ナルト達が離れてすぐ、先ほどまでいたあの場所で戦闘が始まった。
目的のナルトがいないことに気付かれているのだろう。
かなりの数を足止めしてくれているようだが、上忍クラスともなると全員をカバーすること
ができなかったのか、数十というレベルの追っ手が掛かっているのを肌で感じる。
いずれも手練だが、ここで文句など出るはずもない。
追っ手の忍が手練だろうが雑魚だろうが、どちらにしてもここで捕まり、ましてや殺される
訳にはいかないのだ。
相変わらず心臓は異常なほど激しく脈打っているが、耐えられないほどではない。


「坊、なんだったら少し数減らしてくるけど」

「止めとけ。前とは明らかに戦力が違うぞ。俺一人のために、アチラさんは本隊差し向けて
きやがった。このまま走ったほうがいい」

「ですが、もちますか?」


何がって、そんなこと決まっている。


「気力でもたせる!」


勇ましい返事。
しかし、それをまともに受け取る者などいなかった。
ナルトの身体が限界に近いということなど、確認するまでもなく全員知っているからだ。
そうこうしているうちに、木の葉の大門を飛び越える。
正真正銘の抜忍だが、『うずまきナルト』という器を処理するのに、そんな名目などもはや無
用だろう。
後戻りは許されない。
―――――まぁ、もともと、するつもりもなかったが。
そこへ。


「ナルト!!」


白眼を解放したネジの警告の声が飛ぶ。
ナルトは、思考の海に浸らせていた身体を即座に引き上げ。
意識するよりも先に、長年培ってきた忍としての能力が何をすべきか教えてくれる。
ナルトは大きく跳躍すると、殺気と共に武器が飛来してきた方向に鋼糸を放った。
大木をも一発で両断する、その威力。
姿は確認することはできなかったが、仕留めた際の感触は確かなものであったから、おそら
く始末はできたのだろう。


「へぇ……弱いけど、俺等に追いつくなんて優秀じゃん」


どうしてそれを他のトコロで発揮しないんだ、と。
思ったが、もう自分は木の葉の忍ではなくなったため、何も言わないでおく。


「姫、やっぱり一度止まろう!僕達がなんとかするから!!」

「なんとかって、どうやって」

「地道に数を減らすしかないですね」

「馬鹿、時間の無駄だ。どれだけの数がいると思ってる。それに―――――って、あらら、
議論する暇も与えてくれなさそーデスよ?心が狭いよな」


真横に現われた忍を、鴇が無言で斬りつけた。
それがヒナタの側で行われたものだったから、ナルトは不安になり、肩越しにヒナタを振り
返る。


「ヒナタ、平気?俺等こーゆーこと、たぶんこれから先もたくさんすることになる……嫌な
ら言ってくれて構わないぜ?ヒナタとネジだけは、なんとしてでも俺が無傷で帰してあげるから」

「あ、あのね、ナルト君……私、ナルト君が思ってるほど綺麗な人間じゃないよ?だから平
気。今はナルト君が一番大事なの。ナルト君以外のモノがどうなっても、私全然平気だよ」


一瞬きょとんとしたナルトは、『うわぁ』とでも言うように苦笑した。


「…………すごいなぁ〜ヒナタは。すごく強い」


日向のお姫様をこうまで逞しくしてしまったことに罪悪感を覚えるのは、果たしてナルトの
気のせいだろうか。


「おーい、坊。和んでるトコ悪いが、もう少しペース上げた方が良さそうだぜ?」


刹那にそう言われ、ナルトは背後に意識を向けた。
敵の正確な数を数えることはしない。
キリがないからだ。


「いっそのこと近隣一帯、奴等ごと焼き払っちまおーか…………」


さすがにそれはできないが、足止めという意味でなら、それはそれなりに功を上げるだろう。
通常の術の規模ではその効果は得られないため、その分、使用するチャクラを増やして印を
組む。


「火遁―――――」


術を発動させるための最後の印を組もうとし、ナルトは突然感じた咽の異物感に息を詰まら
せた。
追い討ちを掛けるかのように激しく咳き込んでしまい、せっかく練り上げたチャクラが呆気
なく霧散する。
ゴポリ、と。
不快な音を立てて吐き出されたのは、真っ赤な血だった。
両手を染める赤に、ナルトの意識が急激に遠退いていく。


「坊!!」


木の枝から足を踏み外したナルトを間一髪で受け止めることに成功したのは、刹那。
しかし、落下している最中であるため体勢を立て直す余裕などなく、ナルトに衝撃を与えな
いよう、刹那は自分が下になり受身の体勢をとった。
その際に折れる枝や揺さぶられる葉の音が、まるでその木が上げた悲鳴のようだ。
地面に叩き付けられた二人だったが、刹那の機転のおかげか、ナルトも刹那本人も無傷とは
言えなかったが無事だった。


「くっ……坊、無事か?」


刹那に庇われる形となっていたナルトは、しかし自身を案じるその声に答えることができず、
荒い呼吸を繰り返すだけだ。
その顔に血の気はなく、四肢は力なく伸ばされている。
口の端に付いた血の色だけが、やけに鮮やかに見えた。


