「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお…………」

またいつものヤツが始まったなぁ、と。
どこかぼんやりした頭で考える。

Oath

口をついて出る数字が無意識なのかそうでないのか、自分でもよくわからない。
何を数えてるのか、答えるだけならすごく簡単。

「お前のせいでっ!!」



「お前がいなければっ!!」



「お前なんか死んでしまえっ!!」

殴る。

蹴る。

刺す。

斬る。

全部ひっくるめて、ナルトが痛いと思った数。
だいの大人三人がかりで、すでに日常となりかけた、毎回恒例のお礼参り。
どう考えても、まだ五歳の幼子に対する仕打ちではなくて。

「…………じゅーしち、じゅーはち、じゅーく、にーじゅう、にーじゅいーち…………」

ゴポリ、と。
ナルトの小さな口から吐き出される赤色。
真っ白だった着物は土色と血色に余すことなく染まって、なんともいえない変な色。
下ろしたての着物でも、ここまで汚れてしまえばいっそ清々しい。
買い与えてくれた三代目に悪いと思いつつ。
ナルトは、愚行を止めようともしない三人の里人を見つめた。

「…………にーじゅきゅー、さーんじゅー、さーんじゅいーち、さーんじゅにー…………」

場所は人気のない路地裏。
たとえ叫んだとしても、誰も助けてなどくれるはずもない。
そんなことは無意味だと知っている。
それでも助けを求めてしまうのは、やっぱり条件反射なのか。
無駄だと嘲笑うそこの三人、正解です。

「イタチ兄もそう思うだろ?」

突如背後に現れた人影に驚かず、むしろ冷静に。
地上7メートルの屋根の上、その様子をひたと見据えながら、淡々と語るのはどの口か。

「こんなところにいたのか…………」

吐息混じりの呟きに、ナルトはくすぐったさを覚えながら首を傾げた。

「どうしたの?何かあった?」



「別に。任務から帰ったら君がいないから」



「心配した?」



「いや、特には…………」

視線が合うことはない。
だが、同じ方向に向いているのは確か。
視線の先には、暴行を受けている最中の九尾のイレモノ。
どこまでも空虚な瞳が、ナルトを見上げてくる。
自然と笑いが込み上げてきた。

「それよりさ〜アソコの三人、上忍だってのはホント?」



「一応な」



「まったく、世も末だよな。たった五歳のガキが作った影分身さえ見抜けないなんて。アイツ等モグリなんじゃないの?」



「…………俺も実物を見るまで影分身かどうか確信できなかったんだが」



「へぇ〜…………」

苦笑混じりの衝撃の告白に、ナルトは素で驚いた。
馬鹿にしている訳じゃない。
どこまでもナルトの上をいくイタチに、そこまで言わせることができたのは初めてだったから。
そう、嬉しかった。

「それはそれは、恐悦至極。イタチ兄を追い越す日も、そう遠い未来じゃないな」



「自惚れるな」



「はいはい。あ、五十回目だ」

イタチが眉を寄せる。
もともと険しかった瞳の色が、剣呑さを増した。

「…………ナルト」



「何?」



「はっきり言って不愉快だ。君の楽しみを奪うことになるが…………構わないか?」

台詞自体は疑問形。
でも実際、その答えを欲している訳じゃなくて。
やることは最初から決まっているから、言うなれば、これはただの自己満足。
ほら、その証拠に。
ナルトが返事をする前に、イタチは宙を舞っていた。
数秒挟んで聞こえた鈍い音に、笑みが零れる。
お好きにどうぞ。
言いそびれた言葉が、咽のずっと奥の方で燻っている。
ナルトもすぐにイタチを追った。

「イタチ兄、一人だけでいいからオレの分も残しといてよっ!」



「…………もう遅い」

言葉通り、主張するのが少しだけ遅かったらしい。
ちょうど最後の一人の首が落ちて、あとはもう死体を始末するだけ。
絶叫する直前の大きく開いた口と、黒目がひっくり返って白目になった目が、言葉では表現できないような哀愁を漂わせていた。
ナルトに関わらなければ、退屈だけどそれなりの人生を歩んでいけただろうに。

『ご愁傷様、運がなかったね』

そんな意味を込めて、五体不満足になった未だに温もりが残る身体を、爪先で軽く蹴った。
何の反応もないことが酷くつまらなくて、酷く愉快。
力なく横たわる影分身をそっと起き上がらせて、ご苦労様なんて言ってやると。
影分身は、『ホントだよ』と毒づいて消えた。
その横では、イタチが火遁系の術で死体を燃やしていて。
炎に照らされて浮かび上がった横顔は、血に濡れていてとても綺麗だった。
その血が任務時のものなのか今のものなのか、判別するのは難しい。
ナルトは笑みを深めた。

「水も滴るイイ男ってか?」



「なんならお前も濡れてみるか」



「結構デス。血って乾くと固まって嫌なんだもん!」

カラカラと笑って、言葉とは裏腹に自分からイタチの懐へと飛び込む。
イタチは、幼子と称しても間違いがない体躯のナルトを軽々と抱き止めた。
はじゃれるように戯れるように、ナルトはイタチの首に腕を回す。

「今日の任務の出来は上々だったらしいね!」

「当然だ、俺を誰だと思っているんだ」



「木の葉の名門一族の嫡男で、真の写輪眼継承者。俺とは対称的に、とってもとってもご立派な人…………だろ?」



「ナルト」



「冗談だよ、イタチ兄。全部返り血で良かった」

血に濡れた頬に、そっと擦り寄る。
ヌルリとした感触も、イタチが関しているなら不快ではない。

「たくさんの命を奪ってもいい。イタチ兄が無事なら何も言わない。だから、絶対に死なないでね」

他者を排斥しても、存在し続ける『個』というものを。
何よりも重要視し、そしてそれを信念とする。

「それはこっちの台詞だ」

もちろん、そんなことは全部承知の上だ。
そう言ってくれるイタチのために、自分自身のために、たとえどんなに醜くとも、生にしがみついてやる。
そう、それは誓いなのだ。

「そんなイタチ兄である限り」



「そんなナルトである限り」

鼻腔をくすぐる、イタチの香り。
互いを貪り合うように、両の腕で掻き抱く。
唇同士が触れる寸前に、絡み合う吐息と睦言。

「「ずっと愛してる」」

そして、唇に感じた柔らかな感触と温かさ。
ただひたすら、純粋な誓い。



END



†††††後書き†††††

これは五月に出したコピ本の原作です。
本にした当時、この話は漫画でした。
えぇ、もうこっぱずかしいことに。
オイラの中では無かったことになっていたはずなんですが、修正加えて書きました。
何でだろう…………?
とにかくイタナルです。
時間的には、イタチがナルトの護衛兼世話係になってしばらく経った頃ですネ。
ネジやヒナタにも、まだ引き会わされてません。
―――――ってか、イタチとナルトの出会い編も書いてないってのに何やってんだろう…………。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送