覚えているモノと言えば、同班の桃色髪の女の子の甲高い悲鳴と。
悲劇の末裔君の『しまった』とでも言いたげな顔と。
自分目掛けて落下してくる、重量級の茶色い毛並み。
本日の夕飯のことを考えていたものだから。


(そう、猪鍋なんていいかもな〜。野営じゃねぇから、もう一手間加えればかなりイイもん
作れるだろーし)






そう思った直後に、ナルトの世界は暗転した。












奇跡体験☆★アンビリバボー

奈良シカマルは見える人間だ。 もちろん、普段そこに当たり前のように存在する物を見る視力の話ではなく、常人には見え るはずもないモノが見える、そんな人間だった。 その手の力を生業としている人達(テレビで持て囃されている連中はなんとも胡散臭いが) よりも能力的に優れているとは思えないものの、それでも気配を感じ、会話ができる程度に は力がある―――――が、シカマルの性分でその力はまさしく『メンドクセー』以外の何物 でもなく、道端に立つ地縛霊が電信柱の影から自分に熱視線を送ってこようと、一見人が良 さそうな商人にスゴイ形相の霊が何体憑いていようと、『見えません話せません―――――っ つーか、そんな世界は知りません』という態勢を崩さずに来た。 そうすることで大抵の面倒事は自分を避けて通ってくれるため、『忍』という、これまた特殊 能力の要る職種に関わるメンバー以外に悩まされることもなく、それなりに平凡な生活を送 ることができた訳だ。 その方針が変わったり揺らいだりすることは、まずない。 しかし、目の前で繰り広げられている光景―――――自分の斜め上辺り、宙にプカプカと浮 いている金髪碧眼の美少年を見て、シカマルはその方針を曲げざるをえなくなった。 「…………ナルト?」 シカマルの問い掛けに振り向いたナルトは、信じられないとでも言うような顔をして、シカ マルを見下ろしてきた。 気のせいでもなんでもなく絡み合った視線に、ナルトが嬉しそうに笑う。 『え、シカマル俺のこと見えてんの!?』 「見える」 『なんで?』 「なんでって、そりゃあ俺が見える人間だからだろ」 『うわ、マジで!?ちょっと感動かも!!皆俺のこと見向きもしないで通り過ぎてくもんだ から、ちょっとヘコんでたんだわ!!問答無用で斬りかかられるのはヤダけど、相手にされ ねぇってのもキツイな!!』 なんでもないことのようにヘラリと笑ったナルトを、眉を寄せたシカマルが手招きして呼び 寄せる。 「馬鹿なこと言ってねぇでコッチ来いよ。ヘラヘラ笑ってるけど、お前自分の状況わかって んのか?」 責めるように言われ、ナルトはまじまじと自分の身体を見た。 さすがに中まで透けてはいないが、ドベ時限定、派手な色のジャケットを着た半透明な身体。 手を翳しても、その向こう側にシカマルの怒ったような表情が見える。 そして不思議なことに、服が素肌に接している時の感覚も、額当てをしている時に頭に感じる圧迫感もないのだ。 試しに頬を抓ってみたが、触れはするものの痛さはまったく感じない。 ようするに。 『えっと……やっぱ死んでる?』 「死んでねぇよ。ちょっとそれに近いけどな」 すかさず訂正。 だが、『生きている』というその事実にも、ナルトは『あ、そーなんだ?』と、たいして興味 なさそうに笑うだけだ。 「だけどまた、なんだってそんなことになってんだよ」 『ん〜なんでだろ。なんか記憶がスッポリ抜けてて覚えてねぇんだ―――――いや、待て。 覚えてはいるんだよ。パッて出てこねぇだけで』 「あぁ、その状態だとソイツにとって余程のことじゃねぇ限り、記憶が曖昧になっちまうら しいぜ?」 『へぇ……んじゃアレは、自覚なかったけど俺にとっては【余程のこと】だったんだ。なる ほどねぇ〜…………』 「何がだよ」 『最初は誰かわかんなかったんだけどさ、さっきそこの雑貨屋でペンキ買ってた中年親父が いて、店のおばさんに【また狐にぶっ掛けてやるんだ】って息巻いてたんだよね。