定期連絡係の暗部によると、新たな火影の指揮の下、里の復興は順調に進んでいるらしい。
ナルトにとっては里の復興が順調であろうとそうでなかろうと、そんなことはどうでもいい
ことでしかないが、とりあえずは万事快調と言えるだろう。
そんな不謹慎な考えしか持たない五代目火影こと『うずまきナルト』は、修行という名目で
の諸国漫遊の旅を、それはそれは楽しんでいた。
期間限定ではあるが、自由でいられる時間が愛しくて堪らない。
しかし、ナルトが自来也と共に里を出てから三年近く経つ。
平和で穏やかな時間も、そろそろ終わり。
今まで無視し続けてきた帰還要請も回を重ねるごとに周期が短く、尚且つ切実さを増してき
ているから、惜しむ気持ちはあるが、いい加減面倒なことにならないうちにあの監獄のよう
な里に戻らなければならないだろう。
残された自由時間はあとわずか。





そんなナルトが最後に選んだ立寄り地は、カマ口調の蛇男が治める、音の里。












彼が足を踏み入れた世界

うちはサスケ。 自分の憧れであると同時に目標であった大好きな大好きな実兄が、両親を含めて一族全員を 皆殺しにしたことが原因で、その反動のように復讐の鬼と化してしまった名家の少年だ。 今から三年前、九尾狙いの兄が帰郷した折に戦いを挑んでこてんぱんにのさ れ、己の力不足を認めざるをえなかった彼は、木の葉にとって最も危険な人物と繋がり、 その結果、堂々と里抜けをやらかしてくれた。 『執念深い男は嫌われる』という定説を覆すように自分に好意を寄せる桃色髪の少女の制止 の声に耳を貸さず、『最も親しい友』とまで言い切った金髪碧眼語尾にだってばよな少年とも 壮絶な殺し合いを繰り広げるという最低最悪な経歴を持つ彼は、相変わらず気色が悪い里長 の呼び出しを受け、そして。 「…………」 百年の恋もいっきに覚めるような顔をして、絶句した。 視線の先には、部屋の主の性格を目に見えるように表している悪趣味で不気味なその室内で、 ノンキに茶を啜っている金色が。 サスケがここ数年で(心はともかく身体が)成長したように、目の前の少年もまた、サスケ が記憶しているよりも確実に成長していた。 小柄で華奢なことに変わりはないのだが、子供らしさが抜けてきた手足は少年らしくすらっ と伸びていて、見ていて飽きない。 眉を顰めたくなるような騒々しさはまったくなく、大人っぽい顔付きが際立つナルトは、ま るで別人のよう―――――ではなくて! 「…………ナルト」 「何」 「なんでお前がここにいる」 なんでこんなトコロで、大蛇丸なんぞとノンキに茶ァ啜ってやがるんだ。 そんなサスケの心の声が聞こえたらしいナルトは、口元にシニカルな笑みを浮かべ、ようや くサスケを見た。 「へぇ…………写輪眼なんて興味なかったけど、うちはの遺伝子もなかなか侮れねぇな。性 格はともかく、顔だけは文句なしに良いんじゃねぇ?さっすがイタチの弟」 自分の顔に対する、その場違いな評価。 いきり立ったように歩み寄ったサスケが、ナルトの前にあったテーブルを拳で強く叩いた。 「ふざけるな!なんでお前がここにいる!?答えろ!!」 「―――――って言われても…………」 至って平然と。 正面の大蛇丸を見たナルトが、茶托に湯のみを置きながら答える。 「コイツが遊びに来いっつーから」 だから来た、と。 そう言われても、サスケには何がどうなっているのか全然わからない。 唯一わかるのは、ナルトがこの状況をなんとも思っていないということぐらいか。 開いた口が塞がらない状態のサスケを見兼ねたのか、大蛇丸がナルトの言葉を補足した。 「サスケ君、あんまりオイタしちゃ駄目よ。彼は私の賓客なんだから」 「賓客?アンタ、コイツが何者かわかってねぇ訳じゃねぇだろ!?」 「もちろんよ。可愛くて美人で、でもすっごく怖い『うずまきナルト』君。サスケ君とはま た別の意味でお人形にしたい子だわ」 その変態極まりない発言に、三年前にあんなことがあったとはとても思えないほどのタイミ ングの良さで、サスケとナルトが揃って顔を顰める。 中でも、『お人形にしたい』という不埒で邪悪な野望を語られたナルトの表情 は、嫌悪以外の厳しい色を湛えていた。 「…………大蛇丸、お前のもてなしってヤツは、客に対してセクハラ発 言をブチかますことか?」 