この話は宿願の設定を借りた、ほぼ原作沿いの短編小説です。
時間軸は第一部終了後に当たるため、当然サスケは里抜けしており、ナルトも不在です。
そのことを踏まえて先へとお進み下さい。








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大切なモノがあった。
目を逸らしてはいけないことがあった。












認識と自覚












サクラがまだ生まれるか生まれないかの頃、木の葉の里を混乱と恐怖の中に陥れた伝説の大
妖、『九尾』。
四代目が自らの命と引き換えに封印したと伝えられている九尾は、しかし、サクラにとって
は現実味のないことでしかなく、どこか違う次元の出来事か、それでなくても遥か昔の出来
事としか思えなかった。
実際に『九尾』というモノを見たことがないからだろうが、それでも、両親や周囲の大人の
話を聞いて、ソレが自分達を害する悪い生き物なのだということは漠然とではあるが理解し
ていた。
ただ、九尾の話の締め括りとして必ず『うずまきナルトには関わるな』と言われるのには、
常々疑問を覚えていて―――――正直、子供心にも変だとは思ったのだ。
確かに同期のナルトは馬鹿でドベで、人の迷惑など考えもしない無神経な奴だったが、自分
の親どころか里中から嫌われる理由には到底ならないのに、なぜと。
親も親戚もいない、孤児だから?
実に悲しい現実だが、そんな子供は里中に溢れているし、現にサクラの意中の相手は木の葉
一の名門と謳われたうちは一族の最後の生き残りである。
そうでないことはわかっていた。
大人達は、『うずまきナルト』という存在そのものを厭っているのだ。
なんて理不尽なこと。
しかし、サクラ自身は両親が言うのだからそうなのだろうと安直に考えていた。
自分に対してはあんなに優しい人達が言うのだから、そうに違いないと信じて疑わなかった。
それが、最初。

ナルトに対する認識を変えざるをえなくなったのは、下忍になり、スリーマンセルを組むよ
うになってからだ。
相変わらず騒がしくて、サクラとサスケの邪魔ばかりして、鬱陶しくて堪らなかった。
なんで私がナルトなんかと一緒の班なんだろう、と。
他のまともな班を羨んだりしたこともあった。
だが、実際は違っていたのだ。
ナルトは自分など比較にならないほど強くて、いつだって毅然とした背中を見せて、サクラ
を守ってくれていた。
サクラを蚊帳の外に置いて言い争いをすることも多かったナルトとサスケだが、二人が見た
目ほど仲が悪くないと知っていたし、『これが七班のあるべき姿なんだ』と思うようになるま
で、たいして時間は掛からなかった。
それが、下忍になってしばらく経った頃。

その考えが覆されたのは、木の葉崩しが終わった後だ。
サスケが里抜けをした。
彼を引き止めることができなかったサクラの代わりに、ナルトがサスケを追うことになった。
『必ず連れて帰る』と、約束してくれた。
―――――しかし。
帰って来たのは重傷を負って全身に包帯を巻かれた、痛々しい姿のナルト。
サスケはいなかった。
呆然とすることしかできなかった自分に、痛みを堪えながら謝るナルトを見て、後になって
一人で泣いた。
私はナルトになんてことを言ってしまったんだろう、と。
この時になってようやく、自分がしでかしたことの大きさに気付いたのだ。
それでもナルトは身勝手なサクラとの約束を守ろうとしてくれていて、まるで自分の卑小さ
を思い知らされたようで、ナルトの優しさが余計に痛かった。
それからしばらくしてサクラは綱手に弟子入りし、ナルトは自来也に弟子入りして修行の旅
に出た。
そして、情報を集めるために綱手の書斎に忍び込んだサクラは、ついに知ってしまった。
あんなにやさしいナルトが里中から憎まれ、嫌われる理由も、この里が昔犯した罪も。
それを知った時、全身に冷水を浴びせられたような感覚に陥った。
心臓が痛いほど暴れて、手足が震えてしばらく立ち上がることができなかった。
知らなかったでは済まされない、その事実。
それをこの里は今も隠し続け、サクラがかつてそうだったように、新たに生まれてくる子供
に九尾がいかに残忍な生き物であるかを語り継ぎ、ナルトを憎ませる。
どうしていいのかわからず、今となってはすでに数年前の、初めて受けた中忍試験で仲直り
をした親友の少女の家に押し掛けて相談したら。


