「暗部第零班副隊長、白鷺。只今帰還致しました」

「同じく時雨、今帰ったぜ」


燈台の光を唯一の光源とする薄暗い執務室。
久方ぶりの再会となる二人の青年の帰還の挨拶を受け、木の葉の最高権力者は目尻の皺をい
っそう深くするように笑い、大きく頷いた。


「うむ、長期の任務大儀であった。結果はすでに聞いておる。報告書を提出し次第、主等に一
週間の休暇を与える」

「一週間!正気か、ジジイ!?」


室内に三代目しかいないのをいいことに動物を模した白塗りの暗部面を頭に上げ、驚きの声
を発したのは、時雨と名乗った青年だった。
目が覚めるような鮮烈な赤毛を適当に跳ねさせ、左右の耳に幾つものピアスを付けた、いか
にも『今時の若者』らしい、その容姿。
忍にあるまじきその派手さは、表任務時のナルトに引けを取らない。
一方、白鷺と名乗った青年は時雨とは正反対だ。
癖のない真っ直ぐな黒髪に新緑の瞳―――――もちろん、華美な装飾品などは一切身に付け
ず規定の暗部服をきっちり着込む様は、まさに忍の鏡と言えるだろう。
しかし、『のほほん』としているように見える表情の中にある鋭さは、やはりと言うべきか常
人のものではなく、彼が数え切れないほどの死線を乗り越えてきた本物の忍という証でもあ
る。
キツイ印象を抱かせがちの猫目は正反対のタイプであるはずの時雨との唯一の共通点で、そ
れを見れば二人が血縁関係―――――しかもかなり近しい間柄だということがわかった。
名前と暗色の外見とに違和感が生じている白鷺が、信じられないとでも言うような面持ちで
三代目に尋ねる。


「一体どうしたって言うんですか、ご老体。万年人手不足の部署に身を置く人間に、一週間
の休暇?愚兄の言葉を肯定するようで癪ですがね、僕も正気の沙汰とは思えませんよ……つ
いに耄碌してしまったのなら、今すぐ代替わりをお勧めしますが?」

「それには及ばんよ」


三代目は苦笑いをし、二人にある書類の束を見せた。
それを訝しげな顔をして受け取った時雨が、その内容を確認するために数枚捲り、すぐに目
を丸くする。
それは任務の報告書だった。
零班の副隊長である自分達でさえも思わず眉を顰めたくなるような難易度が高い任務ばかり
だというのに、任務遂行日時が全てここ数日のうち。
加えて、例外なく同じ筆跡なのだから、時雨の驚きは至極当然というもの。


「なんつー消化スピード……コレ誰だよ」

「主等もよぅ知っとるぞ。犬塚キバとナルトのペアじゃ」

「うちの隊長と犬塚?」


白鷺と時雨の二人は顔を見合わせた。
比較的ペアを組むことが多い二人だったから、その組み合わせ自体には動揺しないが、昼間
に表任務をこなしている二人が、なんだってこんなにも裏任務に励んでいるのかが疑問で仕
方がなかったのだ。


「何かあったんですか?」


白鷺の問いに。
三代目は苦笑いを含み笑いに変え、ゆっくりと煙管に手を伸ばす。


「若さとはいいもんじゃのう…………」

「はぁ?」

「実にいいもんじゃ。わしまで若返ったような気分になるわい」

「やだなぁ、気分だけですよ。皺の数は前回お会いした時よ
り確実に増加してますって。それで、結局なんなんですか?」

「『ナルトとの任務を増やしてほしい』とキバがわしに直談判しに来ての、中忍試験が始まる
からと控えていたものを、通常の四割増にしただけじゃ。任務成功率は100%、主等だけ
でなく他の連中にも順に休暇を与えておる最中じゃよ」

「隊長がいるんだから任務成功率100%はわかるし、中忍試験に支障が出ねぇこともわか
るけどよ、なんだって犬塚はそんなに任務やりたがってんだ?」

「ふむ、良い質問じゃ」


ぷは〜っと煙を吐き出した三代目が、今度は引き出しから取り出した一枚の写真を執務机の
上に置いた。
なんの変哲もないカラー写真だが、問題はそこに映っている人物。
下忍任務時に撮影したものなのだろう。
オレンジ色のジャケットとズボンを着用した金髪碧眼の美少年と、『赤丸』という名の忍犬を
連れたキバが屈託なく笑っている。
その笑顔は、できればナルトの部分だけを切り取って懐に入れてしまいたくなるような愛ら
しさだったが、ナルトの隣に立つ見知らぬ子供の姿を見て、その企みは消えてなくなる。