「あら、別にブチかましてなんかないわよ。ただ、『そうだったら素敵ね』っていう希望を口 にしたまでであって……そんなこと言うなら、自来也の方がよっぽど危険じゃない。歩く 猥褻物でしょう?」 歩く猥褻物。 本人が聞いたら抗議すること間違いなしの例えだが、それが限りなく真実に近いものだとい うことをナルトは充分すぎるほど知っているから、わざわざそれを訂正したりはしない。 今は別行動している実父の師を思い浮かべ、ナルトは重々しい溜息をつく。 「一理あるな。旅してる最中にイチャイチャシリーズの新刊を出すんだって息巻いて、各地 の温泉宿という温泉宿で『取材』という名の犯罪を……アレは同じ男として恥ずかしかった」 「あらあら、可哀想に!同情を禁じえないわ。それじゃあの馬鹿、今もどこかで覗きに精を 出してるのね」 「あーゆー輩は煩悩を駆逐すべく寺にでも放り込んだ方が世のため、延いて は全人類のためだぜ」 それより、と。 今この場にいない十八禁男の話題を打ち切ったナルトは、再びサスケを見た。 「その後、どう?」 「どうって…………」 「いや何、元同班のよしみとして気になったんでな。俺はまた、もうとっくの昔に大蛇丸に 身体乗っ取られてたとばかり思ってたんだが、大蛇丸はこんなだし、どーなってんのかなっ て」 「私はそろそろ身体を変えたいのよ?この身体、美しいのは良いんだけどそれ以外はサッパ リなんだもの。その点サスケ君はそれはそれは美味しそうな感じに育ってくれたから頂いち ゃいたいっていうのに、下手に力が強くなったから全力で拒んでくるのよね。まったく、参 っちゃうわ」 それはそうだろう。 大蛇丸が言うサスケの抵抗は、ある意味では当然の反応なのだ。 ナルトは声を上げて笑った。 「なるほど、現在進行形で攻防が続いてる訳だ」 「当然だ、コイツに身体を空け渡すために音に来た訳じゃない!」 「あぁ、知ってるさ。イタチを殺せるだけの力を手に入れるためだもんな?」 ナルトは目をすぅっと細め、艶を含んだ視線をサスケに向ける。 それをまともに見てしまったサスケは、イケ好かないポーカーフェイスをわずかに崩し、息 を呑んだ。 その鮮やかすぎる青色に、魅入られる。 「そのために殺し合いってヤツをしたんだし……まぁ、土壇場で俺を殺せなかったのはまだ まだ甘ちゃんだって証拠なんだけど」 「やだ、ナルト君ったら人が悪いわね。君を殺せる人間が、一体どこにいるって言うの?」 「…………やっぱいねぇか。それだけ強い人間がいたら、間違いなく惚れちまうだろーなぁ」 「それ本当!?じゃあ私、頑張っちゃおうかしら!!」 「キモイ。死ね。テメェの歳を考えろ。カブトさーん、よ くコイツの相手毎日してられマスね」 ナルトが声を掛けると、離れた場所で三人の遣り取りを見守っていたカブトが今までの沈黙 を破り、中指で眼鏡を押し上げながら苦笑する。 「今更ながら不思議になりました。そうだ、ナルト君。僕この里抜けるんで、また木の葉に 戻ってもいいですか?このまま一生犬として扱き使われるのなら、いっそのこと貴方の犬に なりたいんですけど」 ニコリ、と。 鬼畜な内面を綺麗に隠して好青年らしく笑うカブトに対し、ナルトは渋面を作る。 「カブトさん、その発言もなんだかギリギリな感じ。それに、犬はそんなにいらねぇ よ。今は綱手に貸してるけど、暗部はもともと俺の持ち駒だから」 「フラれちゃいましたね」 酷く落胆しているかのような声。 しかし、それもほんのわずかの間にすぎず、あっさりと妥協案を持ち出してきた。 実に逞しい。 「なら僕は、ナルト君専属のボーイというトコロで我慢しておきます。お茶の御代わりはい かがですか?」 「今度はお茶よりもコーヒーがいいな。コーヒーのブラック、挽いたヤツなら尚良し」 「畏まりました」 和みすぎである。 大蛇丸もカブトも、そして当然ナルトもだが、全員和みすぎだ。 まさか自分が変なのか? サスケは頭を抱えたくなったが、それよりも早く、先ほどから気になっていたことが疑問の 言葉となって口から飛び出た。 「…………お前、気でも触れたか?」 その科白に、ナルトが片眉を上げる。 「いや、別に?」 「馬鹿言え。いつもの変な口癖はどこに行ったんだ。それに、コイツ等も俺もお前の敵なん だぞ?なんだってそんなに余裕こいてんだ」 サスケにそう言われたナルトは、心底不思議そうにサスケを見返した。 