本音や弱音、情けない言葉を吐ける人間は本当に少なくて。
むしろ、そうしたら最後。
容赦なく潰しにかけられる身の上だけど。
そんなリスクを差し置いても、譲れないものが出来たということは。
昔の俺だったら、考えられない程の奇跡。

うずまきナルト的、ストレス発散法

「んで、つまるところ俺は今、半端じゃなくムカツいてんだよ。誰彼構わず刺し殺したくなるくらい」

からりと晴れた、気持ちの良い空の下。
本物の戦地などでは通用するはずもない、幼稚な知識だけを与えるアカデミー。
影分身を残し、早々にサボリを決め込んだ少年が二人。
里の外れの忌まわしき森で、降って湧いた(無理矢理作った)余暇を謳歌していた。
長い黒髪を背中で結わえた、両眼に特徴のある少年と。
日の光よりもなお眩しい金髪に、大きなガラス玉を嵌め込んだような、本日の空よりも深い青色の瞳を持つ少年。
前者の名を日向ネジ、後者の名をうずまきナルトという。
さて、日向ネジという少年。
彼は木の葉きっての名家、日向一族の分家筋にあたる人物で。
世間一般の常識でものを言うと、悲劇の末裔と並べられ、『エリート』と称される側の人間である。
次に、うずまきナルトという少年。
彼はアカデミー始まって以来の出来損ない、現在進行形でドベトップを爆走中の人物で。
複雑すぎる生い立ちのせいか、里の者には忌み嫌われ、常に不自由な生活を強いられている人間である。
接点などまるで無さそうなこの二人。
実は何を隠そう、唯一無二の大親友(と互いが思っているのかは定かではない)、誰にでも一人や二人はいる幼馴染というヤツである。
そして、つい先程かなり危険な発言をしたのは。
優秀すぎることが苦悩を生み出す『エリート』のネジではなく、意外にも、ただ安穏と日々を過ごしていそうな『万年ドベ』のナルトだった。

「それで?」

「だからさ、俺とちょこ〜っと組み手やんない?」

可愛らしいと言える笑顔の中に含まれる、大量の殺気。
ナルトがこんな笑い方をする時は、かなり虫の居所が悪い時だ。
(どうする俺、この局面をどう回避する)
ネジは傍目にはわからない程度に動揺し、本のページを捲った。
心臓が早鐘を打つように、激しく脈打っている。
本音を言えば、有らん限りの力と早さをもって、今すぐここから立ち去りたかった。

「断る」

ナルトの目がすぅっと細められ、冷たい印象を受ける光が放たれる。
僅かな隙間から除く瞳は、『よく言った』とばかりに爛々と輝いていた。
息が詰まる。
身体機能が麻痺したのではないかと思うほど、思い通りに動かない。
それもこれも全て、真正面で身を乗り出してネジを覗き込んでくるナルトのせいだ。

「なんで」

内心で冷や汗をダラダラと流しながら、声だけは努めて冷静に。

「俺はお前のように暇ではない」

「暇じゃん、どう見たって」

ものの見事に一蹴される。
ナルトにこの手が効かないということはわかっていた。
しかし、ネジは今更ここで退く訳にはいかない。

「読書中だ」

「見りゃわかる。そんなのいつだってできるだろ?」

「組み手だっていつでもできるだろう」


「できない、明日からしばらく裏任務だから。なんでもどこぞの馬鹿上忍が失敗した任務の尻拭いだと。そんなんで担ぎ出されるコッチの身にもなれって感じ?暗部には暗部の仕事が山程あるってのに、やっと火影のじっちゃんから貰った(奪い取った)三日間の休暇は初日を除いて潰れるしさ。休暇の間に立てた予定は全てパア!信じられる!?半年ぶりの休暇が全てパア!!思わず笑っちゃったね、俺は。見事任務を遂行した暁には、俺直々に元凶に報復してやろうと思ってんだよ。もうすでに身元は割り出してあるからね」


うずまきナルト様、ご乱心。
(それでか、この機嫌の悪さは)
ネジは見ず知らずの『馬鹿上忍(ナルト談)』とやらが目の前にいないことをいいことに、
必ず指導が入るような呪詛めいた単語を連発した。
もちろん、口に出すような無様なマネはしない。

「―――――ということで、ネジ。ヨロシク☆」

「何が『ヨロシク☆』だ。誰も了解などしていない」

「拒否権は認めません」

「認めろ」

「嫌だ。これくらいの可愛いワガママ、聞いてくれたって損はないだろうが。俺もスッキリして、ネジも修行になる‥‥‥‥一石二鳥じゃん?」

(なぜ俺は今までコイツと幼馴染をやってこれたんだ)
大いなる疑問が生まれる。
ナルトがスッキリするかはともかく確かに、確かにネジの修行にはなるだろう。
今までの会話からもわかる通り、訳有りというヤツで二束の草鞋生活を送るナルトは現役暗部である。
そんなナルトに付き合ってもらえるなら、これ以上のことはない。
だが、今のナルトは問題外だ。
手元が狂ったとかなんとか、とにかく適当な理由で、亡父の下ヘ送られかねない。
(あぁ、なぜここにヒナタの姿がないんだ。ヒナタがいれば少しはこの状況が改善されるだろうに)
アカデミーで真面目に授業を受けているであろう従姉妹。
彼女はなんて幸せだろう。
こんな状態のナルトの相手を勤める必要がないのだから。
(こんなことならどんなにツマラナイ授業でも大人しく受けていれば良かった‥‥‥‥)
今更だった。

「そんな『哲学の基盤〜探求編〜』なんて根暗な本、ほっとけって」

有無を言わさず、ネジの手から本を取り上げる。
奪い取った文庫本をまるで扇で口元を隠すように当て、本来のナルトが最も使用頻度が高い、意地が悪そうな笑みを浮かべた。

「この前火影邸から見たことない禁術書を頂戴してきたんだよ。相手してくれたらソレ、横流ししてもいいけど?」

本来、門外不出の禁術書。
ネジは物につられるような性格ではないが、この条件はかなり美味しい。
ちょうど新しい術を覚えたいと思っていたところだ。
(つられてやってもいいかもしれない‥‥‥‥)
次のチャンスがいつ巡って来るかわからないのなら、ナルトの条件を呑んだ方が得だ。
(いや、しかしここで簡単に頷いてしまったら俺はどうなる?無事生還する保障はないんだぞ‥‥‥‥)
追い打ちをかけるように、ナルトの形の良い唇から甘い言葉が。

「結構難しいからな、任務が終わって帰って来たら実演してやってもいい‥‥‥‥」

「相手になろう」

ネジはついに悪魔に魂を売り渡してしまった。
もう後戻りはできない。
ナルトの壮絶なまでの笑みを見て、浮上していたネジの思考は一気に急降下する。
徐々に大きくなる心音は警鐘だ。
助けてくれる人間は一切いない。

「よし、じゃあネジ。覚悟しろよ?」

ネジは泣きたくなった。



END







†††††後書き†††††

スレナル作品一作目はネジナル(むしろ『+』か)でした
。オイラの中のネジはいつもこんな感じです。
ナルトは‥‥‥‥どうなんでしょう。
思考が極端なのが特徴、かな?暗い時はひたすら暗く、明るい時はひたすら明るく、でも絶対に嫌われることはありません。(だってアイドルだし、むしろそんな極端さがイイとか)
次回はヒナタ視点で進めてみようかと思います。
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