十八歳の彼 十二歳の僕 ‐11‐

里は混乱の中にいた。 夜になる直前のほんの一時、薄闇が支配する静かな時間に突如として響き渡った轟音。 驚いた人々が慌てて外に出ると、視界に飛び込んでくるのは赤々と燃える大きな炎と鈍色の爆煙だ。 一体、何がどうなっているのか。 なんの情報もなく、現状さえも正確に理解できない里人にとって、それは、里の平和な時間を一瞬にして 壊した木の葉崩しや十八年前に起きた大惨事を髣髴とさせるものであったから、煙柱を見上げる里人の顔 色が悪く見えたのは、おそらく『夜だから』という理由だけではないだろう。 またか、と。 誰かが呟くと、その動揺は更に広がり、気の弱そうな中年の女性が両手で顔を覆って泣き崩れた。 その女性の夫らしい男が女性を立たせようとするが、別の方向で爆発が起こると男も身を竦ませ、その周 囲にいた里人のうち何人かが同じように泣き崩れる。 里人の傷は予想以上に深いらしい。 その様子を痛ましげな目をして眺めていたナルト(大)は、静かな声でカカシとシカマルに話し掛ける。 「…………カカシ先生、お願い。ここにいる人達を避難させてほしいってば―――――そうだな、アカデ ミーならある程度収容できると思うからソコに。シカマルは、大至急皆を召集して」 二人はナルト(大)の『お願い』に何か言いたそうだったが、結局無言で頷き、その『お願い』を実行す べく、忍らしい機敏な動作でそれぞれ別々の方向に分かれていった。 それを待っていたかのように、何者かナルト(大)の腕を取る。 「坊ちゃん!」 名を呼ばれたナルトが振り向くと、普段は綺麗に結っていたであろう髪を振り乱した老婆が、ナルトに縋 り付いていた。 皺だらけの手が、老婆とは思えないほどの強さでナルト(大)の腕を締め付けてくる。 「何があったの、ねぇ、何があったんだい…………?」 「お婆ちゃん、落ち着いてってば」 「また、また人がたくさん死ぬのかい?何も悪いことしとらんのに、うちの旦那みたいに死んじまうのか い!?嫌だよ、私は!」 「お婆ちゃん!」 ナルト(大)が声を張り上げると、錯乱状態に陥っていた老婆がビクリと肩を揺らし、口を噤んだ。 できるだけ安心させるように笑い、自分の腕から老婆の手をそっと外すと、逆に老婆の肩に手を置いた。 「大丈夫、そんなこと俺が絶対させないってばよ。安心して?皆も、今から避難指示が出ると思うからア カデミーに避難してほしいってば」 大人しくなった老婆を家族に預けた後、ナルト(大)はすぐに走り出した。 その後を、大勢の人間の手前隠形していたナルトが、一切の無駄がない洗練された身のこなしで追う。 「…………人気者だな」 「あのなぁ、チビ。今はそんなこと話してる時じゃないってば!」 「そうか?こういう時だからこそ、しなきゃなんねぇ話だと俺は思うぜ。人気者がいるトコには人が集ま る……まぁ、忍だったら自分の身は自分で守れるだろうが、まさか商人に算盤持って戦えとは言えねぇだ ろ?アンタが本当に里の奴等を守りたいっつーなら、アンタは一人でいるべきだ」 「奴等の目的が、俺を殺すことだから?」 「ご名答。アチラさんも必死だ。それこそなんだってしてくるだろーさ。そーゆー意味では皆危険だって のに、その上火種が側にあったら話になんねぇ。俺の言うことは間違ってるか?」 「…………正論だから悔しいってば」 歪められた横顔を、炎が照らし出す。 実際に炎がある現場はここから離れているのだが、夜目が利くナルトにはその様子がはっきりとわかった。 風に靡く短めの金髪と前を見続ける青い瞳がこんな状況であるのも関わらずやけに綺麗に見え、ナルトは 目を伏せて小さな溜息をついた。 九尾の乱の時の実父は、里が窮地に陥っているのを、こんな顔をして見ていたのかもしれない。 視線に気付いたナルト(大)が、肩越しに振り返る。 「どーした?」 