西の空が茜色一色に染まり、あと半刻も経てば完全に周囲が夜の時間に包まれる頃。


「総隊長!」


あまり馴染みのない呼称を耳にし、自来也と共に街道を歩いていたナルトは背後を振り返っ
た。
まず目に入ったのは、動物の顔を模した白塗りの―――――所々鮮やかな朱が差された面。
黒装束の上に重ね着された独特なデザインのベストと、闇をそのまま切り取ってきたのでは
ないかと思わせる闇色の外套は、木の葉の暗部の物に間違いなかった。
脇差しに手を掛けた暗部はそれなりに舗装された地面に片膝をつき、虚を突かれたかのよう
な顔をして立ち止まっているナルトを見上げてきた。


「お久し振りです、総隊長。自来也様も、お元気そうで何より」

「あぁ、ナルトの班の人間じゃったのぅ。その後、皆息災か?」

「お蔭様で。五代目の指揮の下、復興の方も問題なく進んでおります。その五代目が、毎日
のように『あの馬鹿、ろくに連絡も寄越さないで』と愚痴を零しておいでですが…………」


チラリ、と。
面の隙間から戸惑いがちに灰色の目を向けられ、ナルトはいかにも面倒臭そうな顔をして額
に掛かる前髪を軽く掻き上げた。
西日に照らし出された金髪は常より強い光を零し、その光景を見た者の視覚に心地良い刺激
を与える。
背に逆光を浴びるようにして立つ自分を見上げる暗部の目が眩しげに細められたのを気配で
察知したナルトは、普段から多用している奇妙な『だってばよ』口調ではなく普通の、しか
し年齢とは不相応に思える大人びた声音でその暗部に話し掛けた。


「あー……すっかり忘れてた」

「どうか御自身の立場をお忘れなきよう……国内にいるということは、そろそろお戻りにな
られるのですか?」

「―――――いや、期待させたようで悪いが、今のトコロまだその予定はないな。今回は、
この馬鹿が例のいかがわしい本の新刊の取材をしたいとかで無理矢理連れ回されてんだよ。
なんでも、贔屓の店があるんだと」


そう言って、容赦なく隣りの大男を睨む。
ナルトが記憶している通りなら、確か旅の名目は『修行』と『情報収集』だったはずなのだ
が―――――。
この男と自分が行動を共にしていることに、今更ではあるが大いなる疑問を覚えた。
わざとらしく咳き込む自来也から早々に意識を切り離したナルトは、落胆の色を隠そうとも
しない暗部に小さな笑みを向ける。


「悪いな、もうしばらく俺ナシで頼むわ。それより、『総隊長は止せ』って前にも言わなかっ
たか?そもそも、そんな役職自体存在しねぇだろ」

「しかし、貴方は零班の隊長ではありませんか。公にされることのない班とはいえ、零班は
暗部の柱……その隊長ともなれば、すなわち暗部全体の総括者かと思われますが」

「いつだったかは忘れちまったが、その科白はどっかで聞いた気が―――――もしかして俺、
嵌められてねぇ?」

「とんでもない」

「どーだか……木の葉に帰った暁には、一度話し合いの場を持とうぜ。全員に伝えとけ」


欠席は一人たりとも許さねぇ、と。
声を低くしたナルトに、それでも暗部は嬉しそうに『御意』と答えた。
大方、具体的とも言える帰郷後の話が出たことに喜んでいるのだろう。
自身の予想が外れてはいないことを確信しているナルトは、両肩を落として大仰に嘆息した。

ナルトの同期辺りが一連の遣り取りを見ていたら、彼等が知る下忍としての『うずまきナル
ト』と、暗部に膝をつかせ、その上『総隊長』とまで言わせてのける『うずまきナルト』と
のギャップに、さぞ驚かされるはずだ。
それもそのはず。
ナルトが下忍であることに間違いはないが、それはあくまで事実であって真実ではない。
もう少し正確に表現すると、『アカデミー始まって以来の出来損ない。万年ドベのドタバタ忍
者で、浅慮で馬鹿で騒がしく、人の足を引っ張るしか能のない子供』ではないのである。
時代劇風に言えば、それは世を忍ぶ仮の姿。
本当のナルトは昼間は下忍として、夜は暗部として働く凄腕忍者だ。
もちろん、ドベでも出来損いでも馬鹿でもない。
共通しているところと言えば、常に勝気で、好戦的な姿勢の持ち主だということぐらいか。
そんなナルトの―――――所謂『裏の顔』というヤツは里の最高機密であり、里人の中でも
伝説の三忍と名高い自来也や、同じく三忍であり五代目火影でもある綱手、付き合いの長い
年上の暗部連中といった、限られた人間しか知る者はいなかった。


