「ナルト兄ちゃん」

 

「んー?」

 

「動かないのか、コレ?」

 

 

合同演習の会場となっている森の、さして珍しくはない大木の上。

周囲の木々に隠れるようにして太い枝の上に腰を下ろしていた四人のうち木の葉丸が、がっ

しりとした幹に背を預けて欠伸を噛み殺しているナルトの顔を見ながらお伺いを立てた。

モエギやウドンも同じ心境なのか、つられるようにしてナルトを見るその顔は困惑気味だ。

ナルトは目尻に浮かんだ涙を拭いつつ、三人分の思いが込められたその問いに手を振って答

えた。

 

 

「あぁ、いーのいーの。周りは放っておいて大丈夫だってば」

 

「で、でも…………」

 

 

どこか遠くで、早速とばかりにドンパチやり合っている気配がする。

もちろん、ナルトに言わせてみればママゴト程度の小競り合いでしかないが、実戦経験のな

いアカデミー生にとっては、それこそ何か駆り立てられるモノがあるのだろう。

このままここでこうしていていいものだろうか、と。

 

 

「せっかく潰し合いしてくれてんだから勝手にやらせとけ。敵が減って、動きやすくなって

から行動開始すりゃいーの。持ち点が多いに越したことねぇけど、鈴一つにつき、たかが三

点だぜ?んなのやってらんねぇってば」

 

「…………ナルト兄ちゃん、勝つつもりある?」

 

「バリバリありマスよー。だからこーして体力温存してんじゃん。お前等はわかんねぇだろ

ーが、この近くにシカマルの小隊もいんだぜ?だけど動いてねぇ……ってことは十中八九、

奴等は様子見に徹してんな。それも一つの手ってこと。果敢に戦うことだけが勝利を引き寄

せる訳じゃねぇんだってば、わかったか?」

 

「―――――そーゆーもっともらしいこと言って、実は目的は他にあったりするんじゃない

の?」

 

 

ウドンの胡散臭そうなその言葉に、ナルトは興味深げに片眉を上げた。

意外だったのだ。

 

 

「へぇ……大分俺のことわかってきたってばね。アタリ。チマチマ点稼ぐより、一気にドカ

ンと稼いだ方が楽だろ?」

 

 

『その方が簡単だし、それに何よりスッゲェ爽快だぜ?』と。

ナルト曰く『ドカンと稼ぐ』その対象が一体なんであるかなど、確認するまでもない。

それなのに、ナルトの口振りは恐ろしいほどその事実に対して無関心のように思えて、木の

葉丸とモエギとウドンの三人は閉口してしまった。

―――――いや。

無関心と言うよりコレは、ガチガチに意識しているが故の言動なのかもしれない。

だとしたら、大物狙いのナルトに自分達が付き合わされることは、初めから決まっていたこ

となのだろうか?

サァーッと青くなった三人の内心を易々と読み取った諸悪の根源は、カラカラと快活に笑い、

青い瞳を楽しげに細めた。

 

 

「心配するなってば。相手が(暗部クラスの)上忍だろーと、お前等を危険な目に遭わたり

はしねぇから―――――まぁ、そーは言っても今回はチームとしての成果が求められるみて

ぇだし、甘やかすつもりは全然ねぇけどな。だけど、これだけは断言してやる」

 

 

俺がお前等を勝たせてやるよ。

 

自信に溢れた笑みと、力強いお言葉。

その、堂々たる態度のナルトを前にして。

今の今まで『不安で堪りません』とでも言うような顔をしていた三人は、まるで干していた

洗濯物を春一番に攫われた時のように、勢い良くその不安を吹き飛ばされてしまった。

目を蕩けさせ、異様なまでに熱っぽい息を吐き出す。

見詰める先にいるのは、当然のごとく金髪碧眼の美少年。

 

 

 

 

 

 

おこちゃま達のカリスマは、本日も絶好調だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢は夢でしかなく‐中編‐

