十八歳の彼 十二歳の僕 ‐3‐

「俺が十二歳の頃は、馬鹿だったけどもう少し可愛げがあったってばよ」 なんとも失礼な科白を吐いたのは、ボロアパートの一室で胡坐をかいた十八歳のナルト。 彼はナルトと適度な距離を保ち、ベッドの上からマジマジとナルトの顔を観察していた。 見世物小屋の動物のような気分になったナルトは、テーブルに肘をついてあらぬ方向へと視線を放り投げ ている。 この馬鹿馬鹿しい状況を受け入れてはいるが、認めたくはない一心で。 「可愛くなくて悪かったな。俺の場合は、とてもじゃねぇが天真爛漫・純粋培養体に育つような環境にい なかったんでね」 「スレてるって訳だ?」 「そうならない方がおかしいぜ―――――っつーか、俺にとってはコッチのアンタの方がありえねぇ」 ここは未来、という訳ではないらしい。 安っぽい展開になりそうだが、『ナルトがいた世界ではないどこか』と考えた方がしっくりくるだろう。 九尾の乱はもちろん、ナルト(大)が九尾の器になったことも事実だが、驚いたことにナルト(大)に危害 を加えるような輩は最近になるまで現れなかったのだという。 ここでは今は亡き三代目の権限が非常に強かったためナルト(大)を守るための手回しが念入りで、その 上、大抵の里人はナルト(大)を認めてくれているらしい。 ナルトにしてみれば、それで大人しくしている里の大人が正直信じられなかったが、愛想の良すぎるお婆 ちゃんと会った時の記憶が脳裏に浮かぶと、否定することができなくなってしまう。 親はいなくとも『優しくて暖かい里人』に見守られて育ったナルト(大)がスレるはずもなく、親譲りの 忍の才能をゆっくりと開花させ、今は。 「よりにもよって上忍だなんて!」 「『よりにもよって』は余分だって。他の奴等も大抵上忍になったから、俺だけが特別な訳じゃないし。偉 そうなこと言ってるけど、じゃあお前はなんなんだってば?」 「俺は…………」 ナルトは十二歳にして暗部の中でも隠された班―――――零班の隊長を務める、凄腕の暗部だ。 しかし、それをコチラのナルト(大)に話してもいいものかどうか。 一瞬だけ迷ったナルトの口から飛び出したのは。 「別に、フツーの下忍」 本物の普通の下忍が聞いたら、激怒するであろう科白。 確かに事実ではあるが真実ではない表向きの事実を聞いたナルト(大)は、ナルトに探るような視線を送 ってきたが、何も受け付けないとでも言うような態度に諦めたのか、軽く肩を竦めた。 「ふ〜ん…………まぁ、いいけど。んで、お前はこれからどうするんだってば?」 「これから?」 「まさかずっとコッチの世界にいる訳じゃないんだろ?」 当然だ。 ここは木の葉ではあるが、ナルトが生まれ育った世界とは違う。 本来ならば出会うはずもない二人が出会ったせいでなんらかの影響が出ないとも限らないし、今のところ 帰り方は見当もつかないが、ここに来れた以上帰り方も必ず存在するはずだから、早めに帰れるものなら 帰った方がいいに決まっている。 たとえ、向こうの世界が恋しいという訳ではないにしても、だ。 「なんとかして帰るさ。九重の奴がなんか事情知ってるらしいし」 「九重?誰、ソレ」 ナルトは目を見張り、今度はナルト(大)をマジマジと見た。 「誰って、九尾に決まって―――――あ、もしかして名前知らなかった?」 「家賃として時々チャクラは徴収してるけど、それ以外の交流はもったことないから…………へぇ〜九重 っつーんだ」 ナルトは顔を顰め、自分の口を押さえた。 「ヤバイ、余計なこと言ったかも」 「何が?」 「俺とアンタの性格が正反対なんだから、コイツ等の性格が正反対じゃないとは言い切れねぇだろーが。 アンタに名前を教えなかったってことは、アンタに気を許してない証拠。なのに妖にとって命と同価値な 真名を知られたとなっちゃ、何されてもおかしくないぜ。…………俺も、当然アンタも」 「随分詳しいんだな」 「全部コイツの受け売りだけどな」 そう言いながら腹に手を当てるが、『我関せず』な態度を貫いているのか、なんの反応も返ってこなかった。 「そーなんだ?じゃあ気を付けとくってば。あ、お湯が沸騰したみたい」 キッチンから聞こえてきた電子音。 ベッドから腰を上げたナルト(大)はナルトの横をすり抜け、ゆったりとした足取りでキッチンの中に消 えていった。 ―――――かと思えば陶器か何かを用意するような音がして、すぐにひょっこりと顔を出す。 「緑茶とインスタントのコーヒーしかないけど、何がいいってば?」 「コーヒーのブラック」 「え、ノンシュガー?お前、甘いの苦手なのか?」 「まさか、スッゲェ好き。でもコーヒーはブラックに限るってだけ。砂糖だけじゃなくミルクなんて野暮 なもん、間違っても入れんなよ?」 「うわ、人が親切にしてれば偉そーに!」 顰めっ面が再び消えたことで、ナルトは無意識のうちに息を吐き出すと。 ナルト(大)が側にいないことを承知の上で、九重が音にはならない思念の声で話し掛けてきた。 『主、よもやとは思うがどこにでも同じ歪があると考えているのではなかろうな?』 その問いに、声を潜めて返答する。 