「そういえば、お前がココにいるってことは任務の最中じゃねぇのか?サボってていいのか
よ」

「…………褒められることではないでしょうね」


とたん、作られたのはナルトの呆れ顔だ。


「何やってんだよ……ちなみに、任務内容は?」


普通ならここで任務内容を明らかにするはずないのだが、ナルトは別格であるため、全くと
言っていいほど暗部に躊躇いはなかった。


「里内に裏切り者が出て、火影邸の保管庫から禁術書が奪われました。計三名の裏切り者は
確保済ですが、禁術書はすでに他の者の手に渡っています。今回の任務は禁術書の奪還、及
び侵入者の抹殺です。その侵入者は…………」


言い澱んだ暗部を不審に思ったナルトがその先を促すと、やがて暗部は意を決したように口
を開いた。


「はっきりと姿を見た者はおりませんが、どうやら『暁』のようです」

「…………暁?」


それを聞き、ナルトはすぐに納得した。
今から約三年前、木の葉崩し直後の里に、『暁』のメンバーとなっていたうちはイタチが『う
ずまきナルト』狙いで訪れたことを知らぬ人間はいない。
木の葉から出た『裏切り者』とは考えるまでもなく九尾に対する遺恨が強く、しかし、直接
『九尾』と対峙するだけの度胸も実力もないような連中で、体の良い厄介払いのつもりだっ
たのだろう。


「相も変わらず他力本願デスこと。正々堂々闇討ちしてくる奴等の方がまだ好感が持てるぜ」


『闇討ち』という行為が『正々堂々』と言えるかどうかは別として、ナルト少年は盛大に舌
打ちした。


「どうせイビキんトコに回すんだろ?『手加減すんな』って言っとけ」

「すでに『死んだ方がマシだ』と思うような目に遭わされていると思いますが」

「ならいい。それで、『暁』かどうか確認が取れてねぇってことは、当然うちはイタチかどう
かもわからねぇんだな?」

「そういうことになりますね。どちらにしろ厄介なことに変わりはありませんが」

「ふーん…………」



暗部の話からその任務の背景を知り、口元に手を当てて考える素振りを見せたナルトは、次
にニヤリと笑った。
何か良からぬことを思いついてしまった時の、悪戯小僧的な笑みだ。


「なぁ、その任務、俺が貰っていいか?」

「おい、ナルト」

「総隊長、それは…………」


暁が九尾の人柱力を欲している以上、まだ時ではないとはいえ、暁とナルトの接触は歓迎で
きるものではなかった。
もちろん、片手の指程度の年齢の時に暗部所属―――――アカデミーに入学する前にはすで
に零班という特殊な班の隊長を務めていたナルトが弱いと言っているのではない。
九尾の力を完全に開放すれば右に立つ者など存在しないほどの実力者だが、それとこれとは
話が別なのである。
尾獣の中でも最高峰の力を持つ『九尾』を保有しているという事実によって、数ある隠れ里
の中で優位に立つことができている木の葉側にしてみれば、九尾に対する個人的な感情を殺
してもソレを奪われることだけはどうしても避けなければならないのだ。
二人の制止の声からそれを察したナルトは、背負っていた荷物を暗部へと預け、尚も続ける。


「少しは身体動かしとかねぇと鈍っちまうだろ?そんな心配すんなって、俺に限ってヘマす
るなんてことは絶対ありえねぇから。それに、言い方悪くなるけどお前じゃ殺られるのがオ
チだ―――――っつーことで、エロ仙人のお守り宜しく」

「は?」


暗部の間の抜けた返答に、ナルトはそれはそれは綺麗な笑みを浮かべた。




「ぶっちゃけ、宿場に入るなり犯罪行為に走りやがる馬鹿に付き合うの、もう限界なんだわ」






初  見








相手は二人。
個人の実力は暁のメンバーだけあってなかなかのモノだが、集団意識が極端に薄いのか連携
攻撃は始めから頭にないらしく、その事実は数で劣っているナルトにかなり有利な状況を与
えた。
雑魚相手なら影分身相手で充分事足りるが、いかんせん、今回の相手は業界でも名の知れて
いる連中だ。
そうできるのなら、万が一のことを考えてチャクラの消費量を抑えるに越したことはない。
一体だけ作り出した影分身に時間稼ぎをさせ、複数人相手だとどうしても散漫になりがちな
攻撃から一点集中型の攻撃に切り替えると、その戦略が功を称したのか、時間が掛かりはし
たが傀儡使いを無事攻略し、今現在は残りの一人と交戦中である。
敵の攻撃は主に操作可能な爆発物によるもので、それがまた厄介だった。
カウントによって自動的に爆発するタイプの物ならまだ良かったのだが、どうやらコレは操
作している人間の意思によって爆発のタイミングを図ることのできる物らしい。
術者を倒せば術の効果はなくなるが、一手も二手も先を読んでいるかのような術者自身の狡
猾さに邪魔をされ、思うような効果が出せないでいた。
もちろん、それで退いてしまうような性分のナルトではないため、向こうがその気なら三手
も四手も先を読むだけのことはして見せるが、それでは戦闘が無駄に長引くだけである。
さて、どうしたものか。
周囲を木々で囲まれた環境を上手く利用して仕掛けてくる攻撃に対してさり気なく反撃しつ
つ、ナルトは新たな算段を企てる。
爆発力は用途によって変わるようだが、それらのどれにも共通している点は、粘土製の鳥の
原動力となっているモノが術者自身のチャクラだということ。
―――――ならば、原動力そのものを奪ってしまえばいいだけの話。
唇の両端を上げて笑ったナルトは、慣れた動作で複雑な印を組んだ。
九尾の封印式を一部解放し、自分のことを『母』と慕う妖狐を呼び出した。


