十八歳の彼 十二歳の僕 ‐10‐

嫌いな物を避けて、好きな物だけ食べる。 それが許されるのは幼児までであり、そうでなくても、大抵の親は子を思って全部残さず食べるように諭 すだろう。 配役は違うが、今の状況がまさにそれだった。 目の前に座るナルト(大)にキラリと光る苦無をちらつかせ、ナルトは地を這うような声音で命令を下す。 「食え」 その絶対命令に、未来の火影様は心底恐怖した。 「お、俺ってば、生野菜はあんまり…………」   「寝言は寝てから言いやがれ。そのレタスの山から青虫君が『こんにちは☆』っつって顔出す訳じゃね ぇんだから黙って食って、今後のために力つけとけ。今夜の胡麻ドレッシングは俺の自信作なんだ」   「そ、そりゃあスゴイってば。でもだからって生野菜ばっかそんなに出さなくても……せめて前の肉じゃ がみたいに火を通してくれればいいのに」 「十八歳にもなった男が甘えてんじゃねぇよ。選択肢は一つしかねぇんだから観念しやがれ」 「あーこの瑞々しさが心底憎いってばぁー」 「だからそーやって同じ顔で情けない顔をするなって、何度も言ってるだろーが!」 思わず、苦無を握る手に力が込もる。 その様子を見て慌てたのは、うずまき家の夕食に招かれていた未来の補佐官殿―――――シカマルだった。   「ナ、ナルト、もーちょっと穏便にいこーぜ?コイツのコレは今に始まったことじゃねぇし…………」   「だから見逃せって?どーしよーもねぇ事情があるならまだしも、コイツのはただの我侭なんだ。それのど こに遠慮する必要があんだよ?」   「そーかもしれねぇけど、凶器持ち出すほどのことでもねぇだろ。俺のためにも止めてくれ。母ちゃんが もう一人いるみてぇでおっかねぇんだよ」   母ちゃん。 その単語に片眉を上げたナルトが、アチラの世界のことを思い出して幾分か表情を緩めた。 「…………そーいやぁ、奈良の奴は名家の当主としての知名度よりも恐妻家としての知名度の方が高かっ たな」 「家の親父はソッチでもそーなのか?」 「あぁ、あと犬塚とかも有名だな。アソコはキバの姉ちゃんもスゲェらしいけど、ホント?」 「詳しくは知らねぇけど、よく青痣作ってくるからそうなんじゃねぇ?―――――っつーか、ナルト。頼 むから外にいる時くらい、あの恐怖政治を思い出させないでくれ。俺の神経はそこまで図太くできてねぇ から」 シカマルの懇願に、思案気な顔をしていたナルトがぎこちない動作で頷いた。 「…………まぁ、シカマルがそこまで言うなら大目に見てやってもいいけど」 じゃあ行き場を失ったこの苦無はこうするか、と。 独り言のように呟いたナルトが背後に向かって振り向かずに苦無を投げると、窓ガラスが割れる音とほぼ 同時に、少々間の抜けた男の悲鳴が上がった。 「おわぁっ!?」 「「!?」」 「チッ、外したか…………」 何が起きたのか。 ただ一人それを理解していたナルトが、心底悔しそうな顔をして忌々しげに背後を振り返ると。 「カ、カカシ先生……何やってんだってばよ」 そこには、人様の屋根の上で妙な体勢のまま乾いた笑い声を上げる、銀髪の怪しい男が。 「おい、全然気付かなかったぞ…………?」 「安心しろ、コイツも到着したばかりだからな。それで」 静かに席を立ち、見るも無残な状態になった窓を開けたナルトが、冷ややかな目でカカシを見上げる。 「なんか用?」 「あ、君が噂のもう一人のナルト?わぁ、美人さんだねぇー☆☆でも小さくて可愛いな〜♪」 「テメェは今三十二か……老けたな」 サスケに引き続き、今度はカカシまでもが餌食に。 見事に固まったカカシに、確信犯であるナルトがすかさず訂正の言葉を掛ける。 「―――――と言いたいトコだけど、あんま変わんねぇや。マスクも相変わらずだし」 つまんねぇの、と。 言われた相手にしてみれば釈然としない言葉だけを残して再び席に着くと、ナルトは何事もなかったかの ように食事を再開した。 この状況で黙々と箸を動かすことができるのは、まさに大物の証だ。 「と、とりあえずどーぞってば。できたらサンダル脱いで」 家主の許可を得て、サスケより早く我に返ったカカシが室内へと入ってきた。 『窓を出入り口にするな』という突っ込みは、今のところ入らない。 「いやぁ〜なんか噂通りスゴイ子だね。ホントにナルトなの?」 「センセイはそれ以外のどんな答をお望みで?」 