小さな花は 冷たい雨に打たれて

いつか咲くことさえ やるせなくなるのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

終了告知
今日も今日とて合同任務。 本日の任務は、とある施設のお子様一個師団の世話をすることでございます。 『木の葉崩しの爪痕が未だに痛々しく残る里の中で、親を失っても健気に生きようとする子供達の笑顔を守りたい』という、 その施設の持ち主である院長先生の粋な計らいで、ナルト達下忍班は招集された。 先の中忍試験で昇格したシカマルは、現在呼び出されていてここにはいないが、用件が済み次第こちらと合流する予定になっている。 下忍二人一組で平均八人の子供が振り分けられるということで、厳正なる籤引きの結果、 ナルトとイノ、キバとシノ、リーとテンテン、サクラとチョウジ、そしてサスケとネジとヒナタといった5グループに分かれた。 つくづく運が悪いことに悲劇の末裔君は、先日の砂忍来襲の一件でヒナタと話を聞いたネジの二人から目の仇にされており、 とりあえず今日一杯はネチネチ刺々した白眼の脅威に晒されることとなるのは、もはや決定済み。 怒りも何もすでに昇華してしまったナルトは、影で両手を合わせて『ご愁傷様』と呟き、 何も覚えていないキバに変な目で見られたのだった。 そんなこんなで、始まった合同任務。 なんとも失礼なことに、ナルトだけをあえて視界に入れまいと不自然な目線で説明を終えた施設の職員から解放された下忍達は、 皆それぞれの持ち場に散っていった。 そして、肝心のナルトといえば。 「お兄ちゃん?お姉ちゃん?」 「ばっか、違うよぉー。お兄ちゃんだよぉー」 「え〜?それこそ違うって。お姉ちゃんだもん。ね、ナルトのお姉ちゃん!!」 「だぁ―――――っ!!お前等わざとだろ!?俺は男だってばよ!!!」 『ドベ時のナルトだったら』ということを想定して必死に反論したけれど、そこに含まれるのは少量の本音。 対する子供の反応は。 「「「じゃあ、オカマ??」」」 ―――――子供は残酷だ。 がっくりと肩を落として項垂れるナルトを見て、ついにイノは噴き出した。 「あははははっ!こりゃあいいわ!!傑作じゃない!!! 私の最近の『ナルト語録』の中で、一気にベスト10入りよ!!」 「…………お前、最近なんかゴソゴソやってると思ったら、そんなもん作ってたのかよ」 「あーら、ごめんなさい?とっても面白かったものですから??」 誠意の欠片もこもっていない上辺だけの謝罪の言葉にナルトは、ことあるごとに地面にのの字を書き出す銀髪覆面上忍の衝動を垣間見た。 記念すべき初体験だ。 しかし、その行き場のない感情は、けしてイノにぶつけられることはない。 ネジ曰く、ナルトは『キング・オブ・フェミニスト』。 女の人は神様です。 大切に大切に、宝物のように接しなければいけません。 そんな意識がなぜか幼い頃から頑丈に根を張っているものだから、それはそれは楽しそうなイノの気分を害することは気が引けた。 彼女が笑うと場が華やかになって、その(とてつもなく強引な)パワーで、そこに居合わせた人間の笑顔を作ってくれるから。 一日限りだとしても、それで子供達と円滑な人間関係を築けるのなら、笑いの種にでもなんでもなってみせましょう。 …………まぁ、半分ヤケではあるが。 「とにかく俺ってば男!以後『ナルトの兄ちゃん』と呼ぶように!!」 腰に手を当てて。 『これだけは譲れない』と、己の男としての意地を見せる。 子供達は好き勝手に声を上げた。 「言論の自由はどこにいったのさー」 「それって絶対人権侵害だよ」 「横暴だと思いマス!子供の素直な価値観を否定するなんてっ」 「あのなぁ、俺にだって人権はある―――――ってか、お前等そんな難しい言葉、どこから覚えてくんだってば?」 