十八歳の彼 十二歳の僕 ‐13‐

戻ってきたのは当然ナルトが生まれ育った世界なのだが、ご丁寧なことに、ナルトが歪に落ちてから数十 分後の世界だった。 「もう、なんだってアンタはそうなの!?少しはサスケ君を見習いなさいよね!」 高い声で怒鳴るのは、なぜか濡れ鼠状態のナルトにタオルを投げ付けたサクラだ。 「お、俺ってば一応、サスケより先にトラのこと見付けたってばよ!?」 「えぇ、そうね、確かにその通りだわ。でも、大枝に引っ掛かって気絶してたアンタを助けたのはサスケ 君と私よ!」 ナルトは言葉に詰まった。 反論の糸口を探そうと試みたが、どうにも形勢が悪すぎる。 そんなナルトをサスケが助けるはずもなく、サクラの後方で鼻で笑いながら『ウスラトンカチ』と言うだ けだ。 アチラの世界では、ナルトの『ブラコン』という心ない一言で面白いほど固まってくれたが、その科白を 持ち出すのは『ドベのナルト』のキャラではないため、『五月蝿いってばよ!』と騒ぐだけで止めておく。 サクラは腰に手を当て、呆れた様子で改めてナルトを見た。 「大体なんだってズブ濡れなのよ。アンタのトコだけ雨が降った訳じゃないでしょうに」 「それは帰りに…………」 場所的な問題でこうならざるをえなかったんだ、と。 言い掛け、ナルトは口を噤んだ。 失言だった。 「帰りって何よ?寝惚けてるの??」 そういうことにしておきましょう。 「…………十八歳の俺に会ったんだってば」 「はぁ?」 滝壺に落とされる直前、耳元で囁かれた言葉がいまだにリアルな感覚として残っており、少し意識しただ けで耳を押さえたくなる。 本当にアレは不意打ちだった。 『どーせだったらチビも火影になって、自分で里を変えればいいってばよ』 それがどれだけ困難でどれだけの犠牲を伴うものか知らない訳ではないだろうに、簡単に言ってくれちゃ って。 何を考えてるんだ、と。 胸元を掴んで揺さ振りたくなったが、それ以上に。 「悔しいけど、なかなかイイ男だったな…………」 素の呟きは、サクラに聞かれてはいなかったらしい。 「え、何?」 「ううん、なんでもないってば」 見通しが立たない、不確かな未来ではあるけれど。 『ドベのナルト』の将来があんなんでもいいかもしれないと思えてしまったから、自分はもう完璧にあの 甘ちゃんに毒されている。 「…………よし、決めた。俺、火影になるってばよ」 「そんなことずっと前から言ってるじゃない。ホントにどうしたっていうのよ?」 サクラの追求を笑顔でかわし、ナルトは雲一つない空を見上げた。 そうしたらもう一度、アナタに会えるかもしれない。

― END ―

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