なんの前触れもなく現れた刺客に。

とっさの判断でとった行動を後悔はしていないけれど。

これからはもう少し考えてからにしよう、と。

ぼんやりとした頭で思ったことは確か。

 

 

 

 

 

露見

 

 

 

 

 

うずまきナルト。

里人の間では知らぬ者などいない、悪名高い子供である。

陽の光を浴びると淡い光沢を放つプラチナブロンドに、
マリンブルーともスカイブルーとも言える神秘的な色の瞳を持つ秀麗な顔立ちをした彼は、
今年アカデミーを卒業したばかりの下忍だ。

ところがそのナルト、どうしようもない落第生としても有名な子供だった。

『ドベで馬鹿で、何をするにもトロくて、
口先だけは達者な半人前』というのがナルトを知る人間の誰もが抱く見解であり、
ある一部分だけを見て言うならば、それはけして間違った回答ではない。

そう、一部分だけを見て言うならば。

ナルトには、極少数の者だけが知るもう一つの顔があった。

実はナルト、落ち零れの下忍などではなく暗部の―――――それも通常の暗部からは独立した、
特殊な権限を持つ優秀な忍である。

とある事情で二束の草鞋生活を余儀なくされてはいるが、
自分の身の程を弁えない愚かな刺客達に狙われること以外、
特にこれといった変化もない日々を過ごしていたのだが。

いつもとは趣が違うソレは、その日常に音を立ててひび割れを入れるのに充分な威力を持っていた。

それでも長年かけて形成してきた仮面は頑強で、
ナルトの精神状態を表面に浮かび上がらせることはない。

相も変わらず任務に駆り出され、不在が続いている担当上忍。

何もせずにサボっている訳にもいかず、今日も今日とて下忍三班が合同で修行にうち込んでいた。

その場にいたのは総勢九人、内訳は、下忍が八人に新人中忍が一人だ。

 

「四代目火影の長子、うずまきナルト殿とお見受けする」

 

見覚えがある独特な忍装束は、おそらく砂の暗部のもので。

仮にも再度条約を締結した木の葉の奥に侵入してくるということは、
何か公にはできないやましい目的があってのこと。

見たところそれなりの実力を持っているらしい暗部十数人に囲まれたナルトは、
端から見たら絶対絶命。

しかし、ナルトは動じなかった。

事情を知らない同僚の目の前でいとも簡単に暴露してくれた砂の暗部に、小首を傾げてドベ時の口調。

 

「えーなんのことだってば?」

 

今この時この状況でたいした動揺も見せず答えること自体、只者じゃないという証拠で。

聞いた話と実際に写真で見た限りでは瓜二つとしか言いようのない、
実の息子に九尾を封印してさっさと死んでしまったクソ親父と同じ顔に、
愛想笑いを浮かべて堂々と棚上げ。

 

「本人もあんま認めたくないようなこと、二度と口にしないでもらおうか」

 

ドス利かせて、毅然と言い放つ。

その声音は、普段のナルトとは掛け離れすぎていて、
『特定の人間』というものに含まれる日向・山中・奈良姓を持つ子供以外は、
まったくと言っていい程ついてはいけない。

唖然とした表情のまま、しかし、それでも突如豹変したナルトから目を離すことだけはしなかった。

それを知ってか知らずか、はたまたどうでもいいのか、
ナルトの意識はその暗部達に向けられたたままだ。

 

「まぁ、うずまきナルトっていうのはホントだけど。それで、ご大層にも砂の暗部の方々が、
一介の下忍になんの御用でしょうか。こう見えても俺ってば修行中でさ、
アンタ達みたいなのに構ってる暇ない訳。用があるならさっさと言えば?」

 

「…………ナルト君」

 

この状態のナルトに臆することなく声を掛けたのは、
ナルトの後見役を務める日向一族の嫡子であると同時に幼馴染であるヒナタ。

綺麗に切り揃えた前髪から覗く瞳は、ナルトを案ずるような色を宿していた。

心持ち不安気な様子に『大丈夫』と、安心させるように笑いかける。

心の中で『たぶんね』と付け足して、ナルトは暗部達に向き直った。

 

