本物と偽者と-3-
自信満々に出て行った割には、その結果のなんとお粗末なことか。 女将は激昂していた。 恐慌状態にある自身を自覚していながら、それでも女将は激昂していた。 穏便に事を解決してくれるのだとばかり思っていた。 そりゃあ見た目からは頼りになるとは言い難い彼を心配して一度止めはしたが、『大丈夫』だ と言っていたから、だから黙って見送ったのだ。 きっとこの子供は、自分の予想を裏切って確かな成果を持ってきてくれるのだと。 しかし、こんなことを望んでいたのではない。 「御子、一応今は任務中なのですから、アルコールはお控え下さい」 「えーなんだよ、ケチ。ちょっとくらい大目に見てくんない?あの鼻持ちならない男に色目 を使われた俺は、繊細すぎる心に深ぁい傷を負ったん だからさ」 『よく言う』と、安曇が呆れた顔をする。 「安曇は固いんだよ。なー?」 「そうだよ、安曇。ちょっとくらい、僕はいいと思うけど」 「結構イケるぞ?」 「あはは、鴇も『飲んだことはなかったけど美味しい』だってさ。はい、安曇も飲も!あ、 それともお酌して欲しいのか?じゃあ今日は特別に俺様がしてやるから」 「あのですねぇ…………」 なかなか終わりそうにない小言。 唇を尖らせたナルトは、不機嫌そうに唸った。 「だぁってさ〜『木の葉の金狐』っつーからそれなりの奴を期待してたのに、結局あの程度 じゃん?なんか拍子抜けしちゃって、こんなことでもしてないとやってられねぇんだもん。 あぁ、もちろんアイツ等にはそれ相応の報いは受けてもらいますケド?」 「その件に関しては心より賛同させて頂きますが」 「ならいいだろー?はい、この話はこれで終わり」 「じゃあ次はこっちの話をしてもらうよ!!」 すかさず割り込んできたのは、威勢の良すぎる女将の罵声。 「なんてことをしでかしてくれたんだい、お前さんは!!」 急遽閉じた店の一角で。 罵られているはずのナルトは、悪びれもせずにニヤニヤと笑った。 場違いにもほどがあるが、ナルトはそれを止めようとはしない。 「女将さん、なんでそんなに怒ってるんですか?」 「なんでって、本気で言ってるのかい!?」 「俺はいつでも本気です」 「あんなことをして、アイツ等がどんな行動に出るか!もうこの店は終わりだよ!!」 「何をそんなに恐がってるんですか。アイツ等ができることなんて、たかが知れてますよ」 「『たかが知れてる』だって!?馬鹿なことをお言いでないよ!!お前さんはこの店を潰すん だ!!それだけじゃない、私達を含めた町の人間全員を危険に晒してるんだよ!!?」 「だから、どうしてそんなに怒るんですか。あの『木の葉の金狐』とやらに、本当にそんな ことができると思ってるんですか?余計な心配ばかりしてると辛いですよ??」 「無理を言わないでおくれ!!相手は『あの』木の葉の金狐なんだよ!?」 「『あの』とは言ってますけど、女将さんは『木の葉の金狐』の何を知ってるんです」 「何って」 「金髪碧眼、木の葉の天才暗部で?常に四人の取り巻きと行動を共にしてて、なんだかよく 知りませんが代官に用心棒として雇われてて―――――他には?アレが本当に『木の葉の金 狐』であると、それを証明するはっきりとした証拠はどこにあるんです?」 「言われてみればそう、だけど…………つまり、お前さんは何を言いたいんだい」 「『アレ等の顔色を窺って、アレ等の行動にいちいち怯えるのは無駄なこと』ということです」 「それこそ、何を証拠にそんなこと」 「だから、さっきから言ってるじゃないですか。『俺は木の葉の忍です』って。同郷の、しか もそれだけ話題性がある忍を知らないなんて馬鹿なこと、あると思います?」 嘘も方便、とはよく言ったものだ。 いくら同郷の忍であっても、暗部の素性は隠されているということを知らない女将には、そ の台詞はかなり効果的だった。 「じゃ、じゃあ、なんだい?あの木の葉の金狐は偽者だって言うのかい?」 「あれ、そう聞こえませんでした?」 「な、なら、木の葉の金狐は一体…………」 台詞を言いかけ、今までまともに見えていなかった現実が見えた気がした女将は押し黙った。 テーブルの上に、すらりとした足を組んで座る金髪碧眼の少年。 細められた目は楽しげな光を宿していて、勝手に頂戴した地酒を飲むという余裕さえ持ち合 わせている。 『年頃の娘』の変化を解き、元の年齢に戻った彼は、全身を黒で統一した木の葉の忍び装束 姿で、やはり意地悪く笑い続けることしかしない。 今はそんな服装だが、初めて目の前のやたらと綺麗な少年を見た時、彼はどんな格好をして いた? 全身を包む外套は大きかったけれど、動くたびに合わせ目から見える中身は、明らかに通常 の忍装束とは違っていた。 そして何より、あの白塗りに朱を差した狐面は―――――。 女将は信じられないモノを見たように瞬いた。 「お前さん、まさか…………」 ナルトは、空いた手の人差し指を自分の口元に持っていく。 『それ以上は口にしてはならない』という、無言の意思表示だ。 女将は慌てて口を閉じたが、一つの可能性が一つの確信へと変わったことに、やはり驚きは 隠せなかった。 「まぁ、俺達に任せて下さいって。このために、わざわざ俺が呼ばれたんですよ?」 言われるまでもない。 『本物の木の葉の金狐』が自分達に付いているのなら、初めから文句など出るはずがないの だ。 NEXT>>
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