「三重、出て来い!」


呼び出しに応じてナルトの傍らに出現したのは、金色の小さな獣だった。
だが、木の葉で『狐』が疎まれていることを重々承知しているナルトの躾により、すぐさま
人型へと変化する。
ようやく定着したのは、ナルトよりも色の濃い金髪に血色の瞳の、十を超えたばかりの少年
の姿だった。
生意気そうにつり上がった大きな目がナルトを捉え、輝く。


『母様!今日はどうしたの?』

「ちょっと三重に手伝って欲しいことがあんだよ。とりあえず、この鬱陶しい鳥避けながら
西の方向見てみ?」


そう言われて首を巡らせた三重は、ナルトが指したモノをあっさりと見付け、不快そうに眉
を顰めた。
ナルトよりも優れた妖の五感は、夜の闇の中でも昼間同様に物を見ることのできる視力を三
重に与えているのだ。


『黒装束に赤い雲模様……【九尾】はもういないのに、母様を狙ってる連中だね?』


九尾はもういない。
自身も妖狐である三重の言葉は的外れのように聞こえるが、それはそっくりそのまま事実で
あった。
確かにナルトの中には九尾の力があるが、伝説の大妖としてその名を馳せた『九尾』の意識
そのものは、もう随分前にナルトに吸収されてしまっている。
つまり、現段階では『九尾=ナルト』であるも同然で、本来ならば『尾獣』と『人柱力』と
いう枠組みのどちらにもナルトは当て嵌まらないのだ。
ちなみに、三重は人の身体には過ぎた膨大な力を調節するためにナルトが生み出した妖狐で、
その名が現す通り、三尾分の妖力を持っている。
我愛羅に憑いている砂の守閣が『一尾』なのだから、そのチャクラの保有量は半端ではない。
見た目通りの子供だと侮って掛かれば確実に返り討ちに遭う辺り、親(この場合はナルト)
の影響を色濃く受けていることがわかるだろう。
確認するかのように問う三重に、ナルトは『よくできました』とばかりに微笑んだ。


「そ。今回は俺狙いじゃねぇけど、木の葉から禁術書かっぱらって来たらしいから喧嘩して
んの」

『母様、喧嘩大好きだもんね』

「だぁい好き。でも、あんま長引かせんのもアレだから、そろそろ終わりにしよーかと思っ
て。だから三重を呼んだんだ」
『母様の役に立てるなら、三重はなんだってやるよ』


可愛いことを言ってくれる息子に気を良くしたナルトは、息をつく間もなく襲い掛かってく
る鳥に視線を移し、ふいにその動きを止めた。
構えもせずに、無防備に身体を晒したまま三重に指示を飛ばす。


「コイツ等のチャクラ、一つ残らず食っちまえ」

『はぁーい!』


―――――瞬間。
ナルトを守るようにして突如闇に浮かび上がったのは、幻想的なまでに美しい、幾多もの青
い炎だった。
全てを焼き尽くす妖の炎、狐火だ。
ナルトも狐火を操ることができるが、食物から栄養を得る普通の人間(と言えるかどうか定
かではないが)である以上、さすがにチャクラを喰らうことはできない。
そんな芸当ができるのは、妖狐の一族である三重だけなのだ。
理不尽とも思える所業は、だからこそ残酷で、それだけ美しい。
炎に包まれた粘土製の鳥は一瞬でチャクラを奪われ、鈍い音を立てながら次々に地面へと落
ちていった。
最後の一羽もあっけなく地に落ち、一時的ではあるがナルトの身に害を及ぼす物はなくなる。
その隙を、ナルトは見逃さない。
素手であるにも関わらず懐に忍ばせていた鋼糸を取り出すと、鳥を操っていた術者がいるは
ずの方向へ、すかさず鋼糸を放った。
障害物と言うべき木々をも裁断しながら飛んでいった鋼糸伝いに、人の身体に触れた時の、
あのなんとも言えない独特な感覚が伝わってきた。
捕らえたのだ。


「おし、捕獲完了―――――って、おっと!」


どこに隠れていたのやら。
最後の悪足掻きとばかりに、ナルトの暗部面を掠めていった一羽の鳥。
ソレが折り返して再び襲ってくる前に、三重がソレを両手が塞がっているナルトの代わりに
燃やし、今度こそ本当に攻撃が止まった。


