お前が生きていてくれて良かった、と。

そう思う気持ちに嘘はないのです。

けれど、張り倒したいと思う気持ちにもまた、嘘はないのです。

 

 

狐と狸の上下関係 ‐RETURNS‐

 

 

「まったく、手ぇ掛けさせやがって…………」

そう言って。

逆光の中で笑ったナルトの顔は、元来の造形の良さを差し引いても、目覚めた直後に見るに

は心臓に悪過ぎるほど綺麗なモノだったのだが。

…………なぜだろう。

この、身の毛が弥立つかのような邪悪な空気は。

おどろおどろしい気配を身に纏う金髪碧眼の美少年は、相も変わらずニコニコと笑いながら生還したばかりの風影を助け起こす。

その光景は、ソレを見た者に少年達の間にある熱き友情を感じさせるのに充分なモノであったが、ことあるごとに 『青春だぁーっ!!』『はい、ガイ先生!!』 と奇声

を上げる全身タイツの二人も、さすがに今回ばかりは口を閉ざしたまま何も言おうとしない。

ナルトと少しでも付き合いのある人間の目には、彼の姓のように背後で渦巻く瘴気がハッキリと見えていたからだ。

もちろん、最も近くにいる風影こと我愛羅がソレに気付かぬはずもなく、自身に触れているナルトの手が不穏な動きをしないものかと本気で恐怖していた。

ブッチャケ、暁よりも砂の守閣よりもナルトの方が恐いのである。

「ついこの間砂に寄った時、俺はちゃんと言ったはずだよなぁ?『尾獣狙ってくる奴等がいるから気ぃ付けろ』って。相手は基本ツーマンセルで動くってことも、その中におそらく人柱力本人か土地に精通してる奴がいるはずだから抜忍リスト調べて対策立てといた方がいいってことも。 わざわざこの俺が、遠路遥々、テメェなんかのために時間を割いて

「…………あ、あぁ」

「それでこの様デスか?つくづく馬鹿だ馬鹿だとは思ってたが、まさかここまで馬鹿だったとはねぇ……木の葉で聞いた瞬間、 俺大口開けて笑っちまったぜ

「あはは、ナルト随分荒れてるね〜☆」

表向きの上司の言葉に、ナルトが振り返りもせずに。

「そうだな。二人っきりなのをいいことに、セクハラしてくる変態覆面上忍がいたからな。もともと苛ついてたってのに、そのせいでもう」

スゲェよ、俺。

小首を傾げてのお言葉に、その場にいる全員の心が、今一つに。

凄いって何がですか!!?

口許を盛大に引き攣らせた我愛羅の顔をガッチリと両手で拘束したナルトは、何も知らない人間がその光景だけを見れば今まさに口付けを交わそうとしているのだと勘違いするほどの至近距離で、壮絶に笑った。

「軽く五回転くらい捻くれてた根性のガキだったテメェが『風影』

として里を守り通したことは評価してやってもいいが、『命と引き

換えに』なんて馬鹿げたことになるトコだったのは戴けねぇなぁ。

美談にもなりゃしねぇ。木の葉の四代目火影サマと同じく、自分の

身一つ満足に守れなかった未熟者じゃねぇか。挙句、まんまと守閣まで盗られやがって、混乱期のど真ん中にいる忍の隠れ里を含め、疑心暗鬼になってる近隣諸国に不安要素を盛大にバラ撒きやがったな?まぁ、それはテメェに限ったことじゃねぇみてぇだが……馬鹿狸、せいぜいソコのばーさんに感謝するんだな」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」

堪り兼ねたかのように割り込んできた高い声に、我愛羅から視線を外したナルトは無言で顔を上げた。

言いたいことは山ほどあるようだが、肉眼で確認することのできない低気圧が頭上の辺りで停帯している今のナルトの側にはさすがに近寄れないらしく、少し離れた場所から抗議してきたのは、危機察知能力のない頭の軽そうな砂のくの一。

「アンタ一体何様のつもりなのよ!私達の風影様に向かってその暴言の数々、木の葉の下っ端風情がふざけたこと言わないで!!」

その冒険的科白を吐いてのけたくの一に。

自里の忍から命知らずな無礼者を排出してしまった砂忍同様、まだ誰も粗相をしていないはずの木の葉勢もまた、恐怖のあまり瞬間的に凍りついた。

テマリやカンクロウといった我愛羅の兄弟達はナルトが何者であるかを知っているため、そのようなことはたとえ天変地異が起ころうとも口にすることはできないし、事情を知らぬ他の忍もまた、ナルトの異様な迫力に押されて何も言うことができない。