「…………スイマセン、ゴメンナサイ、失言でした。だからそんな綺麗な顔で笑わないで下さい。なんだ かとっても怖いです」 その遣り取りを見て、ナルト(大)が苦笑した。 「チビにかかればカカシ先生も形無しだってばね……それにしてもカカシ先生が直接家に来るなんて珍し い、一体どうしたんだってば?」 「あぁ、うん。この前そこの美人さんが拘束した男が、ようやく口を割ったから知らせに来たんだよ」 あの時、ナルトを襲ってきた忍は総勢五人。 その内の四人は『正当防衛』という名目で殺害、拘束した男も、結果として拘束したにすぎなかった。 ナルトは今の今まで忘れていたが、その場に居合わせていたシカマルがその後の采配をした人間らしく、 カカシの報告にナルト(大)よりも興味を示す。 「随分と時間が掛かりましたね。尋問を担当したのはイビキさんじゃなかったんですか?」 「そーなんだけどね、自白防止に強烈な暗示が掛かってて、その暗示がまた特殊なもんだから解くのに手 間取っちゃったんだってさ。それで、ここからが本番。予測より少し早いけど、反対派全体が数日中に動 くらしいよ?実際にどう動くのかは未定の状態だったみたいで聞き出せなかったけど、なんらかの対策を 立てて、今度こそ決着つけないと」 「あ、その情報遅いわ」 三人分の意識が、マイペースに食事を進めているナルトへと集中する。 「俺に拘束されたソイツが捕虜になったのを、アチラさんは知ってたぜ?だから、その計画はなかったも のと考えて、新しい計画を立て直したって。アチラさんはもう動き始めてるから今から動くんじゃ、コッ チはどーしても受け身になる―――――だったらそれを利用して、逆に罠を仕掛けた方がいいな」 「チビ、お前…………」 「信じられない?それならそれでいいけど。どーやらアチラさんは同時刻に里内の至るトコロで騒ぎを起 こすみたいだから、里側に被害が出るだけだし」 「信じられねぇとか、あからさまに疑ったりはしねぇけどよ……ナルト、お前その情報をどこで手に入れ たんだ?」 ナルトは笑った。 「(わざと)ばったり出くわしたある人物に、それとなく(力に訴えて)お尋ねしたら、快く(ぺらぺ らと)教えてくれただけデスが?」 「「「…………」」」 三人には、隠された真実が手に取るようにわかってしまったらしい。 「ちなみに、ソイツが囮役という心配もねぇよ。実動部隊らしき集団に伝達したのを見届けてから接触し たし、もし万が一奴の持っていた情報が偽物だとすると、他の奴等も踊らされてることになるから」 『ごちそうさまでした。今日も美味かった』と。 手を合わせたナルトは、台所の流し台に食器を置いた後、冷蔵庫の中に入っていたペットボトルの烏龍茶 を飲みながらナルト(大)を一瞥した。 「さて、六代目火影様はどーするんデスか?」 話を振られたナルト(大)は面食らったようだったが、それでもさすがに里の危機とも言える事態に直面 して悠長に構えていられないのか、真剣な顔付きになった。 自分が言うのもアレな気がするが、非常に格好良い。 「もちろん、それを聞いて黙ってる訳にはいかないってばよ。チビ、正確な日時はわかるってば?」 ナルトがその問いに答えようとした、その時。 出端をくじくようにした耳に飛び込んできた、突然の轟音。 反射的に外に飛び出した三人の後を追い、ナルトも窓際に立った。 「…………今夜の亥の刻頃だったんだけど、どーやら先走った輩が出たみたいだな」 一部だけ明るくなった、東の空。 この位置からでは何が起こっているのか確認できないが、赤い光と夕闇の空に向かって真っ直ぐに伸びて いる煙から、何かが燃えているということだけはわかる。 夕飯時であったため屋内にいた人々が、何事だとばかりに外に出てくるのを無感動にながめながら、ナル トはすぅっと目を細めた。 本当の狙いはたった一人だろうに、そのたった一人を形勢が不利な状況に追い込むためなら、どれだけの 人間が犠牲になろうとも構わないという卑怯極まりない考えを持った馬鹿共は、やはりコチラにも健在し ていたらしい。 そういうことに関しては免疫がありすぎるナルトは、平然と両肩を竦めて見せた。 「だから言っただろ、『今後のために力つけとけ』って」 企画部屋  
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