本物と偽者と-2-
悪代官の圧政下にある街中を、我物顔で闊歩している『木の葉の金狐』が、実は行方不明事 件に関与しているという噂がある。 証拠も目撃者も出していない周到な手口から、プロの仕業だと決めつけた一部の町人の意見 だが、案外的を射ているかもしれない。 目の前の五人は、そう見えようが見えなかろうが忍だった。 ただし、何年かかっても下忍から中忍に昇格することができず、結局忍を引退したような輩 だろう。 一言で言ってしまえば、雑魚だ。 さぁて、どう遊んでやろうか。 咽の奥でクツリと笑ったナルトは、静まり返っているフロアに足を踏み入れた。 「失礼致します、お客様」 凛とした声音に、ミチに絡んでいた偽金狐が深々と頭を下げているナルトを見る。 「ナ、ナルちゃん…………」 助けを求めるような、それでいて接触を拒んでいるかのような呟き。 『彼女も災難だよなぁ、もう運が悪かったとしか考えられない』と、心底同情したナルトは、 ゆっくり顔を上げた。 澄み切った青い瞳を、笑みの形に。 それの笑みが作られたものだと理解できる者は、今のところ本物の部下だけだ。 「恐れ多くも金狐様に対しての非礼、弁解の余地もございません。その代わりと言ってはな んですが、私でお役に立てることはありますでしょうか?」 桜色の唇から零れる歌うような言葉に、偽金狐はミチに絡んでいたことも忘れ、ナルトに見 入ってしまった。 その隙にミチは慌ててナルトの背後に回り、あまりの恐怖で溢れ出た涙を手の甲で拭う。 その一連の動作を空気の動きだけで察したナルトは、ミチの腕をトンと押し、フロアから下 がるように促した。 自分に注意を引き付けるために、最上級の笑顔で『なんなりとお申し付け下さいませ』と駄 目押ししてやると。 不躾にもナルトの顔をまじまじと凝視していた偽金狐は、下心剥き出しの顔でニヤリと笑っ た。 …………あ、鳥肌が。 「見ない顔だな。新入り?」 「はい」 偽金狐と(不)愉快な仲間達が、ナルトを見ながら囁き合う。 『今までにお目に掛かったことのない上玉だ』 内緒話のつもりだったらゴメンナサイ。 丸聞こえデスヨ? 自分の容姿をこんな奴等に格付けされたナルトは、心の内で思いつく限りの罵詈荘厳を浴び せる。 今すぐにでも手を出してしまいたい『うずうず』とナルトが、壮絶な攻防戦を繰り広げてい るなどとは露とも思っていない幸せな偽金狐が、『じゃあ早速』と言って自分の袖口を見せ付 けた。 「これ、どうにかしてくれる?」 好色そうに歪められた、口元。 「この部分が濡れてて気持ち悪いからさ、どっか乾かせるトコ連れてってほしいんだけど」 あからさますぎる夜にお誘いに、ナルトは泣きたくなった。 こんな男が自分を装っているだなんて耐えられない。 どこか遠くから、『ぎゃ―――――!!姫が汚される ぅ―――――ッ!!!』という、声にならない叫びが聞こえる。 汚されて堪るか!! この任務を人任せにしないで正解だった。 自分の采配で、自分の好きなように、面白 可笑しく調理することができるから。 まず手始めに、盛大にやってやろうじゃありませんか。 「あら、それでしたらもっと有効な対処法がございますよ?」 邪気など欠片も感じさせない、天使のような笑みを見せ。 ナルトは、白く細い指先を水差しの取っ手に伸ばした。 「こうすれば、気になりませんでしょう?」 重力に逆らうことなく偽金狐の頭上に降り注いだのは、氷入りの冷水だった。 「ほら、全身ズブ濡れ。こうすれば細かいことを気にしなくてもいいじゃないですか」 偽金狐は初め、自分がどんな目に遭っているのかまったくわからなかった。 それだけの理解能力が備わっていなかったのではなく、ただ単純に『理解する』ということ をすっかり忘れていたのだ。 それは、己が陥ってしまった状況を簡単に認めたくはないという、ちっぽけなプライドが邪 魔をしたせいなのだが、いつまでも呆けていられるほど刺すような痛さを伴う水の冷たさか ら逃避することもできず、かなり間を置いて我に返った。 怒りのあまり顔面の温度が急上昇し、情けないほど顔が引き攣っている。 蒸気が出ないことが不思議だった。 「貴、様―――――ッ」 「まぁまぁ、お顔が真っ赤!お風邪をひきましたのね?それは大変、一刻も早くお医者様に 掛からなくては」 記録的な馬鹿でもわかるように、わざとらしく声のトーンを上げてやると。 心得たように、ナルトの脇を四つの影がすり抜ける。 突然の出来事に呆然とすることしかできない取り巻き共々、偽金狐を外に引きずり出してし まう。 土埃が立つような地面に濡れた身体のまま捨てられたせいで、汚れに汚れた奴は、まるでボ ロ雑巾のようになった。 その姿の愉快なことと言ったらない。 肩に掛かった髪を後ろへ払い、圧倒的な上の立場にいる者として、ナルトは偽金狐のことを 挑戦的に見下ろした。 「本物の金狐なら」 その言葉に、偽金狐の表情が一瞬にして強張る。 「少なくとも、袖にちょっと水を掛けられたぐらいで騒ぎ立てるような心の狭いことなんか 言うはずがないんですけど…………おかしいですねぇ?」 さぁ、種は蒔いてやったよ? だからさ、早く回収しにおいで? NEXT>>
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送