『母様、大丈夫!?』


ナルトは心配そうに駆け寄ってきた三重の額を指の背で軽く小突き、安心させるかのように。


「間一髪で避けたから大丈夫。ありがとな、三重。それにしても最後まで油断できねぇ奴だ
った……まぁ、負ける気は全然しなかったけど」


肌が剥き出しになっている部分は擦傷・裂傷のオンパレードだが、この程度なら数十分も立
たずに完治するだろう。
こんな時ばかり九尾の力の副産物に感謝してしまう自分に嫌気を感じつつ、ナルトは禁術書
を回収すべく、暁の人間が拘束されているはずの場所へと足を向けた。
その後に続くのは、これまたナルトの教え通り妖狐のチャクラをできる限り抑え込んでいる
三重だ。
身動きが取れない状態であることは知っていても、それなりにではあるがナルトを手こずら
せた人間が、いきなり『母親』に牙を剥きはしないか―――――そんなことを考え、緊張し
ている様子が窺える。
太くさせた尻尾の幻影を見た気がして、ナルトは苦笑してしまった。
そして、ついに拓けた場所に出る。
かすかに聞こえる忍にあるまじき荒い呼吸音は、相手が負った傷の深さを表していた。
ナルトは大きな木の根元に腰を下ろしている人物を見付けると、彼のプライドを傷付けるど
ころか大槌で叩き潰すかのような科白を平然と吐きながら、月の光の下に身を曝け出した。


「ボロボロにしちまって悪いな、一応手加減はしたつもりだったけど……でも」


アンタ達ってば予想以上に強かったから思わず力んじまったんだよね、と。
酷く、軽い口調で。
それを聞かされた彼は忌々しげに顔を歪めながら、前髪に隠されていない方の目でナルトを
睨んできた。
よほど深く斬り付けてしまったのか、黒装束の肩部分は大きく口を開け、そこから大量の血
が溢れ出ている。
止血のために負傷部分を右手で押さえてはいるものの、もう片方の手はだらりと下ろされた
まま動く気配を見せず、両足も左腕同様投げ出されたままだ。
足が無事なら逃げることも可能なように思えるが、鋼糸の刃に毒性の強い薬を塗ってあった
ため、おそらくそれもできずじまいだったのだろう。
歳は―――――イタチと同じくらいか。
イタチよりも少し短い程度の長髪で、一部分だけを頭の上の方で括っている様はまるで女の
子のようだったが、肝心の女々しさといったモノはどこにも見当たらなかった。
彼が身に纏う雰囲気の得体の知れなさは常人には耐え難いモノかもしれないが、あいにく常
人ではなかったナルトはどうとも思わない。
よく見れば整っている顔立ちは、正統派の美形ではなく『格好良い』という部類に当て嵌ま
るだろう。


「…………木の葉の暗部に、これほどの奴がいるとはね、うん」

「何、自信喪失気味?別に落ち込まなくていいと思うぜ、俺が特別なだけだから」


お前何様的発言も、それが事実なだけに誰にも突っ込まれることはない。
それどころか、三重なんかは自分のことのように誇らしげに胸を張る始末だ。
『母様が強いんだよ。ねー?』

「なー?」

「―――――『母様』?なんだ、ソレ。てめー雄のガキにしか見えねーぞ、うん……いや、
見えなくもねーのか?」

「お前、失礼な奴だな。暗部面で顔わかんねぇと思うけど、俺は正真正銘『男』だ」


ふざけるな、と。
地を這うかのような声と共に漏れ出した怒気に、ナルトの斜め後ろにいた三重が恐怖で顔を
引き攣らせた。
曰く、『母様に向かってあんな恐ろしいことをサラリと言ってのけるなんて命知らずな。コイ
ツ馬鹿だな』である。
身動き一つ満足にできない彼なりの反撃なのかもしれないが、ナルトを挑発するかのような
その態度に、三重の顔色は悪くなる一方だ。
ナルトもナルトで不敬な輩に尽くす礼など欠片もないとでも思ったのか、盛大に笑い飛ばし
た。


「辞世の句はそれで良かったのか?随分独創的だが、まぁ注目はされるだろーな。オメデト
さん」

「はっ!光栄だな。芸術家に、とっては、これ以上とない誉れだ、うん」

「驚いた、名誉とかそういった類のモノに価値を見出すよーな人間には見えねぇのに。慣れ
ねぇことは言わねぇ方が身のためだぜ?ほーら、今にも死にそーじゃん」


そう言って、おもむろに足を上げると。


「―――――っ!」


よりにもよって最も傷が深い左肩を、傷口に当てられた手ごと容赦なく踏み付けたのだ。
悲鳴を上げるという醜態をかろうじて免れた彼は、しかし、顔を伏せたまま一言も発しなく
なってしまった。
失神してもおかしくはない痛みに耐えるとは、『さすが暁』とでも言うべきか。
その様子を見てわずかに気分が浮上したナルトは、五月蝿い口が何も言わなくなったのをい
いことに投げ出された彼の足の隣りに膝をつくと、無理矢理右手を引き剥がし、無言で黒装
束の合わせを開いた。
驚いたのはナルト以外の二人だった。