「敵なのか?」 「は?」 「敵なのかって聞いてんの。もし本当にそうなら、俺はこんなことしてられねぇんだよな。 敵は完全に潰さなきゃ。大蛇丸、お前は俺の敵になるのか?」 「冗談言わないで頂戴!」 焦り混じりの、抗議の声。 それが悲鳴じみて聞こえたのは、果たしてサスケの気のせいだろうか。 「君の敵になるぐらいだったら、いっそ死神の腹の中で先生と再会 してやるわよ!!」 「―――――だそうだ。だから大蛇丸の『お人形』であるお前も、味方じゃねぇが敵ではね ぇな。んな中途半端な奴を相手にするほど、俺は暇じゃねぇんだよ」 ナルトは鼻で笑い、カブトが持ってきたティーカップを受け取った。 淹れ立てのコーヒーの香りと、砂糖もミルクも入れないという希望を叶えたソレに、満足そ うな顔をしてティーカップの淵に口を近づける。 「例えば、このコーヒーに毒が入ってたりしたらまた別問題だけど…………」 まだ熱いコーヒーを口に含み、誘うようにサスケを見上げた。 作為的ではなく、あくまで自然な仕草だ。 サスケが記憶している通りのナルトであったらどうとも思わず、軽く一蹴していただろう。 だが、今目の前にいるナルトの目を見ていると、何やら無性に胸が掻き乱される気がする。 突き抜けるような空色の瞳に宿っているのは、自分が兄に対して抱いているような感情であ り、それよりも強い何かだ。 自分など足下にも及ばないような何かが、ナルトの中にはある。 そしてふと、サスケは自分とナルトが決別した瞬間の、あの戦いを思い出した。 アレが一体なんだったのか、そう言えば結局わからずじまいだ。 かろうじて、イタチが欲しがるほどの得体の知れない大きな力だということはわかるが、そ れ以外はさっぱりである。 至近距離にあるナルトの端正な顔を見下ろしながら、ゴクリと咽を鳴らしたサスケは呟くよ うに問うた。 「本当に、お前は一体何者なんだ…………?」 途方に暮れたような声、とでも言えばいいのだろうか。 全てに対して闇雲に抗うかのようだったサスケの態度が、綺麗なほど形を潜めている。 もちろん、ナルトに対してイタチに向けるような憎悪の念など少しも抱いてはいないし、『抗 う』と言っても、もはやこの時点では意地を張っていたにすぎないのだが、この毒気の抜け 方は異常だった。 底抜けするような透き通る青に完全に呑まれ、反抗する気になれない。 そんなサスケを、ナルトはそこにある真意を探るように見詰めたが、その数秒後、自嘲気味 に笑った。 「今までお前が見てきた俺は、どんなだった?」 「どんなって…………」 「少なくとも、こんなんじゃなかった―――――違うか?ドベで馬鹿で出来損ないの、騒が しさだけは一級品の子供だっただろう?忍としての才能に恵まれなかった、一般人よりちょ っとだけ強かったガキ」 「一般人よりちょっとだけ強い、だと?お前のその強さがその程度だと言いたいのか!」 「んな訳ねぇだろ?それを今説明してやろーとしてんじゃねぇか。熱くなるな、最後まで黙 って聞きやがれ」 静かな威圧に、サスケが口を噤む。 それを確認したナルトは、『やれやれ』と洩らしながら頭を軽く掻いた。 「お前はもう、俺が今の言葉通りの人間じゃねぇことを知っている。それが正解であり、唯 一の回答だ。俺は生まれてから十五年間ずっと、里が望んできた『うずまきナルト像』って ヤツを演じてきたってことさ」 「木の葉が望む?なぜそんなことを木の葉が望むんだ。お前の場合は常識を逸した強さだが、 それでも強い忍は里の財産だろうに」 「財産!あぁ、そーだろーさ。それが普通の出自で、なんの問題もない人間だったらな」 「…………どういうことだ」 感情を押し殺したかのようなサスケの声に、ナルトは両肩を竦めた。 「『昔、木の葉の里を一匹の妖狐が襲いました。九つの尾も持つ狐、伝説として語り継がれて きた最強最悪の妖―――――その名を九尾といいました。九尾は全てを破壊しました。山も、 森も、家も、人も、全て破壊しました。里を守ろうと九尾に立ち向かった者は、その誰もが 無残な姿に成り果ててしまいました。里は絶望に包まれます。そこで立ち上がったのが、歴 代最強と誉れ高かった四代目火影でした。彼は激闘の末、見事九尾を封じることに成功し、 里は平和を取り戻しました。