『ナルト兄ちゃん、先生達を標的にするって言ってたけど、この広い森の中からどうやって 見付けるの?』 ―――――というモエギの問いに対して薄く笑ったナルトは、無言で苦無を取り出し、先程 まで背を預けていた木の幹に何かを彫り始めた。 上忍、もしくは暗部が見ればわかる者もいたであろうソレは、しかし、アカデミー生である 木の葉丸達には当然わかるはずもない。 「ねぇ、ナルト兄ちゃん。ソレなぁに?」 「んー……ちょっと待って―――――っし、できた!」 苦無に付着した細かな木屑を吹き飛ばし、彫った部分の溝に詰まった木屑をも手で払い落と したナルトが、肩越しに三人を振り返る。 「お前等も覚えとくと便利だぞ?マイナーだけど禁術じゃねぇだけ身体に負担掛からねぇ し」 「だから、ソレなぁにー?」 そんなに難しくない術だから教えてやろうと思っても、興味があることに一直線な子供達に は、せっかくのナルトの言葉は聞こえていない。 どうやら、持ち前の好奇心を満足させることに必死の御様子。 ナルトは気を悪くするでもなく、今から使おうとしている術の概要を説明し始めた。 「一言で表現すれば探索装置みたいなもんだな。この方法だったら、探し物はすぐに見付か るんだってば。こーゆー森だと地面の下は木の根ばっかだからさ、情報伝達がスムーズにで きんだよ。ホントはコレ、連絡用の鳥が使えないような潜入捜査の時に昔使ってた通信手段 らしいんだけど、植物が記憶してる情報も読み取れるって最近気付いたんだ。相手が気配消 してよーが姿消してよーが、この術が及ぶ範囲内にいる限りどこで何やってるか手に取るよ ーにわかるって訳」 「…………それって、もしかしてスゴイこと?」 「スゲーのなんのって。だから便利だって言ったんだ。まぁ、この術使いこなすにはコツが いるんだけど」 それどころか、もしかしたらナルトが思う以上に難易度が高い術なのかもしれない。 ナルトが使いこなせているのは、やはりこの辺り一帯の主であった腹の中の妖狐のおかげと いうこともあるのだろう。 「まぁ、見てな」 不敵に笑ったナルトは、七つからなる印を組み、片手をその方陣の中央に置いた。 すると、ナルトの視界が緑一色に染まり、捜し求める人物目掛けて周囲の景色が高速で移動 していくような感覚に陥る。 まるでナルトの意識が肉体という殻を突き破って飛んでいくような感覚だったが、実際には 木々が記憶している膨大な量の情報が、ナルトの中にどっと流れ込んできているのだ。 しかし、何事にも許容量というものがある。 情報量のあまりの多さにかすかな呻き声を洩らしたナルトは、下唇を噛んでその苦痛を堪え ていたが、限界に近くなったトコロでようやく目的の人物達の行方を読み取ることに成功す ると、この時を待ってましたとばかりにすぐさま意識を切り離してしまう。 その瞬間、方陣に触れていた方の手に音が鳴るほど強い静電気が発生したが、それは術の無 効化を意味するものであったから、ナルトは特別焦りはしなかった。 静電気の余韻が残る手をさすり、大きく息を吐き出しながら目を伏せる。 「―――――はぁ……コレはさすがにキツッイわ。なんか頭ん中グルグルするし、痛いし、 耳鳴りがする…………」 「ナ、ナルト兄ちゃん、大丈夫かコレ…………?」 「どーってことねぇよ。それより、センセー達の現在地―――――ついでに他の班の現在地 も、大体は把握できた」 「他の班まで!?本当に!!?」 「本当デスとも。でもソッチは本命じゃねぇかんな?あくまで本命はセンセー達。北北西に 一人、北西に一人、南に一人、東南東に一人だから……ここからだと、北北西と北西にいる 二人が近いってばね」 「スゴイ!そこまでわかるんだ!?」 