「てめ、何を…………っ」

『母様!?』

「なんだっていいだろ。別に今回は『殺す』つもりでドンパチやってた訳じゃねぇし」


お前等のことエロ仙人から離れる口実にさせてもらったからな、と。
言いながら、自らが付けた傷を診察する。


「…………ん、綺麗なもんだ。さすが俺、組織の結合が楽で助かる。三重」

『―――――なぁに?』

「途中で捨てて来た傀儡野郎、まだそこら辺に転がってると思うから回収して来い。とりあ
えず生かしてはある」

『えー……ホントに助けるの?母様を殺そうとしてた連中なのに』

「三重、言うこと聞かねぇと捨てるぞ」


決定的な言葉にビクリと両肩を震わせた三重は、やがて観念したかのように項垂れた。


『…………行って来ます』

「あぁ」


この場を離れて行く三重を振り返ることなく背中で見送ったナルトは、血に濡れることを厭
わず、壮絶なことになっている傷口に溜まっていた血を清潔な布で拭い取り、応急処置を施
し始める。


「俺、医療系の術とかあんま使えねぇけど、とりあえず命の心配はなくなるよーにするから。
帰ったら自分でなんとかして」

「…………お前、馬鹿だろ?」

「『馬鹿』っつーのは、せっかく人が助けてやろうとしてんのに、減らず口叩きやがる人間の
ことを言うんだよ。そーゆー自分の立場を弁えねぇ奴には塩塗り込んでやるからな」


もちろん、そんなことをするはずもないのだが。
もしも本当に手元に塩があったら、その衝動を押さえ込むことができずに降伏していたかも
しれない。
ナルトは彼の傷口に直接触れた手の平に自身のチャクラを集め、傷口を塞ぎに掛かった。
九尾のチャクラであれば治癒速度はもっと速いのだが、いくら暁の一員でも妖のチャクラを
受け付けられるかどうかは本人の体質に左右されるため、それを用いることはない。
それに、軽々しく九尾の力を使うことで、今この場で自分が『九尾の人柱力』なのだという
ことを教えてやる必要性などないのだ。
熱を持った傷口が徐々に塞がっていくのを確認しながら、ナルトは再び口を開く。


「身体、麻痺してんの?」

「―――――でなきゃ……んなことさせるかよ、うん」

「それもそーだな」


すぐに納得したナルトは、とりあえず現時点ではそれ以上出血する心配のなくなった肩の傷
から手を離し、外套の下から腰のポーチの中を探った。
感覚がなくなっているということはつまり、鋼糸に塗ってあった毒が全身に回ったというこ
と。
早めに毒を消さなければ、一時間もしないうちにあの世逝きだ。
取り出した茶色の小瓶の栓を抜くと、彼の目の前で小さく振る。


「コレ、解毒薬なんだけど自分で飲め……なさそーだな」


彼は何か言いたげにナルトを見てきたが、もはや返事をするだけの気力もないようだ。
仕方ねぇな、と。
溜息をついたナルトは、一切の迷いを見せず外套のフードと暗部面を外した。
露わになったのは、零れ落ちる鮮やかな金と深みが増した青。
苦悶の表情を浮かべながらも、その鮮やかな色彩に圧倒された彼は息を詰めながら目を見張
った。


「そーそー。そのまま大人しくしてろよ?」


目を細めて笑ったナルトは小瓶の縁に口をつけ、その中の液体を含み―――――。


「!」


『大人しくしてろよ』も何も、そうすることしかできない彼の唇に、自分の唇を躊躇うこと
なく重ねた。
その瞬間、心なしか彼の身体に力が入った気がしたが、たとえそうだとしても毒に侵された
身体ではナルトの行動を止められるはずもない。
―――――どれほどの時間、そうしていただろうか。
やがてゆっくりと唇を離したナルトは、顔を顰めながら手の甲で口を拭った。


「うぇーやっぱコレ不味過ぎ……即効性なのは魅力的だけど、味の研究もしてほしいぜ」

「―――――信、じらんねー……」


何がって、解毒薬の味と、そして何より完全に彼の不意を突いた形となるナルトの行動だ。
長々と息を吐き出しながら天を仰ぐように顔を上げた彼の一連の動作を見たナルトは、その
効き目の早さに素直に感心してしまう。


「ばーさん、さっすがー……まだしばらく辛いだろーけど、どんな感じ?」


ナルトに問われ。
胡乱気な顔をしながらも、緩慢ではあるが『手を握る、開く』の動作を繰り返して身体の具
合を確認した彼は、居心地が悪そうにナルトを見直してきた。


「…………さっきよりは、割とイイ感じ」

「良かったじゃねぇか」

「良くねー。コッチは襲われた気分だぜ、うん…………」

「なんで俺がテメェなんかを襲わなきゃなんねぇんだよ?一方的に被害者面すんなよな。も
とはと言えばお前 ; 等が先に仕掛けてきた喧嘩だろーが。それを親切にもこーしてアフターケ
アしてやってんだ、感謝されこそすれ非難される覚えは欠片もねぇんだよ。あんまフザケた
ことぬかしてっと今度こそマジで殺すぞ」