「いや、なんでもない。堂々と宣戦布告してこない奴等を、どーやって引き摺り出そうかなって思ってた だけ。失敗したら死ぬだろーけど、アンタ囮になってみる?」 「別にそんなことで尻込みしたりしないってば。それが得策だって言うならもちろんやるけど――――― チビはどーするんだってばよ」 「俺?」 「わざわざ面倒事に頭を突っ込むことないってば。騒ぎが収まるまで、どっか安全なトコに避難してれば いーのに」 「あのさ、実はアンタ俺の話まったく聞いてねぇだろ?」 苛立たしげな顔を作ったナルトは、呆れ半分、怒り半分とでも言うような声を上げ、ナルト(大)の横顔 を睨みつけた。 「たとえば、今のこの里のどこに安全なトコがある訳」 「と、とりあえずはアカデミーとか…………?」 「そーでしたね、アソコを避難所として開放するんでしたっけね。でも、変化して一般人に紛れて、それ でどーしろって言うんデスか?俺より弱っちー奴に守られてろって言うんデスか?それとも、二つ目の火 種を出前してアンタが守りたがってる人達を危険に晒せって言うんデスか?」 「火種を出前って、スゴイ発想だってばね……いや、どんな発想でもいいや。じゃあチビは、このまま連 いて来るつもりだってば?何かあったら帰れなくなるぞ?」 「何かあるはずねぇし、これが一段落したら帰りマスんでご心配なく。帰り道も見つけたからな」 「見つけたって……それいつの話!?」 「今日」 驚愕の表情でナルトを見たナルト(大)は、少しの沈黙の後ゆっくりと視線を外し、何かに浸るように呟 いた。 「そっか……良かったな…………」 「どーも。でもあんま『良かった』とは思ってなさそーだな」 「そんなことないってばよ。でも、だったらこんなことしてないで早く帰ればいーのに」 「ホントそー思いマスけど、俺だろーとアンタだろーと『うずまきナルト』に売られた喧嘩は全部買う主 義なんで」 ここで帰ったら負け犬みたいじゃん?、と。 澄まして言ってのけたナルトに、ナルト(大)が大爆笑。 「なんだと思ったら、お前ってば意外と単純だってばね!」 「単純でいーだろ。手を貸す理由なんて、それで充分だ」 「それもそーだってば」 同意を得たナルトは屋根を強く蹴り、歴代火影の顔岩の真正面にある広場に音も立てず飛び降りた。 そこにはシカマルの召集に応えた忍がすでに大勢集まっていたが、着地位置が広場のど真ん中に近かった ため、異常な注目を浴びることとなった。 しかも現れたのが、何も知らない人間からしたら同一人物としか思えない、派手な色彩を持つ凸凹コンビ なのだから仕方がない。 その(ある意味では美しい)光景を至近距離で見てしまった忍が、ナルトとナルト(大)を見比べて激し く困惑する。 「え、えっと、うずまき上忍…………?」 「あ、コイツがそう。俺は違う」 少なくとも、上忍ではない。 指を指されたナルト(大)は気を悪くするでもなく、声を掛けてきた男に問い返した。 「状況は?」 「あ、あまり良くありません。正確な死傷者の数はまだ把握できていませんが、かなりの数の一般人が病 院に搬送されています!」 「入院患者もいるのにこれ以上増えるとなると、病院では受け入れられなくなるかもしれないってば」 「アカデミーを避難所にするんだろ?そこにも、かなり怪我人いるんじゃねぇ?」 「じゃあ医療班を送った方がいいってばね。シズネ姉ちゃんが指揮を取ってくれると助かるんだけど…… ……」 「いや、私が取ろう」 女にしては少し低めな声が、背後から。 「五代目!」 現職火影の登場に、一気にその場がざわめく。 振り返った二人のナルトが見たものは、木の葉最強の女傑の自信に満ちた笑み。 その後ろにはシズネもいる。 「ばーちゃん…………」 「それは私の専門分野だよ。私に任せな」 「でも、皆の指揮は誰が」 「お前の他に誰がやるって言うんだ」 決まってる、と。 