それで、 【あ、この前俺を真っ黒にしてくれやがった大工 だ】って思った訳デスよ。あ、鮮明に思い出せるほど印象に残ってても、俺はそう思っ ただけで実際には何もしてねぇからな?』 何かを弁解するかのようなナルトの言葉に。 嫌な予感がしたシカマルは周囲の目を気にしてか声のトーンを落とし、問う。 「お前、何やらかしたんだよ?」 『だから何もしてねぇってば!ただ、いきなり奇声上げて倒れたか と思えば心臓押さえて転がり回って、【奴が来る、 奴が来る】って馬鹿みたいに繰り返して動かなく なっただけ。なんか病院に運ばれたっぽいけど―――――なんだよ、その目』 「…………お前今、立派な悪霊だぞ」 『嘘!?』 「だったら良かったけどよ、明らかに祟ってんじゃねぇか。祟りのレベルは霊体の思 念の強さで決まるけど、無意識でそれじゃ、一体里でどれだけの死人が出るかわかんねぇな」 『うわ、俺ってすげくねぇ?世界征服も夢じゃねぇな―――――いや、待て。そりよりも この腐りきった世界を俺色に染める方が楽しいかも……そう、 俺は今日新世界の神になるんだ!』 『神』志望の少年が力強く拳を握り、天を仰ぐ。 青い瞳は識別できないほど空と同化しているが、もしも今のナルトが実体を伴っていたら、 夢と希望でキラキラと輝いている瞳を目にすることができたはずだ。 そんな効果がなくとも、ナルトは世の女性が永遠に追求し続ける『美しさ』を当たり前のよ うに持っているが。 「どこぞの漫画みてぇなこと言ってんじゃねぇよ、洒落になんねぇだろうが。それより、さ っさと戻った方がいいぜ?身体の場所はわかるんだろ?」 『あぁ、うん。それは大体。コッチかな〜ってのはわかんだけど、別に無理して戻んなくて もよくねぇ?これはこれで結構快適だしさ……あ、でも、ちなみにこのままだったらそれこ そどーなんの?』 「あんま長く身体から離れてると、間違いなく死ぬな。いいのかよ、ヒナタとか泣くし、イ ノは怒るぞ?」 ぱちくり、と。 大きな目を瞬かせたナルトは、ポンと手を打って納得の声を上げた。 その一部始終を見ていたシカマルは、眉間に刻まれた皺をいっそう濃くする。 「お前の頭の中に、今ヒナタとイノいなかっただろ」 『失礼な、ちゃんといマシタよ。ただ、名前と顔が一致しなかっただけだ』 「お前それ、絶対言うなよ?殺されっぞ」 『言うもんか。俺の生死の問題より、二人が傷付くじゃん』 こんな時も忘れてはいない女性尊重精神は、いっそ見事と言うべきか。 そうですか、と。 呆れ気味に返したシカマルは『さっさと行くぞ』とだけ言い、相変わらずプカプカと浮いて いるナルトに構わず、さっさと歩き出した。 『あ、待てって。置いてくなよ』 シカマルの首に慌てたように回された手。 物質同士の実際の接触ではありえない幽霊独特のヒヤリとした手の感覚は、普段だったら嫌 悪感しか覚えないが、それでもナルトのモノだと思うと不快ではなかった。 『シカマル君ってば、やっさしー!俺を送り届けてくれるんだ?』 「当然だろ。お前みたいな悪霊を野放しにしたまま安眠できるほど、俺の神経は図太くねぇ んだよ」 二人が連れ立ってその場を離れていく様を、はるか遠くから眺めている影が一つ。 『ふふふふふ……ナル君見ぃー付けた☆』 「原因は任務中の事故。今日の七班の任務は、前々から苦情が出ていた農作物荒しの猪の捕 獲だったんだと。例のごとくうちはのガキが大活躍だったらしいんだが、猪も捕まるもんか とばかりに暴走―――――んで、その結果、崖下にいた坊の上に落ちた……ほら、ここんト コ裏任務が詰まってて徹夜続いてただろ?だから注意力が散漫になってたんじゃねぇ?」 『ちなみにその猪は、気絶したところで呆気なく御用になって、ホクホク顔の農家の人達に 引き渡されたそうだぜ?