二人の『影』

 

 

 

里の最高権力者である『風影』が常時詰めている執務室にて、とある緊急通達文に目を通し

ている少年が一人。

鮮やかな赤が目を引く短髪と額の『愛』の文字が特徴的な彼は、十代半ばの年齢にも関わらず、上層部の人間のみが着用を許される礼服を身に纏っていた。

彼の眼差しは厳しい。

―――――いや、そもそも彼の眼差しが柔らかい方が珍しいのだ。

もしも彼の年上の兄弟辺りがそんな光景を目の当たりにしてしまったら、『気でも狂ったの

か』と騒ぎ立てるほどの異常事態なのだが、それでもやはり状況が少年をそうさせるのか…

…紙面の上を走る暗号文を、普段以上に険しい目で無言で睨み続けている。

そしてふと、顔を上げた。

 

 

「…………木の葉の火影が失踪したそうだ」

 

「へー」

 

「再三の帰還要請にも応えず、各地を回り続けて三年―――――ようやく帰郷したかと思え

ばそれは供の者も気付かぬうちに作り出された分身の方で、本物はいまだに姿を晦ましたままらしい」

 

「ふーん。それで、木の葉はなんて?」

 

「『貴殿の下に立ち寄られた際には、是非とも捕獲して頂きたい』と言ってきている」

 

「うわ、捕獲ときたか!まるで躾がなってない動物扱いだな」

 

「事実そうなんだろう。まったく、火影ともあろう人間が何を考えているのやら…………」

 

「俺等みてぇな凡人に、偉大なる木の葉の五代目火影サマの考えることがわかる訳ねぇじゃん」

 

「そうだな、捕獲するつもりで挑んでも軽く返り討ちに遭うだけだ。刺し違える覚悟で挑ま

ないことには、まず足も止めさせることもできやしないだろう」

 

「さすが風影殿、俺のことをよくわかっていらっしゃる」

 

 

噛み合わない会話。

そんな中。

満面の笑みを浮かべたのは、『風影サマ』と呼ばれた―――――本来ならば敬われるべき少年の前だというのに、ソファーの上にどっかりと腰を下ろした状態で踏ん反り返っている小柄な少年だった。

透明度の高い、硝子玉のような大きな瞳は空色。

額当てを外しているせいで下りている髪は太陽というよりは月を思わせる金色で、金と青の

色彩が目にも鮮やかだ。

前髪の間から覗く目は笑みの形に型取られ、風影との会話の中で何か面白いモノを見付けたとでも言うように、殊更綺麗な光を放っている。

そんな少年を一瞥した風影は、茶番の終わりを宣言するかのように重い口を開いた。

 

 

「帰れ」

 

「嫌デス。アッチには綱手のばーさんがいるんだから、何も俺の不在で困ることなんてねぇ

もん。里の大事ならともかく、そんな話は聞かねぇし?もう少し監獄の外で思いっきり青春

を謳歌させて頂きマス。―――――っつーことで我愛羅、しばらく俺を匿え」

 

「…………なぜこの俺が『火影失踪』の片棒を担がなければならない」

 

「そりゃあお前、俺が我愛羅の先輩だからだろーが」

 

「忍の世界には年功序列の類の観念などないだろう」

 

「もちろん、この業界は実力だけがモノを言うからな。だから協力しろっつってんじゃん」

 

 

俺の方が強いんだから、と。

風影相手にキッパリと言ってのけた少年に、我愛羅は嘆息した。

 

 

「…………ナルト、俺は木の葉に恨まれるのは御免だ」

 

「大丈夫だって。もしそーなったとしても上層部の極一部だし、フォローぐらい入れてやる

かもしれないから」

 

「だから嫌だと言っている」

 

 

金髪碧眼の少年―――――うずまきナルトは、そんな我愛羅の言葉を耳にして静かに目を細めた。

先程までの砕けきった口調を威圧的なモノへと変え、自分の頼みを容赦なく切り捨てた我愛

羅に、全身が粟立つような鋭利な視線を向ける。

 

 

「…………つい先日『風影』に就任したばかりの青二才が、この歳で七年も現役張っている

先輩に対して随分な口を利くものだな?思い上がるのもいい加減にしろ」

 

 

木の葉での『うずまきナルト』しか知らない人間が見たらナルトの正気を確認せずにはいら

れないほどの、その変貌振り。

しかし、それもそのはず。

ナルトが木の葉の下忍であることに間違いはないが、それは事実であって真実ではなかった。

時代劇風に言えば、『万年ドベのドタバタ忍者』とは世を忍ぶ仮の姿。

しかしてその実態は、木の葉の里の五代目火影―――――だったりする。

世間一般で『木の葉の里の五代目火影』といえば『伝説の三忍』として名高い綱手姫が該

当するが、綱手はあくまでナルトの隠れ蓑でしかなく、里の存続に関わるような大事が起き

た時を除き、日常の業務は全てこなしてもらっているのだ。

ここで明らかにしておかなければならないのは、『ナルトは名ばかりの火影ではない』という

ことである。

息をつく間もなく送られてくる刺客に応戦しているうちに血筋とも言える忍としてのすさま

じい才能は開花したし、合間を縫って三代目に叩き込まれる『火影としての知識』も、労せ

ずして手に入れることができた。

そんなナルトが真実『火影』になったのは、わずか八歳の時のことだ。

故に、ナルトが我愛羅を『青二才』と貶すのも、十五歳という年齢にも関わらず七年という

火影としての経歴を思えば、何もおかしなことではないのである。

 