「目的はなんだ。俺からの情報の獲得か?それとも律儀にも殺された仲間の敵討ちか?
…………だったら悪いな。殺した奴の顔は一応覚えてるんだけど、砂忍の中の誰なのか、
心当たりがありすぎて特定できねぇんだよ」

 

「否」

 

一言で否定され、ナルトは素で軽く目を見開く。

今までの刺客といったら、大抵このどちらかのパターンに分かれていたから。

そうなると、ここはやっぱり。

 

「目的は…………俺?」

 

ナルトの中に封印されている九尾と、九尾の力を自由自在に操ることができるナルト自身。

肯定の代わりに、その暗部達は一斉に膝をついた。

下手に出ているのか、それともそう見せかけているだけなのか。

判断することは少しばかり難しい気がしたが、どうでもいいことのように思えた。

 

 

「くっだらねぇ…………引き抜きってヤツかよ」

 

「そうとって頂いて結構」

 

ナルトは鼻で笑った。

 

「守閣だけでは飽き足らず、九尾にまで手を出すかっ」

 

大体、我愛羅一人でも持て余していたというのに、
守閣より更に格が上の九尾にまで手中に収めようとするなどと問題外だろう。

わかりきったことだというのに、なぜそこまで力を欲するのか。

制御できない力などなんの役にも立ちはしないと、
仮にも忍であるならアカデミー生でも心得ているはずだ。

それなのに、なぜ。

 

「アンタ達に命を出したのは誰だ」

 

身を切るような寒さとは違う、酷く淡々とした声音だった。

何者に対しても無関心を装い、そのくせ落ち度のない完璧な答を求めている。

その詰問に答えない可能性など、これっぽっちも考えていないのだ。

つい先日、ひょんなことから再会した砂の三兄弟から砂隠れの事情を聞いているが、
今回はもしかして、その『特殊な事情』とやらが関係しているのだろうか。

大蛇丸に風影を暗殺された砂は、すぐさま新たな風影を擁立したものの、
その風影は俗に言う『穏健派』で、だからこそ全ての元凶は大蛇丸だと頑なに主張し、
木の葉と再度条約を締結した。

穏健派の頭である風影は先風影の弟―――――我愛羅達の叔父にあたる人物で、
それがまた三兄弟とは似ても似つかない正反対の気性の持ち主なのだと聞いた。

そんな人物が、木の葉崩しの一件で頭が上がらなくなった木の葉を挑発するような真似をするはずもない。

それに多大な不満を抱いていて生まれたのが、これまた俗に言う『過激派』だ。

過激派が掲げている理念は『圧倒的力による里の地位向上』らしく、
穏健派が木の葉とようやく結ぶことができた同盟も、隙あればブチ壊してやると豪語しているらしい。

その場しのぎの風影にたいした指導力はなく、ましてや未だ混乱が続いている里は、
そのせいで真っ二つに割れている状態なのだという。

これらのことから考えると、裏で糸を引いている人物は消去法で易々と想像がつくというものである。

 

「―――――いや、言い方を変える。過激派の頭はどこのどいつだ」

 

「先風影様御正妻の兄君、名を神楽」

 

三兄弟の母親といい、夜叉丸といい、その神楽という男といい。

つくづく面倒事の種を生み出してくれる家系だ。

なぜ我愛羅達がああも他人事のように語っているのか疑問だったが、
徹底的に『どっちつかず』の態度をとり続けているのにも頷ける。

もしもナルトがそういう状況下に置かれたら、ナルトだってそうするに違いない。

いくら血縁者だとはいえ、情けない風影のフォローに回るのも、
自分達に利がないというのにテロリストまがいの活動を強いられるのもゴメンだ。

 

「その神楽とやらに伝えてもらおうか」

 

ナルトは顔を上げ、ひたと前を見据えた。

陽光を弾く前髪から覗く双方には、温度というものが一切ない。

右手の親指を地面に向け、言い放つ。

 

「クソ喰らえ」

 

彼等は、たいした動揺も見せずに顔を上げた。

―――――といっても、面で顔が隠れているため、どんな表情をしているかは伺えない。

ただ。

その場の雰囲気が、一気に重苦しく、痛みを伴うものへと変わった。

 

「…………神楽様は、こうも仰っていた」

 

「へぇ〜なんて?」

 