「歪?それってさっきの穴のこと??」 『アレは我等の間で【時の狭間】と呼ばれるモノ。アレに嵌ると、二度と元の世界に戻ることはできない …………人が【神隠し】と呼ぶ現象も、コレに巻き込まれた者が大半を占めるな』 「お前の言いようじゃ、俺も生きて帰れないみたいじゃん。でも、何事にも例外が存在する―――――そ うだろ?」 ニヤリと笑ったナルトは、大仰な溜息を聞いた気がした。 『…………あるにはある。同じ通路を使えばいいのだ。幸い、あの類の歪はあの辺りに無数に存在してい る故』 「ならいーじゃん」 『浅慮な子よ。よいか、確かにあの類の歪は無数にあるが、主に正しい出口を見極める目があるのか?』 馬鹿にするように言われても、ソレがないのは本当だから反論することができない。 『我でさえも、気を張っておらねば無理だ。その上あの歪は移動し、常に出現している訳ではないのだぞ?』 「…………何、なんだか愚痴めいてきてるけど」 『仕方あるまい。この世界にもう一人の主が存在すると同時に、もう一人の我も存在する―――――これ ほど不快なことがあるか』 どうやら、ナルト達が知らぬうちに一戦交えたらしい。 「んだよ、自分大好きだろー?」 『否定はせぬが、最も強く美しいのは我一人でよかろう?』 尊大不遜な発言に、ナルトは開いた口が塞がらない気分になった。 あくまで『気分』ではあるが。 そこにちょうどマグカップを持ったナルト(大)が現れ、九重との会話はこれでお開きになる。 「今のって独り言?」 「あ、聞こえてた?」 「上忍ナメんなってばよ。それで?」 「長々と独り言を喋るほど変人じゃねぇよ」 コイツと、と。 腹を指差すと、ナルト(大)が興味深げな顔をした。 「普通に会話できるのか?」 「―――――っつっても、九重の気まぐれだけど。こっちの都合も考えないで話し掛けてくる時もあれば、 こっちから話し掛けても応じない時もある。妖ってのはそんなもんだろ?自分が一番、自由気ままに生き てんの」 それが迷惑だとは言わない。 今回のように、助かる場合もあるからだ。 「なんでだろーな。俺もコイツと話したことあるけど、どー考えてもお前等みたいにフレンドリーじゃな かったってばよ?」 「会話できるからって仲良しとは限らねぇよ…………そういや聞いたことあるな。あのクラスの妖になる と、世間一般で言われてるみたいに不浄は好まないって。でも綺麗すぎるのも性に合わないから嫌いらし い。だからじゃねぇの?」 「いや、よくわかんねぇってば」 「要するにアンタは、九重にとっちゃ綺麗すぎて関わりたくない人間ってこと」 白い湯気が立ち上るマグカップの中のコーヒーを口に含みながら、ナルトが澄ました顔で言うと、コンマ 三秒で完成したのはナルト(大)の渋面だ。 「マジで嫌われてたんだ…………」 「安心しろ。おそらく里の連中よりはかろうじて好かれてるから」 「それは喜んでいいってば?」 「さぁ?でもアンタがガッカリしてたんじゃん。とりあえず喜んどけば?」 他人のことなど知ったこっちゃないとでも言うような言動で、ナルト(大)の顔は更に渋くなる。 「…………お前、ホントに十二歳?サスケみたいに無愛想ではないみたいだけど、なんつーかこう……」 「性格が悪い?」 「そう、それだ!」 「よく言われる、ネジに」 「ネジって、日向の?あのネジ?」 「それ以外にどんなネジがいるんだ。アッチでは、日向が俺の後見役なの。だから日向の子供――――― ネジとヒナタは兄弟みたいなもん。結構長い付き合いになるな」 「スッゲェ…………」 「…………あのさ、驚くのは仕方ねぇかもしれねぇけど、その馬鹿面だけは止めてくんない?基本的に同 じ顔なんだからさ、コッチが気分悪くなる」 「つくづく失礼な奴だってばね……でも、そっか。ソッチとココではそんなに違うんだな」 感慨深げに呟いたナルト(大)は、しかしすぐに表情を変え、ナルトに笑いかけた。 ドベの名残はあるものの、それよりも幾分か穏やかな大人の笑み。 「なぁ、お前。帰れるまでここにいろってば。自分の家なんだから、勝手はわかるだろ?」 「そりゃわかるけど、随分とまた唐突だな」 面食らったナルトに、更に強い勧めが。 「どうせ行く宛てもないだろ?任務でもないのに野宿も馬鹿らしいし、何より『うずまきナルト』がここ にいてなんの不都合があるんだってば?」 「それはそう、かもしれねぇけど…………」 「代わりと言っちゃなんだけど、アッチのこと、もっと詳しく教えてくんない?それが家賃ってことで、 OK?」 「結局はソレかよ」 思わず小さく噴き出したナルトは、マグカップをテーブルの上に置き、真正面にある顔を見て目を細めた。 口の両端を持ち上げ、不敵に笑う。 「―――――まぁ、宿をとるにしても金ねえし、断る理由もねぇから世話になってやるよ」 「よし、交渉成立だってばよ!」 こうして、年齢差が六歳となる二人のナルトの同棲―――――もとい、同居があっさりと決まったのであ る。 企画部屋  
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