そのつもりであれば難なくやってのけるだけの実力があるため、ナルトの科白はそれだけ洒
落にならない。
毒づきながら側に置いてあった暗部面を拾い上げたナルトは、汚れを手で軽く払い、面を付
け直した。
すでに素顔を晒してしまっているため、わざわざ視界を狭めるような真似はせず、暗部面の
位置は顔の側面だ。
そうしてから、『はい』と両手を差し出す。


「…………なんだよ」

「『なんだよ』じゃなくて、かっぱらってきた禁術書。アレ返してもらわねぇと俺が困る」

「返さねーっつったら?」

「たった今まで死に掛けてたテメェとピンピンしてる俺……この状況でそれが言えるなら言
ってみろよ」


クツリ、と。
ナルトが咽の奥で笑うと、彼は軽く頭を掻きつつ、諦めたかのように両脇に身に付けていた
大きめのバックから奪還指令が出されていた例の禁術書を取り出した。
巻物状のそれを受け取ったナルトは、見覚えのない装丁に目を輝かせ、語尾を弾ませる。


「あ、コレ見たことねぇや!もしかして当たり?」


自己完結口調が特徴の彼でも、そんなことがわかる訳がない。
鼻歌でも歌いだしそうな御満悦顔で紐を解いたナルトは、あろうことか巻物を奪った人間の
前で堂々とソレを広げた。
慌ててしまったのは彼の方である。


「おい!」

「あんだよ」

「て、てめー何考えてんだ、うん」

「『何考えてる』って、コレのこと。火影邸にあった物は読破したつもりだったのに実はそー
じゃなかったら、とりあえず拝見させて頂かねぇと。これ世の中の常識だぜ?」


訂正、『ナルト限定の』だ。


「だからって何も今ここで……やっぱ馬鹿だな、うん」

「『馬鹿馬鹿』って、ホント五月蝿い口だな……あのな、俺が聞いた限り巻物の奪還とアンタ
等の抹殺が今回の任務であって、禁術書の漏洩阻止に関しては聞いてねぇんだよ。だから別
にいいんじゃねぇ?」

「木の葉の忍だってのに?」

「確かに俺は木の葉に身を置いてはいるが、あいにく妄信的に尽くすほどの義理はねぇよ。
それに、内容知ったって使えるかどうかは別問題だし……何、敵の心配してくれてんの?」

「な訳ねーだろ。興味があるだけだ、うん」


そんな彼の物言いに声を上げて笑ったナルトは、胡坐を組んで座り直し、膝の上で頬杖をつ
くような体勢で挑戦的に彼を見上げた。
どこかで見たことがあるような綺麗な顔立ちと、少年らしくすらりと伸びたバランスの良い
手足が、深刻な会話の内容とは逆に愛嬌を感じさせる。


「不都合はこれと言ってねぇな。暗部を辞められるならそれで万々歳だし、里から叩き出さ
れたらもう言うこと無しだ。大体うちはイタチも野放し状態な訳だし、自里の抜忍じゃねぇ
奴を始末し損ねたって処罰の対象になる訳ねぇじゃん―――――っつーか、コッチの俺にそ
ーゆーこと言える奴なんて木の葉にはいねぇよ」


『だって俺、よく知らねぇけど総隊長みてぇだし』との付け足しに、彼が信じられないとばかりに目を剥く。

「―――――『総隊長』って……冗談だろ、うん」

「はぁーい、それを否定するならまず、こんなガキ相手に殺されかけたアンタ自身を否定し
て下サイ」


彼にとっては実に腹立たしいことであるが、ナルトの主張には非の打ち所が一切ない。
ナルトは穴が開いてしまうのではないかと思ってしまうほど自分を見詰めてくる彼を綺麗に
無視し、再び禁術書に意識を戻した。
紙面上に書かれているのは、禁術書が作製された当時の気象記録。
だが、それが目晦ましであることは誰に言われる訳でもなく承知の上だ。
保管庫にある物と同じ印で閲覧できますようにと祈りつつ印を組むと、気象記録が透けてい
き、その代わりに下から違う文字が浮き出てきた。


「うし、ビンゴ!」


小さくガッツポーズ。
内容は全て暗号文で書かれているが、今まで懲りもせずに繰り返してきた悪行のおかげで三
代目の暗号文の癖を知り尽くしているナルトにとって、それはたいした問題ではない。
始めこそ嬉々として解読しに掛かっていたナルトも、術の概容を把握していくうちにその表
情を曇らせていった。
物憂げに伏せられた碧眼は陰りを帯びたモノに変わったが、ナルトの魅力が損なわれる理由
にはならない。