たぶん食われてるな』 その言葉を最後に事情説明を終えた刹那が、ナルトが起きた時のためにと病院内の自販機で 買って来たミネラルウォーターを、勝手知ったるなんとやらで小型冷蔵庫に入れる。 そんな刹那は、一部の人間に非常にウケる研修医姿をしていた。 変化している訳でも、コスプレをしている訳でもない。 ナルトの手回しと三代目の理解により、他里の出身ではあるが実際に木の葉病院の研修医と して働いているのだのだ。 「それにしてもお前等、駆けつけんのやけに早くねぇ?俺が火影の爺様に連絡したの、確か 十分位前だったはずだぜ」 実際には、十分も経っていないだろう。 呆れたような、それでいて感心したような刹那の科白に。 お馴染みのメンバーは静かに顔を見合わせた。 「そりゃあ姫が病院に運ばれたって知らされたら……ねぇ?」 「私達よりもそちらの御二方が同席していることに、私は驚いていますけど」 『御二方』こと日向の子供達―――――ネジとヒナタは、ベッドの脇に置かれているパイプ 椅子に腰を下ろしていた。 本人にそのつもりがなくとも嫌味と取られかねない安曇の言葉は、おかしなモノでも理不尽 なモノでもない。 ナルトと同じ下忍である彼等も、非番でない限り任務に勤しんでいるはずなのだ。 その証拠に、二人ともプライベートでは外している額当てを付けている。 ネジとヒナタが同席しているという事実に安曇が驚いてしまうのも、仕方がないことだった。 「あ、あの、いつも七班は任務開始の時間が遅いんです。私達の任務が終わっても七班だけ はまだってことが、かなり多くあって、えっと…………」 「任務を終えて報告のために足を運んだら、安曇さん達同様、三代目から『ナルトが任務中 の事故で病院に搬送された』と知らされました」 「素晴らしいタイミングですね。それがカカシ先輩の遅刻の賜物だとは、けして思いたくは ありませんが」 「ホント、最っ低だよね!畑で突っ立ってるしか能がない人 形のくせに、僕達の姫を何時間も待たせるなんて!!カラスにでも中の 藁引っ張り出されて、情けない姿晒してればいい のに!!!」 カカシ嫌いの伊吹の言葉に、鴇が大きく一度だけ首を縦に振った。 力強い同意は、全員の心を代弁したかのようだ。 「はたけ上忍の遅刻癖については、いずれ今度ゆっくり議論するとして……それで結局、ナ ルトの容態はどうなんですか?」 カカシよりもナルト。 興味のないことは完全に切り捨てる性格のネジは、真っ直ぐな目を刹那に向けて問うた。 眉を寄せた刹那は『どーもこーも』と言いながらカルテを捲り、ボールペンの頭でこめかみ を掻きながら答える。 「猪の下敷きになった時にできた擦り傷とか打ち身は、九尾のおかげでもう完治した。他に 外傷もねぇし、頭打ったみてぇだけど脳に異常も見られない。医学的にはなんの問題もねぇ、 健康体そのものだ。ただ眠ってるだけなんだよ」 全員の視線が、穏やかな寝息を立てているナルトに向けられる。 金色の睫毛は微動だにせず、瞼の奥にある綺麗な青は隠されたままだ。 精巧に作られた人形のようなナルトからは、あまり生気を感じられなかった。 「―――――まぁ、坊の身体が休息を必要としてんなら心配いらねぇけどな」 「…………本当に、そうなんですか?」 ヒナタの小さな小さな控えめな声に、刹那が『ん?』と返す。 日向一族特有の紫がかった白濁色の瞳が、不安げに揺れていた。 「も、もし、そうだとして、これだけ耳元で騒いでるのに起きないなんてこと、ナルト君に 限ってありますか…………?」 私の思い違いだったらごめんなさい、と。 ヒナタが付け足すと、皆一様に黙り込んだ。 導き出された答えは一つ。 「…………ありえませんね」 「ありえないね」 「ありえねぇな」 「…………」 「―――――ってことは刹那、姫は『眠り姫』状態ってこと?」 「そーゆーことになるな」 「ふ〜ん、眠り姫か…………」 そこで伊吹の目がキラリと光る。 