最近の子供は恐ろしい。 見た目はせいぜいアカデミーの新入生程度の年齢でしかないのに、そのお子様達のどこにそんなことを考える頭が! 「ふ〜んだ!俺等だって、無駄に六年生きてきてないもんねぇーだっ」 「可愛げのねぇ餓鬼だなぁ、おい…………」 誰にも聞かれていないと思っていた呟きは、隣りにいたイノにバッチリ聞こえていたようだ。 『アンタも似たようなもんでしょーが。自分のこと棚に上げるのもいいトコよ』と。 肘の上辺りを抓られ、わずかに眉を顰める。 地味に痛いぞ、コレは。 「ま、仕方ないから寛大な俺様はそう呼んでやるけどな!」 どうやら、その子供達の中でリーダー格らしい少年の一言に。 他の少年少女も、『寛大』を連呼しながら揃って頷く。 子供じゃなかったら張り倒している。 いや、むしろ子供だからこそ、これから先まっとうな人生を歩めるように教育的指導を! そうは思ったが行動には移さない。 移したら、それはそれで大問題だ。 「んで、俺達は何をすればいいの。ナルトの兄ちゃん?」 「すっげぇ嫌味ったらしく聞こえるけど…………まぁ、いいってばよ。なぁ、イノ。俺達は具体的に何をしたらいいんだってば?」 ナルトに突如話を振られたイノは面喰らった。 「だ、だから世話をするんでしょー?」 「世話っつったって、コイツ等きっと、自分のことは自分でできるってば。な?」 「当然。伊達に孤児やってないもん」 子供らしからぬ笑みに、ナルトはその少年の頭に拳を振り下ろしたくなった。 本当に可愛くない。 昔の自分も、こんな風に見られていたのだろうか? だとしたらショックだ。 とりあえず、ナルトは『生意気言うな』と少年にデコピンを喰らわせ、黙らせた。 「―――――となると、今回の任務は純粋に遊び相手になるってことか」 「う〜ん。そういうこと、になるのかしら?」 「だとしたら話は簡単だってば。何して遊びたい?」 『はーい』と、白く小さな手が上がる。 元気の良い挙手に、ナルトはその手の持ち主を指名した。 「はい、そこの三つ編みちゃん」 「サクト君がまたいないの。だから『かくれんぼ』にしようよ」 「何ぃー?アイツまたいないのかよ?自分勝手もいいトコじゃんか」 「そういえば今朝から見てないなぁ」 「最後に見たのっていつ?」 「朝ご飯の後―」 「げっ。もう四時間じゃん!アイツもホント懲りないよな」 「ちょ、ちょ、ちょっと待て。ストップ!ストーップ!!あのさ、俺達にはよくわかんないんだけど、 ちゃんと一から説明してくれる?そのサクトって子が、なんだって?」 慌てて話を止めに入ったナルトは、我の強そうな少年に説明を求めた。 それに答えてくれたのは、先程の三つ編みちゃん。 「かくれんぼしてるの。朝ご飯の後から四時間ずぅーっと。でもね、誰も見付けられないの。 だって、サクト君ってば隠れるの上手すぎなんだもの。いつもだったらいつの間にか戻って来てるはずなんだけど、 今日はおかしいの。何か変。こんなに長い時間行方不明だったことなんてなかったのに」 ナルトは呆れた。 「お前等見付けてやれよ。皆で遊んでたんだろ?最後の子が見付かるまで、ゲームは終わらないのは常識だっつーの」 「違う!」 リーダー格の少年が荒げた声に、ナルトは『何が違うんだ』という意味を込めて視線を送る。 ドベ時のモノとは少しだけ違うナルトの瞳に言葉を詰まらせた少年は、しかし歯を食い縛りながら声を絞り出した。 「そんな、俺達がイジメみたいなことする訳ない!アイツが勝手にやるんだ!!」 「は?」 「一人でやってるんだ、かくれんぼを!!」 その言葉を聞いて、ナルトとイノは互いに顔を見合わせた。 子供の世界ってヤツは、今まさに子供時代を終えようとしている人間や大人にはわからないことだらけ。 神秘に満ちた子供時代の王国を、以前は知っていたはずなのに。 