まるで当然のことのように言われたナルト(大)は、綱手の顔を凝視した。 「…………俺?」 「そうだよ、六代目。これはお前の仕事だ、自分が思った通りに動かせばいい。『できるね?』なんて言わ ないよ。今だからこそ、お前がやらなきゃいけないことなんだ。わかるだろう?」 そう言われ、綱手の目を黙って見返していたナルト(大)は、やがて静かに頷いた。 その決意を表すように、力強く。 「そこのチビも、こんな状況だ。さすがに何も言わないだろう?」 横にいるナルト(大)を、ナルトはちらりと盗み見て。 「案の定とは思うけど、まぁさすがにね……一応、そこまで最低な人間じゃないつもりなんで」 意味ありげに、笑った。 するとそこに。 「ナルト!」 ナルト(大)に頼まれて里にいる忍の召集を掛けたシカマルが、人込みを掻き分けて駆け寄ってきた。 暇があればつるんでいた同期の姿はなく、シカマル一人だ。 「酷ぇもんだぜ、詰所もやられて全焼だ。ありゃぁしばらく使い物にならねぇな」 「建物ならなんとでもなるってばよ。それより他の皆は?」 「男は皆任務で、イノと春野と日向は即行でアカデミーに向かった。暗部の事情には詳しくねぇが、ネジ も任務で外らしいぜ?」 「タイミングが悪いってばね……いや、それはこの際どーでもいいってば。それで、奴等の情報はなんか 入った?」 「悪い、それどころじゃねぇみてぇで情報がまったく入って来ねぇんだわ。でも、今度ばかりは慎重だな。 なかなか尻尾を出さねぇから苦戦してる」 シカマルの苦々しい言葉に、『へい』と、発言のためにナルトが小さく挙手した。 声を潜め、ナルト(大)とシカマルの二人にしか聞こえないような音量で話す。 「正当な理由なく召集に応じてねぇ奴等はっきりさせて、その背後関係とか調べれば?何食わぬ顔して召 集に応じてる奴もいるだろうけど、そーゆー奴はよく見れば挙動不審だからすぐわかるぜ?」 いつまでも待っていたところで、被害は広がるばかり。 調子に乗っている奴等を炙り出さなければ、何も解決しやしないのだ。 「それか、上等な餌で誘き寄せる。そっちの方がずっと正確で、尚且つ手っ取り早いだろうな」 「あぁ、確かに」 ナルト(大)が同意した横で、シカマルが上擦った声を上げる。 「お、おい、ちょっと待てって。今の話の流れからして『餌』っつーのはコイツのことだろ?」 「そだよ」 「食い付き良すぎて、逆にヤバくねぇか?」 「それが?」 ナルトは眼光を強め、空色の目で真っ直ぐにシカマルを見上げた。 何を言ってるんだとばかりの態度は、さながら自分の考えに間違いはないと確信しているかのようだ。 「これぐらいのこと、自分でどーにかできねぇ奴が『火影』になんてなれるとでも思ってんの?死ぬなら 死ぬ、いいじゃねぇか。所詮そこまでの奴だったんだ。そんな奴が『火影』になったって、逆に里の方が 迷惑だろ」 「シカマル、チビの言う通りだってば。この騒動の原因が、後方でのんびり構えてらんない。俺は大丈夫 だからさ」 その力強いお言葉。 一時動揺していたシカマルは、周囲の目もあったためなんとか冷静さを取り戻すと、不本意そうな顔でボ ソリと呟く。 その一連の遣り取りは、駄々をこねる弟のワガママを兄が聞いてやる場面に酷似していた。 「―――――まぁ、お前のことだから滅多なことにはならねぇと思うけどよ……それにしたって無謀じゃ ねぇか?アチラさんの戦力が如何ほどかもわかんねぇってのに」 「ん〜……チビ、知ってるってば?」 「残念ながらそこまでは存じてオリマセン―――――っつーか、興味ねぇし。『雑魚がどれだけ集まろうと、 雑魚は雑魚以外の何モノにもなれない』っつーのが俺の持論なんで。雑魚が十人集まろうが五十人集まろ うが、なんの障害にもならねぇよ」 呆れるよりも何よりも先に、二人は感心した。 「俺等とはスケールが違うなぁ…………」 「あのねぇ、お前達。