「ねぇ、『王道』で姫が目を覚ますってことあるかな?」 「まさか!御伽噺じゃないんですから……現実でそんな都合の良いことがあるなんて、伊吹 は本気で思ってるんですか?」 「わからないよ〜?万が一ってことがあるじゃん」 「…………伊吹。お前、自分の欲望のままに突っ走ろうとしてんな?」 「いいじゃん、この際誰が姫の王子様かはっきりさせようよ!」 王子様…………** なんとも心躍る単語だが、人間誰しも忘れてはならないものがある。 謙虚な姿勢と誠実な心、それとあと一つ。 他の動物よりも遥かに進化した人間だけが持つと言われる、理性だ。 「あ、ヒナタちゃんもネジ君も参加するー?」 ニコリと笑った伊吹に尋ねられ、ヒナタは顔を赤くした。 「え…………///」 「止めておきます。偶然でもなんでも、よしんばそれで起きたとして、コイツに罵詈荘厳を 叩き付けられるのは俺としても遠慮願いたいので」 「同感です。まったく、伊吹よりネジ君の方が余程大人ですね」 そこにノックの音が割り込み、室内の空気が緊張する。 良くも悪くもナルトの病室であるこの個室に入ってくる者など、自分達以外誰一人としてい ないはずだった。 だから今もこうして溜まっている訳だが、この面子を第三者に見られるのはマズイ。 ヒナタやネジはまだ『同僚の見舞い』だと言い訳もできるが、研修医である刹那以外の三人 は表向きナルトとは赤の他人なのだ。 里の機密の一つであるこのパイプを知られる訳にはいかない。 安曇、伊吹、鴇の三人はすぐさま隠形しようとしたが、どこか馴染みのある気配にその動き を止める。 その直後にドアを開けて入ってきたのは、素のナルトを知る数少ない人間のうちの一人であ る下忍―――――シカマルだ。 当然、ナルトの部下である安曇達とも多少の面識はあった。 「どうも、皆さんお揃いのようで…………」 軽く会釈するシカマルに、伊吹が首を傾げる。 「あれ、シカマル君ってばなんでここにいるの?」 「なんでって、まぁ、メンドーなことに巻き込まれまして…………」 そしてチラリと、何もないはずの背後に視線をやる。 それと同時に。 ガタガタガタッ!!! 目を見開いたヒナタとネジが、激しい音を立ててパイプ椅子から立ち上がった。 「ナ、ナルト君!!?」 「あ、もしかしてヒナタも見える人間だったのか?」 「う、うん、白眼のおかげでぼんやりとだけど……で、でもどうして?」 「―――――いや、『どうして』も何もないだろう。これで納得した。どうりで起きない訳だ」 オロオロすることしかできないヒナタと、額を押さえるネジ。 何が起こっているのかわからない他の四人の頭の上に表示されるのは、幾つもの疑問符だ。 「え、えっと、誰か状況説明してくれないかなぁ……何が納得なの?」 四人分の視線がヒナタに、ネジに、そしてシカマルへと注がれる。 説明どころではないらしい日向の子供達に代わり、今一番この状況に詳しいシカマルが口を 開いた。 「あー……ヒナタとネジ以外の人にはわからないと思いますけど、実は今ここにナルトの奴 がいるんですよ」 そりゃあいますとも、ベッドの上にね。 何言ってるんだとばかりに眉を寄せられ、シカマルは即座に否定する。 「違います。そこで寝てるナルトじゃなくて、俺の後ろにいるんです。ちなみに、不謹 慎にも腹を抱えて爆笑してますね」 「すみません、シカマル君。意味がよくわからないんですが…………」 「ちょっと待って下さいね。お前なぁ、いい加減にしろよ。この人達皆、お前のこと心配し てんだぞ?」 背後をギッと睨み付けたシカマルが四人に向き直り、微妙に目を泳がせながら、気まずそう に口を開く。 「俺もこーゆーことはあまり言いたくないんですが……ナルトは今、幽体離脱してる真っ最 中なんですよ。通りすがりの人を祟ってたんで、とりあえず届けに来 ました」 「「「『…………は?』」」」 