「僕が調べてみたら、噂の発端になった子供は一般家庭の子じゃなかったよ」

 

伊吹は円卓の上にクリップで留めた数枚の紙の束を叩き付け、

ナルトによく『なんちゃって小動物』と称されるその顔を、らしくなく歪めていた。

同じような顔をして円卓を取り囲むのは、総勢四名。

私兵全員の誰一人も欠けることなく、彼等はそこにいた。

服装はラフな私服ではなく、任務に就く時に着用する暗部服だ。

面を手で持ち、眼前に提示された資料に短時間で目を通すその様からは、

限界ギリギリまで張り詰めた緊張感がひしひしと伝わってくる。

事実、彼等は緊張していた。

突如として行方知らずとなってしまった主。

消えた子供。

それと変わるように囁かれ始めた、不名誉極まりない噂。

意図的に仕組まれた匂いがするこの出来事は、

まさしく彼等にとってもイレギュラーなことだったのだ。

 

「この子の名前はサクト。木の葉崩しで家族を失って、

しばらくは親戚の家を転々としていたらしいんだけど、

結局は数週間前に児童施設に入ったそうだよ。

性格は絵に描いたような明朗快活、だけど我侭が酷くて、

施設でも持て余してたみたい」

 

「おい、伊吹。前半はわかるが、

なんでこんな時に消えた餓鬼の性格まで聞かなきゃならないんだよ!?」

 

「あのねぇ、刹那!苛立ってるのはわかるけど、

僕にそれをぶつけるのは止めてよね!!…………そう、

それでそのサクト君なんだけど、少し前数日間だけ施設に

ボランティアとして入った少年に、えらくご執心だったんだって」

 

どこかで聞いた話に、カンの良い安曇と鴇は

確認の意味を込めて互いに視線を交わらせた。

刹那とて鈍感だという訳ではないのだが、いかんせん、

感情の方が先走ってしまっていて宝の持ち腐れだ。

 

「彼が何か言えば、ジャ○アンが桃太郎印のき〇団子を食べたみたいに、

とたんに従順になるらしいよ。

施設通いの期間が終わっても、

サクト君は無理矢理彼と会う約束を取り付けたんだってさ」

 

「だから、それがなんなんだよ!!」

 

「わからないの?」

 

伊吹は怒ったような顔をして、刹那の胸倉を掴んだ。

至近距離になった二つの顔は、一歩間違えれば恋人同士のイチャツキに

見えなくもないが、二人の間にそんな感情などあるはずもない。

あるのはただ、共通の人物に対する深く強い想いだけ。

 

「いーい?サクト君は孤児が収容される施設の子供。それでもって、

その施設に最近ボランティアとして下忍班が入ったの。

担当上忍が謹慎中の第七班と、紅上忍率いる八班、それと猿飛上忍の十班。

サクト君が始終離れなかったのは姫だよ。

姫がいなくなる二日前の夜、そういう話をしてたじゃない!

まさか聞いてなかったの!?」

 

「馬鹿言え!聞いてたからあんだけ騒いだんだろうが―――――ってことは、何か?

坊とデートしたっつー生意気な餓鬼が、ソイツだって?」

 

「だーかーらー、最初からそう言ってるでしょ!?今はいいけど、

行動中に使い物にならないって判断したら、

いくら同僚だろうと僕は容赦なく切り捨てるからね!!!」

 

「…………伊吹、あなたも少し落ち着いたらどうですか」

 

「だって安曇!この馬鹿男ってば事の重大さをまったくわかってないんだよ!?」

 

切実な伊吹の訴えに、安曇は額に手を当てて大仰な溜息をついた。

胃がギリギリと絞られるように痛い。

頭が鈍器で殴られたように痛い。

それでも根を上げようとしないのは、そんな些細な言い争いよりも、

あまりにも強すぎる自己嫌悪でどうにかなってしまいそうだからだ。

 

「わかっていない訳ではないでしょう」

 

ただ、わかりたくないだけの話。

彼がいない。

万人の心を見透かすように、その美しくも強い光を放つ瞳で、

恐いくらい真っ直ぐに人を見てくる少年が。

歪められた生でありながら、誰よりも穢れ無き孤高の魂を持っていた金色の子供が。

常に吹き付ける逆風の中、それでもピンと背筋を張って不敵に笑う本当の英雄が。

いない、のだ。

 