―――――それなのに彼女は己が身に迫る危機に気付かず、暴言を浴びせている……真実を知らないからこそ為せる発言に、極一部の人間は驚き、『素晴らしい』と感心してしまった。

それは言われた当人も同じだったらしい。

数秒の沈黙のあと。

軽く目を見張ったナルトは、顔色を失った我愛羅の目の前でふわりと笑んで見せた。

哂ったのではない。

本当に、『タラシの本領発揮』とでも言うような完璧な笑みを浮かべたのである。

十五の少年らしからぬ完璧な笑顔に、敬愛すべき風影様を侮辱されて噛み付いていたはずの彼女は瞬時に顔を赤くした。

頬を染めるとか、そういう次元の話ではなく。

赤いペンキを顔面にブチ撒けたかのように、物凄い勢いでドカンと赤面したのだ。

隣にいたくの一も同じで、悲鳴に近い声を上げてわずかに後退する。

『見事』としか言い様がない笑顔の封殺に、ナルト少年の幼馴染であるネジは口の中で『この顔面犯罪者が……』とボヤいた。

一瞬にしてこの場を制圧してしまったナルトを見て平静でいられなかったのは、何も砂のくの一だけではない。

チョバアの亡骸を抱いたままであったサクラもやはり、例に洩れず顔を赤くし、金色を指差しながらカカシに説明を求めようとしたが、意気込みに反してその科白が実際に音になることはなく、口をパクつかせることしかできなった。

「サクラサクラ、いつものことだから。いつもの」

「い、『いつもの』って、確かに三年振りに会って少しはマシになってましたけど、どう考えてもアレは違うでしょう!?」

「いーや、サクラが知らなかっただけでいつものことだよ。それにしてもナルト、ココで呆気なくバラすなんてどうしたのかなぁ…………」

「その口振りだと、先生は前から知ってたんですか!?」

「んーまぁね。俺はナルトの『すうぃーとらばー』だから☆」

「それはカカシ先輩の妄想でしょう。いい加減、その軽い頭と口で

私達の御子を穢すのを止めて頂けますか?」

突如として現われた男に容赦なく踏み付けられ、カカシは顔面を地面へとめり込ませた。

『先輩』という敬称を付けている割には態度が伴っていない小豆色の髪の男は、木の葉の忍にとっては幾分か馴染みのある、木の葉の暗部装束を身に纏っていた。

顔を覆い隠しているのは、白塗りに朱を差した、木の葉ではいまだに禁忌とされている狐面。

周囲の人間の誰もが『なぜココに暗部が』と疑問を抱いたのとほぼ同時に、一応名の知れている上忍をあろうことかいとも簡単に踏み潰した男の側に、三つの影が顕現する。

顕著になった気配と共に現われたのは、これまた木の葉の暗部装束を身に纏った個性豊かな

男達だった。

鋼色の髪に、前髪の一房だけ緑色のメッシュを入れた小柄な少年。

黒髪短髪の、彼等の中では最も体格に恵まれた青年。

褐色の肌に紺色の髪の、異国の青年。

彼等もまた例外なく狐面を付けており、小豆色の髪の青年と同じく、嫌悪と殺意が綿密に入り混じった感情をカカシへと向けていた。

そのうちの一人、一際異色を放つ少年が、ナルトに対して『御子』という仰々しい敬称を使った青年へと詰め寄る。

「ズルイよ、安曇!この間 『今度ソイツを潰すのは僕だ』 って約束したでしょ!?」

青年―――――安曇は、『すみません、つい』と言いながら悪びれもせずに肩を竦め、カカシの頭を更に強く踏み躙った。

そして、我愛羅にくっついているナルトへと声を掛ける。

「御子、やはり木の葉に戻るのは時期早だったのでは?」

対するナルトは、部下四人を代表しての安曇の言葉に苦笑した。

「まぁな。でも帰郷がこの時期になったのは仕方ねぇと俺は思うぞ?むしろ、三年里の外で生活できたこと自体が奇跡だ。零班が丸々抜けた分の穴は、まだまだ復興中の今の木の葉じゃブッチャケ埋めようがねぇからな……日替わりで押し掛けてくる他の班の奴等も終いにゃ泣き出すし、いい加減戻らねぇと冗談抜きで里が潰れてた。ばーさんに聞いたら、『高ランク任務が下忍にまで回る直前だった』っつってたしなぁ」