今となっては、まったくもって理解不能。 その意図は一体何? ナルトは小さく唸った後、ポツリと零した。 「―――――じゃあ、遊びは『かくれんぼ』で決定」 何はともあれ、その『サクト』という子供を見つけなければならない。 一時間後。 「見付からない、わねぇ…………こうなったら、忍は忍らしく気配を辿るべきよ!ね、そうでしょナルト!?」 疲労困憊を絵に描いたようなイノは、誰にも見られていないことをいいことに、 たいして疲れてもいないくせにイノに付き合って木陰に腰を下ろしていたナルトに詰め寄った。 ナルトは長々と息を吐き出して、『今更?』とでも言いたげに言葉を紡ぐ。 「とっくにやった。『隠れるのが上手い』ってのは、どうやら本当だったみたいだな。 どうも、気配を完全に消す術を知ってるらしくて俺でさえも特定できねぇ」 「えぇっ!!ナルトでさえも!?」 「そ。俺でも。どういう事情があるのか知らねぇけど、『隠れる』ことに関しては本職以上だな。まいったぜ」 「ちょっとちょっちょっとぉ〜!アンタが簡単にまいったらどうしようもないじゃないの!!」 「まぁ、待てって」 ナルトはますます接近してきたイノの頬を軽く叩き、口の端を持ち上げて笑う。 「誰も『お手上げ』だとは言ってないだろうが。あくまで一つの手段が消えただけの話だろ。 いくら『隠れる』ことが上手くたって、所詮は子供。 子供ができる範囲なんてたかが知れてる。俺達が気付かない盲点がどこかにあるんだ」 「…………そう言われてみれば、その通りかも」 「だろ?それよりもイノ、この体勢、端から見たら誤解を招くような体勢なんですケド」 「へ?…………きゃ、きゃあぁぁっ!!?」 自分が何をしでかしてくれていたのか、それを自覚したとたん、イノは甲高く叫んでナルトから瞬時に身を離した。 大胆にも、ナルトの腰の上に馬乗りになっていたのだ。 両肩を竦めたナルトは艶やかに笑い、両肩を竦めて見せる。 「いーけどね。イノ軽かったし」 「や、止めて思い出させないでぇーっ!!嫁入り前の身体で異性の上に馬乗りになってただなんて、 そんなの思い出させないでぇ―――――っ!!!」 「思い出して勝手に騒いでんのはそっちだろー。お?なんかチマいのが駆けて来るぞ」 真っ赤になった顔を両手で覆っていたイノから視線を外し、ナルトは身軽な動作で立ち上がった。 駆けて来たのは、知った風な口を叩く、あの小生意気な少年だ。 「兄ちゃん、やっぱいない!」 「そっか。お前等随分走り回ってたみたいだけど、どこの辺りを探してたんだってば?」 「食堂とか、宿舎とか、外は全部探したんだ。でもやっぱりいない」 「他は?」 「今、何個かある物置部屋を探してる。鍵は掛かってないから、もしかしたらいるかもしれない。 けど、今までも探したことある場所だからいないよ」 しばらく考え込んだナルトは、視界の端をちょこまかと走り回っている子供達を見て、すぐに結論を出した。 「よし、そこに行くか。お前等が探してる様子も見たいから」 「なんでだよ?俺達がアイツを探してる様子なんて、見ても参考にならないって」 「いや、そーでもないってばよ。イノ」 ナルトは未だに壊れていたイノに意識を戻し、すっと手を差し出した。 「行くだろ?」 素のままの、晴れやかな笑み。 人がその最高の笑顔に逆らえないのを知っていて、駄目押しとばかりに王子様気質を発揮してみたりなんかして。 思えばナルトとの出会いも、こんな感じだった。 そしてあの時、不覚にもいとも簡単にオチてしまったのだ。 イノは顔を赤らめたまま、悔しそうに下唇を噛む。 「…………アンタって、なんでいつもそうなのよぉー」 「そう言われても、俺は俺ですから?」 「ムカツクっ、行ってやろうじゃないの!えぇ、是非とも行かせて頂きます!!」 