「御子!」


傍らに着地した安曇が、いよいよだという時を悟り、拳を強く握り締める。
続いてその横に着地した伊吹もまた、一目でナルトの置かれた状況を把握し、硬い声で呟い
た。


「これ以上の移動は無理だね。やるしかないか…………」

「意義はねぇけどよ、日向の分家君と姫さんはどーする?」

「御子に付いていて頂きます。よろしいですね?」


ネジとヒナタが頷いたのを確認して、刹那はナルトに負担を掛けないように、腫れ物を扱う
かのように地面に寝かせる。
いち早く暗部面を外してしまった鴇の唇が『みすみす殺させやしない』と動いたのを見て、
安曇も『当然です』と言いながら暗部面をとる。
視界を遮るモノ全てを取り払った四人は、一度だけナルトを見、追っ手の一団にすさまじい
殺気を解放した。
本来ならば様々な可能性を秘めていたはずの未来を容赦なく奪われた主に、まだ苦しみを与
えようとする人間が信じられず、また、心底憎かったのだ。
ここまで何かを憎むということなど、今までも、そしておそらくこれから先もないだろうと
思わせるほどの強い衝動が、四人を駆り立てる。


「…………刹那と鴇が羨ましく思えますね」

「ホント。コイツ等と同じ木の葉の出身だってことが、こんなにも恥ずかしく思う日が来る
なんて思わなかった。人生最大の汚点だよ」

「こればっかりは、俺も自分の生まれに誇りを持てそうだ」


そして、一糸乱れぬようなタイミングで、同時に地を蹴る。
それが戦闘開始の合図だった。
木の葉に残してきた人達の気持ちを無駄にしてしまうが、仕方がない。
この状況を見れば、誰だって納得してくれることだろう。
朦朧とした意識の中で一連の流れを聞いていたのか。
咳き込みながら、それでもなんとか身を起こそうと身動ぎしたナルトが、声とは言えない声
でネジの名を呼ぶ。


「ネ、ジ…………」

「ナルト!?」


ナルトの手を貸して上半身を支えたネジが、少しでも呼吸をしやすくするように、ナルトの
上着のジッパーを下げて胸元の圧迫感をなくそうと努める。
ネジのしたいようにさせていたナルトは、すぐ側で繰り広げられている壮絶な戦闘をぼんや
りと眺め、目を細めた。


「アイツ等、キレちゃった…………?」

「あの人達でなくてもそうなるぞ!俺も自分が恥ずかしい!!」

「なんでだよ」


ナルトが小さな笑みを零す。


「お前等が恥じることなんかねぇよ。お前等はなんにも悪くない。俺は、ネジにもヒナタに
も、たくさん助けてもらったじゃんか」

「ナルト君…………」


大きな涙を零すヒナタの頬に、ナルトは手を伸ばした。


「責めんなよ、二人は全然悪くないんだぜ?俺はホントに、お前等に救われたんだ…………」


だから、と。
表情を厳しくしたナルトは、ヒナタの背後に視線を移し、自分を支えているネジを力一杯押
し退けた。
続いて目の前のヒナタを脇に突き飛ばし、笑う。


「…………最後まで、守らせて?」


それは一瞬のことだった。
気配を絶って襲い掛かってきた忍の白刃が、ナルトの華奢な身体に埋まる。
全てが止まった。
鈍い音。
傾ぐ身体。
靡く金髪。
青色は急速に光を失い、地に伏した後、更に大量の血を吐き出す。
腹部からの出血は夥しく、瞬く間に乾ききった地面に血溜まりを作った。
一面の赤。
その中に転がる、何よりも愛しい大切な金色。
愛しい愛しい金色は、なぜ動かない?
ヒナタは絶叫した。





「いやぁ―――――ッ!!!」





ネジが動いたのは、それと同時だった。
苦無を取り出し、ナルトを襲った忍の咽にそれを突き立て、裂く。
煩わしい呻き声を上げて絶命した忍の死体を遠くに蹴飛ばし、ネジは震える手でナルトの身
体に触れた。


「ナ、ルト…………?」

「やだよ、ナルト君……ど、して?庇ってくれなくても良かったんだよ?ねぇ、なんとか言
ってよぉ…………ッ」

「おい、ナルト。冗談は止せ。起きろ、起きろナルト!」


遅まきながら異変に気付いた私兵四人が見たモノは。
絶望的な状況のナルトを掻き抱くネジと、そんなナルトに縋り付くヒナタの姿。
四人の中に、日向の子供達同様の恐怖が生まれる。
今の今まで頑強であった足下が、ガラガラと音を立てて崩れていく―――――そんな、声も
出ないほどの恐怖だった。
ネジの腕の中にいるナルトがわずかに瞼を震わせ、目を開ける。
自身の置かれた状況を正確に把握しているのか、その口元にはうっすらと自嘲気な笑みが浮
かんでいた。


