三週間ぶりに、影分身ではなく本体の彼に会いました。
手土産まで持参していた彼の顔は。
背後に赤黒いチャクラが渦巻いているにも関わらず。
なぜか惚れ惚れするほど、不自然に光り輝いていました。
溜息防止策
日向宗家の屋敷にて。
すっかりナルト専用となってしまった質の良い湯飲みから、白い湯気が立ち昇っている。
緑茶特有のなんとも言えない落ち着く香りが、ナルトとヒナタ、両方の鼻をくすぐった。
お茶菓子には、某高級有名和菓子店の苺大福。
ナルトが任務帰りに買ってきたそれは、一日百個の超限定品。
毎日早くからそのために行列が並び、開店後三十分でほぼ完売してしまうという代物で。
人脈が広いナルトは、その和菓子店の店主と顔見知りだということをいいことに。
結果、約三分の一の量を買いあさって来た。
使用人全員にまで、余裕で行き渡る数。
風呂敷包みを抱えたナルトが、『皆さんでどうぞ』と微笑み、子供らしからぬ気遣い見せると。
ヒナタの母など喜色満面の笑みを浮かべ、常にない上機嫌でナルトを迎え入れたものだ。
ほんの数分前の現金な母親を思い出し、ヒナタは苦笑する。
「あ、思い出し笑い。ヒナタってば何考えてんの?」
「それはこっちの台詞だよ。ナルト君こそ、何考えてるの?」
太陽の日差しは暖かく、心地良い。
ヒナタと二人、並んで縁側に腰掛けていたナルトは、久々に味わうのどかな昼下がりを満喫していた。
ヒナタの問いに、ナルトは首を傾げる。
「なんのことだか」
「とぼけても駄目だよ」
クスクスッと笑うヒナタの横で、ナルトは上体を反らして足を組んだ。
今のナルトは、オレンジと青のジャケットは脱ぎ捨て、黒い半袖のTシャツ姿の、いたってラフな格好だった。
アカデミーに通う時はわざと派手な印象を与える色を選んで身に付けていて、本当の年齢より幼く見えがちだが、こうした暗い色を身に付けていると、それに反して大人びて見えるから不思議だった。
限られた人間の前でだけ出すナルトの地の性格に、違和感なく上手く溶け込んでいる。
ナルトには黒がよく似合う。
その黒いTシャツの大き目の袖から覗く白磁のような腕が、女の子並に細く、もしかしたらそれよりも細いのではないかと思ってしまい、少しだけ悲しくなる。
そこでヒナタはふと、ナルトを見つめたままであることに気付き、慌てて視線をずらした。
頬にうっすらと朱が差す。
はしたないと思った。
ゴーグルを外して下ろしたままになっている、金色の柔らかそうな前髪から覗く青い双方が、ヒナタを映し、僅かに細められる。
「ヒーナタ、黙っちゃってどうしたんだよ?」
「な、なんでもない。それよりナルト君、私、聞きたいことがあるの。ネジ兄さんに何したの?」
「俺がネジに何かしたって、どうしてわかるんだ?」
魅惑的に弧を描いた唇に、一瞬ドキリとする。
探るような、挑戦的な目付き。
透明度の高い海をそのままはめ込んだかのような大きな瞳に、見透かされているような錯覚に陥る。
この目を前にすると、隠し事はできなくなってしまう。
まぁ、もともとするつもりもなかったが。
「ネジが話した?」
「まさか。ネジ兄さんはそんな性格じゃないもの」
ネジは、自分のことを自ら言い触らすような人間ではない。
そんなことは、ネジと付き合っている人間なら誰でもわかることだ。
「そうじゃなくてね、ネジ兄さんの様子がちょっと変だったから…………」
ヒナタの言葉に、ナルトは楽しそうに目を輝かした。
「へぇ〜どんな感じだった?」
「左半身が、微妙に引き攣ってたの。日常動作に支障はないみたいなんだけど、時々舌打ちしてたよ」
ナルトは晴れ晴れとした笑みを浮かべた。
「やっぱり?もろ入ってたからなぁ、俺の蹴り」
「…………組み手をしたの?」
「そう、少しだけ本気で」
「そっか…………」
(そうだったの、ネジ兄さん。お疲れ様…………)
ヒナタは、今ここにいないネジに心から同情した。