「そんなこと知ったこっちゃありませんよ。会ったこともなければ

話したこともない下忍の生死よりも、御子の精神の安寧と御身の安全の方が私達にとっては『優先して守るべきモノ』ですので」

「そうそう!」

「別に死んだ三代目とか五代目のばーさんに意見する訳じゃねぇ

けどよ、比較的安定した情勢なのをいいことに、下忍・中忍のレベ

ル底上げしねぇで擁護ばっかしてっからいざって時に半端じゃね

ぇ被害が出るんだぜ?任務だってそうだ。確かに坊は強ぇが、だからっていつまでも坊一人に頼ってるようじゃ木の葉もいよいよっ

とてことだな

「…………(こーっくり)」

「安曇も伊吹も刹那も鴇も、俺に負けじと今日はいつになく辛口だな。一体どーしたんだよ?」

「どうしたもこうしたもありませんよ。暁に付き纏われていたのは、何も彼だけではなかったんですよ?御子だって危険なんです。まぁ、貴方が彼のように 呆気なく 組織の手に落ちるとは思えませんが……」

「当然だろ、俺を誰だと思ってんだよ」

安曇が暗部面の下で笑う気配がした。

「数ある尾獣の中でも『最強』と誉れ高い力を有する、美しくも醜悪な、それでいて気高き魂を持つ孤高の妖狐―――――『九尾』をその身に宿すことができる、唯一の御方です。そして私達の小さな主でもある」

「詩人だな。『小さい』は余分だけど―――――あぁ、そういえばアレどーだった?」

『たった今思い出しました』とでも言いたげなナルトの問いに。

鋼色の髪を持つ少年こと伊吹が、良い子のお返事をして元気良く挙手。

「はぁーい、先生!やっぱりしぶとく生き残ってましたぁー!!」

「うんうん、とても元気なお返事デスね。伊吹君、よくデキマシタ……そっか、やっぱりなぁ。だそうだぜ、風影殿?」

「な、何がだ」

顔を強張らせたまま応えを返す我愛羅に、『察しが悪ぃな』と毒づいたナルトは凶悪な笑みを浮かべた。

美少年のキラキラな笑みは鑑賞にはもってこいだが、やはり今の我愛羅にとっては恐ろしいモノでしかない。

「お前の担当だった二人のうち一人、爆弾魔みてぇな奴いただろ?アイツ、実はまだピンピンしてんだよ。んで、俺の担当の二人は片方が俺の教育係だった関係でコッチの俺のこと知ってるから直接出向いてくれなくて健在……俺が知る限り、奴等は自分の獲物を横取りされて黙ってるような可愛げのある人間じゃねぇからな。生き残った爆弾魔もたぶん仕留め損なった俺のこと狙ってくるし……お前が一人で駄目だった奴等を、今度は三人同時にお相手しなきゃなんねぇみてぇなんだわ。いやぁ、スゲェ豪華な接待だと思わねぇ?」

「…………すまん」

「はぁい、我愛羅さん。もう一回言ってみようか?今度は怯えなが

らじゃなくて、ちーゃんと誠意を込めて」

「す、すまなかった。感謝している。『砂』として『風影』として、そしてもちろん『一個人』

として俺が役に立てるなら、どんなことでもしてや」

「なんか上目線的な言い方…………」

「させて頂きマス!!」

衆人環視の中。

よりによって『風影』の言質を豪快にブン盗ったナルトは満足そうに頷き、そこでようやく弟分を解放した。

「そうそう、始めからそう言って素直に頷いてりゃ何も俺だってココまで酷ぇこと言わなかったんだ……今更だけど、身体の調子はどーだよ?」

「…………一度死んだんだ。良いと思うか?」

「あはは、違いねぇ。でも適当に休めば適当に復活するから、わざわざ風影辞めることもねぇよ。守閣がいなくなっても、人柱力はもともとチャクラの保有量が高いからな……今までに会得した術の中で、『人』が使うモノとして許容範囲内のヤツなら問題なく使えるさ。良かったなぁ?」

「…………」

またしばらく、砂の里長は木の葉最強の下忍に頭が上がらない生活を強いられそうである。

END

†††††後書き†††††

ストックじゃないナルト小説を久々にアップ。美味しいキャラなヤマト隊長とかありえないキャラなサイたんとかも書きたかったんですが、とりあえずナルト少年が風影があらんを虐める小説が書きたかったので今回は諦めました。ちなみにコレは、アンチ色が強かった『認識と自覚』と同じように『宿願』設定バージョンの第二部です。

皆さん、次はどのシリーズの続きを御所望ですか?

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