「『同行を拒否されても、無理に快い返事を求める必要はない。
生きてさえいれば、どんな状態であっても構わない』と」

 

瞬間、放たれるのは十数人分の殺気。

あいにく、今更その程度の殺気で臆する初心さを持ち合わせていないナルトは、唇の両端を吊り上げ、
壮絶なまでに美しい修羅のような笑みを浮かべた。

無言で印を組むと、事の成り行きを黙視していることしかできなかった同僚から驚きの声が上がった。

 

「な、何よ、これ…………っ」

 

桃色髪の女の子が、半透明の膜の中で悲鳴を上げる。

結界だ。

薄ぼんやりと淡く発光する青色の結界は、禁術の中の一つで、
その効果は防御系の術の中でも最高峰と呼ばれている。

しかし、もちろん禁術であるから、それなりの代償というものがある訳で―――――。

焦ったのは、この術の実情を知る三人の子供達。

 

「ちょ、ちょっとナルト!何馬鹿なことしてるのよ!!さっさとこの結界解きなさいよぉっ!!」

 

「『この結界を張ってる間は、他の術に割くことができるチャクラが一切ない』って、
『だからできるだけ使いたくない』って、ナルト君言ってたでしょう!?」

 

「俺達のことはいいから自分のことだけ考えろよ!メンドクセーが、
自分の身くらい自分で守れるぞ!!」

 

「馬鹿言え。もうすでにそういうレベルの問題じゃねぇんだって」

 

三人の懇願を、一言で一蹴。

 

「相手は暗部、しかもこちらの人数の倍近く。だけどこっちはどうだ?
忍に毛が生えたような下忍が七人に、新人中忍一人。それら全てに気を配りながら戦うのと、
一度に全部カバーして戦うの―――――楽なのは断然後者だ」

 

「『足手纏いだ』って、言いたいの…………?」

 

「まぁ、有体に言えばな」

 

イノが下唇を噛み締め、泣き出しそうになるのを必死で耐えるような表情になる。

わずかばかりの罪悪感が胸の奥で澱みを作る。

 

「でもナルト君、私達、一方的に守られるのは嫌なのっ!肝心な時に隣りにいられないだなんて、
そんなのっ」

 

涙ぐむヒナタに、ナルトは笑いかけた。

 

「なんかそれって、まるで俺が死ぬみたい言いようだな。ヒナタ、いいか?俺が死ぬ時は」

 

『無人の雪山でひっそりと、鮮血の華を咲かせて美しく』って決まってんの。

どこまでが冗談でどこまでが本気なのか、まったくもってわからない。

それを確認するよりも早く、暗部達が動いた。

手始めとばかりに、余程の忍でなければ目に見えぬ速さで飛来してくる千本。

その全ての千本が人体の急所を狙っているため、一々武器で応戦することは難しい。

 

「ナルトッ!!」

 

イノの叫びに、ナルトは薄笑いを浮かべた。

ならば、一気に叩き落としてしまえばいいだけの話。

ナルトは即座にオレンジと青の派手なジャケットを脱ぎ去り、
その表面をチャクラで強化して勢いのまま自分の正面に広げる。

その一瞬後、千本はジャケットに刺さりはしたものの貫通することはなく
、ナルト本人に傷をつけるまでには至らなかった。

なんの感動もなく使い物にならなくなったジャケットを放ると、晴れた視界の中に見たものは、
目前に迫り来る短めの忍刀を構えた暗部。

普通なら間に合わない。

だけど、大丈夫だ。

肩を後方に押されたと認識すると同時に、金属が勢い任せにぶつかり合う甲高い音がした。

ナルトの真正面には、均整のとれた身体に木の葉の暗部服を身に纏った男が、
背を向けて砂の暗部と刀を交わらせていた。

短めに刈られている黒髪と耳の裏側にある刀傷には見覚えがある。

 

「御子、少しは避ける仕草の一つでもしたらどうですか!」

 

目の前の男とはまた別の、ナルトを一時的に安全圏へと移動させた小豆色の髪の男が、
普段は穏やかであろう声音を強張らせ、らしくなく叱咤の声を浴びせた。

しかし、ナルトはそれこそ嬉しいことだとばかりに笑みを零し、
どこからともなく取り出した鋼糸を素早く指に巻きつける。

 