「奈良上忍に似てますね…………」

「息子じゃよ。シカマルといっての、これがなかなかの頭脳の持ち主なんじゃ。今ナルトが
稽古をつけておってな、『将来的には零班に引き入れるんだ』と息巻いとる」

「うちの隊長自ら稽古を?―――――っつーか、零班に引き入れるってなんだよ。ソイツ隊
長のこと知ってんのか?」

「そういうことになるの。それでじゃよ、キバの異常なやる気は。ナルトを取り戻したいん
じゃろう……やり方は幼稚じゃが、あやつも立派な男になりおって―――――問題は、ナル
トが自分に向けられる好意を正確に理解しとらんということじゃのぅ」

「ちょっと待って下さい。話が見えません」


両手を上げた白鷺が、三代目の話を止める。


「そもそもなぜキバ君は、隊長を取り戻そうとしなきゃならないんですか。それじゃあまる
で、奈良上忍の息子さんに隊長を取られたように聞こえるん
ですけど」

「それが正解じゃ」

「正解って…………」



「主等が長期任務で里におらんうちに、ナル
トとシカマルの婚約が内々に決まっての」



「…………」

「…………」




ドスッ!!!




「…………冗談も大概にして頂きたいもんですね」


写真を貫通して執務机に埋め込まれた苦無。
ナルトを避けて穴を開けたのはさすがと言えなくもないが、たいした厚みもない写真が反り
返る様はなんとも哀れである。
『のほほん』としていた顔から表情全てを削ぎ落とした白鷺に詰め寄られ、一応里最強の忍
と認知されている三代目は、腰を下ろした椅子ごと身を引いた。