「あぁ―――――っつっても、ずっとそこに留まってるとも思えねぇから、近くなったら後 は自力で探さなきゃだけどな」 だが、術に苦痛を伴うだけあって誤差はないはずだから、そこまでわかっていればなんとで もなるだろう。 実はそれだけでなく、そこにいるのが誰なのかもすでにわかっているのだが、とりあえずそ の件に関してはお子ちゃま達には黙っておく。 ナルトは小奇麗なその顔に真っ黒な笑みを乗せ、三人と向かい合った。 「いいか?一度に二人は今んトコ無理だから、とりあえず一人に集中して仕掛けるってば。 最初は俺が動くけど、一度戦闘が始まったらお前等も無関係じゃねぇかんな?己の力を過信 せず、最善を尽くすこと。怯んだらそこで負けだと思え。わかったな?」 「「「はい!」」」 声を揃えての、イイ子のお返事。 気を良くしたナルトは、表情を明るくして三人を煽る。 「よし、じゃあうずまき隊の隊訓唱和だってばよ!」 「「「勝った方が正義ーッ!!!」」」 そのための手段は選ばず、貪欲に勝利を欲せ。 もしもこの場に、どこか間違っているその隊訓を聞いた人間がいたら、それはそれは傑作な 顔を披露してくれることだろう。 絶対、アレは怒っていた。 そしてその怒りは、今も解かれることもなく自分達に向けられているはずだ。 類稀なる美貌を持つ金髪碧眼の小さな主に思いを馳せ、普段は隠している素顔を晒した青年 は重々しい溜息をついた。 頬に掛かる紺青の髪でわかりにくいが、彼の瞳は途方に暮れているように不安定に揺れてお り、その精神状態は一目瞭然。 別にナルトを怒らせたかった訳ではない。 元々は他里の忍である自分をナルトの部下として受け入れてくれた三代目には感謝している が、ナルトに対して持っている恩義も忠義も三代目には欠片も抱いていないため、優先すべ きはいつだってナルト。 だったらなぜ、優先すべきナルトの指示を仰がず、こんなトコロでこんなことをしているの か―――――その理由は単純明快。 今となっては魔が差したとしか言いようがないのだが、裏のナルトだけでなく、今まで一切 の関わりを絶ってきた表のナルトとも一緒にいる時間を持ちたいという願望を押さえ込むこ とができなかったのだ。 そのやり方を間違ってしまったばかりに、こんなことになっているのだけれど。 青年―――――鴇は再び溜息をつき、そしてふと顔を上げた。 すると。 視界に飛び込んできたのは、想像を絶する速さで眼前に迫ってきている数本の苦無。 「!」 木の根元に座っていた鴇がとっさに避難したのは、真上の方向だった。 伸ばした手ががっしりとした枝に届いたと同時に、今の今まで自分がいた場所周辺に、計三 本の苦無が深々と突き刺さる。 中央の苦無は、ちょうど鴇の頭があった部分に。 その両隣の苦無も、計算してのことなのか等間隔になるよう投じられたらしく、それを見た 鴇は息を呑んだ。 左右どちらに逃げても、無傷ではいられなかっただろう。 大車輪の要領で枝の上に落ち着いた鴇は、次の瞬間、驚愕のあまり目を見開く。 気配を感じさせず、真下に突如として出現した金色。 仲間に裏切られて野たれ死ぬところだった自分を拾って助けてくれた、乱暴だけど心優しい 少年だ。 己の全てを賭けて守ろうと決めた小さな子供が、ひたすら青く大きな瞳で鴇をひたと見据え、 そして。 「あーあ、上手く避けてくれちゃって……ちょっと本気だったのにさ」 哂って、いたのだ。 すぐさま周囲に視線を走らせた鴇の思考を読み取ったナルトが、笑いを滲ませた声で『大丈 夫だ』と言った。 「近くに木の葉丸達はいるけど、今回は見学。俺の声も聞こえねぇトコにいる」 だからどんな話をしても問題ない、と。 言い切ったナルトは一見普段通りだったが、そこで安心してはいけない。 もしも本当にそうだったら、とてもじゃないが悪ふざけとは思えない本気の苦無を自分に向 けて投げるはずがないのだ。 