雑談はそれぐらいにしたらどうだい。特にナルト、お前の指示を待ってる奴等がこ こに大勢いるんだよ?」 痺れを切らしたかのようなご注進に、ナルト(大)はシカマルともう一人の自分から意識を切り離し、周 囲を見回した。 どこを見ても、目に入ってくるのは膝を突きナルトを見上げてくる、忠義心に溢れた忍の姿だ。 彼等の目には憎悪や嫌悪の念など一欠片も宿ってはおらず、それこそ、里を救った英雄に対する尊敬と信 頼の念だけが宿っている。 「この中に奴等の仲間がいるかもしれないなんて、あんま考えたくねぇな。気分悪ィぜ…………」 切実さがひしひしと伝わってくるようなシカマルの呟きは、当然のごとくナルト達にしか聞こえない。 ナルトもナルトで差し障りがないような返答をし、シカマルとはまた別の意味合いでその集団を見回した。 一瞬悲しげに揺られた瞳に気付いた者は、誰一人としていない。 腹の底で『羨ましいか?』と問う九重の声を聞いた気がしたが完全無視に徹し、ナルトはナルト(大)の 脇腹を肘で突付いた。 曰く、指示してやれ。 ナルト(大)が火影になるということを真っ向から否定していたナルトの後押しとも言える行動に驚いた ナルト(大)であったが、しばらくして小さな笑みを零すとたくさんの忍に向き直り、よく通る声でよう やく指示を与えた。 その口調は、普段の妙な癖もなく、上に立つ者らしく威厳に溢れたものだった。 「逃げ遅れた住民の避難を最優先に考えろ。それと同時に救助と消火活動、この混乱に乗じての他里から の侵略行為に備え、障壁の警備を強化する。今回の騒ぎを起こした反対派に関しては、俺が全て引き受け よう」 最後の一文に、皆一様にざわめいた。 「六代目お一人で!?し、しかし…………」 「最強の助っ人がいるから一人じゃない」 そして、悪戯小僧のように屈託なく笑う。 「な、そうだろ?」 笑い掛けられたナルトもまた、『そのつもりだけど、あんま期待されたくはねぇな』と、控えめながらも陰 りのない笑みを浮かべた。 「そうだな、シカマルにも側にいてもらう」 「奈良上忍がお側にいるのなら問題ありませんが……六代目、その子供は一体何者ですか?」 そうだ、と。 あちこちから何度も復唱され、ナルトは今更ながらに人前で馬鹿正直に自分の姿を晒したことを悔いた。 不審に思われるのも警戒されるのも、当然と言えば当然だったのだ。 そんなナルトを万人の目から隠すように自分の背に庇ったナルト(大)が、険を含んだ強い口調で強制的 に詮索を止めさせる。 「そんなことを話している暇はない」 「は、はい、失礼しました!」 酷く恐縮した忍と、実際に問うてはいないがナルトに不審な眼差しを向けていた忍達も、ナルト(大)の 背に隠れた存在から慌てて視線を外した。 「各自指示通りに。敵と遭遇した場合の戦闘も許可する。では、散!」 一糸乱れぬ動作で頭を下げた忍達が、いっせいにその場から離れた。 先ほどまで喧騒の中にあった広場が、瞬きする間に閑散とする。 ナルト(大)は綱手に向かって、忍達が自分にしたように深々と頭を下げた。 「ばーちゃん、皆のこと頼むってば」 「頼まれるまでもないね。ここは私の里でもあるんだ。さぁ、シズネ行くよ。患者が私を待ってるからね」 「はい!」 綱手とシズネが連れ立って姿を消すと、その広場に残っているのはナルト達三人だけになった。 三人が三人とも図ったかのように一言も喋らず、沈黙が続いたが、しばらくして耐え切れなくなったナル トが快活に笑い出した。 『もういいだろ』とナルトの(大)の背中を軽く叩いて離れることを促しても、笑うことを止めない。 「まさかアンタに庇われるなんてね……何、王子サマ気取り?」 「そんなんじゃないけど……でも実際困っただろ?」 「困るとか困らないとか、そんな問題じゃねぇよ。ウザイだけ―――――とにかくこれで、奴等が動き易 くなった訳だ。