「―――――尾獣を人柱力から引き剥がす術じゃんか。コレはちょっと、なんつーか頂けね
ぇなぁ…………」


当事者としては、迷惑なことこの上ない。


「あーあ、見るんじゃなかった。胸糞悪ぃ…………」

「なんだってお前が胸糞悪くなるんだ、うん」

「知らねぇよ。彼の有名な四代目火影様も、これとほぼ同種の術で命を落としたんだっけっ
て思っただけ。やっぱコレ見せてやんねぇ……俺のせいで各地に散らばってる人柱力が死ん
だりしたら、それこそ胸糞悪ぃからな」


苦々しい顔をしながら禁術書を巻き取ったナルトは、さっさと紐を結び直してしまう。


「勝手な奴だな、うん」


呆れ返って他に言いようがないらしい彼を一瞥したナルトは、澄まし顔で反論した。


「勝手で結構。命が助かっただけ儲けもんだと思って、それで我慢しとけよ。『二兎を追う者
は一兎をも得ず』って言葉、まさか知らねぇ訳じゃねぇだろ?」


はっきりと口にされることのない、遠回しな脅しの言葉。
眩しそうに目を細めた彼は、感慨深げに言った。


「…………てめー芸術的な顔してるくせに性格最悪だな、うん。よく『詐欺だ』って言われ
るだろ?」

「そうそう、よく言われる―――――って、ちょっと待てや。今なんつった?」


最初の部分に、何かよくわからない言葉が。


「どこからどう見ても芸術的だろ、自覚ねーのか? その顔……っつーか、造形?一つ一つの
パーツといい、その配置バランスといい、下手したら人形以上に完璧だぜ。近年稀に見る逸
材だな、うん」


なんか話がずれてやいませんか?


「ゴ、ゴメン、何言ってんのかよくわかんねぇんだわ……端折って説明してくんない?」


彼は、なぜか胸を張って堂々と答えた。


「つまり、生きた芸術品に対する『愛』って訳だ、うん」

「??」


ますます理解不能。
ナルトの頭の上に浮かぶのは、幾つもの疑問符だ。


「外見だけならサソリの旦那が好みそうなタイプだけど、美しいに越したことねーし、てめ
ーの中身はオイラの芸術の尺度にピッタリだからな、うん。気に入った、お前オイラのもん
になれ」


どうやら毒の効果が完全に抜けたらしい彼が、ナルトの方に身を乗り出した。
こんなことなら遅効性の解毒薬にしておけば良かったと思ったが、今更そんなことを考えて
も後のまつりである。
そもそもこの解毒薬は、(一生ありえないだろうが)誤って自分が鋼糸の毒に侵された時のた
めに保持していたものなのだから、非常時―――――たとえば戦闘中という切羽詰まった時
に遅効性の解毒薬ではまるで意味がないのだ。
妙に真剣な顔をして迫ってくる目の前の彼に危機感を覚えたナルトは、地面に手をついてわ
ずかに後ずさったが、外套ごとその手を掴まれてしまう。


「あ、暁って皆そーな訳?俺、イタチにも大蛇丸にも似たよーなこと言われたことあんだけ
ど…………」

「イタチと大蛇丸……?アイツ等、ソッチ方面には興味ねーって顔してたくせにいつの間
に!」

「いや、この際問題はそこじゃねぇと思うんデスが―――――」


二人が普段どんな面をしていようが、ナルトは一向に構わないのである。
ただ、自分にさえ被害が及ばなければ。


「言っとくけど、俺を暁に勧誘しよーったって無駄だかんな」

「なんでだよ?木の葉に義理はねーんだろ、うん」


―――――よく覚えていらっしゃいマスこと。
ナルトは、自分の行動の何がいけなかったのか考えてみた。
素顔を晒してしまったこと、口移しで解毒薬を飲ませてしまったこと、自分の中身が彼の『芸
術の尺度』とやらにピッタリだと思わせるような会話をしてしまったこと―――――考えて
みて、視線を遠くに放り投げつつ自嘲気に笑った。
参った、全部じゃないか。


「…………お前、名前は?」

「デイダラ」

「あのな、デイダラ。俺、実は」


言いかけて。


『下等な人間の分際で母様に手を出すなぁ―――――っ!』


デイダラ目掛けて投げ付けられた、子供の頭ほどの大きさの物体。
即座にナルトから身を離したデイダラは最低限の動きで上手く避けたが、その拍子に傷口が
痛んだのか、肩を押さえて舌打ちする。
間を置かずに声が割り込んできた方向を見れば、黒装束姿の男の襟を掴んで仁王立ちしてい
る三重の姿が。
脇に抱えているのは、ナルトが容赦なく破壊した傀儡の部品だ。
どうやら律儀にも拾い集めてきたらしい。