「わかっていない訳ではないんです。本当は、刹那もわかってるんですよ。

鴇だって、あなただって同じでしょう?もちろん、私もですが…………」

 

安曇にそう言われた伊吹は黙り込み、下唇を噛んでふいと顔を逸らした。

 

「誰もが同じなんですよ。『何もできなかった』と悔やむ…………だから、

今更抱いていて当然の感情を共有する必要なんてないんです。

そんなことで時間を無駄にするよりは、もっと建設的なことに時間を割くべきですね。

それにおそらく、今の私達を見たら御子はこう言いますよ」

 

安曇はふっと笑った。

 

「『いつまでもグチグチと、お前等いい加減ウザイんだけど?』」

 

見事なまでの口真似に。

一瞬無表情になっていた三人が三人とも、揃って噴き出した。

 

「そうかも!本物の姫ならもれなく手も出るだろうね!!」

 

「意義なし」

 

自分も、と。

鴇が肩を震わせて軽く手を上げる。

伊吹は資料の上に手を置き、『うん、そうだよね』と頷いた。

 

「ここでいくら議論してたって、どうせやることは一つなんだもん」

 

 

伊吹は無邪気な笑みを浮かべながら、文字の羅列をそっと指でなぞった。

そこに記してあったのは、その施設の所有者。

九尾を封印した後も、強硬な姿勢で器の早期処理を声高に主張してきた上層部の老人だ。

その老人が経営する施設に、手違いなのではなく作為的に呼び込まれた『うずまきナルト』。

すでに血縁がなく無駄に騒ぎ立てる親類もいない子供を隠し、

それと同時に器をどうにかすることで下準備は完了。

あとは里全体に向けて掻い摘んだ情報を発信してやればいい。

なんて単純で短絡的な計画だろう。

しかし、そんな計画に限って、意外にも効果があったりするから性質が悪い。

事実、真実を知らない愚かな里人など完全に踊らされているのだから。

 

「今まで目立った動きがなかったからって、放置しておいたのはやっぱマズかったな。
こうなりゃ実力行使だ。なんとしてでも取り戻してやる」

 

刹那の言葉にそれぞれ頷くと、四人はほぼ同時に暗部面を取り付けた。

ナルトのために、など。

そんな押し付けがましい理由で動くのではない。

想いの量と質は違えど、彼等は皆、自分のためだけに動くのだということを知っていた。

 

 

 

自分達には、どうあっても彼が必要だったのだ。













手も足も出ない状態のナルトを揶揄して優越感に浸りたかったらしい男を一撃で伸した後、

ナルトはサクトの手を引いて石畳の回廊を歩いていた。

そこはまだ地下であるため足下を照らす光源はなく、

その分余計におぼつかない足取りであったが、

サクトはサクトでナルトの足手纏いならないようにと、

唇を一文字にしてナルトから離れないようにと必死だ。

けして大柄とは言えないナルトでも、さすがに四歳児とは歩幅が合わず、

サクトが転ばないように気を配ってやらなければならない。

 

「サクト、なんなら俺が背負ってやるぞ?」

 

「お姉ちゃんってば、またそーやって僕を子供扱いして!」

 

サクトはリスのように頬を膨らませ、

抗議のためかナルトと繋がった方の手をブンブンと振り回した。

四歳児の主張に、ナルトは苦笑することしかできない。

確かに子供扱いをしていることに変わりはないが、今この状況で子供扱いも何もないだろう。

万が一の可能性を考えると、むしろ、サクトをぶら下げて歩くより、

ナルトにとってはそちらの方が余程都合が良いのだ。

 

「だけどなぁ」

 

「もう、いいの!僕は一人でちゃんと歩けるんだからね!!」

 

「わかった、わかりました。俺の負け。だからサクト、頼むからもう少し静かにしてくれ」

 

敵陣のド真ん中でそんなに大きな声を出されては堪らない。

浅慮な馬鹿男のおかげで人質となっていたサクトをようやく確保することに成功し、

せっかく脱出することに成功したというのにこれでは、

己から『捕まえて☆』と騒ぎ立てているようなもの。

まぁ、しかし、それももう手遅れになってしまったようだが。

澱んでいたはずの空気が循環するような流れを感じ、ナルトはサクトから視線を外した。

近づいてくる複数の気配は、ナルトとサクトの拉致を指示した張本人の息子などより、余程『忍』らしい。

完璧に気配を消しきれてはいないが、少なくとも並の上忍程度の実力は持っているだろうと判断した。

ナルト一人ならなんら問題はないが、サクトがいるとなると話は別である。

 