だが、往生際悪くも心のどこかで『認めたくない』と思う自分がいる。 主の真意を探ろうと、内心の動揺を押し隠してナルトを見詰めた鴇はゴクリと咽を鳴らした。 捕食者のような鋭い目は自分のことをはっきり『敵』と認識していて、いつものような穏や かさだとか優しさといったモノは、微塵も感じられなかったからだ。 ナルトにとっての今の自分は部下でも仲間でもないのだと、嫌でも思い知らされる。 『隊長…………』 過去に負った傷が原因で、使い物にならなくなっている声帯。 それでも声にならない声で悲しげに洩らされた鴇の言葉を、一言一句違うことなく正確に理 解する唯一の人間であるナルトは、ちょこんと首を傾げ、可愛らしく笑った。 「変なの!俺ってば鴇センセーに『隊長』って言われる筋合いねぇじゃん!!」 グサァッ!!! 容赦なく突き立てられた言葉の刃は、生半可な攻撃よりも効く。 そのあまりの痛さと衝撃に心臓を押さえた鴇は、思い切り顔を顰めた。 しかし、よくよく考えてみればナルトの言動は何も理不尽なモノではない。 いくら鴇が表のナルトとも行動を共にしたいと望んでも、下忍のナルトと自分に接点がある はずがないのだから、今のような心ない―――――そして、ある意味当然な科白をぶつけら れるのは別におかしなことではないのだ。 できることなら、この痛さは永遠に味わいたくなかったのだけれど。 「センセー、センセー」 面白いようにダメージを受けている鴇に、ナルトが更にたたみかける。 「俺さ、今すっげー暴れたい気分なんだってば。相手、してくれる?」 『すっげー暴れたい気分』のナルトの相手を自分 が!? いや、そもそもナルトを相手にすること自体躊躇われるのに、そんなことが果たして自分に できるものだろうか。 ナルトに刃を向けることなど、一度たりとも考えたことがないのに。 「悩んでる暇なんてねぇと思うけど」 その言葉に鴇が我に返った時には、ナルトの愛用忍具である鋼糸が仮の足場となっていた大 枝共々自身を巻き取ろうとしていて、鴇は焦った。 しかし、長年培ってきた忍としての経験のおかげで身体は何をすべきかわかっていて、鴇の 意思とは関係なしに、本気のナルトに応戦すべく動く。 両手に握った苦無で、鴇はまだ締め付けようとする勢いの弱い鋼糸を絡め取り、自分一人が 脱出できるだけのスペース確保してすかさず跳躍した。 間一髪だった。 爪先を掠めていった鋼糸に、回収する間もなかった苦無は枝諸共音を立てて砕断され、重力 に従って落ちていく。 冷や汗が出る思いを味わう間もなく、他の枝に移った鴇はその身を宙に投げ出した。 鋼糸は周囲に張り巡らせてある場合を除き、どうしても自分の手元に一度戻さなければ次の 攻撃に移れないという弱点がある。 つまり、連続攻撃が難しい忍具なのだ。 だから上手く扱うことのできる人間も限定されてくるのだが、格下の相手であればそれほど 問題にはならない。 しかし、その相手が実戦経験の豊富な上忍や暗部(とは言っても、ナルトにとってはたいし て多くはないだろうが)になればなるほど、それは困難になってくる。 鴇が一箇所に留まろうとしないのは、そういった理由で自らの体制を整えるためにナルトが 投じてきた手裏剣を避けるためだったが、鴇以上に動体視力に優れたナルトの方が早く、投 じた手裏剣のうち一つが鴇の肩と接触した。 「!」 ベストのおかげで深い傷ではないが、かと言って痛みを感じないほどの痛みではない。 着地したと同時にジワリと血が染みた肩に思わず手をやってしまった鴇は、次の瞬間自分の 行動を呪った。 その隙を見逃すほど、ナルトは甘くはない。 ナルトは、すでに使用可能な状態となった鋼糸を鴇に向けて再び放つ。 