否定されるばかりの世界で、それでも歯を食い縛って生きてきた。












就任前夜

止めてくれ、と。 ナルトは全身で拒絶した。 畏怖の目ならまだいい。 憎悪の目も、今となっては当たり前のことでしかないから、それもいい。 だが、火影装束を身に纏った自分に、九尾の乱で里を守って死んでいった先代の姿を重ねら れるのだけは、どうしても耐えられなかった。 たった一人の子供に全てを押し付けて平然と生きている大人の―――――言わば『共犯者』 である老人は、それでもナルトの頭を撫でる手を止めない。 「ほんに、よぅ似とる…………」 何かを懐かしむような、何かを渇望するかのような目。 一体自分に何を望んでいるのだろうか。 『あの時はああするより他なかったのだ』という、忌まわしき愚行に対する許しの言葉か。 かつての火影と言えども、里人と同じように八年前の惨劇に今もなお囚われ続けている己に 差し伸べられる、救いの手か。 いずれにしろ、今のナルトにとっては不快なだけだ。 「あやつにも、息子の晴れ姿を見せてやりたかっのぅ…………」 その言葉に。 自分の頭を撫でている手を叩き払ったナルトは、皺だらけの三代目の顔を睨み上げた。 「…………晴れ姿?アンタはコレを、本気で『晴れ姿』だって言うのか?」 ナルトにとって『火影』という地位は、里という名の牢獄に自身を閉じ込めておくための頑 丈な鎖でしかないのだ。 そんな自分が、なぜ里を守る立場の人間にならなければならないのか。 こんな里など滅んでしまえばいい、と。 祈る日はない自分を三代目が知らぬはずはないというのに、なぜ目の前の老人は死人との契 約を律儀に守ろうと、火影の座を自分などに託そうとしているのだろうか。 「俺のこんな姿を見ることが、あの男の望みだったとでも?」 「そうさな……半分はそう、もう半分は本意ではなかろう…………」 悲しげな物言いだった。 普段ならそこで何を言われようと冷たく一蹴するだけだが、こんな時にそれを口にされるの を我慢することができるほど大人でもなければ、その意味がわからぬほど子供でもない。 自分から全てを奪ったいった『火影』にならなければ確立することができないという『生』 を、これほど疎ましく思えたことがいまだかつてあっただろうか。 「わかってるなら、どうして…………ッ!」 「それでも、お前は『火影』なんじゃよ。この里をどうするかは、明日からお前次第じゃ」 こやつ等も、と。 自分達の背後で膝をつきながら事の成り行きを見守っている暗部面の集団に、三代目は視線 を移す。 「お前に忠誠を誓い、お前が『火影』である限り尽くすじゃろうて」 肯定するかのような小さな頷きさえも、今のナルトは癇に障る。 そんな『火影』の権力の象徴とも言える暗部など、たとえ命ずるままに動く便利屋集団であ ったとしても、自分にとっては不必要なものでしかないのだ。 「―――――俺はただ、誰にも干渉されずに生きたいだけなのに…………」 「知っておる」 三代目が、壊れ物を扱うようにナルトを抱き締めた。 顔を俯かせて華奢な両肩を震わすナルトは、それを黙って受け入れる。 「知っとるよ。お前の苦しみも痛みも、感じることはできんが知っておる。じゃがそれ以上 に、お前のそのささやかな望みが絶対に叶わんことも知っておる……じゃからせめて、お前 の身に何が起ころうと乗り越えられるだけの力を―――――それがわしの、何よりあやつの 願いであり償いなんじゃよ…………」 「―――――それで俺は、『受け入れる』以外の選択肢を持ってないんだろ?」 「…………」 「俺は、アンタやアイツの自己満足のための道具じゃない」 「すまん……お前には九尾ばかりか、里まで背負ってもらわねばならんようになった」 「今更何を言うのかと思えば…………」 だったらそんなことしなければいいだろう、と。 それこそ今更な科白が、実際の音にされることはない。 「この老いぼれを恨んでくれて構わんよ。わしはそれだけのことを十にもならん子供に強い ておる―――――いや、言われるまでもなく、お前は全てを恨んどるじゃろうな」 全てを恨んでいる子供に向けるにしては、その声は穏やかで、それでいて優しい。 「それで構わん。そうすることでお前が生きようとしてくれるなら、それでほんに構わんの じゃ……じゃから間違っても、自ら死を望んでくれるな。早ぅ、お前自身の価値に気付いと くれ…………」 後生だから、と。 懇願する三代目が、やけに小さく見えた。 ナルトはそれ以上何も言わず、ただ黙って、小さな拳を握り締める。 口元に浮かんだ自嘲気な笑みを見た者は、誰一人としていない。 あのさ、じーさん。 アンタはそう言うけれど。 この呪われた生のどこに、価値を見出せと? END †††††後書き††††† 虚像の里シリーズの短編、就任前夜です。タイトル通り、今連載形式で更新しているモノの 過去―――――八歳のナルト君が火影になる前日の話になります。本編のナルト君に慣れて いると、このナルト君には少し違和感を覚えるかもしれませんが、本編のナルト君はいろい ろなものを吹っ切っているだけなので同一人物であることに変わりはありません。昔の彼は 今よりもずっと子供で、ある意味ずっと正直でした。だから九尾の件も火影の件も完全に割 り切れない……だけど、その全てを吐き出せるような信頼するに値する人間はいなかったと いう訳です(ナルトにとって三代目は、『人に物事を押し付けるくせに謝ってばかりの、そ れでも大人の中ではかろうじて信用できる人』)。それ以降どんな経緯であーなったのかは本 編で詳しく書くことはありませんが、気が向いたら触れることもあるかもしれません。 ―――――って、こんな短い話で何語ってんだオイラは。
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