めでたしめでたし』―――――この話、まさか知らねぇとは言 わせねぇぞ」 「十五年前の九尾の乱だろう?それがなんだ。お前とどう関係がある」 「サスケは、この話を疑問に思ったことはないか?九尾がなぜ里を襲ったのか、里を襲った 九尾が再び復活することはないのか」 ナルトは一度言葉を切り、目を眇めた。 「…………九尾は今、どこに封じられているのか」 「まるで、その答を知ってるみてぇな言い様だな」 「まぁな。九尾を封じられたのは、人間の中だ。穢れを知らない無垢な魂と、『九尾』という 爆弾を収めることのできる大きな器を持つ人間―――――九尾の器になったのは、一人の赤 ん坊だった」 「―――――ッ!」 息を詰める気配。 それがサスケのものだとわかったナルトが、静かに笑う。 「未熟児だった。まだ母親の胎内にいなければ生きてはいけないほど、小さな。それでも九 尾の器となれる可能性があったのはその子供だけ…………。母親の腕に抱かれることもなく、 ソレは器になったよ。はっきりした自我があったら泣き叫んでただろーな。『嫌だ』って、『ど うしてそんなことするの』って、父親であることより火影であることを選んだ男を、力一杯 罵ってたはずだ」 「おい、まさかその子供―――――」 「そ、それが四代目の子供。お前も知ってる通り、四代目はその時に死んだ。子供の母親も 死んだ。残された子供は三代目に引き取られ、存在を隠されてなんとか生き延びてきたって 訳―――――っつっても、出生の秘密以外は洩れまくりだったみてぇだけどな」 「…………ソイツは今、どこにいるんだ。お前の言う通り生きてるのなら、俺達と同い年に なってるはずだぞ」 「ここまで言ってわかんねぇかなぁ〜。それ、俺なんだけど」 「…………冗談は止せ」 「俺も冗談だったらって思うけど、事実なんだから仕方ねぇじゃん。四代目火影は俺の親父、 ソイツは実の子に妖怪を封じて一人さっさと死んじまった最低な男だ。んで、俺は一生九尾 の器としての役目を担わせられるのさ。笑い話だったら最高だな」 あまりにも唐突に語られた真実に、サスケは動揺を隠すことができなかった。 その真実の重さに愕然とし、情けないことに、しばらく経って手が震えてくる。 否定することは楽だ。 目を瞑り、見ないフリをしてやり過ごせばいい。 耳を塞ぎ、聞こえないフリをしてやり過ごせばいい。 だが、そうすることが許されるほど、今ナルトの口から語られた真実は底が浅いモノなのだ ろうか。 大体、誰が信じるというのだろう。 生まれたばかりの赤ん坊に、簡単に国一つ潰せるような強大な力を持つ妖狐が封じられたと いうことを。 その赤ん坊は実は四代目自身の子供で、十五歳になったソイツが、今サスケの目の前で異常 なまでに淡々と真実を語っているということを。 そう易々と信じられるはずがないのだが、今目の前にいる少年の瞳が、全てを物語っている。 どういうことだ、と。 サスケが大蛇丸とカブトを睨みつけるが、大蛇丸は楽しそうに、カブトは曖昧に笑うだけだ った。 どうやら、傍観者に徹するつもりらしい。 「お前、何震えてんの?」 その問い掛けにより我に返ったサスケが、ナルトを見下ろす。 指摘通り震えていた拳を強く握り締め、その震えそのものを誤魔化した。 「…………いや、なんでもない。だからなのか?」 「何が」 「だから、あんな力を持っていたのか。今思えば、あの形態は狐そのものだった…………ア レが九尾なんだろう?」 「アレが九尾?まさか!あんなもの力の極一部だ。テメェに合わせた手頃な量のチャクラを、 ちょっとだけ拝借したにすぎねぇよ」 自分に対する棘が見え隠れする科白だ。 それでもサスケは、まぎれもない本人の肯定に思わず声を洩らして笑った。 なぜ笑いが込み上げてくるのかわからなかったが、笑わずにはいられなかったのだ。 格下だと思っていた少年が、いつの間にか自分と同等の力をつけていたと思い知らされた時 の、あんな感情はない。 何もかも、初めから違っていたのだ。 今はもう失ってしまったが、自分には確かに幸せな時代があり、それを失った後も、実兄へ の復讐を生きる目的として掲げながら、そのくせ里の庇護を受けて安穏と暮らしてきた。 再会した兄との力の差にまた愕然とし、兄を殺したい、ただその一心でナルトを殺して更な る力を得ようとし、結局それができなかった半端者だ。 認めよう。 