「…………前なら充分避けられたし、反撃もでき、たけど……ッ、はは、情けねぇよなぁ〜
…………」

「ナ、ナルト君…………」

「お、前は、こんな時に何を言ってるんだ!!」

「怒りながら泣くなよ、器用な奴だなぁ……ヒナタも、そんな泣くなって。お前等が無事な
ら、もうそれでいーや…………」


激しく首を左右に振ったヒナタが、力なく投げ出されたナルトの手を両手で握ったが、その
手の異様な冷たさに、意識もしていないというのに余計に涙が流れた。


「嫌だよ、死なないで!こんな終わり方あんまりだよ……九重さん!お願いだから、お願い
だからナルト君を助けて!!」

「無理だって…………」


残酷な返答は、助けを求めた存在ではなく当のナルト本人から。


「しばらく前から返事、なくてさ……どーやら眠りについてる状態らしくて……あとは俺だ
け、だったんだぁ。だから、もう無理…………」

「―――――んなこと、そんなことを言うな!どうして俺達はこんな形でお前を失わなけれ
ばならない!!あの人のところに行くんだろう!?」

「…………そだね、行きたかったなぁ」

「過去形にするな!!」


したくてしている訳じゃない、と。
笑うナルトの姿がダブって見え、ネジまでもが顔を歪めた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
自分達はただ、里人に嫌われて憎まれて、あまつさえ何度殺されかけたか知れないナルトが
『なんでもないよ』という顔をするのを止めさせたかった。
全てを他人事のように考えていると思えば、そのくせ何かあれば、十三年前すでに大きな犠
牲を強いられたというのに更に己を犠牲するという癖がついているナルトに、少しでも多く
自身のことを考えてほしかった。
性格に多少の難はあるかもしれないが、それでも自分達はナルトが大切だったのだ。
だから、滅多に口にされることのないナルトの願いを叶えたい一心でここまでやってきた。
しかし、こんな結末を望んでいた訳ではない。
血に濡れることを厭わずナルトを強く抱き締めながら、ネジは、十三年という長い間ナルト
に向けられていた憎悪の眼差しをそっくりそのまま返すように、周囲を取り囲む多数の忍を
睨み付けた。


「あなた達は、コイツを殺せば九尾の脅威から逃れられると本気で思ってるんですか………
…」


押し殺そうとしても尚、隠し切れないその強すぎる感情。
この状況で隠す必要があるのか、そもそも隠すべきものなのか。
以前のネジならば少しくらいの葛藤はあったかもしれないが、腕の中にいるナルトの体温が
急激に下がっていくのを身をもって体感している現状では、そんな考えなど微塵もない。
今まで溜め続けてきた里に対する不満や疑問、そして何より憎悪や嫌悪といった念が、ネジ
の中で音を立てずに爆発した。


「十三年前に滅びるはずだった里を、器となって救ったのはコイツです!確かにコイツの中
には四代目が封印した九尾がいます!!しかし、実際にコイツ自身があなた達に何かしたん
ですか!?年寄りや子供を食い殺しましたか!?家を焼きましたか!?何もしてないでしょ
う!!なぜコイツ自身を見ようとせず、非難し、責め立てるばかりか殺そうなんて考えが起
きるんですか!!」

「黙れ!!」

ナルトの私兵達との戦闘で負傷した忍が、盛大に斬られた腕の傷口を押さえながら、ネジの
発言を制した。


「お前のような子供に一体何がわかる!!名家の者として常に他者に守られて安穏と暮らし
てきたお前が、家族を理不尽に失う苦しみなど味わったことがないだろう!!全てがソイツ
のせいなんだ!!それなのにソイツは、自分の身の程も弁えず大きな顔をして里を歩き回る
……その上、忍になったと思ったらすぐに九尾の力を操り始めた!!あれから長い年月が経
ったというのに、まだ我々に九尾の脅威に怯える生活を続けろと言うのか!!?」

「ソイツがどれだけの人間を取り込もうと知るもんか!!今ソイツを始末しておかねぇと、
いずれまた里がアレに襲われることになる!!何かあってからじゃ遅ぇんだよ!!」


冗談じゃない、と。
言ったのは、果たしてドチラだったのか。


「先ほども言いましたが、コイツを殺すことが里の未来のためだと本気で思ってるんです
か!?もしそうだとしたら笑い話にもなりませんね!!四代目の封印とコイツのおかげで現
状が維持されてるんです!!器となっているコイツを殺してその均衡を崩せば、たちまち九
尾の封印が解ける―――――それこそ里の終わりです!!先のことを憂いておきながら、結
局はあなた達自身で里を潰すつもりですか!?」

「お前のような下忍の言うことなど、誰も信じやしない!!御託はいいからさっさとそのガ
キを渡せ!!!」

「嫌です!!!」


拒否したのはヒナタだった。
永遠に和解することができないであろう忍達から守るように、小さな背でナルトを庇う。
たとえ、こうして負の感情しか宿していない目から隠すことしかできない自分が惨めに思え
ても、涙が止まらなくても、それでもヒナタはナルトを守るために両手を広げた。


「ネジ兄さんが言ったことは本当です!!ナルト君を殺しても、九尾の封印が解けるだけで
なんの解決にもなりません!!自ら進んで死期を早めることもないでしょう!?お願いだか
ら、もうナルト君に関わらないで下さい!!ナルト君は、ナルト君は―――――ッ」