「悪い。でも、お前等がいるって知ってたから」

 

自分に危険が迫ったら、どんなに不利な状況であろうと飛び出してくる彼等がいると知っていたから。

だから避けようと思えば避けられたけれど、わざとそうはしなかったのだと。

性格というか意地の悪さを隠しもせず面に出して。

その図太さに、彼は盛大に嘆息した。

 

「あなた、いつか本当に死にますよ…………」

 

「死ねるもんなら死んでみたいね。刹那」

 

名を呼ばれた黒髪の暗部は、一度砂忍の刀を押し返し、わずかに振り返った。

力任せの荒々しい動作の中に見え隠れする、
一人立ちしたばかりの若い肉食獣のような精悍な空気を感じ取り、ナルトは刹那の肩に手を掛ける。

 

「許す。暴れて良いぞ」

 

「坊、本気か?」

 

「冗談でそんな危険な発言できるか。相手にとって不足なし。地形が変わらない程度なら何も言わない。
安曇もだ」

 

「そりゃー良いこと聞いた!」

 

その喜びようときたら、まるでお気に入りの玩具を与えられた子供のようだ。

ナルトは刹那の肩に乗せた手を支点に高く跳躍し、中遠距離戦に最適な武器とされる鋼糸を、
砂忍の集団に向けて放った。

金色が宙に舞ったとしか認識できなかった砂忍の内三人が、声を上げる間もなく絶命する。
四肢を切り飛ばされ五体不満足となった胴体からは鮮血が勢い良く噴き出しているが、
追い討ちをかけるかのようにその胴体さえも邪魔だとばかりに切断され、
それらは一瞬にしてタンパク質の固まりへと成り果ててしまった。

ナルトの許可を得た接近戦を得意とする刹那は、それ以上無駄に語ることはなく、
せっかくの獲物をナルトが一人で始末してしまわない内にと、
嬉々として他里の暗部の陣の中に突っ込んで行く。

なんでもそつなくこなす安曇は、ヤンチャ坊主二人(一人は確実に大人なのだが)に対して肩を竦めたが、
襲い掛かってきた砂忍を水遁系の術で窒息死に追いやったそのえげつなさは、
他の二人に引けを取らないものがある。

―――――こうしてわずか数分後には、ナルトの身を案じる三人の予想を遥かに裏切り、
砂忍の中で生きている者は誰一人としていなくなった。

しかし、一番の問題はこれからなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

『な、死ななかっただろ?』の一言に、今度こそヒナタは涙を零した。

顔を両手で覆い、肩を震わせるその姿を見てしまうと、ナルトは申し訳なさで一杯になる。

ヒナタのように泣いてはいないがイノもナルトの頬を叩くという暴虐に出て
ヒナタの肩を抱いたまま黙り込んでしまうし、
シカマルはシカマルで『お前と付き合ってたら心臓がもたなねぇ』
と文句をつらつらと並べ立ててくれるし。

ナルトとしては無茶をしたつもりはないのだが、三人にとっては違ったらしい。

 

「俺にどうしろって言うんだよ…………」

 

「ただ謝ればよろしいのでは?」

 

安曇の言葉に、ナルトは頬を軽く掻いていた指を止めた。

 

「『心配かけて悪かった』と、そう。確かに御子は他の誰よりも強いかもしれません。
いえ、事実そうなのでしょう。ですが、御子の業績の裏には『捨て身の戦法』の文字が多すぎるように感じます。
私にはお三方の気持ちがよくわかりますよ。あなたにはもう少し、
あなた自身を大切にすることを覚えて頂きたいですね。
安直な自己犠牲論なんて、今時流行りませんよ?」

 

なんともまぁ、痛いところをグサグサと突いてくれるものである。

 

「ネジもそうだったけど、お前も最近―――――ジジイが死んでからか?
好き勝手言うようになったよな」

 

「こんな主に仕えていれば、嫌がおうにもこうなります」

 

「じゃあ、こんな主にはもう愛想が尽きたか?」

 

「…………いいえ、ますます目が離せなくて困りますね」

 

「あ〜お二人さん、取り込んでるトコ悪いけどな、なんか下忍君達が視線で訴えてきてるぜ?
坊、どーすんだ?」

 