高い音を立てて襲い掛かる白銀の糸は確実に鴇を捉えており、避けることは不可能だ。 ―――――が。 「…………なんで防戦一方なんだよ」 小さく洩らしたナルト。 そのまま行けば鴇の命を奪っていたであろう鋼糸は、鴇の身体に届く寸前で止められている。 他の誰でもない、ナルトの手によって。 「反撃ぐらいしろよ。肩怪我しただろ?俺マジなのに」 思い切り眉を寄せた不機嫌そうなナルトの顔を、鴇は手の平に付着した血をぼんやりと見て から無言で見返した。 望んだ反応がないことも含め、その淡々さがますます気に喰わないらしく、ナルトの表情は 更に厳しくなる。 「答えろ、鴇」 殺気こそないものの、強い口調に、強い眼光。 常人であれば身を竦ませて金縛りに遭ったように動けなくなってしまうのだろうが、そこに いるのは、不機嫌なことに変わりはないけれどいつものナルトで、鴇は今度こそ本当に安堵 した。 そして『自分にはナルトと戦う理由がないから』と、『なぜ』というナルトの問いに対しての 答を返す。 「俺にはあっても?」 それでも、ないのだ。 安曇や伊吹、刹那といった他の三人は知らないけれど、少なくとも自分には、この綺麗な少 年を傷つける理由もなければ度胸もない。 そのせいで冗談じゃなくなるような事態に陥っても、所詮、ナルトに拾われなければ助から なかった命だ。 ナルトの手でそれが奪われるなら、それで本望。 そんな鴇の思考を正確に読み取ることができるという特技を持つナルトは呆れ返り、鴇に突 き付けていた鋼糸を回収し、纏めて懐に仕舞った。 「お前、俺のこと好きすぎじゃねぇ?まぁ、今に始まったことじゃねぇんだけどさ…………」 その呟きに鴇が笑みを返すと。 もはや呆れるどころではないらしいナルトは、鴇に向かって盛大に苦笑して見せた。 その笑みは鴇とは違い、ワガママばかりを言う子供を、なんだかんだ言いつつ寛容に受け止 める母親のモノに似ていた。 「お前の場合、なんか怒るのが馬鹿馬鹿しくなってくるぜ……とりあえず鈴寄越せ。俺の勝 ちでいーだろ、センセー?」 異論などあるはずがない。 下忍・アカデミー生混合班とは紐の色が違う鈴を躊躇うことなくナルトに手渡した鴇は、も う用はないとばかりにさっさと立ち去ろうとする主の腕を衝動的に掴み、ナルトを引き止め た。 怪訝な顔をするナルトに、戸惑いながらも『木の葉丸達の前に姿を現さないから、隊長に連 いて行かせてほしい』と申し出たが、それは即座に却下される。 「絶対駄目、間違っても連いて来んな。連いて来たらその時点でお前を捨ててやる」 その恐ろしい言葉に、ナルトの腕に手を掛けたまま鴇は固まった。 ナルトは、殺されるのはよくて捨てられるのは嫌だという鴇の思考が理解し難いようだった が、それでもこの状態の鴇を放置することには抵抗を覚えたらしく、無理矢理屈ませた鴇に 頭突きを喰らわせて。 「俺が帰ってくるまで『待て』をし続けてれば、それで今回の一件はチャラにしてやるっつ ってんだよ!俺の性格知ってんだろ!?それぐらい気付け、馬鹿!!」 叱咤され、額を押さえた鴇は目を見張る。 その隙にナルトは消えてしまっていて、残された鴇は、肩と額の鈍痛に顔を顰めながら呆然 と立ち尽くした。 耳から離れない怒鳴り声を頭の中で何度も反芻して、自然とこみ上げてくる感情は一体なん なのか。 「ただーいまっと」 臨時の部下が待機していた場所に戻ったナルトを迎えたのは、赤く染まった三つの顔だった。 一つ十点の鈴をゲットして大歓迎されるのは予想のうちだったが、この反応は予想外という もので。 ぎょっとしてしまったナルトは、今の行動に何か不備でもあったのだろうかと、ありえない はずのことに不安を感じた。 「え、な、何、お前等どーしたんだよ。なんかマズイことでも……いや、熱でもあんの?」 