『うずまきナルト』がろくな護衛も付けずにいるってことを意識付けたからな」 「おい、『ろくな護衛』ってのは俺のことかよ」 眉を寄せたシカマルに、ナルトが笑いを噛み殺しながら答える。 「そーだろ?シカマルは頭脳労働派だから戦闘力自体はそこそこ、たいしたことないって思われてる。あ とは、いかにも怪しげなガキが一人……まぁ、見た目で思いっきり警戒されるだろうけど、奴等はたいし たことないと考えるだろうな。たとえ事実がどうであれ」 「それで油断したらバッサリ?えげつないってばね…………」 「卑怯な手口を平気で使ってくる連中とマトモにやり合うのは馬鹿馬鹿しいんでね。そーゆーことで、更 にえげつない手を考えてあるんだけど」 もちろん構わねぇよな、と。 脅迫するかのような笑顔に、ナルト(大)とシカマルがまったく同じタイミングでごくりと咽を鳴らす。 「…………ち、ちなみにどんな?」 「治りきってない傷を無理矢理開いて、大量の塩を擦り込むような」 あっさりきっぱり告げられた割には、恐ろしすぎるその回答に、二人の顔が引き攣った。 しかし、イメージとしてはある程度なら把握できるが、実際に何をするのか見当がつかない。 それを察したナルトは『百聞は一見にしかず』と口にしてから、少しだけ考える素振りを見せた。 「…………つかぬことお聞きシマスが、今ここに無地の巻物ありマスか?あと、筆と墨と硯」 「ある訳ねぇだろ。そりゃあ、取りに行けばあるけど」 「だよなぁ……じゃあ、仕方ねぇか。痛いの嫌いだけど我慢するわ」 そう言うと苦無を取り出し、地面に何かを彫り始めた。 地面と言っても足下はコンクリートであるため、彫るごとに耳障りな音が立つ。 大人の力でも辛いものを子供の力で彫るのは並ではない苦労だろうに、ナルトは涼しい顔をして彫り続け る。 二人は黙って見ていることしかできず、ナルトが彫っているものが一体なんなのか、様々な憶測を立てた。 だが、類稀なるシカマルの頭脳をもってしても、ソレを見極めることはできなかった。 それから数分も経たずに完成したものは、見たこともない術の構成陣だ。 簡潔なようで、それでいて複雑な、これ以上とないほど美しく高度なソレ。 自分達が知っているものに無理矢理当て嵌めるなら、封印式に似ていた。 すると、そんなことを考えている二人の前で、ナルトは躊躇うことなく手首を深く斬り、出来たばかりの 細い溝に溢れ出た鮮血を流し込んだ。 たいした量ではなかったが、まるで意思があるかのように赤色が構成陣の上を走る。 「チビ、何してるんだってば!」 「いーの、こーしなきゃ使えねぇんだから。それより他に質問あるだろ?」 「…………コレ何、封印式?」 「違う、これは結界。禁術のはずだけど、もとは妖術からきてるらしくて……うん、一応れっきとした結 界術だな。結界の中と外を完全に遮断する」 「それなら、印を組む普通の結界でもよくねぇか?」 「本当にそれだけならな。でも今からやろうとしてることの場合じゃ、容量が足りねぇの。結界の中でイ ロイロやりたいから、これが必要なんだよ」 わかってねぇな、と。 実際にわかっていたらそれはそれでかなりマズイことだというのに、ナルトは盛大に舌打ちした。 理不尽だ。 「結界の規模は、里がすっぽり入るぐらいだな。その中は術者の特大操作盤で、その核がこの結界式な訳」 「操作って、何をどーするつもりだよ」 「一言で言うならお人形さん」 「…………人形遊びでも始める気だってば?」 「そーそー。でも気ィ付けねぇと、人とか家とか簡単に吹っ飛ぶからな」 「「げっ」」 揃って奇妙な声を上げたナルト(大)とシカマルの二人は、ナルトから離れるようにして本能的に一歩下 がった。 「そ、それって危なくねぇ?」 「危ないかそーでないかは、術者―――――アンタ次第だな。