ネジがここにいたら『余計なお世話だ』と漏らしたに違いない。
「俺もあとになってちょっとやりすぎたかなぁ〜って思ったんだけど、ネジ強いからいいかって結論にね。実際普通に動き回っている訳だし。あ、今のはネジには話すなよ?付け上がるから」
「いつもなら適当なところで止めてたのに、ナルト君どうしたの?」
「いや、むしょうにムカついてただけだって」
「何に対して?」
その問いに、ナルトは『よくぞ聞いてくれました』とばかりに笑みを深めた。
邪悪なチャクラが一瞬現れ、そして掻き消える。
「口ばかり達者な無能者の尻拭いで、休暇が潰れたんだ」
「じゃあ今日は?」
先程とは打って変わって、苦虫を噛み潰して磨り潰したような、気まずそうな顔をする。
「ここに来る途中でちょっと、ね…………」
ナルトはそれ以上、何も答えなかった。
ヒナタも無理に聞き出そうとはしなかった。
触れてはいけない話題なんだとわかっていたし、確信とまではいかなくても大体の予想ぐらいはできる。
「ホントめんどくさい、よなぁ…………」
零れ落ちるのは、半分諦めが混ざったナルトの本音。
その後に付け足された小さな小さな溜息に、ヒナタは胸が締め付けられる思いがした。
本当は誰よりも強くて。
本当は誰よりも優しくて。
本当は誰よりも自分に厳しくて。
それなのに、目の前の金色の子供が理解されることはない。
ナルトの仮面は完璧。
それ故に、里の人間はナルトを『ドベ』だと信じて疑わなかった。
『九尾のガキは出来損ない』なのだ、と。
そう安心すると同時に、ナルトがやろうと思えばいつだって里を潰すことができることを知らないから、影では平気で嘲笑うことができる。
その時は一緒になって笑ったものの、今思えばそれさえも酷く滑稽で。
『こうでもしなきゃ、人生楽しくないだろ?』
そう言って笑ったナルトが、本当は悲しくて笑っていたんだと、時が経ってからようやく気付いたのだから。
「ねぇ、ナルト君。私ね、嫌なの」
容赦なく叩き付けられた言葉を、ただ黙って聞いているナルトを見るのは。
「絶対に嫌」
ヒナタの言いたいことを正確に把握したのか、ナルトはすぐに溌剌とした表情を浮かべる。
「別にいいって。メンドクサイだけだもん」
「でも嫌なの」
常にない、頑ななヒナタの態度。
ナルトは瞳に穏やかな光を宿し、笑った。
「じゃあ、次からは殺さない程度に反撃するか」
「そ、それはちょっと…………」
「冗談だよ、本気にすんな」
せめて、自分たちの前では溜息などつかせたくない。
ここがナルトの居場所なのだと、いつまでも変わらずあり続ける居場所なのだと。
ほんの少しでいいから、頭の片隅に留めておいてほしい。
ヒナタはナルトの返答に目元をなごませ、たった今思いついたばかりの事柄を提案した。
「あのね、ナルト君。今度ネジ兄さんと、ナルト君と、ハナビと私の四人でピクニックに行かない?私、一生懸命お弁当作るから」
「ドコヘ?」
考えてなかった。
「…………きゅ、九尾の森とか?」
「今更だけど…………まぁ、いっか。裏任務がない時な」
「…………なんか、ずぅっと先になりそうだね」
自分たちの前では、溜息なんかつかなくてすむように。
笑って、笑って、笑って。
世の中、楽なことばかりある筈がないのだけれど。
もしも、辛いことも皆揃って笑い飛ばせることができたら。
そんな素敵なことってない。
END
†††††後書き†††††
はい、ヒナナルです。オイラはあまりノーマルカプは好かんのですが、ヒナナルとかイノナルはわりと平気で、気が付いたらホイホイ書いてます。(それを人は好きと言う)
でも本命はイタナル!!早くイタチ兄さんを出したいです。
次回は…………どうだろ、イタチとナルトの出会い編かな?脳内順序から言えばそうです。
でもあてになりません。だって夏バテでイッチャッてるしね☆
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