突然の台詞。
それはナルトを困惑させるのに充分な威力を持っていた。

一期一会 〜前編〜

「はぁ?世話係?」

「うむ」

(何考えてんだ、このジジイ)
丸みを帯びた輪郭の幼い顔を思いきり顰め、ナルトは目の前の飄々とした古狸の顔を見つめた。
現在のナルトは四歳。
複雑すぎる環境のせいで普通の子供の比ではない程大人びているが、本来ならばまだまだ大人の庇護が必要な年齢だ。
訳あって両親がいないナルトの保護者は三代目火影、その人になっているが、常に多忙な火影がナルトの身の回りの世話をできるはずがない。
必然的に火影ではない他の誰かがその役目を担うことになるのだが、ナルトにしてみれば、それは無謀以外の何物でもなかった。
今までに三代目から幾人かの世話係を与えられてはいたものの、食事に毒を盛られるは(もちろん事前に察知)、隙を見せれば襲われるは(そのため極度の不眠症になった)、良い思い出などあろうはずもない。
それ以来、世話係の手を借りずともある程度のことは一人でやってこれたというのに、今更何を言うのか。

「かなりの高齢だとは思ってたけど、ついにボケたか」

「わしは正気じゃよ。それについては前々から考えておった」

「『前々から』って…………なんでだよ。その必要ないじゃん」

「いや、そうでもないじゃろう。世話係兼教育係じゃからの」

「教育係ぃ?」

思ってもみない、予想外の台詞。
『どういうことか』と首を傾げ、ナルトは続きを促した。

「独学も結構じゃが、将来忍になるつもりなら、しっかりとした指導を受けた方が良いじゃろう。今のままでも中忍程度の力はあるが、それで満足するようなお主ではあるまい?」

確かに、自分の今の実力に満足してはいない。
絶えず送り込まれてくる刺客に対応できるだけの力は、幾多もの死線を潜り抜けて手に入れることができたが、それがいつまでも通用するだろうか。
今までは対処してこれたからいい。
だが、ナルトよりも確実に実力が上の人間に襲われたらそこで終わりだ。
もっと強くなる、その必要性はひしひしと感じる。
そして強くなるには、どんな形であれ、他人の手助けが不可欠になるだろう。 ただし。

「満足なんかしてないし、強くなりたいとも思うけどさ…………俺、忍になるなんて言ってないじゃん。なんでソッチの方向に話を持ってくんだよ?」

「アレの息子じゃからのう。口で何を言おうが、行き着くところは同じだろうて」

そう言って、火影は一瞬だけどこか遠くを見やった。
自分の腹に九尾を封印するだけ封印してさっさと死んでいったという『英雄』を思い浮かべ、ナルトは苦虫を噛み潰すような思いだ。
ナルトは、無表情のまま『あーそー』と感情がこもっていない生返事を返し、更に続きを促した。

「暗部の内、誰か一人を就けようと思っておる。どうじゃ?」

「―――――って言われてもなぁ…………」

火影直属の暗部なら、以前何人かとは接触したことがある。
何も危害は加えられなかったし、普通に話しかけてくれた。
任務とはいえ護衛にも付いてくれたし、それに何より、火影が信頼している人物だから信用はしている。
命を狙われる心配がなく安心して修行ができ、しかも身の回りの世話までしてくれるということは、今のナルトにとっては願ってもないことなのだけれど。

「でもそれじゃあ、その暗部の人が気の毒だって。世話係とか教育係とかたいそうなこと言っても、所詮はただの子守りじゃん。かなりの時間を俺に拘束されるってことだし、そんなんで暗部の人になんの得がある訳?」