人形が人形なだけに、俺は場の形成と安定 に全神経注がなきゃなんねぇから」 「俺がやんの!?」 ご指名されたナルト(大)が声を張り上げると、とたんにキツイ視線を浴びせられた。 「能力的な問題でシカマルは無理なんだよ。アンタがいるから俺もやることにしたってのに、拒否する訳? 『反対派に関しては、俺が全て引き受けよう』っつったのは嘘だったのか?」 「そ、そーじゃないけど……ちなみに、聞いてもいいってば?」 「何」 「お人形ってなんデスか?なんかとっても嫌な予感がするんデスが…………」 「お人形は九尾。それをアンタがこの結界式の上で操作すんの。少し暴れればそれでいーから」 「九尾って……おい、それって!」 とたんに走った動揺。 一瞬でナルト(大)とシカマルが凍りついたのを見て、ナルトがすぐさま訂正した。 「誰も封印を解くだなんて言ってねぇだろ。あくまでイメージを実体化させるだけで、本物とは比べ物に なんねぇよ―――――とは言っても、実物じゃねぇだけで充分おっかねぇんだけど」 「…………それを俺が?」 「操る側のイメージが明確でないと成り立たねぇし、そもそも媒介として一番適してんのが体内に九尾を 宿す俺等の血なんだ。この方法なら最短で騒ぎの収拾がつくんだから、嫌だとは言わせねぇかんな」 それを聞いたナルト(大)が反論する。 「いくら偽物だって言ったって、よりによって九尾を出して収拾がつくとは思えないってば。関係ない人 達も巻き込まれるかもしれない……それじゃあ奴等とやってることは同じだってばよ」 「この俺が、それぐらい考えてないとでも思ってんの?この結界は幻術効果があるから、九尾に対して異 常な思い入れのある人間以外には、何も見えなくて何も起きないように設定されてんの。要するに無害だ」 「その根拠は?」 「『思い込み』の応用。ある例外を除いて、『肉眼で見えない物は普通はそこには存在しない』だろ?」 「な、なんかそーゆー理論的な話はあんまり得意じゃないんだけど……シカマルはわかるってば?」 「そのまんまじゃねぇか。でもよ、そんなことが実際に可能なのか?」 「可能だからこの術を選んだんだ。それに、お前等みてぇに誰でも半信半疑になるような効果があるだか ら禁術なんだって、どーして思わねぇの?」 「…………なるほど」 盲点を突かれたかのような顔をして、シカマルが黙り込んだ。 「わかったか?だから、お前等が想像するような騒ぎが起きることはまずありえねぇんだよ」 ふざけるな、と。 怒りを露わにしたナルトに対し、ナルト(大)はいまだに釈然としない御様子。 「確かにその方法なら手っ取り早いかもしれないけど……荒技だってば。いつもこんなことしてるのか?」 「ここまで大掛かりなもんは久々だけど、まぁ珍しいことではないわな。それで、どーすんの。止める?」 「…………いや、やるってば」 その返事を受け、ナルトは『上等』と凄艶に笑った。 「じゃあ、操作盤と人形を連結させる。一滴でいいから、結界式の上に血を落とせ」 頷いたナルト(大)は親指を口に当て、噛み切った。 ナルトに言われた通り結界式の中央に血を落とすと、それは砂利ほどの大きさの赤球になる。 それと同時に、ナルトの血を流し込んだ結界式全体が強い光を放ち、三人は同時に息を詰めた。 「奴等は、九尾に関する騒動は全て『うずまきナルトが原因』だと考えるはずだ。奴等をここに誘き寄せ るまで気を抜くなよ。じゃないと引きずられてコッチがヤバくなるんだからなっ」 ナルト(大)の返事は聞こえなかった。 いや、実際は返事をしなかった訳ではなく、ナルトがその返事を聞き取ること)ができなかっただけかもし れない。 なんでもないことのように振舞っていたナルトも、実はそれ以上に必死だったのだ。 企画部屋  
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