「そうこなくっちゃ」 そんな二人の様子を間近で見た少年は、子供ながらもその所業の凄まじさに気付いてしまい、憧れのヒーロー像を即座に形成した。 「兄ちゃん、すご過ぎ…………」 彼の将来は決まったようなものだ。 水をください 涙でいいから 聞いたこともない。 しかし、どこか懐かしさを感じる音階とフレーズに、ナルトはふと顔を上げた。 「これは?」 「アイツが歌ってんの」 ナルトの手を引いて『こっちだ』と物置部屋の方向へと案内してくれている少年の返答に、ナルトは眉を顰めた。 「隠れてるのに変ね…………」 「見つけてほしいんだよ。だから、わざと合図出すんだ。でも見つけられない。俺達もいい加減終わりにしたいんだけど」 「見つけてほしいのなら、サクトって子は、そもそもどうして隠れるんだってば?その辺りの事情、お前知ってる?」 少年はぶすっとした表情になり、前を見ていたナルトの顔を見上げる。 いろんな思いを引き起こす、複雑な目だ。 「アイツ、俺達と同じように木の葉崩しで家族亡くしてんの」 「両親は忍だった?」 「ううん、俺の父さんと母さんはそうだったけど、アイツのは普通の人」 「おかしいじゃない。だって、非戦闘員はいち早く避難できるようになってはずよ?」 イノの言葉に頷きかけたナルトは、しかしすぐに火影専用の執務机の上に山積みになっていた書類を思い出し、 『あぁ』と短く声を上げた。 確か木の葉の被害総額などといった金銭面の書類の他に、犠牲者の名簿もあった。 職業・忍の犠牲者が名を連なる中、一般人での唯一の犠牲者となった家族が記載されていて。 「…………なるほどね、そういうこと」 ナルトは痛ましげに目を細める。 その犠牲者の書類には、死亡時の詳細が事細かに記されていた。 サクトの母親は心の臓を患っていたらしく、運悪く発作が起きてしまったため、避難が遅れたのだそうだ。 動けない妻を見捨てなかったサクトの父親は天晴れな心意気だが、そこに現れた砂忍に、無残にも二人とも殺されたのだという。 幸いなことに、両親によって押入れに隠されていたサクトは無事で、後に木の葉の救援部隊に保護されたようだが。 結局ここにいるということは、頼りになる親戚も何もいなかったということなのだろう。 小さな花は 冷たい雨に打たれて いつか咲くことさえ やるせなくなるのでしょうか? 「アイツが言ってた。この歌、『死んだママがよく歌ってくれたんだ』って」 なんてわかりやすい、SOSのサイン。 サクトは全身で助けを求めてる。 いや、正確には求めているのは助けなどではなく、迎えに来てくれる家族なのだ。 木の葉崩しのあの時、押入れの暗闇の中で聞いていただろう。 両親の叫び声を、苦痛にうめく声を。 それきり聞こえなくなった音を。 去っていく争いの気配を。 全てを聞いていてなお、暗闇の中で待っていたのだ。 ようやく光が見えたと思ったら、直面したのは当然のごとく両親の死。 「…………なんつーかさぁ〜これはもう精神科の医師に任せた方がいいと思うけど」 畑違いだよな、と唸ると。 少しだけ涙ぐんだイノに、『木の葉崩しの押入れの時間から解放してあげるのは医者云々じゃなく、 今のアンタにもできるでしょ!』とどやされた。 まったくもってその通りでございマス。 ナルトは目の前の少年のつむじを見下ろし、できるだけ優しい声で語り掛ける。 「お前も辛い?」 「全然!」 「嘘付け。鼻の頭が赤くなってるってばよ?」 「気のせいだよ!目ェおかしいんじゃないの!?」 「でも泣きそう。辛いか?」 今までの威勢はどこへやら。 少年は黙り込み、つんっとそっぽを向いた。 「…………少しだけ」 ナルトは目を細めて笑い、少年の頭を少しだけ乱暴に撫ぜた。 「素直でよろしい。泣けるときに泣いとけ。いつか、泣きたくても泣けない時が来るんだからさ。 