刹那の呼び掛けに、ナルトは短く『あ』と声を上げる。

こっちにも問題が残ってることを、すっかり忘れていた。

ナルトが彼等の方に視線を向けると、まず一番先に目が合ったのはうちはの末裔だ。

 

「ドベ、お前一体…………」

 

その言葉の他に、サスケの口から出るものはない。

髪と同色であるサスケの瞳に浮かんでいるのは、
何か得体の知れない恐ろしい生き物に遭遇してしまった時の非力な只人のような、そんな色。

今の今まで信じてきたもの全てが、つい先程目の前で繰り広げられた光景で音を立てて崩れ去ったのだ。

性格も口調も、自分が知っているナルトとは何もかもが違う。

ナルトはあんな笑い方をするような子供だったのか。

あんな、残酷な笑い方ができる子供だったのか―――――そんな目だ。

ドベなのだと、あくまで自分より下の人間なのだと信じて疑わなかったナルトが、
砂の暗部を相手にしても尚余裕で勝利をもぎ取るだけの実力を持っていた。

それどころか、木の葉の暗部まで従えているナルトのことを、
ヒナタとイノとシカマルは知っているようだ。

自分は何も知らない。

知らされてなどいないのに。

どうしようもない怒りが沸々と、サスケの腹の底から湧き上がってくる。

騙されていたのだ。

裏切られていたのだ。

自分は、この少年に―――――。

そう思ったとたん、サスケは彼の少年をギッと睨み、口を開いていた。

 

「…………お前、それだとまるで化け物だな」

 

その台詞に、ナルトはなんの反応も見せなかった。

いや、あえて言うなら、ナルトの瞳が濃紺になったというぐらいだ。

暗部二人が、『何を言い出すのだ、この子供は』と、サスケに刺すような視線を送る。

しかし、サスケの意識は幸か不幸かナルトに向けられたままだ。

 

「低レベルな任務にさえ躍起になっていた俺達を見て腹の底で笑ってるのは、楽しかっただろう。
さぞ心地良いんだろうな、人を小馬鹿にして生きるのは。
おい、その化け物みたいな力で裏で糸を引いて、何をするつもりだったんだ?」

 

「サスケ君、それは言い過」

 

「お前は黙っていろ」

 

「キャアッ!」

 

サスケを窘めようとしたサクラを、サスケが突き飛ばす。

同班の仲間にする行為ではないその蛮行には、他の下忍達も黙ってはいない。

 

「おい、サスケ!」

 

キバがサスケを止めに入ったが、サスケは『お前に用はない』とばかりに無視し、
噛み付くような視線でナルトを射抜いた。

対するナルトは、無表情のままサスケの視線を受け止める。

芽吹いたばかりの青々とした草の上に一歩を踏み出し、
それからは澱みない動作で徐々にサスケの元へと近づいていく。

 

「なんとか言ったらどうなんだ」

 

前に立ち塞がったサスケを一瞥し、ナルトはふいと視線を外した。

少し離れた場所で地面に手を付いているサクラの姿を認めると、サクラに立ち上がるための手を貸す。

 

「春野、大丈夫か?」

 

露見してしまった今となっては、もう『サクラちゃん』とは呼ばない。

あの独特の口調も、全てなかったものにする。

それでも本質は何も変わりはしないのだと、幼子を諭すように小さく微笑んだ。

サクラは最初こそ戸惑っていたものの、ナルトが差し出した手を取ると顔をくしゃりと歪ませ、
ナルトの手に縋り付いてきた。

されるがままになっていたナルトはこれから更に酷くなるであろう事態に備え、サクラをキバに預ける。

 

「ナルトッ!!」

 

業を煮やしたサスケが、ナルトの肩を鷲掴みにして無理矢理振り返らせた時。

 

「お前、何様?」

 

凍てつくような業火をその深色の瞳に宿したナルトが、地を這うような声を発する。

その次の瞬間には、サスケの世界は反転し、気付いた時にはナルトに捻じ伏せられる形となっていた。

 

「…………俺が化け物?結構。そんなもの言われ慣れてるから今更どうとも思わねぇし、
言われたからどうするってこともねぇよ。どんな事情があれ、俺がお前達を騙していたことは事実だし、
別にそれを弁解しようとは思わない。だけどな」