「…………サクト」

 

「なぁに?」

 

「少し下がれ」

 

「どうして?」

 

「いいから!」

 

ナルトはサクトを強引に自分の後ろへと押しやり、通路の突き当りをギンッと睨み付けた。

 

「お偉いさんのお出ましなんだよ」

 

ナルトは腹の中に抱えている一物のおかげで常人よりも数段優れている

五感を張り巡らし、敵勢の情報を即座に頭の中に叩き込んだ。

計七人―――――いや、戦力外を含めると八人か。

そしてその八人目こそが、ナルトにとっては鬼門そのものだった。

 

「おぉおぉ、こんなところにおったのか」

 

七人の忍を従えて、醜悪に相好を崩しながら悠々と近づいてきたのは、

火影や御意見番が身の付けるような装束を纏った、一人の老人だった。

彼の頭髪はお世辞にも裕福とは言えず、発毛機能が著しく低下しているとしか思えない。

闇に包まれた空間であっても僅かな光を受け、

自らを光源とする素晴らしく見事な頭部を持っている。

その頭部の輪郭を申し訳程度に隠す白髪は、

風に吹かれたらあっさりと抜け落ちてしまうのではないか。

いっそのことスキンヘッドにしてみれば、

これを見るたびに笑いを堪える人々の苦労をなくせるであろうから、

ナルトとしては潔く毟りとってしまうことをお勧めする。

ここまで進行していれば、増毛・発毛を売りとする

某有名会社も諸手を上げて潔く降参することであろう。

老人の頭部にばかり目がいってしまうのは、

これでもかとばかりに誹謗中傷を並べ立てなければやってられないからだ。

 

「…………院長先生?」

 

小さな子供が発した声を、老人はあっさりと無視した。

サクトが生活の場としていた施設の持ち主であるこの老人は、

御意見番とはまた別口で火影の補佐をする長老衆が一人。

その名を、栄といった。

 

「さて、うずまきナルト。どこへ行くつもりじゃ?」

 

ナルトがあの拘束を解いてあの地下牢を出ていても、別段驚きもしない。

仮面を被っていない素のナルトを知っているのかどうかは知らないが、

もし知っていたとしても、そんなことはどうだっていい。

ナルトが栄の手の内に落ちていることは事実だし、『サクト』という名のハンデがいることも事実なのだ。

その妙な自信に満ち溢れた皺だらけの栄の顔が、

周囲を取り巻く優秀(だと当人は思い込んでいる)な忍と、

端から見たら絶望的なナルトの状況からのどちらからなのかは甲乙付け難かったが、

とにかく憎たらしいことこの上なかった。

ナルトは何も知らないサクトを自分の背に完全に隠してしまうと、

実に可愛らしくにこぉっと笑った。

 

「ここってば最悪に居心地が悪いから、さっさと外に出ようと思ったんだってばよ」

 

栄の目的など、初めから考えるまでもないのだ。

『どこへ行く?』など、愚問でしかないではないか。

 

「それはいかんな。お主はここで死ぬのじゃから」

 

「人間、いつか必ず死ぬってば。

朽ちるに任せるのが自然の摂理ってヤツじゃねぇの?」

 

「貴様のような奴が人間だと?笑わせるな!」

 

怒気も露わに吐き捨てたのは、栄を守るように側に控えていた忍の一人。

 

「お前が人間であるはずがない!思い上がるのもいい加減にしろ!!」

 

それは、ナルトの台詞だった。

自分の意思ではないとはいえ、九尾の器になり里を救ったはず『英雄』に対する、

これがこの里の仕打ちなのだ。

今更どうのこうのと口に出す程執念深くはないが、

そういう台詞を突きつけられると、やはり耐えがたいものがある。

 

「じゃあ、人間だと思い上がったモノに命を救われたことに対する恥を知れ」

 

真正面から叩き付けられた現実に、男は一瞬言葉を失う。

ナルトは目を細め、花開くようにふぅんわりと笑った。

そのくせ、徐々に漏れ出す殺気は只人の比ではない。

 