ナルトは爆笑していた。 何が面白いって、自分の部下である四人の反応だ。 シカマルに不謹慎だと睨まれたが、そんなことはナルトにとってたいした問題ではない。 だって面白いものは面白いし、笑わずにはいられないのだから仕方ないではないか。 「ナ、ナルト君、えっと、その……大丈夫なの?」 心配そうなヒナタに問われ、ナルトは必死に笑いを噛み殺しながら答えた。 『だ、大丈夫。コッチの俺もソコの俺も、なんの問題もねぇから』 「お前がそこでそうして浮いていること自体が、すでに問題だろうが」 復活したネジの冷静な突っ込みに『違いねぇ』と同意したナルトが、定位置となったシカマ ルの背後で、これ見よがしに一回転する。 そのどこか得意気な様子に、シカマルは溜息をついた。 「どーでもいいから、余計メンドーなことにならねぇうちにさっさと戻れよ」 『あ、そーデシタ!』 ナルトは自分が横になっているベッドへと近づき、いつもより上の目線から自身の身体を見 下ろした。 影分身でもないのに、こうしてもう一人の自分を見ているのは不思議に気分だ。 『これじゃ、生きてんのか死んでんのかわかんねぇな』と呟いたナルトは、病院に向かって いる最中シカマルに言われた通り、本体のナルトと重なった。 当初の予定では、そこでナルトは目を覚ますはずだったのだが―――――。 『シカマルさん………も、戻れないんデスけど』 むくりと起き上がったのは意識を取り戻したナルトではなく、先程プカプカと浮いていた方 のナルト。 「あ?」 『素通りするって言うか―――――俺と俺とが噛み合わない感じ?』 「んな疑問形にされても……大体お前、ちゃんと『戻りたい』って思ってんのか?」 『俺はそのつもり』 「お前がそのつもりでも、実際には思う以上に必要としていないということだろう」 皮肉混じりに言ったネジに、シカマルとヒナタが同時にネジを見る。 当のネジはナルトをひたと見据え、更に責めるように。 「コイツにはもともと、執着心というものがないからな。普通の人間が持っているような欲 とは無縁なトコロで生きている奴だ。このままでもいいと思っている中身と同じく、身体の 方も無理に引き止めようとは思わない……お前らしいと言えばそうだが、それで死ぬ気か?」 『いやいや、死ぬ気はまったくゴザイマセン』 「だったら気合いでどうにかしろ」 『気合いって、それができねぇから俺も困ってんじゃねぇか。無茶言うなよ〜…………』 「―――――あの、ちょっとよろしいですか?」 安曇の声に。 ナルトとネジとヒナタとシカマルが、蚊帳の外に置かれていた私兵達に意識を向けた。 「そこに御子がいらっしゃると言うのならそうなんでしょう。しかし私達には、御子の姿ど ころか声も聞こえないんです。どうにかできませんか?」 「そうは言っても、体質みたいなもんですからね……実際に見えて得なんてありませんよ?」 「シカマル君の言い分はわかるよ。僕だって忍だし、任務で殺した人間が見えたりするのヤ ダもん。絶対グチャグチャだしね。でも、姫がどうなってるのかわからない のはもっと嫌なの」 「そうは言っても、実際問題無理ですって。ナルトの霊的濃度?……ですかね、ソレが上が れば話は別ですけど」 「それってどうやったら上がるんだ?」 「感情が高ぶった時とか自分の存在の有無を左右する事態に陥った時とか、まぁ人によりけ りですけど、一度波長が合えば大丈夫です。でも、コイツの場合は難しいんじゃないですか? 半端なことじゃ眉一つ動かさないで軽くかわされますよ」 「いえ、御子を動揺させること自体は、実はそんなに難しいことじゃありません」 きっぱりはっきり言ってのけた安曇が、思案気な顔をして口元に手を当てる。 いくらこちら側の陣営だろうと、普段ならそんなことを洩らすはずがないのだが、いかんせ ん今は緊急事態。 いちいちそんなことを考えていたらキリがない。 