好きな時に泣けるってのは、子供の特権だってば」 俺みたいになるな、と。 ちょっとした願いを込めて。 気が付くと、物置部屋への入口が、大きな口を開けて待っていた。 「あー!ナルトの兄ちゃんやっと来たぁっ!!」 「彼女も!」 どうやら、『彼女』というのはイノのことらしい。 「彼女だってさ。どーする、イノ?」 「ど、どーするって、そんなこと言われたって…………もぅ、アンタ達!真面目に探しなさいよね!!」 イノの言葉に、子供達からはブーイングの嵐。 「探してたもん!」 「イチャついてて遅れたのはそっちだろー!!」 「名誉毀損で訴えるぞ!?」 …………本当に、難しい言葉をよく知っているものだ。 ナルトは『まぁまぁ、双方落ち着いて』と苦笑し、サクト探しに参加した。 物置部屋は広かった。 様々な物が置かれていて乱雑としており、子供がうろちょろするのは少しばかり危険かと思ったが、慣れているのだろう。 ちょっとした隙間にすいすいと入り込んでいく様は、水草の中を泳いで回る小魚のようだ。 一応定期的に手入れはされているのか、予想していたよりも埃っぽくなく、南側に大きく設けられた窓からは、 燦々と太陽の光が差し込んでいる。 多少手入れは必要かもしれないが、物置としてはいささかもったいない気がした。 「こーゆートコは、毎回探してるのか?」 「うん。歌もこの辺りで聞こえるから」 それでも見付からない、と。 「ここ以外に隠れスポットは?」 「ないよ」 遊びのプロフェッショナルの言葉だ。 疑う余地もない。 そのとたん、何かに足を引っ張られる感触。 「う、わ…………っ!?」 「ちょっとナルト、何やってんのよ?」 「いや、ちょっと足首に何か―――――って、手!手なんですケド!?」 ナルトの足首を両手で掴んでいたのは、子供の小さな手だった。 物置の幽霊かと身構えたが、そんな非現実的なことある訳ない。 今は真昼間だ。 「あのなぁ、確かに『遊び』っていう名目だけど、一応俺達は探しモノしてるんだぜ?いい加減にしろってば」 硬いスプリングの上にダンボール箱が置かれたベッドの下から、ひょっこりと悪戯好きそうな顔が出てくる。 にんっと笑うその顔は、アカデミー時代、悪戯をすることで大人の気を引いていた仮面のナルトを彷彿とさせた。 「ちゃんと見つけたじゃん。兄ちゃんの足!」 「あーはいはい。よくぞ見つけましたってば。気が済んだらさっさとそこから這い出すこと」 子供の発想力にはついていけない。 そう思いながら他の子供達を見やり、ナルトはあることに気が付いた。 「…………イノ」 「なぁに?」 「子供達が探してる場所って、ドコだ?」 「やぁね、見てわからないの?テーブルの下とか、用具入れの中とか、タンスと本棚の隙間とか――――それがなんなの?」 「気付かないのか?」 「だから何がよ?」 「全部下だ」 「は?」 「下なんだ。子供の目線ちょうどか、それよりも下。自分達の頭より上は、基本的に探してない。当然だな。 そういう環境が整ってなきゃ、子供が高い場所になんて隠れられる訳がない」 「あ!」 「―――――となると、子供の目線より上なんだから…………っし、ビンゴ!」 よくよく見れば、部屋の片隅に机と椅子が組み合わさるように積み上げられていて。 天井近くまでの高さを誇るそれらの真上には、その部分だけ剥がれた天井板。 水をください 乾ききってしまう前に 声を殺して泣いている命を潤すの やはり気配は感じられないが、決定打となる歌声が問題の場所から。 「潤してやろーじゃねぇの。俺なんかで良けりゃあね」 そう言って、ナルトは身軽な動作で床を蹴った。 いくら待っても、誰も迎えに来てはくれない。 自分の父親と母親が死んだことは知っているし、自分でもちゃんとこの目で見た。 だけど、ふとした瞬間に我に返ると真っ暗な場所にいて。 