決 別
万華鏡写輪眼。 『一族を皆殺しにしたイタチへの復讐』という宿願を果たすため、自分を殺してそ れを手に入れるのだと。 彼と血の繋がった弟であり、自分と同班の少年―――――サスケは言った。 最も親しい人間を殺した代価に得るものが万華鏡写輪眼だという理屈には疑問を覚 えるし、サスケが自分のことを『最も親しい人間』だと認識していたことにも驚い たが、何かと引き換えに何かを得るということは世の常であるし、それと同時に摂 理であるから、それに対してどうこう言うつもりは毛頭もない。 しかし、『サスケ』という人間の器の小ささと底の浅さを垣間見た気がして、ナルト は咽の奥でくつりと笑った。 あぁ、所詮こんなものか。 ザマぁない。 つぎはぎだらけの班編成だったし、ここまでもっただけでも充分なのかもしれない。 そもそも、七班の班編成には問題がありすぎた。 片や里の期待を一身に受ける、今は亡きエリート一族の末裔。 片や里の憎悪を一身に受ける、悪名高き九尾の器。 もう一人の同僚といえば、頭脳明晰といってもあくまで常人の枠内の話である、な んの変哲もない一般家庭の女の子。 その三人を率いるのが『あの』写輪眼のカカシであるとはいえ、アンバランスにも 程がある。 もともと、三人が持つ忍としての信念の方向性が交わるどころか掠りもしないのだ から、始めから期待するだけ無駄だったのだ。 だから、ほら。 必然的な流れとしてやっきた、決別の時。 「ったく、手が焼ける弟君だな」 いつもならここでナルトの言葉に賛同する部下達の声がするはずなのだが、今はそ れさえもない。 足止めのために徐々に減っていく仲間の保険として、チョウジに一人、ネジに一人、 シカマルとキバに一人と計三人を置いてきたのだ。 そのため、ナルトの側に控えている私兵は鴇の一人だけだった。 「俺を殺す?んなことアイツごときにできるはずねぇけど、その覚悟だけは褒めて やってもいいかもな」 何せ、十二年前に里を襲った九尾をその身に宿したナルトを自分の望む物と引き換 えに殺そうというのだから。 器を壊したらどうなるかを知らないからこそ生まれた、安易な動機。 隠形したままの鴇が、ナルトの耳元で音もなく囁いた。 曰く、『もし隊長が許可してくれるなら、自分が殺らせてもらってもいいだたろうか』。 ナルトは、ドベの仮面の下でやんわりとそれを否定した。 「…………だぁーめ。生きて連れ帰ることが今回の任務なんだ。ここであの馬鹿を 殺したら、なんのためにアイツ等が傷付いたかわかんねぇだろ」 つまりは、サスケを殺すこと自体を拒んでいるのではなく。 サスケ奪還のために行動を共にした仲間の努力を無駄にしてはならないからと、そ ういう理由なのだ。 「とにかく、俺等がここでどうこう言おうとサスケを連れ戻すことが里の意思なら それに従うまでだ。その後サスケにどんな処罰が下されようと、それは奴の見境な い行動のせいであって俺とは無関係だ。処罰が軽かろうと重かろうと知ったこっち ゃない」 額や頬を滴り落ちる水滴を拭ったナルトは、凛とした眼差しを瞳の奥に押し隠し、 自分を見下ろしているサスケを静かに見上げた。 聞く耳を持たない主に対し、諦めの境地に達した鴇は、これ見よがしに溜息をつく。 「あれ、もしかして本気で殺りたいとか思ってたり?」 無言は肯定に他ならない。 ナルトは苦笑した。 『お前は俺の命令を破るような男じゃないって、俺は信じてるからな』と釘を刺す ことは忘れずに。 その間にも、サスケは何やらナルトを挑発するような台詞を吐き続けている。 実際にそれができるかどうかはともかくとして、どうやら本気らしい。 窮屈な樽から出てきたばかりにしては、いささか威勢が良すぎやしないか。 そんなに樽の中に詰められるのがヨカッタのだろうか? 『うわ、アイツってMっ気あり?』と。 どうでもいいことで引き気味だったナルトは、病院の屋上を再現したがっているサ スケの望みを叶えるため、挑発に乗ってやることにした。 千鳥と螺旋丸の真っ向勝負。 螺旋丸の威力を下忍のレベルにまで落とすのは、さすがに人が良すぎるかもしれな いと思ったが、生かすことが大前提なのだから、それも仕方がない。 「俺を踏み台にできるもんならやってみろってんだ」 まぁ、逆に踏み台に足下を掬われるのがオチだと思うが。 ナルトはすぅっと目を細め、サスケに見えない角度で忍び笑った。 写輪眼持ち主のくせに肝心なことを見極めることができない、その認識の甘さとか。 全て自分の思い通りにいくと勘違いしている、上限知らずの傲慢さとか。 名家の直系であるが故のプライドの高さとか。 異常なまでの自己顕示欲の強さだとか。 サスケの短所を一つ一つ丁寧に挙げていけばキリがない。 しかし正直、そういう風に振舞えたらと、ナルトが妙な願望を抱いているのは嘘で も冗談でもなく。 周囲の状況を省みず、自分の心に忠実に生きるような一点集中型の思考を羨ましく 思うのは、まぎれもない事実。 ある意味、ナルトの理想を体現しているサスケのことを、ナルトは嫌ってはいるが 憎んではいなかった。 どちらかと言えば、『イタチがあんなことさえ起こさなければもう少しマトモに育っ ていただろうに』と。 それが惜しまれてならない程度には、好きなのだと思う。 自分とサスケの関係がこれからどうなってしまうのかは見当もつかないが、必然の 流れでこうなったのなら、このまま成り行きに任せてみるのも、また一興。 「せいぜい、俺を退屈させてくれるなよ…………?」 サスケに気付かれない音量で囁いたナルトは、次の瞬間ドベの仮面を被ることだけ に専念し、どう考えても茶番だとしか思えない戦いに身を投じた。 どうせ殺すつもりで掛かってくるなら、その前に本当の俺を暴いて見せろよ。 自分でいうのもなんだけど、一見の価値はあると思うぜ? その後どうなるかは、ちょっと公言できないけどな。 ―――――なぁ、サスケ?

END

†††††後書き††††† サス←ナル突発ショートショート。今週のジャンプに触発されてこんなものを書い ちまいました。もう最近のサスケの馬鹿さ加減には頭が下がる勢いで、ちょっと前 まではいちいち『テメェがどれだけ偉いんだよ、えぇ!?』なんて突っ込んでいま したが、今ではちょっと違った感情が生まれてたりして…………。ぶっちゃけ、愛 が芽生えました。いやぁ、駄目な子ほど可愛いって本当ですね!このどこまでも果 てしない愚かっぷりは他の追随を許しません。カカシがへタレの代名詞なら、サス ケは御馬鹿の代名詞だと信じて疑いません、はい。いつまでもそのままの貴方でい て下さい。切実に。―――――でもでも、岸本先生がサスケ贔屓だってことは身に 染みて充分わかってはいるけれど、やっぱり金髪碧眼語尾にだってばよな主人公を 大切にしてほしいです。今はそれしか言えません。
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