りしたまま帰省期間を過ぎても帰ってこないんだ」

「それが?」

「『それで?』って言ってほしいな。えぇっと、どこまで話したかな―――――あ、そうそう。
その子なんだけどね、実家に連絡をとったら行方不明だって言われたんだよ」

「そりゃまた唐突な」

「そうだろう?しかも、その町で行方不明になっているのはその子だけじゃなくて、今月に
入ってから、同じ年頃の女の子がもう八人も消えてるって話」

「…………そーゆーのは忍じゃなくて、警察機関に言った方が良いと思いマース」

「そこまでなら、君に言われなくたってそうしてるよ。だけどね、その時に面白い噂を聞い
たから、これは是非とも君に知らせなきゃと思ったんだ」


ナルトは眉を顰めた。


「さっきも言ってたよな?何、その噂って俺に関係があんの?」

「大有りだよ。八人もの行方不明者が出たのに、ろくに調査もされない。仮に調査をしよう
としても、その関係者が急病になったり怪我をしたりして中断。女の子が相次いで消え始め
たのが、その地域担当の代官が替わってからすぐのこと。どう考えてもおかしいだろう?」

「おかしいどころの話じゃねぇな。そのパターンだと黒。絶対黒。真っ黒もいいトコだぜ?
でも、それと俺にどんな関係があんだよ」

「これもまたベタすぎて笑えるんだけどね」


こみ上げてくる笑いの波を堪えながら、要が説明したのは。
主人公である御三家の老人が個性豊かなお供を引き連れて諸国漫遊の旅をし、立ち寄った土
地の悪人達を、印籠の力を振りかざして片っ端からやっつけていくという。
現在夕方四時台に再放送されている、庶民に絶大な人気を誇る時代劇張りの事情であった。
市井の生活のことなど『どうでもいい』と言わんばかりの、暴虐の限りを尽くした悪代官の
振る舞い。
それに取り入って甘い蜜を吸おうとする、『越後屋』なる悪徳商人。
雇われている用心棒は、知名度高い木の葉の忍。
ん?
ちょっと待て。
この話の流れで、木の葉の忍っていったら。


「巷では、『木の葉の金狐』が悪代官側に回ったって、それはもう大騒ぎだよ」


突拍子もなく告げられた、ここではないどこかの町の状況に。
ナルトとイノとシカマルの三人は、瞬きをしながら互いに顔を見合わせた。
主に集中するのは、ナルトへの視線。


「ちょっとぉ〜ナルトってばいつの間に悪役になってるのー?私初耳なんだけど」

「んな暇あるなら、逃げ回るなんてメンドーなことしないで、もっとマメにコイツの相手を
してくれ。八つ当たりされる俺は堪らねぇんだよ」

「…………ナンデスカ、その非難の眼差し。俺がそんなことするとでも思ってんの?」


失礼な。
やるなら徹底しますよ、俺は。用心棒だなんて甘ッチョロイ地位で満足で
きませんってば。
―――――っつーか、それって。
どこからどう考えても。


「「「偽者じゃん!!」」」





自分の名を語る不届き者は、どこのどいつだ?










本物と偽者と-0-
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