十八歳の彼 十二歳の僕 ‐12‐

そこは森の中にある、滝壺の側の小さな岩場だった。 「マジで信じらんねぇ」 不貞腐れたような顔で自分を睨んでくるナルトに対し、ナルト(大)は苦笑することしかできなかった。 ナルトにそう言わせるだけのことをしたのは自分であり、他の誰でもない。 いや、むしろ何もしなかったから、半身とも言える子供にそんなことを言われてしまうのだ。 「あれだけのことをしておいてあの程度の処罰なんて、アンタの脳味噌沸いてんじゃねぇの?」 「一応、忍としての能力は剥奪したし、記憶だって隠蔽したってばよ?」 「それが信じらんねぇんだよ。首謀者でさえ里外追放止まりなのはどーゆーこと?」 「『どーゆーこと』って言われてもなぁ……そりゃあ、奴等は死罪に相当するようなことをしでかしてくれ たけど、何も初めからそんなことを企んでた訳じゃないと思うんだってば。大事なモノを奪われて、それ でも耐えてきたのに、大事なモノを奪った原因を抱える俺が候補に上がって、一気に爆発しちゃっただけ だってばよ。したことは許せないけど、なんか可哀想じゃん?」 「俺はそんなこと思わねぇな。やっぱ俺等、考え方徹底的に合わねぇわ。俺は絶対そこまでお気楽思考に はなれねぇもん」 「まるで俺が何も考えてないみたいに……いいか、俺には俺の考え方があるんだってばよ。一方的に非難 されるのは、正直納得できないってば」 「別に納得してほしくて文句言ってる訳じゃねぇよ。ただ当たってるだけ」 だったら自分以外のモノに当たってくれ、とは。 根どころか幹や枝先まで真っ直ぐなナルト(大)は、軽々しく抗議できない。 「俺だって忍だから、任務なら殺しでもなんでもする。だけど、する必要もない殺しはしないって決めて るんだ。俺は俺の忍道に従って行動してるだけだってばよ」 「…………なんか、遠回しに俺のこと快楽殺人者みたいに言ってねぇか?」 「そんなこと言ってないってば、言い掛かりもいートコ!」 必死の弁明に、ナルトが笑う。 「嘘だよ。まぁ、そのご立派な『忍道』ってのが仇にならねぇことを祈っててやるよ。どーゆー結末にな るのか、確認できねぇのが残念だ」 「つくづく嫌味な奴だってばね。そんなんで、アッチのネジとヒナタに愛想尽かされないってば?」 「ご心配なく。そんなことは今までもこれからも、絶対ありえマセンので」 自信満々。 年相応なその笑みに、ナルト(大)も自然と口元を緩める。 他人事でしかないのに、ナルトが自分に向けられている好意を信じて疑わずにいられることが、殊更嬉し かったのかもしれない。 「…………何、その慈愛に満ちた目。気色悪ィな」 「なんでもないってばよ。ほら、もう行くんだろ?」 話題を変えられたナルトは、不本意そうではあったがその話題に乗り、眼下にある滝壺を見た。 何も知らない人間からしてみればそれは普通の滝壺でしかないが、今のナルトにとっては大切なモノだ。   「そーだな、九重もさすがに限界っぽいし。そろそろ、歪があるっていう滝壺ん中に飛び込みマスかね… ………んじゃ、お元気で。せーぜー寝首掻かれねぇように気ィ付けろよ」   最後の最後まで不吉なことを言うナルトに渋面を作ったが、やがてナルト(大)はふと思い立ち、ナルト の肩を掴んで少々強引に振り向かせた。  驚いた顔をしているナルトの耳元で、何事かを囁く。 とっさに耳を押さえたナルトの顔が真っ赤になったのを見て、ナルト(大)はしてやったりと笑った。 そして、引き止める形となったナルトの肩を軽く押し、今度こそ帰り道がある滝壺へと送り出した。 突然のことに反応できずにいたナルトは落下している最中に我に返ったようだったが、何か言うよりも先 に冷水の洗礼を受け、浮力に逆らうようにして沈んでいった。 後に残されたのは、満足気な顔をしているナルト(大)と、水面で弾ける幾多もの水泡。 その水泡も、やがて一つ残らず消えた。 企画部屋  
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