「じょ、冗談などではない。全て真実じゃ」

「尚悪ィぞ、糞ジジイ」


ナルトに。
零班のアイドルに。
―――――って言うか、木の葉どころか世界の宝に。


「「婚約者…………」」






今世紀最大の衝撃、到来。












転 換 期

下忍任務がキャンセルになったその日。 降って湧いた余暇を充実したものにすべく、ナルトとネジとヒナタは子供らしく卓上ゲーム に没頭していた。 仮にも『職業・忍』が休日にすることとは思えないが、自分達はまだ十を超えたばかりの子 供―――――『早く大人になろうとすることは悪いことではないが、子供らしさを失くして はいけないよ』というヒアシの気遣いで差し入れられたゲームを、せっかくだからと弄って いたら、うっかり白熱してしまった結果がコレだ。 ネジとヒナタの二人は、ナルトの指がルーレットを回すのを固唾を呑んで見守っている。 出た数字は1。 ナルトは叫んだ。 「―――――あ〜ムカつく!なんだよ、コ レ!?『このコマに止まった人間はゴミ捨て 場のゴミを全て引き取る』って!!黒光りす る奴等が大帝国築くような環境じゃねぇ か!!!」 想像しただけで全身に鳥肌が。 両腕を擦りながら悪態をつくナルトを、ネジが鼻で笑った。 「お前らしくもない、いつもの調子はどうした。このままいけば今回は俺の勝ちということ になるぞ?そしてお前は最下位だ」 「く―――――っ!」 事実なだけに、反論できやしない。 「ナ、ナルト君、頑張って!まだ時間はあるから…………」 「もー追い込みじゃん」 「ナルト君なら大丈夫だよ、きっと最後の最後で何かスゴイことを…………」 「何かってなんデスか。持ち金ゼロ、UFO に攫われた怪しい経歴のせいで借金こそな いものの無職、加えてゴミ捨て場のゴミを清 掃業者でもねぇのに全部押し付けられて、ゴ ールしたとしても免除金払わなきゃ身軽に なれねぇ。でもその免除金さえも払えねぇん だぞ?」 らしくなく、ヒナタを睨むナルト。 対するヒナタは、フォローの言葉が全て不発に終わったと知るとネジに助けを求めたが、ナ ルトを煽るだけ煽って放り出したネジは、視線を合わせようとしない。 ナルトを振り回している忌まわしきゲーム―――――それは人生ゲームだった。 金に関わるありとあらゆる出来事を卓上人生にリアルに凝縮したソレは、本来ならばナルト の独壇場であるはずだったというのに、なぜか今日に限って調子が悪い。 『伝説の賭博師』と囁かれるほど勝負事に強いナルトにとって、それはまさに今までに味わ ったことのない屈辱で、握り締めた拳がふるふると震えてしまう。 今の状態に至る過程も美しいものではなく、オレオレ詐欺に引っ掛かったり自爆テロに巻き 込まれて生死の境を彷徨ったりと散々だった。 ならばせめてゴールした順に貰える配当金に期待するしかなかったが、なぜか先程から小さ な数字しか出ず、単独ビリを爆走中だったり。 それに反してトップはいつもナルトに苦汁を舐めさせられているネジで、その表情は心なし か晴れやかだ。 非常に面白くない。 「ナルト、お前の番だ」 すぐに回ってきた番。 『あーはいはい』とおざなりに返事をしたナルトは、むすっとした顔でルーレットを回した。 出た数字は2。 「チャンスカードを二枚引く?どーせだったら金寄越せ、金!」 完全に違う人格だ。 ぶちぶちと文句を垂れ流しながらチャンスカードを二枚引き、その内容に目を通したナルト は、空色の目を大きく見開き、そして次に声を上げて笑った。 「ナルト?」 「ナルト君、どうしたの?」 不敵な笑みを浮かべたナルトが、まずネジに二枚引いたうち一枚のカードを提示する。 「『このゴミ差し上げます。このカードを提示された人は、対象となっているゴミを無償で引 き取らなければならない』……本気か?」 「だってネジ以外の誰にあげろって?」 「ヒナタがいるだろう」 「だから、ネジ以外の誰にあげろって?」 笑顔の重圧に、ネジはあっさりと屈服した。 ナルトに突付かれる前に、自分からナルトの手前にこんもりと積まれていたゴミの山を移動 させる。 そして二枚目、と。 二枚目のカードをネジとヒナタに見えるように掲げたナルトが、一発で覚えた内容を声に出 して読み始めた。 「UFOに攫われたことがある人は、先読み 能力に目覚め、能力開発・訓練所の特別講師 として名を馳せる。大名の目に留まって国お 抱えの占い師になり、『アンタ死ぬわよ』の 名ゼリフで大活躍。契約金として五千両を受 け取る」 「なんだって?」 「しかも自動的にゴールだ。俺の勝ちだな」 二人は唖然とした。 「す、すごい……今までの不幸は全部この時のためだったんだね…………」 ナルト以外の誰かがこの逆転劇をやってのけたなら『細工した』と疑いを掛けられそうなも のだったが、ナルトとなれば話は別なのである。 それに伴う実績が、ナルトにはあるのだから。 ナルトの偉業を前にして、これ以上続ける気をなくした二人が人生ゲームを片付け始めた、 その時。 「ナルトさん!」 廊下を駆けて来たらしいハナビが、勢い良く障子を開けて入ってきた。 斜め掛けにしたショルダーバックに、動きやすい洋装。 アカデミー帰りなのだ。 ナルトはひらひらと手を振り、ハナビを迎えた。 「お帰り、ハナビ」 「あ、はい、只今帰りました」 パッと頬を紅潮させたハナビが、障子を開けた状態のままにしてナルトの側に歩み寄る。 「ナルトさん、酷いです!朝のうちに知らせてくれれば、私だってもっと早く帰って来たの にっ」 ナルトの代わりにヒナタが答えた。 「あのね、私達も急だったの。ネジ兄さんもナルト君も私も、先生達に急ぎの任務が入って、 それで…………」 「そーゆーこと。今日はここに泊まってくから、まだいるよ」 「本当ですか!?」 ヒナタやアヤメとは違うけれど、それでもそっくりな顔が嬉しそうに笑ったため、ナルトも つられて口元に笑みを浮かべた。 「あぁ、朝方に一つ裏任務が入ってるけどな。宿題あるなら見てやるし、修行するつもりな ら付き合うぜ。こんなにノンビリできる時間なんて滅多にねぇからな」 「ありがとうございます!荷物置いてきますね!!」 破顔して立ち上がりかけたハナビは、しかしそこで動きを止め、何かを思い出したようにバ ックに手を突っ込んだ。 取り出したのは、上等な白い和紙に包まれた手紙らしきモノ。 「そう言えば、さっき三代目の遣いだと名乗る暗部からコレを預けられました。ナルトさん 宛てだそうです」 「俺宛て?珍しいな」 ナルトと三代目の遣り取りには、手紙というような証拠が残る手段は使われない。 呼び出しは大抵鳥で、稀に暗部。 どちらにしろ、何か用がある際は必ず口頭で済ますのだ。 それなのに、今更なぜ手紙? 首を傾げながら受け取った手紙の内容を確認したナルトは、しばらくして読み終わってもな んのコメントも残さず、無表情でその手紙を懐にしまった。 