続く言葉を口にするのを、ヒナタは一瞬躊躇った。
しかしそれも一瞬のことで、認めたくないことでも本当は自分が一番認めなければならない
のだと言い聞かせるように、意を決して真実を叫ぶ。


「ナルト君はもう長くないんです!!器になったせいで、私達の代わりに死んじゃうんで
す!!!それなのにまだナルト君を追い回すんですか!?」


うずまきナルトの死。
それを聞かされた面々は明らかな動揺を示し、とたんにざわめき出した。
それは里人の大半が望んでいたことだ。
だが、つい先ほど『信じない』と全否定したネジの主張が思い出され、急に現実味を帯びて
忍達に襲い掛かる。
もしもそれが本当ならば、自分達は一体どうすればいいのだ?
声に出してはいないがそれが彼等の共通の思いであり、立ちはだかっている問題でもある。
器が死ねば封印が解けるということは、器が死なない限りは安全は保障される。
しかし、日向一族の子供の言葉を信じるのなら、その器は近々死ぬのだという。
皆無言ではあったが、導き出された答は一つだった。
―――――ならば。


「…………代わりの器」

「そうだ、代わりの器だ!代わりの器を用意して再封印すればなんの問題もない!!」


カワリノウツワ。
その単語を聞いたネジとヒナタが息を呑むと同時に、その一方でかろうじて意識を保ってい
たナルトは凍りついた。
初めからわかっていた。
だから、自分の死を聞いたことに対しての反応などまともではないと信じて疑わなかったし、
もしかしたら目を覚ますのではないかという期待も特にしていなかった。
だが、さすがにこう出てくるとは思わなかった。
器になるには『清い魂』と『生まれ付いての資質』の他に、内外の圧力に耐えうるだけの精
神力が必要とされ、無事に成長していけたとしても、その後の人生を棒に振ることを覚悟し
なければならない。
理解のない里の中では、人一人の生を犠牲にすると言っても過言ではない役目なのだ。
器にだって感情はあるのに、それ以前に同じ人間なのに。
それをまるで、化け物を封じるための消耗品のように軽々しく口にされるとは。
自分のような子供を新たに輩出しようと言うのか。
木の葉はそこまで腐っていたのか、と。
言葉にならないどころか声にならないほどの衝撃を受けたナルトは堪らなくなり、ネジの肩
口に顔を埋めた。
その無言の嘆きを知ったネジがナルトを抱く手の力を強め、ナルトの感情が伝染したかのよ
うに、わずかに震える声で呟く。


「お前は、こんな里のために命を張るべきじゃなかった…………」


ヒナタは、無言だった。
言いたいことがなかった訳ではない。
気を抜けば取り乱してしまうのを、口を両手で覆い、泣き声を洩らすまいと耐えることしか
できなかったのだ。
しかし、その思いは同じ。
何も言うことができないヒナタの意思を代弁するように、ネジが声を張り上げる。


「お前が命を張ってまで存続させるだけの価値は、木の葉にはない!!」


そんなネジの叫びの意味を考えようともしない忍達の勝手な主張は続く。


「日向ネジ!ソイツを渡せ!!」

「早く手を打たなければ手遅れになる!!」

「器が死んであの化け物が出る前に、さぁ―――――ッ!!」

「…………いい加減にして下さい」


とたん。
痺れを切らしたように一歩前に出た忍の頭が、地面に落ちた。
呻き声さえなかった。
ただ、首から上が綺麗さっぱり消えているその男の身体が地面に崩れ落ちた際に生まれた音
だけが、しんと静まり返ったその場に響く。
犯人は安曇だ。
手持ちの忍刀から滴る血を無造作に払い、今までになく冷酷な声で。
形ばかりの敬語も、もはや恐怖を煽るものでしかない。


「あれから十三年経ったというのに、いつまでもグダグダと煩い方々ですね。御自分が何を
言っているのか、あなた達は本当にわかっているのですか?」

「やだなぁ、安曇。わかってないからそーゆー馬鹿で身勝手なこと言えるんでしょ」


『はい、フライング禁止ー』と。
安曇が殺した男に続こうとしていた男を鮮やかに処理した伊吹が、青年姿と言えども小動物
のような柔らかさが抜けきれていない顔を嘲笑に変え、周囲に視線を走らせる。


「四代目がどういう思いで姫に九尾を封じたのか考えもしないで、たった一人の子供に全て
の責を押し付けて、自分達だけ被害者面して……さぞかし楽だっただろうねぇ」

「な、何を―――――ッ」

「じゃあ聞くけど、その代わりの器ってのはどうやって用意するの?生まれたばかりの赤ん
坊を母親から強奪して、まだへその緒を切ったばかりの、血に濡れた赤ん坊の中に挿れるの?
九尾に内側から喰われて身体を乗っ取られるのがオチだよ?姫と同じレベルの子供が、そう
簡単にポコポコ生まれると思わないでほしいね。それに、誰が封印するのさ。あの歴代最強
とまで呼ばれた四代目だって、殺すことができずに封印するのがやっとだったっていうのに
―――――どっちにしろ、無理なんだよ。再封印すること自体」