「三重…………」


安堵の息を洩らしてしまうのは、この際仕方のないことだろう。


『まったく、どいつもこいつも油断も隙もないんだから!』


力強い―――――と言うよりは荒々しい足取りで歩み寄って来た三重は、子供子供した外見
に反して片手のみで引き摺っていた男を、まるでナルトへのデイダラの接近を隔むように乱
暴に捨ててのけた。
繰り返しておくが、この男とて重傷を負っている身である。
三重を窘めようとしたナルトは、視界に入った新入りの顔を見て開きかけた口を閉じた。
実年齢不詳(と言ってもナルトよりは確実に年上だが)の、どこか少年めいた雰囲気を持つ、
イタチとはまたタイプが違う綺麗なその顔。
なるほど。
あんな物々しい傀儡の中にはこんなモノが詰まっていたのか。


「…………この状態のサソリの旦那は久々に見るな、うん」

「そーなんだ?傀儡思いっきりブッ壊しちまったけど……お前ほど酷くはなさそーだな。肋
骨がニ、三本ってトコか。ただ、ブッ壊す前に幻術掛けたから精神的ダメージの方が酷ぇと
思う。それにしても」


もう一度デイダラを見て、次にイタチを思い浮かべたナルトは、首を傾げながら感嘆するよ
うに。


「暁のメンバーになるための条件って顔な訳?鬼鮫さん仮面説が濃厚になってきたんだけ
ど」

「アイツはオイラ達もよくわかんねー……って、何さりげにばっくれようとしてんだ、うん」

「あ、バレた?」


三重に引っ張られるような形で立ち上がりかけていたナルトは、デイダラに気付かれて苦笑
いをする。


「だぁってなんか今のうちっぽかったし。まぁ、いーじゃん。俺等ホントは敵同士で、ここ
でこーしてたこと自体がイレギュラーだったんだから―――――っつーことで、サヨナラ」

「おい、せめて名前ぐらいは教えろよ!」


必死に食い下がるデイダラが何やら不憫に思えて、ナルトは眉をハの字にした。


「なんだってそこまで俺に固執するかなぁ…………」

「てめーにはそれだけの価値があるからだ、うん」 

「お褒め頂きありがとーございマス。でも、今名前を教える必要はねぇな」

「なんでだよ?」

「だって」


ナルトは目を据わらせた三重を片手にぶら下げた状態で、綺麗に笑んで見せた。






「お前等が本格的に動き出せば、どーせ嫌でもわかっちまうもん」

□■□   □■□   □■□







「あのさ、いくら尾獣が欲しいからって俺の弟分勝手に殺さないでくんない?」


暁の本拠地突入早々。
横たわった我愛羅と側に立つ二人の男の姿を見たナルトは、機嫌の悪さを隠そうともせずに
開口一番そう言った。
硝子玉のような瞳に宿っているのは、剣呑な光。


「お前―――――っ!」


服装こそ違うものの、鮮烈な色彩を持つナルトは彼にとっては忘れられない人間で。
この状況で現れたナルトが一体何者なのか、結論を出すことはそう難しいことではなかった
らしい。


「イタチの奴が渋ってた訳だぜ、うん……まさかてめーが九尾の人柱力だったとはな」

「そーゆーこと。久し振りだな、デイダラ。そっちの傀儡野郎も元気そーじゃねぇか」


そう言って、ニヤリと笑う。
あまりの豹変振りにぎょっとした同班の少女や銀髪覆面の実に怪しい上司、砂の里から同行
している死に掛け老婆といった三人には構わず、ナルトは続けた。


「早速だけど、我愛羅は返してもらうぜ?」

「あぁ?てめーほどの奴が何言ってんだ。わかるだろ?コイツはもう死んでるぜ、うん」

「ばぁーか、なんのために俺がココにいると思ってんの?まだ間に合うからだ。俺だって一
応人柱力―――――対応策の一つや二つ、用意してあるに決まってるだろーが。あんま尾獣
の長をなめんじゃねぇよ」


繊細とも言える綺麗な顔立ちからはとても想像できないような絶対的な存在感に、デイダラ
とサソリは同時に息を呑んだ。
引きずり込まれるかのような底なしの青に魅せられた人間は、大抵ナルトに抗うことができ
なくなる。
しかし、そこは暁の人間―――――自分達とナルトの間にある圧倒的な力の差を実際に目の
当たりにしていても、あの夜の言葉を撤回する気は微塵もないらしい。
本能的恐怖からくる震えと武者震いの両方を体験しているかのような顔をしたデイダラが、
口元を歪めて笑う。


「―――――やっぱ最高だな、うん。てめーの名前は?」

「うずまきナルト」

「よし、ナルト。オイラが勝ったらお前を寄越せよ」


二回目の口説き文句は、変化球なしのストレート。
ナルトは一瞬だけ面喰らったが、今度は動揺することなく更に笑みを深めた。
ふわりと花開くような笑い方に相応しい、不思議な安定感を持つ涼やかな声で。


「この前のリベンジか……いいぜ、テメェが勝ったら俺をくれてやる。始めに言っとくけど、
俺も我愛羅の件があるから手加減するつもりはない。本気でいくぞ?」

「上等だ、うん」






第二ラウンド、開始。







                               

 ― END ―





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