十八歳の彼 十二歳の僕 ‐7‐

「情けないね、お前等。あんな子供に言い負かされちまうなんて」 情けない、と。 呆れた口調で言った割には、綱手の顔は苦笑しているだけだ。 思いがけない人物から、本来ならば喜ばしいことであるはずの事柄を真っ向から否定され、呆然としてい るのもあったかもしれない。 だが、この時の彼等はただただ愕然としていた。 見ようとしなかった現実に強制的に気付かされたせいと言うよりは、あの小さな子供の存在そのものに。 「なんなの、アノ子……ナルト、アンタ知ってるんでしょ?」 「うん、まぁ……知ってるって言えば知ってるけど、知らないと言えばまったく知らないってばよ」 「何よ、それー。私達はそれこそまったく知らないの。もったいぶらずに吐きなさい」 もともとそのつもりで来たんだけど、と。 前置きしたナルトは、それでも気乗りしないように口を開いた。 「どーやらアイツ、もう一人の俺みたいなんだってば。木の葉の里の出身で忍ではあるらしいけど、別の 世界から来たって本人は言ってる。ありえない話じゃないだろ?」 「そりゃあ、口寄せの術ってのがあるくらいだから理論的にはそうかもしれねぇけど……お前、昔あんな じゃなかったぜ?」 「いや、だからあくまで俺は俺でアイツはアイツなんだってば。んで、アイツは俺とはまったく違う人生 歩いてるみたいで……なんて言うか、悟りを開いちゃってる感じ」 「あれは悟りを開いてる訳じゃないよ」 そんなこともわからないのかい、と。 溜息混じりに訂正した綱手が、見えもしないドアの向こう側を見る。 「闇に呑まれないように自らも闇になった、憐れな子供さ。中途半端な光じゃ、それこそ生き残れなかっ たんだろうね…………」 そんなことを本人の目の前で言ったら、間違いなくブチ切れそうな比喩表現だ。 「五代目、それはどういうことですか?」 戸惑いがちなサクラの問いに、綱手は面倒臭がるでもなく気安く答えた。 「つまりアノ子は、里中から目の敵にされてるってことさ。守ってくれる親もいないってのに、絶えるこ となく襲ってくる刺客。その上人の身体には過ぎたモノを押し付けられて、その負担は計り知れないだろ う。情に厚い三代目でさえ、それを知りつつも『火影』という立場上、表立ってアノ子を庇えない――― ――……想像することは何も難しいことじゃない。むしろ簡単なことだよ。ナルト、アンタと正反対の境 遇だったと考えればいいんだからね」 サクラとイノが小さな悲鳴を上げる。 それが特別マズイことだとでも思ったのか二人は慌てて口を押さえたが、その悲鳴はすでに音になって出 て行ってしまった後だから、なかったことにはできなかった。 しかし、それを気にするような人間はこの場にはいない。 「…………だからか」 「何がだい?」 「多勢に無勢、それでもアイツは呆気なく大の男五人を倒しました。全員上忍だったのにも関わらずです」 シカマルの証言に。 その時にシカマルと行動を共にしていたキバとシノが印象的すぎる例の光景を思い出したらしく、表情を 厳しくする。 「確かにあの光景は、普通の子供が披露できるようなものじゃありませんでしたね……いや、普通じゃな くてもそうそう披露できるようなものでもありませんでしたが」 「…………やれやれ、随分と物騒な世界だね。あれほどの傑作なんて、きっと後にも先にも二度とできや しないよ」 片手でガシガシと頭を掻いた綱手が、この場にいる全員に忠告した。 「お前達が平和ボケしてるとか、そんなことは言わないよ。だけどね、アノ子とお前達が歩んできた道は 違うってことを肝に命じな。アノ子は強いよ。下手に関わって刺激するもんじゃない、いいね?」 「「「「「 はい 」」」」」 「ナルト、お前もだよ」 「そんなこと言ったって、アイツ家にいるし…………」 「禁句さえ安易に口にしなけりゃ、変な気遣いは無用だって話さ。アノ子だってそんなことを望んでる訳 じゃないだろうからね。どうやらお前は少し気を許されてるみたいだし、精々このまま現状維持を心掛け るんだな。いずれ火影になる身だ、違った考え方を持つ人間と接して視野を広げるのもいいじゃないか」 「…………気を許してるって、そんなことどうしてばーちゃんにわかるんだってば?」 綱手はニヤリと笑った。 「忘れたのかい?ホントはアノ子、大人が怖いと思うんだよ。だから直接の接触は持たないはずなんだ。 だけど、アンタには触らせただろう?」 「―――――あ」 「そういや、俺は拒まれたってのにお前は平気そうだったな」 シカマルにそう言われても、ナルトは釈然としない。 しばらく居心地悪そうに目を泳がせたが、やがて観念したように綱手を見た。 「…………ただの気まぐれだったかもしれないじゃん」 「気まぐれで触らせた相手のことで、普通あそこまで過剰な反応はしないさ。いいかい、一度しか言わな いからよーくお聞き」 ナルトに向かって伸ばされた手。 綱手はナルトの耳を強く引っ張り、痛みに顔を歪めた被害者を諭すように言った。 「アノ子はアノ子なりに心配してるんだよ。お前が倒れた時、里がどういう反応をするか―――――現実 味がありすぎる最悪なシナリオが、常に頭の中にあるんだろうね……………」 誰も何も言えなかった。 当のナルトでさえも、何か言おうにも言うべき言葉自体が見付からなかった。 子供だから、と。 まだまだ小さいからと保護者気取りでいたけれど、なんのことはない。 あの深い青色の目は、自分などよりよほど多くのことを知っていたのだ。 企画部屋  
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