ナルトの問いに、三人は居心地悪そうに視線を泳がせる。 もじもじもじもじ。 「どうしたもこうしたも……ねぇ。木の葉丸ちゃん///?」 もじもじもじもじ。 「う、うん。まさかナルト兄ちゃんがあんなに大胆なんて思わなかったぞ、コレ///」 もじもじもじもじ。 「鈴を手に入れるためとはいえ、あんなことしちゃ駄目だよ。も、もっと自分を大切にしな きゃ……///ほ、ほら、ナルト兄ちゃん美人だし、きっとキリがないよ?」 「は?」 気まずそうに顔を見合わせた三人が、困惑とわずかな尊敬が入り混じった目でナルトを見て、 そして。 「「「先生から鈴貰う代わりにキ スしてたじゃん」」」 そんなことしてません!! 「…………それってもしかして頭突きのこと?」 「え?頭突きだったの!?」 信じられないとばかりに声を上げたモエギに、木の葉丸が続く。 「戦闘で決着つかなくて取引したんじゃなかったのか、コレ!?」 「んなことするか!!」 「なぁんだ〜勝つための手段は選ばないって言ってたからてっきり…………」 「それで勝手に勘違いして勝手に赤面してたって訳?そりゃあ確かに待機してんのは暇かも しんねぇけどさ、うずまき隊の勝利のために働いてきた俺に、帰還早々それはねぇんじゃね ぇの?」 すぅっと細められた目が、冷たい光を放つ。 それが何を意味するのかわからないほど、ナルトとの付き合いが浅くないお子ちゃま達は。 「「「ご、ごめんなさい!!!」」」 これ以上ナルトの機嫌が悪天候にならないうちに、声を揃えて謝罪。 木の葉丸以下二人は、確実に成長している。 「わかればいーんだ、わかれば。今の不愉快な言動の分、次はキッチリ働いてもらうかんな」 「「「はい、隊長!!」」」 三人分の返事を受け、ナルトはゆっくりと立ち上がった。 そして、とある方向に視線を向け、十二歳にあるまじき艶やかな笑みを浮かべる。 「…………次はお前だ」 鴇がナルトに鈴を差し出し、おまけとばかりに頭突きを喰らわされた光景を遠くから眺めて いた少年―――――伊吹は、勘の良いナルトに自分の存在を悟られぬよう気配を殺すことに 意識を集中させながら、渋面を作った。 「まずいよぉ〜…………」 何がって、もう全てだ。 見た感じでは、戦闘が終了した後の遣り取りはじゃれ合いそのものだが、それは鴇がナルト の『お気に入り』だからであって、それ以上でもそれ以下でもない。 ナルトの中で実際に自分達の優劣がついているかどうかは知らないが、いくらナルトが常識 から逸脱した存在であっても、所詮は人の子なのである。 口応えなど一切しない見目良いイエスマンに好かれて気を悪くする人間など、よほどの変わ り者以外考えられなかった。 故に、鴇と自分を重ねてはいけないのだ。 そりゃあ自分だって、ナルトの背中を預けてもらえる程度には信用されているし、信頼され、 好かれてもいるだろう。 そうでなければ年がら年中側にいることなど到底許されることではないだろうし、最悪すで にこの世から消されている。 その点は自信を持って断言できるが、今回は三代目が持ち掛けてきた話に心を動かされてし まい、断言できるはずの信頼関係はもはや崩壊寸前、風前の灯火だ。 「あ〜もう、なんで僕ってばこんなこと引き受けちゃったのかなぁ〜…………」 この話を引き受けていなければ、こんなことになってはいなかった。 愛想はないかもしれないが、それでも柔らかく穏やかな声で自分の名を呼んで、微笑んでく れたはずで。 間違っても、『センセー』なんて白々しい声を発したり、絶対零度の微笑みを眼前に突き付け られることもなかった。 「今更謝ったところで、そう簡単に許してくれるとも思えないし……やっぱここは、お怒り が解けるまで姫の側には近づかない方が利口だよね!」 