「では、ではお前達は我々に死ねと言うのか!ソレが死ぬの大人しく待ち、化け狐に殺され
ろと!?」


それを聞いた安曇、伊吹、刹那、鴇の四人は冷笑する。


「相応の報いってヤツじゃないですか?」

「う〜ん、十三年もっただけでもスゴイことだよねぇ」

「―――――っつーことで死ね、潔く」


もちろん、里の忍達にとってそれは到底受け入れられるものではなく。
正しいと思っていた思想を真っ向から否定され、あまつさえ『十三年前に猛威を振るった化
け狐に大人しく殺されろ』とまで言われた男達は逆上し、早急であろうがなんだろうが、も
う言葉など必要ないとばかりにいっせいに襲い掛かってきた。
ネジもヒナタも逃げることをせず、それを黙って見ている。
実際には軽々しく動かすことができないナルトに付き添っての行動なのだが、目の前の忍達
相手に逃げる気など起きるはずもなかったのだ。
明確な意思を持ってナルトを殺そうとしている人間を、ナルトの忠実な部下である四人が見
逃すことなどありえないと思っていたから。
一度中断していた戦闘が再び再開されようとした、まさにその時。
ネジやヒナタだけでなく四人の目に飛び込んできた光景は、予想外のものだった。


「水遁、水鮫弾の術!!」


低い男の声がしたかと思えばチャクラが作用する気配がし、襲い掛かって来ていた忍達の一
部が、ものすごい力を持つ水流に押し流されたのだ。
四人のうち、誰が発動させたものでもない。
自分達ではないとしたら、まるで援護するかのようなこの攻撃は一体誰がしたものなのだろ
うか。
しかし、そんなことを考えたのはほんの数瞬。
このタイミングで現われる人物といったら、あの怪しい二人組み―――――正確には、安曇
達にとっては忌々しい、ネジとヒナタにとっては複雑な思いしか抱いていないあの男しか考
えられなかった。
四人と忍達との間に現われたのは、額当てに彫り込まれた里のシンボルマークに横一線を引
き、独特な黒いコートのような物を着た二人組の男。
一人は人間とも思えぬような顔をしており、それが仮面であるのかそうでないのか、今のと
ころ誰もその真実を知らない鮫顔の男だ。
元霧隠れの忍で、大名殺し、国家破壊工作などの容疑で水の国より各国へ指名手配中の抜忍
―――――名を、干柿鬼鮫という。
そしてもう一人は、木の葉で知らぬ者などいない人物であった。
かつて里で隆盛を誇っていたうちは一族の直系であり、その一族を弟一人を除き全員惨殺し
て里を抜けた、怜悧な美貌が目を引く黒髪の男―――――言わずもがな、ナルトの元教育係
であるうちはイタチだ。


「う、うちはイタチ…………」

「馬鹿な!なぜアイツがここにいるんだ!?」


混乱のあまり騒ぎ出した忍達を興味なさげに一瞥した後、彼の美貌の青年はナルト達の方に
視線を移す。
その切迫した状況をすぐに理解したイタチは、ナルトに付き従う私兵のうち特に馴染みのあ
る安曇を見て、その秀麗な顔を顰めた。


「…………あなた達が付いていながら、なんて様ですか」

「今頃になってノコノコと現われた人に、そんなことを言われる筋合いはありませんね」

「そうかもしれませんが、ナルトが傷付いたのは事実―――――あなた達の役目はナルトを
守ることでしょう」


互いに非友好的な言葉を交わしながら、イタチは音を立てずにナルトの方に歩み寄った。
写輪眼が発動していない黒曜石のような瞳が、静かに三人を見下ろす。


「イタチさん…………」

「久し振りだね、二人共。こんな形で再会したくはなかったが……まぁ、仕方ないな」


無表情だった顔にわずかな笑みを乗せ、イタチは言う。
そして次に、イタチのまさかとも思える劇的な登場のせいで顔を上げることができないナル
トを見て、更にその笑みを深めた。


「ナルト」


柔らかな、声。
どこまでも優しく暖かなソレは、他の誰でもない、ナルトにだけ向けられるものだ。
誘われるようにそろそろと顔を上げたナルトは、膝を折ったイタチの姿を視界に入れた瞬間、
信じられないとでも言うような面持ちで小さな声を洩らした。
この時を、どれほど待ち望んだことか。


「イ、タチ兄……本物…………?」

「お前には、俺が偽者にでも見えるのか?」

「だって、んな都合の良い話……幻覚かもしれねぇじゃんか」


恐る恐る伸ばされた手。
その意図を悟ったネジはナルトを抱く力を緩め、少しだけ身を離した。
やがてその指先が緩慢な動作でイタチの頬に触れると、ナルトの目頭に熱が生まれ、もとも
と霞んでいた視界が更に霞んだ。
自分のモノよりも大きな手に抱き寄せられると、張り詰めていた緊張の糸が一気に切れたの
か、泣こうなどとは思っていないにも関わらず涙が流れた。