「そうですね、お色気の術使用時に酔っ払った三代目の 前に御子を差し出すとか、一楽のメニューから味噌 ラーメンを永久になくすとか、コーヒーの中に融解 の限界までミルクと砂糖を入れまくる とか―――――これらはかなり効果的でしょう。ちなみにコーヒーの件では、 スプーンたった一杯ずつだったにも関わらず、その後一週間口を利いて 下さいませんでした…………」 「あ、覚えてる覚えてる!あの時の安曇のヘコみようはすごかったよね!!」 「―――――っつーか、俺は坊の荒れようの方がスゲェと思ったぜ」 しみじみと呟いた刹那のすぐ側で、鴇が再び頷く。 今度は繰り返しだ。 異常な盛り上がりを見せる四人に声を掛けたのは、賢明なことに傍観者に徹していたネジだ った。 「…………効果は認めますが、それを実行する度胸を持つ人間など、この里のどこにもいな いでしょう」 「あ、あの、まさかとは思いますけど本気じゃないですよね?安曇さんがそう言ったとたん、 ベッドの上のナルト君が魘され出して…………」 『眠り姫』状態のナルトは苦しそうに眉を寄せ、小さな呻き声を洩らしていた。 外に出された手はシーツを手繰り寄せており、真っ白なそのシーツに大きな皺を作る。 なんだかとっても可哀想な光景だが、好き勝手言われた霊体の方のナルトが『可哀想』かど うかは、実際に見える人間にしかわからない。 おぼろげな印象とは対称的な青い目に宿るのは、ぞっとするような危険な光。 ゆっくりと笑みの形を作る唇は赤く艶やかで―――――。 静かに笑みを深めるナルトは、外見だけを見れば『目の保養』と言えなくもないのだが、少 しでも物事の本質を見抜く力がある人間の目には、『世界で最も恐ろしい生き物』としか映ら ないのだ。 『ろくでもねぇこと考えやがって…………』 「あ、姫の声聞こえた!もしかしてネジ君の隣にいるのかな?うっすらと見えるようになっ た―――――って、痛っ!なんか心臓に刺し込まれたような痛みが……痛っ!!ホントに痛 いよ!!!」 原因不明の痛みに大きな声を上げた伊吹を見て、シカマルが焦って声を張り上げる。 「ナルト、簡単に祟るな!!」 『祟ってなんかねぇ、苛めてんだよ』 「今のお前じゃ、『苛める』って意識持つだけでなんの苦もなく人殺せんだぞ!?もう少し自 分の力を自覚しろ!!!」 それですでに一人この場所に送ってしまっているナルトは、シカマルに怒られて渋々口を噤 んだ。 「と、とにかくナルト君、早く元に戻る方法見付けよう?いつまでもそのままだと、迎えが 来ちゃうかも…………」 『死者に取り込まれるってこと?ん〜……確かにそれはヤダなぁ…………』 顔を顰めて『それは嫌だ』と主張したナルトだったが、具体的にどうすればいいのかわから ず、宙に浮いた状態で胡坐をかいた。 しかしその直後、得体の知れない何かの接近を察知し、厳しい顔つきになって臨戦態勢を取 る。 ナルトから数瞬遅れて異常に気付いた私兵達が目で会話するのを見たヒナタが、不安そうに。 「ナルト君…………?」 『ヒナタ、ネジ、シカマル、ちょっと下がってろ。なんか来る』 「刺客か?」 『…………いや、よくわかんねぇ。でも人間の気配じゃねぇ感じがする』 ―――――かと言って、妖の気配とも違う。 あえて言うなら、今のナルトに近いモノがあるかもしれないが。 そして、無言の四人がその方向に視線を向けたその時。 『ナッルくぅ〜ん!!♪♭♯』 「「「「「「『『 !? 』』」」」」」」 壁も窓も擦り抜けて。 他のモノには目もくれず、ナルト目掛けて突進してきた金色の影。 あまりの出来事に固まってしまったナルトは、語尾にハートが付きそう な声で自分のことを『ナル君』などとほざきやが った未確認飛行物体に捕獲された。 力一杯ぎゅうぎゅうと抱き締められ、目を白黒させることしかできない。 なんなんだ。 一体コレはなんだ!? 