「矛盾もいいところだろう。俺を否定するのなら、

まず俺のおかげで生き延びたという自分を否定したらどうだ。

俺は止めないぜ?なぁに、死ぬのなんて簡単だ。

上手くやれば痛みも感じないさ」

 

「こ、の、狐め…………っ」

 

みるみるうちに赤くなる歩くリトマス紙の顔を見て、ナルトはさも面白そうに笑う。

そんなナルトを見て、栄は独り言にも似た台詞を洩らした。

 

「ようやっと本性を曝け出したか。さすが化け狐、

考えることも我等には想像もつかぬ程恐ろしいではないか」

 

「―――――っつーか、そうさせたのは責任転嫁と保身だけしか頭にないテメェ等だろうが。

おまけに、俺だけならまだしもなんの関係もない子供まで巻き込みやがって。

アンタの考えの方が、俺にとっては恐いね」

 

「なぁに、大多数の幸せのためには、少量の犠牲が必要不可欠でな。

わしもこのようなことは本意ではなかったが、

わだかまりを早々に取り除くためには仕方なかろうて」

 

「そのために、サクトを人柱にした訳だ」

 

あぁ、反吐が出る。

どの口がそんな奇麗ごとを語るのかと、全身に虫唾が走って。

それでは、『特別』でないだけで、家族を失った子供の扱いがこうも違うのはなぜだ。

あの施設に引き取られていた子供の大半が殉職していった名家の忍の血を引いていて、

それ以外のほんの一握りの子供でさえも、その親はそれなりの役職に就いていた。

浮浪児となって放り出されるのは、なんの取り得も重きを置く血筋もない『普通』の子供。

そんな中、唯一施設に入っていたサクトでさえも、ナルトの動きを封じるための人質として利用された、この事実。

それで『本意ではない』?

ふざけるにも程がある。

上着の裾を引く感触に、ナルトは小さく振り返る。

 

「…………お姉ちゃん、なんの話?」

 

「異種間の相互理解についてちょっとな。

―――――まぁ、それも初めから無理な話だったんだけど?」

 

前半はサクトに、後半は栄に。

挑発的なナルトの言動に、栄はにたりと狂気じみた笑みを浮かべた。

 

「知れたことを」

 

そこで何かを思いついたかのように、更に笑みを醜く深める。

 

「そうじゃ、お主に教えておいてやろかのぅ」

 

「何?」

 

「日向のヒアシの奴が、お主を返せと言ってきたぞ」

 

「―――――っ!」

 

ナルトはわずかに息を飲み、意図的に醸し出していた殺気を一気に解放した。

突風が吹きつけるような、そんな一瞬の殺気の風に。

場慣れしているはずの彼等は、一同に小さな悲鳴を上げる。

栄も例外ではなかったが、思ったよりも矜持が強いのか、上擦った声ながらも話は止めない。

 

「ま、まさかお主が日向と繋がっているとは思わなんだ。

狐に誑かされるだなど、あの日向も落ちたものではないか。

お主に何かあったら『日向一族全体を敵に回すと思って頂きたい』とまで言われたわ!

里にとっては立派な危険因子ではないか。

ん?そうじゃろう!?」

 

「日向に手を出してみろ!!」

 

ビリビリと肌を打つような怒声。

これまで見せたこともないような、それは心の底からの怒りだった。

 

「そんなことしてみやがれ!!貴様を『死なさせてほしい』

自らと懇願するような目に遭わせてやる!!!」

 

「ほ、ほれ!お前達、今のこやつの発言を聞いたか!

長老衆のわしに危害を加える気じゃぞ!!

正当防衛じゃ、こやつがおらんようになったとて、


それで説明は済むわ!!殺せ、こやつを殺せぇっ!!!」

 

栄の命令に戸惑った素振りを見せた男達は、それでも意を決したように飛び掛かった。

拘束された時に武器を取り上げられていたから、ナルトは忍具を一つも持っていない。

武器で応戦することは不可能だ。

ナルトは一瞬のうちにサクトの意識を奪い、

印の一つも組まず手の平に青い炎を出現させると、

その威力を最大限に発揮して炎の障壁を作り出した。

全てを焼き尽くす地獄の業火。

妖の炎、狐火だ。

 

「ぎゃあああぁぁっ!!!」

 