「これでもお前は俺を疑うか?」

「…………本者でも偽者でも、もーどっちでもいい」

「答になっていないが……それより、なんとも壮絶なことになっているみたいだが」

「名誉、の負傷ってヤツ。後悔してねぇよ…………」

「名誉の負傷……それでか」


チラリとネジとヒナタを見たイタチが、二人を責めるでもなく笑った。


「その身体でよくやった。辛いか?」

「…………ん、少し……でも、もうあんま感覚ねぇから、ある意味楽かも」

「やっとまともに会えたんだ。いいか、川が見えても渡るんじゃない」

「肝心な時に顔、出さなかったくせに、何、言って……俺、もう…………」

「そうだな、悪かった。だがもう大丈夫だ、なんの心配もいらない。これからはずっと一緒
だから」


イタチの胸の中で泣きながら、ナルトは笑った。
文句をたくさん言ってやるんだと息巻いていたのも忘れ、イタチの温もりを、イタチの声を、
自分を抱くイタチの腕を、イタチの全てを己に刻み込むように目を閉じて。


「―――――そーだったら、いーねぇ…………」


それが実現することなどないと知っているから、そんなことしか言うことができない。
それきり何も話さなくなったナルトを横抱きにして立ち上がったイタチは、この時初めて周
囲にいる元同郷の忍達をまともに見た。
瞳術を使う訳でもなく、ただ人を人とも思わぬような目付きで。


「イタチさん、九尾の坊やは本当に大丈夫なんですか?」


鬼鮫のその問いに、イタチは当然とばかりに答えた。


「ナルトは、俺達が思っているよりずっと強い」


その答が、ナルトが一命を取り留めることを意味しているのか、とりあえず今この場で逝く
ようなことにはならないということを意味しているのか、判別し難かった。
しかし、この場にいる人間がはっきりわかることといえば、『ナルトのため』と言いながら今
まで散々ナルトを苦しめてきたイタチが、ナルトを連れ帰るだけでその過去全てを清算する
ほど不誠実な人間であるはずがないということだけである。
ネジもヒナタも、イタチが本当にそんな人間であったら、いくらナルトが望もうとイタチに
ナルトを預けたりはしないのだ。


「鬼鮫、俺は先に行く。お前は後から追いつけ」

「要するにイタチさんは、その坊やしか眼中にないから雑魚の始末は任せると言いたいんで
しょう?」


無言の肯定に不満を洩らすでもなく、鬼鮫は残忍に笑った。


「いいですよ。ちょうどストレスが溜まってましたからね。暴れますから巻き込まれないう
ちに行って下さい」


そうさせてもらう、と。
返答したイタチはネジとヒナタに向き直り、目礼した。


「俺が不在の間、ナルトが世話になった。ありがとう」

「止めて下さい」


遮るようなネジの声に、イタチが無言で眉を上げる。


「俺達は世話を掛けられてはいませんし、そもそもそんなつもりでソイツと一緒にいた訳じゃ
ありません。俺達は『俺達』としてソイツの側にいただけで、けしてイタチさんの変わりで
はありませんでした。だから、あなたに礼を言われる覚えなどコチラにはありません」

「…………なるほど」

「ただ、一つだけ言わせて下さい」


ネジとヒナタが目を合わせ、頭を下げる。


「ナルトを、お願いします」

「もしナルト君にまだ少しでも時間が残されているのなら、ナルト君を一人にしないで下さ
い。今度こそずっと側にいてあげて下さい。私は、ナルト君のあんな顔、二度と見たくあり
ません…………ッ」


偽りではない、二人の真摯な思いを聞き、イタチは大きく一度だけ頷いた。


「約束しよう」


そう言ったかと思うと、ナルトを抱いたイタチの姿が瞬く間に消えた。






残された面々は。
ナルトの生がこれ以上痛みを伴うものでないようにと、祈ることしかできなかった。












許せなかったんだ、と。
朦朧とする意識の中、ナルトは呟いた。
ある一線を越えてしまえば、二度と目覚めることはないとわかりきっていたから。
会話を続けることで意識を保てるのならそれでもいいと、藁をも縋る思いで。
それが今の自分にとってどれだけの負担になろうとも、口を噤むつもりはない。


「許さなかったんだぁ……『連れてって』って言ったのに、全然聞く耳持ってくれ、なくて
―――――……俺を里に残して、さっさと一人で出てったイタチ兄が許せなかった。『俺のた
め』の一言だけで、ちゃんとした理由、も、話してくんないし―――――所詮、イタチ兄に
とって、俺はその程度の存在なんだって……言い、聞かせても、やっぱ納得できないし……
毎日泣きまくったんだぜ?ホントに、許せなかったんだ…………」

「…………そうか」

「―――――でも、なんでかなぁ……憎めなかった。んな最低な男忘れちまえば、いーのに
さ、どっかでずっと思ってて……俺のこと認めて受け入れてくれた人、たくさんいるのに、
イタチ兄以上になれる人、誰一人いなかった」