『見付けてほしい』という合図を出しながら、梁の上に座りながら待っている。 迎えに来てくれる人なんて誰もいないのに、何度も何度も繰り返す、なんて不毛な行為。 鬼に『もういいかい』と訪ねてもなんの返事も返ってこない、一人ぼっちの逆転かくれんぼ。 本当は終わらせたくて仕方がないのに、終わりにすることができない。 どうしたらいいのだろう。 サクトは膝を抱え、小さな小さな嗚咽を洩らした。 すると。 「もういーよ」 ふいに聞こえた声に、ばっと顔を上げる。 穏やかな笑みを浮かべているのは、青いビー玉みたいな双方を持つ、金色。 涙でグシャグシャなそま顔を歪めたサクトは、その嘘みたいに綺麗な人に尋ねた。 「…………誰?」 「鬼です」 「お姉ちゃん、鬼なの?」 その人は一瞬顔を引き攣らせたけど、温かい目は変わらなかった。 「そ。鬼に見付かったんだから、ここから出なきゃ」 「…………うん、うんっ!うん!!」 たくさんたくさん頷いて、お姉ちゃんが差し出してくれた手を握る。 あの時は恐かった外の光は、もう恐くはなかった。 ゲームは終わり。 もう二度と、一人でかくれんぼをすることもない。 ― おまけ ― 「どうすんのよ」 「どうしよ」 イノは激昂した。 施設の方を指差して、力の限り言い放つ。 「『どうしよ』じゃないでしょ!?置いてきなさい!!」 「ヤダぁ―――――っ!!僕お姉ちゃんから離れないからね!!!これでお別れなんて絶対ヤダもん!!!」 すっかりナルトに懐いてしまったサクトは、つい先程までのしおらしさはどこへやら。 我侭さ加減を最大限に発揮して、子供のものとは思えない声量で周囲に騒音という公害を撒き散らしている。 「アンタの家はアソコなのよ!!永遠の別れじゃないんだから、いい加減にしなさい!!!」 「うるさい!鬼婆っ!!!」 「なぁんですってぇ―――――っ!!?」 呆気にとられる下忍達のその担当上忍なんて、蚊帳の外。 それでも、ヒナタだけは笑いを噛み殺している。 ナルトも苦笑いをし、サクトの額を小突いた。 「なんでも一つ言うこと聞いてやるから、今日はお別れだってば」 まさに鶴の一声。 サクトはイノとは180度違う態度でナルトに飛びついた。 「なんでも!?」 「なんでも。ただし、一つだけだってばよ?」 「じゃあ僕ね、お姉ちゃんとデートしたいの!」 その時はまだ、その後に待ち受けている出来事を、彼等は知ろうはずもなかったのだ。

END

†††††後書き††††† なんとこの話、遅筆なオイラがたった一日に仕上げたという脅威の作品となりました。 四萬打のリクをお二方から頂いた時、まず始めに浮かんだのが『突発喪失』で、 次に浮かんだのが突発喪失の発端に当たる『終了告知』です。突発喪失を書いている時、 《ん?古風様のリクも合同任務だったよな?ちょうどいーや、次はその過去編で》 ってな感じでした。あの時は適当でした。(すみません)でも、書く時は真剣に書きましたとも! そりゃあもうバリバリと!! なんでサクトがナルトにあそこまで懐いてたかを書きたいと思ってしまって…………一応、中心カプの体裁は守ってるつもりですがね。 一悶着という点ではあまりご期待には添えられませんでしたが↓↓スレナル予備軍のお子様色が強い話となりました。 古風様、こんなものいらないかもしれませんが、受け取るだけ受け取ってやって下さい。 四萬打リク、ありがとうございました 〜この作品はゴーストハントのストーリーを元にした作品です〜 無告知報告ありがとうございました。 花芽自身ゴーストハントを知っている方に出会えて、驚いていました。 花芽はゴーストハントファンだそうです。報告くださった方もファンなのでしょうか、世間は狭いです。 戻る
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