それでどうにかなるという保障など、どこにもないけれど。 すると、ふいに。 「つれねぇなぁ、伊吹。俺は伊吹のことこんなに好きなのに」 「!?」 『こんなに』という言葉が表すように、伊吹の首にふわりと回された華奢な両腕。 普段だったら、滅多にないナルトの方からの接触に舞い上がってしまうのだろうが、この状 況では恐怖しか感じない。 気配も音も気取られることなく伊吹の背後に回ったナルトは、酷薄な笑みを浮かべながら伊 吹の耳の裏に軽く口付けた。 歓喜と恐怖の複雑な感情からビクリと肩を揺らした伊吹を、ナルトが忍び笑う。 「あっれ〜?伊吹センセーってば、なんでそんなに硬直してんの?」 わざとらしい科白に背筋に這うモノを感じた伊吹が、ぎこちない動作で振り返った。 「ひ、姫、いつからそこに…………?」 「『いつから』って、えっと……『まずいよぉ〜』の辺りから」 そんなに前からですか!? ニコリと笑ったナルトが、伊吹の咽元にいつの間にか両手で握っていた鋼糸を押し付けた。 背部分ではなく刃部分であるため、殺そうという意思を持って力を込めれば伊吹の首など簡 単に落ちるだろうが、ナルトの手は微動だにせず、伊吹に『生きた心地がしない』という心 境を存分に味わわせてくれている。 「『まずい』って自覚があるなら、どーしてこんなトコにいるんでしょーねぇ?」 「あ、あはははは……僕その辺りの記憶ブッ飛んでてよく覚えてないんだぁ。その場のノリ って言うかなんて言うか―――――ほ、ほら!でもさ、僕達がいなかったらこの交流会自体 開催できなかったんだし、そういった事情も考慮して、もうちょっと冷静に話し合わない?」 「何をどーすれば冷静になれんだよ。俺は別に、この演習が中止になろーが知ったこっちゃ なかったんだ。中止になったところでそれは俺のせいじゃねぇ、全部遣り繰り下手な そろそろ介護施設にのし付けて放り込んだ方が良い某ボケ老人のせいだ」 「そ、そうかもしれないけど…………」 「はっきり言えばいーだろ、下克上に憧れてたんだって」 「違うよ!!」 伊吹は力一杯否定した。 下克上? そんなことなどありえない。 「なんでそーゆーこと言うの!?姫の上に立とうなんて一度も考えたことないよ!!姫が姫 だから大人しく飼われてるんじゃない!!なのに姫は、姫の側にいて姫の命令に従いながら 僕達がそーゆーこと考えてるって言いたいの!?本気で!!?」 それは自分だけじゃなく他の三人に対しての侮辱だ、と。 憤りを隠さない伊吹を見て半眼になったナルトは、『じゃあなんで』と問う。 勢い良く作られたのは握り拳。 「だって夢だったんだもん!姫が今よりずっと小さい頃、うちはのガ キが不在だからって臨時で修行相手してた時も、姫ってば一度も『先生』って呼んでくれな かったじゃない!!修行の時はアイツのこと『先生』って呼んでたのに僕や安曇のことは呼 び捨てで、それはそれでかなり美味しかったけど、やっぱ一度でいいから 『先生Vv』って呼ばれたかったの!!それがそんなにイケナイこと!!?」 ノンブレスで言い切った伊吹の背後で、ナルトが口元を引き攣らせた。 「…………今すっげぇこと聞いた気がすんだけど、俺の気のせいか?」 「気のせいじゃない!姫も男なら僕の夢わかってくれるよね!!?」 「知るか!お前のはただの嫉妬だろーが!!」 今度こそ、と。 鋼糸を巻き付けた手に力を込めようとしたナルトの手首を掴み、伊吹は一瞬無防備になった 肩の関節を攻めようとした。 もちろん、ナルトに危害を加えることを目的としたものではなく、ナルトの動きを封じるこ とを目的とした行動なのだが、ナルトも心得たもので伸ばされた伊吹の手をすかさず払い、 捕らわれていた自らの手も、伊吹の首筋目掛けて手刀を繰り出すことで解放させる。 