いつだって、新しい世界を見せてくれたのはイタチだった。
その度に外の世界に臆するナルトを叱りつけ、かなり強引とも言える手段をもって、ナルト
がナルトとして生きていく上での基盤を作ってくれたのはイタチだった。
同じ目線でモノを見て、誰も触れようとしない己に触れ、抱き上げてくれたのはイタチだっ
た。
ナルトにとってはイタチが全て。
もちろん、ネジもヒナタも大切だけれど、それ以上に。
今自分を抱いている男が、ナルトには必要だったのだ。


「嫌ってないよ、憎んでなんかない……イタチ兄が好き。今も昔も、それだけは変わってな
いから…………」


信じてくれる?
それに対する返事が自信に溢れたモノであったのが、やけに癪に障ったのは果たしてナルト
の気のせいか。
自惚れんな、と。
笑ったナルトが、最後の力を振り絞って身動ぎする。


「ナルト?」

「お願い、黙って…………」


そして重なる、二人の唇。
触れるだけの儀式のようなソレは到底甘さを含んだものではなかったが、その行為が恋人同
士の触れ合いにしては淡白と言わざるをえなくとも、込められた思いは他の何よりも強い。
目を閉じることもせず、互いに薄く目を開けたまま二人は無言で見詰め合う。
髪と同色の睫の下からイタチを見上げる青色は、まるで夕日が沈みきる直前の、一瞬の強い
陽光のような殊更綺麗な光を放っていた。
感極まったように、ナルトはイタチの肩口に爪を立てる。


「…………今まで、ゴメンナサイ。それから」


アリガトウ。
そう言い終えて、満足したようにゆっくりと目を閉じた。


「…………ナルト?」






それが最後だった。






















―――――と思いきや。


「…………なぁ、イタチ兄」

「ん?」

「なんで俺は、こんなトコでこんな格好してこんなことしてんの?」


寝返りが軽く三・四回はできそうな大きなベッドの上で、白い浴衣姿のナルトは大いに苦悩
していた。
確か自分は絶望的なあの状況から連れ出されはしたけれど、それからまもなくして、イタチ
の腕の中で息絶えたはずで。
断じてベッドの縁に腰掛け、膝に乗せた金色の毛玉の遊びに付き合いながら、雑談してはい
ないはず。
自分は死んだのだ。
そうだ、そうに決まっている。
これは夢なんだ―――――っつーか、もしや『あの世』ってヤツですか?
死んだ暁には地獄に招待されるぐらいの覚悟はしていたが、まさかこんなに優遇されること
になるとは…………。
いや、待て。
そうと見せかけて、後になって絶望のドン底に突き落とすという新手の嫌がらせか。
一人で唸るナルトを見ていたイタチが、ウサギさんカットの林檎を乗せた皿を簡易テーブル
の上に置き、呆れた口調で。


「何度も言わせるな。お前は生きているだろう」

「だって俺は助からない身体だった!」

「あのままいけばな」


それはつまり、あのままいかなかったということ。
その証拠がそのまま現状である。
万全の体調ではないが一時期に比べればかなり回復しているナルトと、そんなナルトの膝の
上で毛繕いに勤しんでいる小さな獣。
『呼んだ?』とばかりに顔を上げたソレは、どこからどう見ても仔狐そのものだ。
しかもただの仔狐ではなく、三本尾の、妖狐。


「お前が九尾の器である限り、近い未来死ぬことは免れなかった。だが、それは人の身体に
は不相応すぎる大きな力を受け止めていたからだ。要するに許容量オーバーだな。その分の
九尾の力を軽減することができれば、お前の身体に掛かる負担はわずかなものになる。あと
は本人の体力次第だったが……まぁ、これは初めから心配していなかった」

「でもだからって、まさかこんなことするなんてさ〜」

「封印されてはいないがソレもお前に懐いていることだし、いいじゃないか。それに、六尾
分の妖力はお前の中に残っているから、今まで通り九尾のチャクラも使える―――――何も
問題ないだろう?」

「そーかもだけど……大体、どっからそんな夢みたいなこと実現させる術を…………」

「そのための暁だ。忘れたか?」


―――――そーいえばそーデシタね。
がっくりと肩を落としたナルトは、密かに遠い目をした。
いろいろな情報が一度に入ってきて、処理をするのが酷く面倒に思えてくる。
特に、事の真相を知った際、『なんで自分を置いていく必要があったんだ』と問い質したとこ
ろ、『確実にその手立てが見つかるかどうかも疑問だというのに、軽々しく里から出して、余
計な危険に晒させて堪るものか』という答が返ってきてからは、何もかもが馬鹿らしくなっ
て最近は無気力になりがちだ。
いっそのこと全て放り出してしまいたいが、問題を後回しにして最終的に困ることになるの
は想像するまでもないため、なかなかそうもいかなかった。


「頼むから、もっとこう人間らしく最初から言葉でもって意思の疎通を図ってくれ……事後
説明事後承諾は心臓に悪すぎるんだよ」

「ホント、こーゆートコではっきり人柄って出るよね〜。そーゆー意味で姫はすっごくマト
モだと思うよ、うん☆」

「…………そして四人共、やっぱり当たり前のようにいるんデスね」


イタチがナルトのために用意した林檎を摘み食いする伊吹と。
テーブル近くの椅子に、背凭れに両手と顎を乗せて跨いで座る刹那と。
壁に背を預けて立つ安曇と。
他の人間など視界に入れず、ナルトとナルトの膝の上にいる毛玉を一心不乱に観察する鴇。
私兵である四人とは、ネジやヒナタ同様あの時に別れたはずだったのだが。