ナルトの言う通り、自分は『甘ちゃん』だ。 「おい、ナルト」 「?」 「お前、それだけのモノを抱えている人間なら腕は確かなんだろう?コイツより強いか?」 コイツ、と。 サスケの親指が指し示すのは、大蛇丸。 大蛇丸はナルトが何か言うよりも先に、サスケの問いに答えた。 「強いに決まってるじゃない。九尾の力を自在に操れるナルト君を敵に回すのは、何も知ら ない人間か余程の馬鹿だけだわ。少しでも考える脳があるなら、味方に引き入れることは無 理でも、せめて敵にだけは回らないように手を尽くすはずよ。それで、サスケ君はどんな面 白いことを考えてるのかしら」 サスケはナルトの前で大蛇丸を一瞥した。 そして、たった一言。 「俺を強くしてくれ」 「…………お前を?」 「まだ足りない。アイツはまだずっと上にいる。そのための力が欲しい。今以上の、もっと 大きな力だ」 ナルトは『何を言い出すのかと思えば』と言い、冷ややかな目をしてサスケを見上げた。 「お前、本気で言ってんの?殺そうとした相手に『強くしてくれ』なんて、一体どういう神 経してんだよ」 「お前がそれを言うのか、ナルト」 サスケの思わぬ反撃に。 虚を突かれたような顔をしたナルトは、次の瞬間爆笑した。 腹を抱え、途切れ途切れに『苦しい』と主張しながら、快活に笑い続ける。 身を竦めてしまうような威圧感は一掃され、華やかで明るい空気だけがナルトを包んだ。 「た、確かにな!んで、見返りは何?俺はあくまで中立の立場にいなけりゃなんねぇの。無 益無償の奉仕活動は肩入れになるってことで、俺の中では禁止されてんだよ。見返りがない 取り引きは絶対しねぇぞ」 「なら俺は、今度こそお前を殺そう」 ナルトがただでさえ大きな目を見開く。 サスケの言った言葉が信じられないとでも言うような顔だ。 「サスケ?」 「イタチやお前を殺せるだけの力がついたら、殺してやる。お前が死にたいと思ったその時 に、誰が止めようと必ずな」 俺が殺してやる。 サスケが澱みなく言い切った後、ナルトはそれはそれは嬉しそうに破顔した。 「お前が俺より強くなる日なんてこねぇだろーけど……いいね、それ。最高の殺し文句」 トキメいちゃった、と。 冗談めかして言ったナルトが、ソファーに座ったまま、サスケに向かって偉そうに手を差し 出した。 たったそれだけの動作だというのに、ナルトがするだけでとてつもなく優雅なモノに見える。 「契約成立だ。お前は幸せ者だな。現職の火影に指導してもらえる人間なんて、そういねぇ ぜ?」 ナルトの手を握り返そうとしたサスケは。 「…………は?」 瞬間的にフリーズした。 ナルトが九尾の器だと知らされただけでも充分すぎるほど驚いたというのに、今また、それ よりも更に恐ろしいことを聞いた気がする。 だが、思考回路が所々寸断されていて、まともに機能しない。 そんなサスケの様子を見ていたカブトが、ナルトが五代目火影だということを知らされた瞬 間のことを思い出し、苦虫を潰したかのような顔を作った。 つい先ほどまで面白がっていた大蛇丸も、予想外とも言える話の成り行きに、『それはマズイ』 と態度を一変させる。 「ちょ、ちょっと、ナルト君!サスケ君にあんまり強くなられると困るのよ!今でこそ難し いのに、ますますその貴重な身体を乗っ取れなくなっちゃうじゃないの!!」 自分勝手な大蛇丸の非難の声も、サスケの頭の中を素通りして反対側の耳から抜けていくだ けだった。 何気なく足を踏み入れてしまった世界が、そんなに甘く、生易しいモノではないのだという ことを。 これから先、悲劇の末裔君は嫌と言うほど思い知らされることとなる。

END

†††††後書き††††† オイラは一度サボり始めると際限なくサボるという厄介な習性を持っておりますので、一月 〜二月上旬の更新ペースを当たり前にしないよう、踏ん張って踏ん張って仕上げた作品です。 そしてサスナルです<え。あれだけサスケを苛め抜いておきながら、まさかここで出すとは 自分自身思いませんでしたが、意外と楽しかったデスよ。はい、とっても。奴と五代目は、 普通のラブな関係になることはまずないと思います。つーか、オイラがさせません。だって 五代目は皆の五代目ですから!
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