伊吹がその手刀を掠めるようにして避けている間に、ナルトは重りの役目を担っている菱形 の小さな鉱石を指に挟んで引き伸ばし、臨戦態勢をとった。 危機的状況から自身を救い出すことに成功した伊吹は、ナルトの一挙一動から目を離さずに 距離を取り、どこからともなく長い柄の付いた大きな鎌を取り出した。 まるで死神のソレのような組み立て式の大鎌は、よほどのことがない限り伊吹が取り出すこ とはない。 ナルトでさえも、ソレを見たのはせいぜい四、五回だ。 片眉を上げたナルトは、次に面白そうに笑った。 「へぇ……俺相手にソレ出すの初めてじゃん」 「だってここで姫に殺される訳にはいかないし」 「俺のこと殺るつもり?」 「いや、そんな気全然ないけどね!」 心情的にも実力的にも、それは無理な話。 しかし、だからと言って何もしないで殺されるには、自分はまだこの世に未練がありすぎる から。 「僕はこれからもずっと姫と一緒にいるんだもん。そのための戦いなら、たとえ相手が姫だ ろうとやるしかないじゃない」 「わぁ、立派な心意気デスこと!でもさ、伊吹。お前は肝心なこと忘れてると思うんだ」 「え?」 ニヤリと不敵に笑ったナルトが、背後の茂みに潜んでいる何かに向かって合図を送る。 ガサガサと音を立てて出て来たのは。 「「「伊吹先生覚悟ぉ―――――ッ!!!」」」 元気な声で宣戦布告をする、木の葉丸軍団。 戦隊モノのポーズらしきものを決める三人の子供に、伊吹は驚き、そして呆然とした。 ナルトの気配を察知することができないのは仕方ない。 だが、武器の扱い方ばかりか持ち方さえぎこちないようなアカデミー生の気配を察知するこ とができなかったという、その事実。 そんなことあるはずがない―――――って言うか、ありえない。 伊吹の内なる声を聞いたように、腕を組んで仁王立ちするナルトが、それはそれは楽しそうに言った。 「あぁ、気配も姿も消せる結界の中に入れてたんだよ」 だからお前が暗部のくせにヒヨッ子の気配さえも 気付くことができない能無しって訳じゃない、と。 貶しているのかフォローしているのか、よくわからない科白を吐く。 「さて、んなことより伊吹センセーに確認したいことがあるんだってばよ☆」 「ナ、ナンデスカ…………?」 「伊吹センセー達は、俺達の相手をする時は高等忍術使えないんだよな?」 「そ、そう、だけど…………」 「んで、決められた武器以外の使用も禁じられてるんだろ?特にそのデッカイのとか」 「…………あ」 「それでもって俺には、なんのハンデも存在しない訳デスよ。 なんせほら、アカデミーを出たばっかの下忍だし」 表向きは万年ドベのドタバタ忍者、 しかしてその実態は最強最悪の妖 狐をその身に宿した暗部の小隊長 だったりする、そんな危険な下忍は いません!!! 「俺等は好き勝手やらせてもらうけど、まぁ精々頑張れよ。恨むなら馬鹿なことしでかした 自分と、この俺を野放しにするようなお粗末なルール作ったジジイを恨むんだな」 伊吹は泣きたくなった。 †††††後書き††††† 後書き書く必要ないかもしれない……でも前編でも書いたし、一応書くことに。あーもう『何 時振り?』って感じですが、とにかく更新です。土下座しなければならないのは古風――― じゃなかった四季様。お、遅くなりまして申し訳……っ! そしてまだ続いたり。前後編のはずだったんですけど無理でした。あは☆<殴 とりあえず中編アップということで!!!後編は刹那と安曇を締め上げ―――っと いけねぇ、最近言動が物騒でいけねぇや。とにかくそういう予定でいますので、いましばら くお待ち下さい。 最後に。 四季様、ホントに遅くてゴメンナサイです!!!!!!
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