その顔が赤くも青くも見えたことから、ナルトの相当な動揺ぶりが窺える。 三人は顔を見合わせた。 「ナルト」 「何」 「任務に関することで何かあったのか?」 「いや」 「ならソレはなんだ」 「とある人からの感謝兼謝罪のショジョー」 「どんなものだ、お前がそんな反応をする『感謝兼謝罪の書状』とやらは」 「別に、普通」 「ほぅ…………」 「ナルト君、何が書いてあったの?」 「なんにも書いてない」 「ナルトさん?」 「だから何も書いてないってば!」 怪しい。 明らかに怪しい。 ちょっと散歩行って来る、と。 そう言ってそそくさと立ち去ろうとしたナルトの腕を、ネジが掴んだ。 「う、わ…………っ!?」 ふいを突かれる形となったナルトはネジに引き倒され、気付いた時には組み敷かれていた。 まさかネジがこんな暴挙に出るとは予想だにしなかったナルトは驚きのあまり目を見開き、 宗家の姉妹は固まってしまう。 しかし、到底見過ごすことのできない光景を前にして、いつまでも固まってはいられない。 「ネ、ネジ兄さん!何してるの!?」 「ネジ…………?」 「寄越せ」 「は?」 「寄越せと言ったんだ。特にたいしたことが書かれている訳でもない普通の書状なら、俺に 見せたところで別段困りはしないだろう。寄越せ」 「だからってなんでこの体勢!?」 「お前の場合、逃げ道を塞がないことには何も始まらないだろう」 そう言って、笑う。 シカマルのこととかシカマルのこととかシ カマルのこととかでストレスが溜まっていたらしいネジ少年は、今のナ ルトの態度で完全にキタ御様子。 今の今までその問題を放置してきた分のツケがいっきに回ってきた状況に、ナルトは本気で 焦った。 「ネ、ネジさーん?ちょっと冷静になろーぜぇ?」 「残念だが、俺はこの上なく冷静だ」 聞く耳持たず。 ナルトは自分を拘束するネジの手を外そうと力を込めたが、数ミリ動いただけで、また畳の 上に押し付けられてしまう。 おかしい。 シカマルといいネジといい普段は自分より弱いくせに、なぜこういった追求の時ばかり異常 な強さを発揮するのだろうか。 ナルトが女性化している時だったら男女の体格差だと、認めたくはないが言い訳にはできる からまだいい。 だが、今の自分は男なのだ。 「ふ、ざけんなっ!」 形振り構っていられない、と。 渾身の力で暴れ出したナルトには、さすがのネジも余裕はないらしい。 舌打ちしたかと思うと、ナルトを睨むように見下ろしたまま、ヒナタとハナビの名を呼んだ。 「ヒナタ、ハナビ!俺がコイツを押さえ込んでいる間に、例の書状を取り上げてしまえ!!」 「ネジ!」 ナルトの避難もなんのその。 毛を逆立てて威嚇をしているも同然のナルトからけして目を離そうとしないネジの言葉に、 ヒナタとハナビは戸惑う。 「で、でも、ナルト君嫌がってるし、そんなことできないよ…………」 「安心しろ。多少酷い仕打ちを受けようと、コイツの性分じゃお前達を嫌うことなどできな いからな」 「そ、そういう意味じゃなくて、そこまですることないと私は思うの……ネジ兄さんが本気 で怒ってるのはわかるんだけど…………」 「いいのか?そうやってコイツは全てをうやむやにする気だぞ」 「それは…………」 「そして十中八九、今日はそのまま逃げるな」 「「それは駄目!!」」 声を揃えた二人は、遅ればせながら当人達にとっては真剣な―――――第三者にとってはく だらない攻防に参戦した。 『ナ、ナルト君、ごめんね!』と真っ赤になりながら上着に手を掛けられ、彼女達が本気だ ということを悟ったナルトは半泣きになって叫ぶ。 「止めろよ、止め―――――っつーかこの状況、誰かに見られたらなんて言い訳するつもり だよ!?」 「あらあらあらあら」 …………『あらあら』? 声がした方向を見たナルトは、次の瞬間音を立てて石化した。 日向一族当主の奥方であり、ヒナタとハナビの母であり、ナルトの育ての親とも言えるアヤ メが、特徴的な目をまん丸にして開け放たれたままの障子の横に立っていたのだ。 白く繊細な指先で口元を隠し、一人一人の顔を順に見てから側付きの侍女にインスタントカ メラを取り出させ、そして。 カシャ!! 激☆写。 ヒナタとハナビそっくりのその顔に浮かぶのは、ピンクな笑みだ。 「まさか四人でとは……でも、ナルトさんを奈良の嫁に送り出すよりはよほどマシですわね。 ふしだらな感は否めませんけれど、『できれば一対一で』というのはきっと私の我侭ですもの。 歳をとると頭が固くなって嫌ですわ」 「ア、アヤメ様、何を仰って――――」 「あら、違いますの?」 「違います!!!」 「まぁ!私てっきりそうなのかと……だって///」 荒い息遣い。 涙に濡れた、扇情的な青い瞳。 組み敷かれた華奢な身体。 乱れた金髪と着衣が、なんとも言えず妖艶で…………。 これで『違う』と言い張るのは、前後の遣り取りを知らない人間にしてみれば、それこそ『違 う』だろう。 ナルトが打ちひしがれているうちに。 「取りました!」 ナルトが全力で書くしたがっていた書状が、ついにハナビの手に渡ってしまった。 すぐに我に返ったナルトだったが、時すでに遅く、もう用はないとばかりにナルトを解放し たネジの目にするところとなっていて―――――。 もう、駄目だ。 「―――――ナルト」 「…………はい」 「なんだ、コレは」 書状とはまた別の、カラフルな紙切れ。 ナルトは乱れた衣服を整えることもせずに、大人しくその場に正座した。 己の敗北を認めたのだ。 「某高級旅館の宿泊チケットです」 「それはわかる。なぜペアなのかと聞いてるんだ。この書状の送り主が、なぜこんなモノを お前に渡す」 「キバとシカマル曰く、俺が『誑し込んでる』からだそーデス」 「…………なるほどな」 へ、部屋の中が。 部屋の中が凍るぅ―――――っ!!! 「い、言っとくけど、俺はコレを送り付けられた側なんだからな!俺から催促した訳でもな んでもねぇ!!和馬さんが勝手に」 「『和馬さん』って、この前の合同任務の時の、あの綺麗なお兄さん…………?」 「はい、そーデス」 「―――――ナルト君、どうして私達にから 隠れて、個人的に会ったりしたの?」 『裏切られた』とでも言うような、ヒナタの泣きそうな顔。 会ってない、会ってない! 必死に首を左右に振るナルトを一瞥したネジが、ヒナタの誤解を解くべく、文面から得た情 報を説明し出した。 「出会い自体はそれ以前らしい。先日の任務のこと、その『和馬さん』とやらの兄がコイツ に求婚して迷惑を掛けたことをひたすら謝っている。そういえばそんなことを聞いた気がす るが……まぁ、それはいい。ここまでは今時の若者にしては礼儀を知っていると好意的に見 ることもできるからな。だが」 「あっ」 コレはありえないだろう、と。 取り返そうとしたナルトの手を見事に避け、ネジによって少々乱暴に畳の上に置かれた書状。 公開されてしまった内容、『コレ』が示すものとは。