『ナル君ってば僕に似てこんなに綺麗に育っちゃって!しかもメチャメチャ強いし、もう言 うことなし!!一つだけ難を言えばいろんな人間引っ掛けすぎってことだけど、まーこれか らは僕がずっと一緒にいるんだから、そんなこと些細なことでしかないよね!!こうして会 えて、僕すっごく嬉しいよ!!!』 ナルトと同じ金髪で。 ナルトと同じ青い目の。 ナルトと同じ顔をした、霊感がないはずの安曇達にもはっきりと見える若い男。 今の言動とその外見で、ナルトを除く全員が驚きの声を上げる。 「「「「「「『 四代目!!? 』」」」」」」 『あれ、他にもいたの』 十二年前の九尾の乱の折、里を守って死んでしまった『四代目火影』は、愛しい愛しい我が 子の姿以外『アウト・オブ・眼中』だったらしい。 「な、なんで四代目がこんなトコにいるんですか!」 『なんでって、成仏できないからに決まってるじゃないか。ナル君が酷い目に遭うの承知の 上で九尾を封印しておいて、知らんぷりして僕一人だけ成仏できるはずないでしょ。仮にも 僕『父親』なんだから―――――ってか伊吹、僕ずっと言いたかったんだけど、いい年した 大人が任務でもないのにその格好何さ。恥ずかしいと思わないの?』 「今まさに自分の息子を殺しそうな勢いで抱き潰そうとしてる人に、そんなこと言われたく ありませんよ!!姫を放して下さい!!!」 『あはは、ヤダなぁ〜なんで僕がそんなことしなきゃならないの。ナル君は僕の息子だよ? つまり僕の物なの。なのに皆好き勝手やってくれちゃってさ……ヒアシの奴なんか僕を差し 置いて父親気取りだし、安曇も伊吹もそこの知らないお兄さん達も僕だけナル君に認識して もらえないってのに、これ見よがしに四六時中ナル君と一緒にいて―――――ホント、ア ンタ等何様?って感じだよ』 だから、と。 恍惚とした表情で硬直したままのナルトに頬擦りしたは、見た者に『ヤバイ』と思わせるよ うな笑みを浮かべる。 『伊吹の話なんか聞いてやんないよ。僕はナル君を迎えに来たんだもん。せっかくこの状態 になったんだから連れてっても構わないでしょ?』 「御子はまだ生きています!!」 『そうだね、でもこのままだったら死んだも同然じゃない。だから連れてくの。ナル君にと ってもその方が良いに決まってる。甘く見ないでよね、どっちつかずの魂一つ、死者の世界 に連れてくことなんて造作もないことだよ?なんたって僕は四代目火影―――――『黙れ、クソ親父ぃ―――ッ!!!』 ようやく我に返ったナルトが、渾身の右ストレートを四代目の顔に。 手加減も何もあったもんじゃない本気のソレに、不意を突かれた四代目は勢い良くブッ飛ぶ。 『誰がテメェなんぞに連いてくかってんだ!!俺 が今こんな生活を強いられてんのは、ほぼテメェ のせいだろーが!!なのによく俺の前にその面出 せたな!!?』 『ひ、酷いよ、ナル君!テメェじゃなくてパパって呼んで…………』 『誰が呼ぶか!!成仏できねぇなら、テメェは大 人しく初代と二代目みたいに死神の腹の中にでも 入ってろ!!そして未来永劫俺の前に姿現すんじ ゃねぇ!!』 『えー!?あんな頭固い人達と一緒にいたくないよ!!』 その言葉を聞き、壮絶なまでに美しく笑ったナルトの瞳が一瞬で赤く染まる。 残酷で冷酷な死刑宣告と同時に作られたのは、膨大な量のチャクラ(注:九尾)で作られた 真円の球体だった。 『…………だったらせめて、 今すぐ俺の前から消え失せろ』 『え゛?』 『螺旋丸!!!!!』 そうして四代目は、お空のお星様になりマシタ。 その後、なんとか無事に身体に戻ることができたナルトは。 『生きる気力が湧いたぜ。あんな奴に連れてかれないためにも、俺は絶対死なねぇからな!』 と力強く語り、周囲を喜ばせたとか。 END
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