反応が遅れた一人の男がもろにその障壁へと全身を突っ込み、断末魔の悲鳴を上げる。

石畳の上を無様に転がり回る男。

その動きも数秒で収まり、後に残されたのは人の輪郭を持った黒い塊と腐臭だけ。

 

「さぁ、次は誰を消し炭にしてやろうか」

 

そう言って顔を上げたナルトの目は、深紅に染まっていた。

笑みを讃えたその表情はぞっとするほど美しいのに、

そこにあるのは形ある脅威だけ。

未熟な者はこの時にはすでに精神を侵され、

奇声とも怒号ともつかぬような叫び声を発して再びナルトに襲い掛かる。

ナルトもそれに応戦しようとした、まさにその時。

 

「させるかよ!!」

 

聞き覚えのある声がして、

ナルトに向かってきた男が壁に叩き付けられた。

よく見ると、黒髪を短く刈った暗部が、

頭を鷲掴みにした男の顔面を壁にめり込ませている。

ナルトは障壁を作ろうとしていた分の力をすぐに分散し、

信じられないものを見たかのように目を大きく見開いた。

 

「刹、那?」

 

「姫、僕達もいるよぉ☆」

 

鋼色の髪に前髪の一房だけ緑色のメッシュが入った少年と。

紺色の髪に、褐色の肌を持つ異国の青年。

そして小豆色の髪の青年が、ナルトの下へと馳せ参じた。

ナルトはここにいるはずがない私兵達を眼前にし、

全身から発していた殺気を綺麗さっぱり霧散させる。

九尾の力を使う時に発言する赤い瞳も、熱が冷めるように透明度の高い青色に戻った。

それだけ、ナルトの驚きは半端ではなかったのだ。

 

「お前等…………」

 

「ご無事で何よりです、御子」

 

膝をついた安曇から受ける真摯に眼差しに曖昧に頷き、

ナルトは他の三人にも視線を送った。

生きているのかも死んでいるのかもわからない男をぞんざいに投げ捨てた刹那が、

溌剌とした声でナルトに話し掛ける。

 

「遅くなって悪かった。でもまだ、ギリでセーフだろ?」

 

「セーフっつーか、図ったようなタイミングの良さっつーか…………どうしてまたこんなとこに」

 

「やだなぁ、姫ったらそんなツレナイこと言わないでよね!」

 

「御子に捧げたこの身体、今使わないでいつ使えと?」

 

聞きようによっては熱烈な愛の告白に、瞬きを数回繰り返した後、

ナルトは額に手を当てて声を上げて笑った。

 

「ホント、お前等って…………」

 

ナルトの表情が泣き笑いのように見えたのは、果たして彼等の気のせいなのか。

その一言に込められた想いを感じ取り、四人は面の下で笑った。

それだけで報われるのだ。

たとえ、今ここで命を落としたとしても。

 

「あとは僕達がやるからさ、姫はその子と一緒に後ろに下がっててよ」

 

「だけど」

 

「差し出がましいようですが、私からもお願いします。

御子はこの争いに直接手を出されてはいけません。

日向が関わっているのなら、

尚更あなたの手を汚すような真似はできません」

 

「お前、どうしてそれを知ってるんだ」

 

眉を潜めたナルトに、安曇は自分の口元に人差し指を翳して見せた。

 

「企業秘密ですよ。―――――さて、長老衆筆頭、栄様」

 

ナルトに向けるのとは違う、無機質で冷ややかな声音に。

名指しで呼ばれた栄は情けない程肩を揺らし、顔面を蒼白にさせる。

 

「我々の主に対する無礼な発言と許しがたい行為の数々、

加えて日向を逆賊呼ばわりしたその罪は万死に値します」

 

安曇の言葉を合図とするように、他の三人もナルトを背に庇うような形で敵勢と対峙した。

 

「覚悟は、よろしいですか?」

 

 

 

 

――――― 我等の絶対の忠誠を、唯一無二のあなたに ―――――

 

 

音にされることのなかった誓いは、闇に溶けて消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「問題は、お前をどうするかなんだよなぁ〜…………」

 