ナルトは身を乗りだして、『ないよね?』と付け足した。
とても四歳児とは思えない物言いに、今更ながら、火影は苦笑することしかできない。

「それは当人の問題じゃ。お主が口だしするところではない」

「…………そういうもんか?」

「そういうもんじゃ」

「わっかんねぇなぁ〜だって俺に関することなのに」

納得いかない、と。
ナルトが盛大に眉を寄せ唸っていると、火影は孫を慈しむようなソレデ目元を和ませた。

「それはおいおいわかるじゃろうて。それより候補は絞ってある。いずれも、お主がよぉ知っとる奴等ばかりじゃ。その中から選ぶことになるじゃろうが、それで構わんか?」

「…………それって拒否権はあんの?」

「もちろんじゃ。お主が本当にいらんと思うなら、わしはもう何も言わん。じゃが、お主がその気になれば最高の教育を受けさせる準備があると知っていてほしい」

『それが、お主にしてやれるせめてもの罪滅ぼしじゃからの』と言った火影は、常より老け込んで見えた。
なんとなく居心地が悪くなったナルトは火影から視線を外し、自分に与えられている十二畳の薄暗い和室を見回した。
火影邸の中に組みするその隠し部屋は、里人から疎まれ憎まれるナルトのためだけに作られたものだ。
物欲のないナルトの部屋には必要最低限の物しか置かれておらず、どこか冷たい雰囲気を醸し出していた。
部屋の隅にある燭台の蝋燭に灯った炎が、音を立てて蛾を燃やす。
一瞬にして炎に包まれた蛾は灰混じりの小さな塊となり、力なくその場に落ちた。
その様子を視界の端で捕らえ、ナルトは目を細めて嘆息する。

「ん、考えとくわ」

「そうか」

「用件がそれだけならさっさと帰れよ。本来なら健康優良児はとっくに布団でイビキかいてる時間だぞ。それに、じっちゃんのそのご老体にもきついだろ」

「なんの、わしはまだまだ若いぞ?」

心外だとばかりに薄い眉を上げる火影を、鼻で笑う。

「気だけだろ。じっちゃんだってもう若くないんだ。ただでさえ火影職で暇なしなのに、寝れるときに寝ないでどうすんだよ?ほら、さっさと帰りやがれ」

「やれやれ、手厳しいの。『嫌だ』と言ぅたら酷い目に合いそうじゃ」

火影が軽口を叩きながら大儀そうに腰を上げたのを見て、ナルトは犬を追い払うようにシッシッと手を振った。

「よぉ休め」

「あぁ」

短い会話の後、火影は襖の向こうに消えていった。
消されてはいない気配が完全に遠ざかったのを確認し、詰めていた息を吐き出す。
無意識の内に緊張していたのだろう。
思ってもいない火影の申し出には、正直大変戸惑った。
(悪い話じゃないんだよなぁ〜。さて、どうするか…………)
だが、初めから答など出ているのだ。
ナルトはしばらく悩んだ後『まぁ、いいや』と決断の時期を先送りにし、大きく伸びをした。
そして、大儀そうに立ち上がっていた火影とはまるで正反対の身軽さで立ち上がる。

「さてと、気分転換に散歩にでも行きますか…………」

普段、堂々と陽の下を歩けないナルトは、時々こうして夜中に出歩くことがある。
さすがのナルトも換気窓しかない、陽の光も届かないような部屋に閉じ込められたままでは、嫌気が差すとしいうものだ。
そんな時に、火影の計らいによって造られた隠し通路を通り、外界へと繰り出す。
けして安全とは言えないが、意外にもナルトはこの時間を気に入っていた。
(今夜の天気はどうだろ)
とりとめもないことを考えつつ、ナルトは畳に手をかけた。
その真下にある石畳の通路を歩く足取りは、軽い。



†††††後書き†††††

やっとこさ更新しました。
前々からの予告通り、イタチとナルトの出会い編です。
でもイタチ兄、影も形も出てきません。
次はちゃんと出てきます。
だって後編だし、そこで出なかったらホントに出番ありませんもの。
『出番がない』といえば、イタチ兄は今一体どこにいらっしゃるのでしょうか。
九尾を追ってることは確かなので以外とナルトの近くにいるのかもしれませんが、それにしても遅い!でも今週号のNARUTOを見て、(自来也も連いてこないみたいだし、もしかして再接触が近いのか?)と密かに期待し始めました。
早く本誌でイタチ兄の姿を拝みたいです。
そうすれば執筆ペースも上がるのに☆(←は?)
就職活動で忙しい日々を送っていますが、なるべく早く更新するように努力します。
特に後編は。
まぁ、更新した時は、現実逃避を図ったんだなと思って下さい。
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