「だって姫、生きてるし」

「死んでたら後追いでもしよーって思ってたけど、生きてるしな」

「えぇ、生きてますからね」

「…………」

「だからといって、あなた達をここに呼んだ覚えはありませんが」


イタチの冷たい科白に、安曇が負けじと冷笑する。


「私達もあなたに呼ばれた覚えなどありませんね。私達はアソコの鮫さんに勧誘されだけで
すから」


誘ってない、誘ってない。
憔悴しきった鬼鮫の、必死の否定。
しかし、その否定は当然のごとく黙殺される。
無色透明の火花が四人とイタチとの間で散っている光景を見たナルトは大仰な溜息をつき、
仔狐の小さな身体を両手で持ち上げた。
驚かせてしまったのだろうか。
大きな耳をピンと立たせて手を噛んでくるが、相手が他ならぬナルトであるため、たいして
痛くはなかった。
あの一件以来、九重の声は聞こえない。
九尾の力を完全に分けてしまったぐらいだから『九重』という人格そのものが消えてしまっ
たのかもしれないし、そうではなく、ただ単に形を潜めているだけかもしれないが。
あの傲慢な口振りを聞くことはもう二度とないのだ、と。
心のどこかでそう感じている。
別に悲しくも寂しくもないから、もし本当にそうだったとしても構わないのだが、今の物足
りなさが当たり前と思えるようになるまで、かなりの時間が掛かるだろう。


「…………そーいや、お前の名前決めてなかったな」


九重であり、九重でないモノ。
自分の中から生まれた仔狐をどう呼ぶべきか。
しばらくの間悩んだナルトは、『よし、決めた』と大きく頷いた後、目を閉じて仔狐の額に唇
を寄せた。
柔らかい毛並みに口付けし、何かを送り込むように。


「安直だけど、お前『ミエ』な。『三つ重なる』って書いて『三重』。お前妖狐だし、俺より
確実に長生きするだろ?『器』の俺が死んで『九尾』の力全てを取り戻したら、その時から九
重って名乗りナサイ。たぶんそれが一番良い。OK?」


お返事は元気の良い鳴き声だ。
どうやら、人の言葉(この場合はナルト限定)を理解するだけの知能はあるらしい。
満足したナルトが膝の上に三重を下ろし、視線を上げると、いまだに『ネチネチ』や『チク
チク』などというイヤラシイ擬音が付きそうな舌戦を繰り広げている大人の姿が。
これ以上は騒音にしかならないと判断したナルトは、うんざりとした口調で五人を窘める。


「もーいい加減にしろよなぁ、大人の喧嘩ほど見苦しいもんはねぇって……。四人のことは
―――――そーだな。今更追い返すのも変な話だし、これまで通り俺個人が預かるってこと
で。これでいーだろ?」

「ナルト、それこそ問題だ」

「あ?」


やけに真剣な顔のイタチが、いけしゃあしゃあと。


「この人達が四六時中張り付いているとなれば、お前に迂闊に手が出せなくなるだろう。そ
れじゃあ俺が困るんだ」


伊吹がフローリングの上に落とした林檎の音が、やけに響いた。
瞬間。

ぶちぃっ!!

ナルトの中で、何かが盛大にブチ切れる。



「アホかアンタは―――――ッ!!!」



顔面、赤一色。
それが羞恥のせいなのか、それとも怒りのせいなのかは自分でもよくわからないが、たぶん
おそらくきっと両方なのだろう。
突如として出現した強烈な低気圧の下で、安曇がナルトでさえも聞いたことのない声を発し
た。


「…………あなた、よく私達の前でそのようなことが言えますね」

「あなた達の前だからこそ言うんですよ、安曇さん。もっと言いましょうか?」



「止めろよ、何も喋んじゃね
ぇ!!テメェ等全員今すぐ俺の
前から消え失せろ―――――
ッ!!!」







イタチの許に来てしまったのは、やはり間違いだったのだろうか。
要・再考?








END

†††††後書き††††† えっと、去年ぶりの更新……?わ、気付けばかなり間が空いてました!マズイマズイ。随分 前から書く内容(しかもわりと細かいところまで)は決まっていたのですが、なかなか手を 付けることができず……………だけど、なんとか戒李に突付かれる前に書き終えましたので ホッと一安心です。最終話の内容については特に触れません。―――――っつーか、いろい ろ痛くて触れられない<ぎゃ これでひとまず、宿願シリーズは終わりとなります。今後は婚約時代シリーズと虚像の里シ リーズの更新(あと溜めまくっているリク)に集中すると思われますが、その後の彼等の動 向が自分でも気になりますので、番外編を書くかもしれません。 何はともあれ。 今まで宿願シリーズを読んで頂き、ありがとうございました!!\(∂∀∂\)〆☆
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