何もかも綺麗にかたがつき、日向とナルトの関係の漏洩の心配もなくなった今、

残った問題といえばサクトの今後の身の振り方である。

サクトは腕を組んで唸るナルトを首を傾げて見上げ、

ナルトの腰にピタリと引っ付いたまま『僕?』と聞き返した。

私兵四人はセクハラぎりぎりのその行為にヤキモキしたが、

ナルトがその行為を咎めないため、

あからさまに引き剥がすことができない。

そんな四人の心境を知ってか知らずか

(おそらくその手に関しては鈍いから知らないだろう)、

ナルトはサクトの目線の高さとなるように腰を屈め、

サクトのこれからについて自分の中の考えを明らかにした。

 

「あのな、サクト。お前には施設に帰ってほしいんだ。

院長先生の悪戯でちょっと悪い噂がたってるから、それをなくすために」

 

「お安い御用だよ」

 

「でも、その後は施設を出た方がいいと思う」

 

その理由は、少し考えれば誰でもわかるものだ。

サクトは無事に戻って来た。

だから、流れている噂の『喰われた』という部分に関しては否定できる。

しかし、サクトが何者かに攫われたということはまぎれもない事実というやつで、

それと同時期にナルトが行方を眩ましていたということもまたしかり。

ナルトがサクトを攫ったという証拠はないが攫わなかったという証拠もなく、

里人の都合の良い解釈では、やはりナルトは誘拐犯なのだ。

サクトにしても、ナルト絡みで噂になってしまった以上、

『よく無事で』と快く受け入れてもらえるとは到底思えない。

そしてこの一連の出来事、ナルトの所為ではないがナルトが原因であることは事実。

サクトが望むことなら、できる限りのことはしてやりたかった。

 

「あのな、サクト。お前、将来の夢は『お菓子屋さんになることだ』って言ってただろ?」

 

ナルトに自分が話したことを覚えていてもらえたのが余程嬉しいのか、

サクトは頬を紅潮させて大きく頷いた。

 

「うん!死んだママが作ってくれたお団子がね、すっごく美味しかったの。

だから僕、将来は和菓子屋さんになるんだ!!」

 

「俺の知り合いに和菓子屋の若旦那がいてな、ソイツは結婚しないって言ってるんだ。

だけど、跡取りになる子供は欲しいらしくてさ

―――――俺から話をつけておくから、もしお前さえ良ければどう?」

 

「御子、いいんですか?そんな勝手に」

 

「まぁ、急だとは思うけど問題ないだろ。

前々から『いい子がいたら紹介してくれないか』って言われてたし。

サクト、どう?養子になる気はあるか?」

 

「…………僕、そのお家の子になるの?」

 

「そ。大きな和菓子屋さんなんだ。皆優しいし、

特にお前の『お父さん』になる人は子供が大好きだから、

すっげぇ可愛がってもらえるはずだ」

 

「ぼ、僕なんかでいいのかな?」

 

「お前、我侭だけど別の意味でとれば芯は強いってことだ。

それに根は素直だし、絶対気に入られるさ」

 

サクトは『え、えっとね、じゃあね』と前置きした後、

心の準備ができてから最高の笑顔を浮かべた。

 

「僕、和菓子屋さんの家の子になる!ありがとう、お姉ちゃん!!」

 

満足気に頷いたナルトは、しかしすぐに真顔になる。

サクトの肩に両手を置き、

何か重大なことを告白でもするかのようにその目は真剣だ。

 

「今更だけど、お前に言わなきゃいけないことがあるんだ」

 

ナルトは必死だった。

 

「お姉ちゃんはな、お姉ちゃんはな、本当は」

 

 

 

 

 

オニイチャン、ナンダヨ?

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

†††††後書き†††††

 

もうオリキャラは出さないはずだったのに、やっぱり出してしまいました。
でもレギュラーではないのでいいです。大目に見ます。(おい)
話は変わりまして、四万打リク『突発喪失』でございます。
サブタイトルを『うずまきナルト少年、誘拐されるの巻』。
私兵大活躍ということでしたので、普段より多く、かなり多く!彼等の出番を増やしてみました。
そして力関係のピラミッドの頂点にいるナルト。
ナルトが最強なのは今に始まったことではないので、たいして困りませんでしたね☆
この話自体はちょいと難産でしたけど…………。
何はともあれ、柊深羽様!!四萬打リク、ありがとうございまた。
こんな駄文で恐縮ですが、貰って頂けたら嬉しいなぁ〜っと思っている次第です、はい。



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