 

ナルトはサスケの関節を締める手に更なる力を込めた。

 

「それとこれとは別ってのがこの世にはあるんだよ。
テメェのちっぽけなプライドが傷つけられたからって、それに対して俺が謝る必要はない。
『悲劇の末裔』だとかなんとか担ぎ上げられて頭が沸いてるのかどうか知らねぇけどな、
たった一人の人間を殺せば気が済むようなお粗末な復讐心で引っ掻き回されるコッチは堪ったもんじゃねぇんだよ」

 

今まで、言いたくてもひたすらずっと溜め込んでいた言葉。

ここで言っても、これぐらいなら罰は当たらないだろう。

 

「お前にどれだけのことができるっていうんだ。甘やかされて育って、
一族が惨殺された後も里の充分な保護を受けて何不自由なく安穏と暮らしてきたお前に、
一体何ができるって?お前の里抜け騒ぎのおかげで、どれほどの人間が傷付いたと思ってる。
チョウジもキバもシカマルも重傷を負ったし、ネジなんて瀕死で、あと少し搬送が遅れれば危なかった。
そうまでしてお前のために奔走した人間を尻目に、まだ自分本位な考えしかできないって言うなら、
いっそのこそ人間止めた方がいい」

 

「―――――っ!!」

 

「…………御子」

 

ナルトの手に、安曇の手が重なった。

はっとして顔を上げると『それ以上続けたら死にます』と言われ、ナルトは渋々手を離す。

息をするのも忘れる程の苦痛を味わっていたサスケは、
ナルトが上体を起こしても起き上がることはできず、地面に這いつくばったままだ。

そんなサスケの頭を爪先で軽く蹴った刹那が、忌々しげに言う。

 

「コイツ、思想管理でもした方がいいんじゃねぇの?
里人なんかよりよっぽどヤバイ気がするぜ?今日のこと話せば喜んでやると思うから、
なんならイビキんとこ放り込むか?」

 

「放っておけ。どうせ記憶は消す」

 

―――――ってことで、悪い。

ナルトは、素の自分を受け入れかけてくれた同僚にそう前置きし、素早く印を組んだ。

風化していく岩を早送りで見ているように、彼等の身体から力が抜け、彼等は地面に静かに倒れた。

彼等の中から、今日の一件は全て消えてなくなるのだ。

自力で思い出そうにも思い出すだけの記憶が脳の引き出しにまったく存在していないのだから、
それさえも無理な話。

以前、イノ相手に使おうとした術と同じものだった。

ナルトは顔を上げ、普段通りの笑顔を作った。

 

「二人とも、ここの後片付け頼む。俺は綱手のばあさんに報告に行くから」

 

「「御意」」

 

「ナルト君…………」

 

躊躇いがちに掛けられた声にも、ナルトは笑顔を絶やさない。

 

「三人とも、今日は俺のせいで騒がしくして悪かったな。
俺、まだやることがあるから先に家に帰っててくれるか?
もしかしたらまだ残党がいるかもしれないから、影分身と一緒にさ」

 

「それはいいんだけどよ、お前…………大丈夫か?」

 

「平気だって。それに沈んでる暇なんてねぇし。
今回は『神楽』って奴の遣いを殺っただけであって『神楽』本人と決着をつけた訳じゃねぇから。
近いうちにどうにかするつもりだけど、とりあえずは体制整えなきゃどうにもなんないし」

 

だからサスケの台詞に女々しく傷付いている暇などないのだ、と。

笑う。

笑う。

その笑みが無理に作られていることは、誰の目で見ても明らかだったけれど。

 

 

 

 

ナルトにしてみれば、笑えるだけまだマシってものなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

―END―

 

 

 

 

†††††後書き†††††

 

 

暗いです。そしてちょっとナルト君が痛々しい。
それでもってサスケが酷い。
(サスケファンの方すみません。でもあれはけっしてサスケ氏の本心では
―――――そしてあれはけっしてナルトの本心では)続きそう、なんですかね?
一話完結式の連載…………連載にしたくなかったなぁ〜でもこのネタで話は考えてはいるんで、
とりあえずこれはこれで終わりと考えて頂ければ。…………なんか、言い訳だらけのやな後書き!






















 
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