「何、アンタ知らなかったの?」


彼女の開口一番はそれだった。


「イノは知ってたの?ナルトが、その……九尾の器だってこと」

「そんなの、アカデミーの頃から知ってたわよ。私がそれを知ったのは成り行きだったけど、
でもアンタよりずっと前から知ってたわ。それを忘れたことなんて一度もないし、忘れたい
とも思わない―――――だって、私が今ここでこうしていられるのも、全部ナルトのおかげ
なんだもの」


さも、当然のことのように。
麦茶を飲みながら澄まし顔で言ってのけたイノを見て、サクラは口を噤んだ。


「大体サクラ、アンタね、今まで一緒の班にいながら行動に移すの遅すぎよ?あれだけナル
トの側にいて今更何言ってるのよ。終いにはぶつわよ」


怒り心頭状態のイノ。
怒鳴りこそしないものの、それに込められた思いも口調も、ひたすらキツイ科白だった。
予想外のイノの反応に対し、サクラは浴びせられた非難の言葉を噛み締めるように、静かに
目を伏せる。
イノの言葉が間違っているとは思えなかったのだ。


「―――――本当、そうよね。ナルトはずっと私達がなんの疑問も抱かず生きている代償を
払い続けてきたのに、それなのに私、その上ずっと胡坐を掻いてたの。だからナルトの優し
さにつけ込んで、サスケ君を連れ戻そうとしてくれてるナルトに、何も考えないで酷いこと
言っちゃった…………」

「知ってるわ」


そう言われ、サクラは即座に顔を上げる。
責めるような目が、自分を真っ直ぐに見ていた。


「アンタがナルトに何を言ったのか、知ってるわ。どういう神経してるのって、それを聞い
た時はもう頭の中真っ白!ヒナタは何も言わなかったけど、私は」

「ちょ、ちょっと待って!」


思いもしない名を耳にしたサクラは、慌ててイノの言葉を遮った。
どうしてそこでヒナタの名前が出てくるの、と。
小さな声で問うと、イノは抱いていたクッションをベッドの上に放り、それこそ当然のこと
のように。


「どうしてって、悔しいけどヒナタが一番ナルトの近くにいる人間だからよ」


ヒナタが一番ナルトの近くにいる人間?
―――――ということはつまり、サクラの知らぬうちに二人が付き合っていたということだ
ろうか。
そこまで考えたところで、自分の思考を読んだかのようなタイミングで、イノが『言い方が
悪かったわ』と補足説明をし始めた。


「アンタが九尾の件を知ったのなら話してもいいかなって思うから言うけど、他言は無用
よ?誰かに話したら命はないと思いなさいね」

「…………わ、わかったわ」

「アンタも知ってる通り、ナルトは孤児よ。つまり、保護者がいないの。三代目は何かとナ
ルトを気にかけてくれてたみたいだけど、『火影』っていう立場上表立ってナルトを構うこと
ができなくて、ナルトに後見人を付けることにした―――――それが、日向一族の当主に当
たるヒアシ様。だからヒナタとナルトは幼馴染なの」

「幼馴染…………?」

「そう。でもヒナタはナルトのことが本気で好きなのよ―――――私もだけど」

「え?」


ヒナタはナルトが好き。
それは知っていたが、まさかイノまでとは思わなかった。
だってイノは、ついこの間までサクラ同様サスケに張り付いていたはずなのだ。
そういった意味を込めた眼差しを送ると、イノは両肩を軽く竦めて見せた。
曰く、『相手が相手なだけに事を荒立てたくなかったし、鞍替えの理由を追及させても説明で
きなかったから』。