 

「―――――なぁんて」

 

 

嘘だよ、と。

威圧的な態度を一変させ、ナルトはニコリと笑った。

 

 

「いつかは帰るさ。でも今は帰らねぇ」

 

「…………なぜ」

 

「さっきの会議で話が出ただろ?近々、暁が大きく動く。俺はその警告に来たんだよ」

 

 

その言葉に興味を示したのか、ナルトを見る我愛羅の目が変わる。

 

 

「奴等が欲しがっているのは俺等の中の化け物だ。現時点で確認されている近場の尾獣は、

お前の『砂の守閣』と俺の『九尾』の二匹……人柱力の名前も、当然知られている。三忍の

自来也が付いている俺とお前を比べて、どうやらアチラさんは我愛羅の方を優先したらしい

ぜ?風影相手とはいえ、お前の中の砂の守閣は所詮『一尾』だ。手頃だとでも思ったんだろ」

 

「手頃だと?コレが?」

 

 

どうやら、今のナルトの科白は我愛羅にとっては納得しかねるモノだったらしい。

この世に生を受けてから風影になるまで、砂の守閣のせいで散々な目に遭ってきた我愛羅にしてみれば、聞き捨てならないと思ってしまうのも仕方のない話だ。

 

 

「そこで尖るなよ。尾獣がどれだけの力を持っているのか……ソレを欲しがるくらいだから、

おそらく奴等も承知の上だ。俺だって砂の守閣は弱くねぇと思うぞ。ただ、九尾とは格が違

うだけの話で」

 

 

ナルトとしてはフォローのつもりなのだったのだが、その言葉は再度の貶しも同然だった。

我愛羅は思い切り顔を顰めたが、実際にその口から抗議の声が出ることはない。

尾の数と尾獣の強さは比例傾向にあるため、一尾の砂の守閣と九尾とでは、比べられた砂の守閣の方が気の毒だ。

我愛羅もそれをわかっているため、あえてそこでは何も言わない。

 

 

「奴等はツーマンセルで動く。俺の場合、三年前の時点では木の葉の抜忍の『うちはイタチ』

と霧隠れの抜忍の『干柿鬼鮫』が担当だった。お前がどうなのかはわからねぇが、少なくと

もツーマンセルのうちのどちらかは人柱力がいる土地―――――もしくは、人柱力本人に精通している人間だと思った方がいい。気を付けろよ」

 

「うちはイタチ?」

 

 

我愛羅の言わんとすることを察したナルトは、唇の両端を持ち上げ、笑う。

 

 

「うちはサスケの実兄。最後の『うちは』は兄弟揃って里抜けやらかしてんの。それでもっ

て表の俺はサスケと、コッチの俺はイタチと因縁がある……そう考えると劇的だろ?」

 

「お前の存在自体、すでに充分劇的だと思うが……もともと知り合いなのか?」

 

「まぁな。里抜けするまで、イタチは俺の護衛だったから」

 

 

それだけ言い、ナルトはその話を完結させた。

たとえどれだけ待ってもそれ以上の答は望めないと思ったらしい我愛羅は、やがて諦めたかのように嘆息する。

我愛羅がそうであるように、ナルトにも踏み込まれたくはない領域というモノがあることを、

我愛羅もまた察したのだろう。

ナルトにしてみれば、別にイタチとの間に気まずい事もやましい事も何一つありはしないの

だが。

それから更に数秒の沈黙の後、我愛羅は木の葉からの緊急通達文を巻き取り、執務机の上にぞんざいに放った。

 

 

「―――――忠告、感謝する。数日なら砂に滞在することを許可しよう。だが、公式な訪問

でない以上こちらにも限界がある。潜伏場所が木の葉にバレても庇うつもりはないから、そ

のつもりでいろ」

 

「へーい」

 

「…………風影として、そしてもちろん一個人として、火影殿の早期の帰郷を切に願ってい

る」

 

「考慮しよう、風影殿」

 

 

 

 

 

 

ナルトの笑みを見れば、そのつもりがないことは明白だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

一言 < 『虚像の里』設定のナルト君が、風影があらんのトコロに遊びに来てたら〜の話。

     時間軸は第二部開始直後。本誌の展開に満足し、二人が仲良しこよしで真面目に

嬉しい今日この頃……あああああ、でもそれ以上に気になるのは、『サイ』ってい

う名前の彼!!すげぇ、いまだかつてナルト君にあんな科白吐いた人いねぇぜ☆

     …………でもアレって、実際には少年よりも世の乙女達が血走った目で読み漁る

雑誌的にどうなの?本当にいいの??

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