ナルトさんが心から共にありたいと思う方と使って頂

ければ幸いです。俺も立候補したいところですが、両

脇を固める貴方の騎士が、想いの他手強そうですので。

「…………」 「…………」 「…………」 今までナルトを独占してきた日向にしてみれば、『余計なお世話だ』と毒づきたくなるような 忌々しいお膳立て。 その上、この書状の送り主がナルトに好意を抱いていることも疑いようがなく―――――。 表情という表情を全て削ぎ落として黙り込んでしまった宗家の姉妹と、二人の視線の先にあ る書状をチケット諸共ネジが握り潰す光景を、ナルトはどこか別世界の出来事のように眺め ていた。 「なんでこーなんのかなぁ…………」 ナルトはまだ知らない。 この書状をハナビに預けた人間が、零班の人間であることを。 そして、その人間というのが、長期任務に就いていたせいで自分の婚約を知らされたばかり の双子だということを。 ナルトはまだ、知らないのだ。 END †††††後書き††††† 今回は日向サイド。お久し振りなネジ兄さんと戯れてみました。わぁい☆―――――という ことで、婚約時代シリーズ第六弾です。いろんな人達に影響を残す和馬さん……とんでもな い人の参戦(?)に、さすがのナルトもたじたじ。しかも、『出遅れた相棒』でちょっとだけ 話に出した副隊長まで帰って来ました。モテる男は大変だ―――――っつーか、ここまでく るとちょっと可哀想な気も。でもまぁ、これが彼のサダメだからなぁ〜……他から酷い扱い 受けてる分、誰かにたくさんたくさん愛されなきゃね!!この辺りでようやく、婚約時代シ リーズの方向性が決定。このシリーズはやっぱ、全体的に明るくいこうと思います。 他がね、いろんな意味で救いようがないんで。
小説ページへ
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送