「私ね、ナルトほど優しくて強くて、それなのにすごく弱い人……他に知らないわ。ナルト
が笑ってくれるなら、きっとなんだってできる。なのにアンタもサスケ君も、ナルトの中を
かき回して傷付けてばかり……………っ!」


イノに睨み付けられ、サクラは息を呑んだ。
中忍試験以来の、本気のソレ。


「あの時ナルトがどうにかなってたら私、たとえ相手がアンタだろうと絶対許さなかったわ」

「イノ…………」

「―――――でも、結果的にナルトは無事だった。だから私は何もしない。ナルトだってき
っと、そんなこと望んでないもの。アイツ、女の私が呆れるほどのフェミニストだしね」

「フェミニスト?」

「ううん、それもあるけど……たぶん違うのよ。ナルトは興味ないの、全てに対して。だか
らどんなことだって許容するし、言い換えればそうすることで全部拒絶してるの」


サクラは何も言えなかった。
それだけのことをナルトにしたのだと知っても、いや知ったからこそ、何も言えなかったの
だ。
目頭が急激に熱を持ち始めたのを感じたサクラは、苦しげに顔を歪める。
本当に。
あんなにも優しかった少年に、自分はなんてことをしてしまったのだろう。


「…………ナルトはね、私達が思ってるよりもずっと深くて冷たいトコロにいるの。差し伸
べられる手はあるけど、その手が何本あったって、簡単に抜け出せないようなトコロに閉じ
込められてるのよ。ナルト本人が自覚してるかどうかはわからないけどね」

「―――――って来て、くれるかな…………?」


イノは訝しげな顔をした。
グラスを握るサクラの手に、自分の涙がポタポタと落ちる。
その涙は麦茶入りのグラスから滴る水滴と混じり、サクラの手を余計に濡らした。
気を抜けば声が震えてしまいそうになるのを必死に耐え、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「『すぐに戻るよ』って笑ってたけど、戻って来なかったらどうしよう……サスケ君がいなく
なって、ナルトもいなくなって、そうなって初めて私は今まで二人が味わってきた『独り』
の怖さを知ったの。私には家族がいるし、イノみたいにこうして話を聞いてくれる人もいる
けど、どうしようもなく怖くて堪らない。怖くて怖くて堪らない!ナルトには本当に酷いこ
とをしてきたわ……だけど私は、本当はナルトのこと大好きだったのよ!!」


ぼろぼろと零れる涙を拭うサクラを見て、イノは明後日の方を向いて嘆息した。


「あーもうウザッたいわね〜…………」

「サスケ君みたいに戻って来なかったらどうしよう…………っ!ねぇイノ、私どうしたらい
い!?」


返ってきたのは気休めの言葉もない、サクラにとっては残酷な答だった。






「甘ったれないでよ。そんなの、むしろ私の方が知りたいぐらいだわ」












END






†††††後書き†††††


そろそろアニメも第一部の終わりに差し掛かりましたので、その辺りの時間軸の話を書いて
みました。女の子達の会話です。ナルトさんは出演していませんが、話のデキは結構満足し
ております。一応スレナル設定です。が。これはスレナル大前提のサ
ク+イノ→ナル話ですよ!!(なんか大声で主張しないと伝わらない気が…)
実はオイラ、多少アンチ七班を嗜んでおりまして……(は?)実際サイトにアップしたこと
はないのですが、実は第一部終了時まで七班のこと嫌いでした。第二部に入ってから少しサ
クラのこと見直したかなって感じですが、あの時のサクラは本当に『何様!?』と思いまし
たので。だから今回、自他共に認めるナルトスキー代表・山中イノ嬢にサクラを虐めて頂い
たという訳です。それでもこんな心境のサクラを書いたということは、オイラ自身サクラの
ことを嫌いになりきれないという証拠なんですが―――――。

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